30
私は意識没入型VRゲームが始まって以来の初期プレイヤーだった。
加えて、タイムリープによって私は他のプレイヤーより二年余分にVRゲームをプレイしている。
都合、八年間。
それは私だけが到達しているだろう、残酷なまでの時間の積み重ね。
それは私に圧倒的な強さと経験、自信を培わせ……
如何に百人単位のPVPバトルロワイヤルと言えど、無双出来るだけの地力が私にはあった。
「ベク変」
「マジっ、かよっ!?」
「あどゅー」
鍔迫り合いの最中、足にSTRの使用判定を出し、その場で縮地擬きを発動。
入力されたSTRがAGIを後押して全身に加速を出力、それを姿勢制御と体重移動で腕に持ってきて、ちょいと力めばこの通り。
上向きに発揮していたパワーを一瞬だけ下に向け、そこに爆発的な物理エネルギーを追加。
瞬間的に追加されたインパクトが、真正面からの奇襲として相手の迎撃を打ち崩す。
相手の驚く顔、弾かれ崩れる体勢。
振り切り伸び切った両腕、止まらない加速。
超重量の暴血狂斧、その遠心力を活かしてその場で回転し、がら空きの顔面へ回し蹴りに派生。
足裏が肉を捉えて──そのまま地面へと連れていく。
グシャァッと、硬いものをひき肉にした。
地面が力で砕け、粉々に人体を破壊する感触が足に残った。
爽快。
やっぱ人を轢き殺す快感は堪らないなぁ。
「いくら私が斧使いっつっても体術想定してなさ過ぎでしょ……で、ベク変連打は一撃判定かな? なら割と誤魔化し効くね」
暴血狂斧の『狂血渇望』はダメージが発生しなくても発動する。つまりどういうことかっていうと、攻撃が防がれるとHPが削れるのだ。
故に打ち合いや迎撃には向かず、対人戦じゃ振るう度に死が近付いていく自滅専用武器と化すのだが、そんなの打ち合いさせずに瞬殺すれば解決出来る。
故に私が立てた対策はベク変──ベクトル変更というテクニックを対人では擦ろうというもの。
それは鍔迫り合い中とかの"加速が終わった攻撃にどっかからエネルギーを連れてきて零距離から吹き飛ばす"だけの簡単なテクニックで、縮地に噛ませると"力の入力方向がすげぇ勢いで唐突に変わる"技と化す。
私の今のステータスは27レベルのSTR41、まだリリース初日である今なら最高峰の能力値だと断言出来るが、実数値に直すなら多分、私より上の筋力を持つプレイヤーは存在する。
デイブレは種族や職業によってステータスがアバターにかける補正が違う。初期職中ワースト2位の補正値を誇るサバイバーである現状、これだけステータス差があろうと能力差での圧倒は難しい。
だからこそ勝つために重要なのは"小手先の技術"。巨斧が止められないならそれでいいが、仮に止められるなら技術の差でこじ開ける手段が必須。
幸いベク変の二段階攻撃は暴血狂斧──長いな、暴君と呼ぼう──暴君的には一撃判定らしく、HP減少は5%で済んだ。対人で特大武器のクリーンヒットが難しい以上、これは嬉しい判定だった。
「そもそもこの職で大武器振り回すのが間違ってんだけど、まぁカッコイイから仕方ないよね……てかアイテム湿気てんなぁ……」
エアハンマーとブラストジャンプで崖から無理矢理飛び降りて、川の流れに沿って歩くこと暫く。
遭遇した我が斧の犠牲者君が落としたのは、二本のHP回復ポーションと獲物の大剣だけだ。はークソー。
採取は特にしてない上に防具も無し。回復薬ドロップ前提で皮算用してたのに本数も少ないし、これじゃギリギリ全快するかどうかだぞ。
"狂乱"の後遺症(スキル終了後HPが回復しなかった)に加えて自傷跳躍、攻撃時の自傷が重なってHP的に私は瀕死だ。
痛みは別に無視出来るけど、回復ストックが無いと連戦はしたくねぇ。
「まぁ10%切るまでは様子見するかな」
暴君を担ぎ直して、ポーションをアイテムボックスに突っ込んで探索を再開。
時間毎の戦闘エリア縮小までは大分余裕あるけど、別に安定して勝ちたいわけでもねぇし。
元より暇潰し、今は試し斬り。
そのために私はこの舞台にいる訳でして。
激戦区たるエリア中央に向かうのは、当然と言えた。
「『狂乱』……どうせHP50%切ってるしね?」
防御半減も、体力上限半減も、結局は被弾しなきゃノーデメリット。
軽い縛りプレイではあるが緊張感も出るし、愉しいから常時掛けておくとしよう。
この武器使うの楽しいなぁ。
******
デイブレイクファンタジーのバトルロワイヤルが他のバトロワゲーと大きく違うのが、スキルとアーティファクトの存在だった。
スキルは言わずもがな、大半のバトロワが銃撃戦を主体にするのに対し、このゲームにはそもそもとして銃は無く。代わりにあるのは中世武器と魔法による泥臭い戦闘だ。
近接武器による白兵戦、弓や魔法による遠距離戦が特異なゲーム性を形成する中、それに輪をかけているのがアーティファクトというシステムだ。
『感覚鋭敏化タブレット
効果:試合中スキル『気配察知』を得る』
『スキル・気配察知
標的の気配の感知能力が上昇』
「……………………まぁ当たり」
無言の間だけでもどんな性能か分かるよね。
記憶頼りにマップ中央を目指し、途中風景に似つかわしく無いでっけぇプレゼントボックスがあったから開けてみれば、中に入っていたのはそんな概要が表示されている錠剤だった。
アーティファクト……スキルとかステータス補正とか特殊効果とかを得られる、ランダム要素の高いデイブレ特有の物資。
無いよりはマシ程度の物からぶっ壊れレベルの物まで千差万別な、戦略を混沌とさせるべく運営にぶち込まれた仕様の一つ。
マップ中で拾うか、強MOBからドロップするか、降下物資を漁るか、プレイヤーを殺して奪うかのそれが、私の手の中にあった。
「ある程度探したけどもう大体漁られた後だなぁ……こいつも多分後から降ってきたもんだし」
飲み込んで意識がスーっと広がっていくような感覚と共に状況を整理する。
試合開始からは約十分経過、位置的には初期位置とエリア中央を直線で結んで2/3程詰めた地点、方角的には東南。
残プレイヤーは私含め18人、この段階ならこれはかなり少ない部類。
エリア外まではそれなりに遠いが、降下勢が北西スタートのため私より後ろのプレイヤーは居ても一人か二人。
その前提で、二箇所程漁れる街を経て尚、入手出来たAFはこれ一つ。
ドンパチで生き残った、或いは漁夫ったプレイヤーが、中央にフル武装で待ち伏せしてる説が濃厚かな?
ただ単純に試合展開が早いだけかもしれないけど、少なくともここら辺にある筈のアーティファクトは誰かしらに集中してるのは確かな筈で。
直近で仕留めた三人が装備と回復薬しか落としていのがいい証拠だ。
面倒な。
「もっとバチバチ殺し合いたかったのに、もうそんな殺せなさそうだなーこの試合」
現在5キル、感触は良好。
大質量を振り回すのにも、ステータスの扱い方にも慣れてきた。
人間という思考する小さな的で操作練習をしているからか、暴君との戦闘はどんどん上達してきた。
「さっさと終わらせておかわりしよう」
私の実力に合わないレート、さっさと上げて強い奴と戦いたいなぁと思いながら、私の進軍は続いていく。