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地味な話ですが作中ゲーム内の過去歴史設定は自分のボツ小説3つ分のストーリーそのまま時代分けてぶち込んでるんでまぁまぁボリューミーです
遺装とかもそっからひり出したりしてます
性癖の話をしよう、私はかっこいい武器が好きだ。
特にそれは野蛮だとか、暴力的だとか、攻撃しか考えてないような殺意に溢れた武器が大好きだ。
私は純粋な自分の実力で生きてる物をぶっ殺してる感覚が大好きで、悲鳴だとか、捩じ伏せる快感だとか、そういうものを得るためだけに作られたような悪辣な武器こそ、私の趣味目的性癖に合致する物なのだ。
狂戦士が使いそうな特大武器だとか、ギザギザで傷付けることに特化したノコギリだとか、血や死がモロにこびり付いているような武器に、ロマンやかっこよさを禁じ得ないのだ。
「え? は? かっこよ、なにこの野蛮暴君丸、最高にイカすじゃん」
その点で言うならば、この殺意がクソデカラブリュスとして擬武器化したような"暴血狂斧"は正しく私にぶっ刺さる最高のイケメン君であったのだ。
馬鹿みてぇに重い馬鹿みてぇな武器。
涼やかな環境には似つかわしくない暴力が、対比によってより強調されている。
その禍々しさは自然の中からも初期装備の私からも余りにも浮いていた。
「うーわかっこいい……もうこれ暫く相棒決定じゃん、絶景が手元にあるんですけど」
丁度振ってなかったステータスポイントを全て突っ込んで、ギリギリSTRは41に。
要求値を満たして大分軽くなった暴血狂斧は、然しそれでも黒鉄のハンマーより遥かに重い。
軽く……とは言い難い扱いの難解さで素振りをすれば、力が空をゴウン! と引き裂き、重量と遠心力でバランスを崩してしまう。
すげぇ、殺す気満々だぞこれ……!
ああ、これは慣れるのに暫く時間が要りそうだなぁ……!
「それでいて性能も折り紙付きと……悪魔の割には大分良心的だし」
遺装の分類である"悪魔"、それはまぁ所謂馬鹿武器である。
総じて優秀な基礎性能、強力な能力を持つ代わりに、莫大なデメリットを内包するのが特徴。
例えば『攻撃的中時に敵体力100%のダメージ(軽減可能)を与えるが自らも即死(抵抗不可)する刀』とか、『攻撃力が滅茶苦茶高い代わりに攻撃したらぶっ壊れる槍』とかが分かりやすい代表だ。
"如何にリスクを無いものとして誤魔化せるか"が悪魔系列のキモであり、ランクが低い物程多数のスキルや装備の介護を必要とするのだが……私が手にしている暴血狂斧はその点、自分一本で性能が完結しているのが優秀だった。
改めて性能を確認してみるが、うんまぁ見れば見る程化け物だなコイツ。
『暴血狂斧 悪魔:RANKⅢ
要求ステータス:STR40
斬撃60/打撃40/切れ味40/強度120/耐久値100%
PS『狂血渇望』
・与ダメージの30%を吸収
・攻撃時、最大体力の5%を消費
PS『暴虐[血]』
・与ダメージ吸収又は自傷ダメージが発生した目標に、与ダメージ+50%
AS『暴走』
・武器攻撃力+50%
・攻撃時、最大体力の15%を消費
・効果時間60秒、クールタイム60秒
AS『狂乱』
・武器攻撃力+50%
・体力上限を現在体力の50%に固定、防御力-50%
・効果時間120秒、クールタイム120秒
AS『束の間の平穏』
・特殊効果による自HP干渉を無効化
・効果時間30秒、クールタイム300秒』
基本性能は要求ステータスに対しては抑え目だが、入手時期から考えればオーバースペックもいいもので、特に強度120……雑に振り回してもまるで耐久値を消耗しない頑丈さは大きな強みだ。
そしてPS『狂血渇望』……要はオート発動のドレインと自傷効果だが、塩梅的にダメージを叩き出し続ければメリットをデメリットを相殺、どころか上回れる設計でしょこれ。火力さえ出せるならこいつは"普段使い出来るドレイン武器"として振るうことが出来るし……更に言うなら『暴虐[血]』に関しては悪魔とは別枠の"純粋なメリット効果"だ、何がどうなってんのこの武器さぁ。
そして件のASも、結局は能動発動式だ。
『暴走』も『狂乱』も効果は実に馬鹿だけど、通常これらがPSに付いてるのが普通の悪魔武器だ。武器から私への殺意は高いけど、自己責任で死ねって言ってくれる分こんなん全然優等生の部類に入る。
おまけに『束の間の平穏』とかいうリスクカットもあるにはあるし、何もかもがこいつ一本で自分の介護が出来てんの強くねお前?
「現状一番の問題は重すぎるって点だなこれ……っとぉ!?」
殺気。
知覚と同時に暴血狂斧を横向きに地面に突き刺し、クソでかい刀身を盾に飛来物を質量で弾く。
小さな衝撃と共に硬質な音を鳴らし、空に舞う細長いボルト。
感覚が鋭敏に、状況分析を脳味噌が開始する。
──敵襲だ。
「良いね、試し斬りに丁度いい」
見蕩れながら性能を分析していた思考が、戦闘一色で塗り潰された。
五感に索敵を開始させ、指はアイテムボックスの操作を。
空気に接続する。
実際にはしていないが、そんな感覚で気配を読んで。
殺意を、探す。
──右奥。
「『束の間の平穏』『暴走』『狂乱』」
様子見、硬直を破壊する火蓋。
躊躇無く好奇心でした宣言。何かが私に打ち込まれ、生物に食われるような感覚。
同時、脈動し、増大し、より殺意と圧力と禍々しさを増すアックスヘッド。
黒鉄のハンマーをアイテムボックス内に仕舞い、両手で握った暴血狂斧を引き抜いた直後、全力で眼前へと叩き付ける。
振るわれる圧倒的破壊。加速する暴力、物理法則に何処までも従順な……重量!
爆音、爆砕。
甚大な威力で弾け飛ぶ河原が水飛沫を散らし、狙い済まされた次弾毎衝撃で吹き飛ばす。
うーん余りにもパワー。
発生する刹那の水飛沫による煙幕。
私は凡その敵の位置へと、暴血狂斧を投げ飛ばす!
「うわぁ!?」
縮地。
正面を巨斧が切り裂いていく光景を他所に、横に飛び出して直近の木へ跳躍。
重力を無視するように横向きに幹に着地し、反射するような軌道で再度跳ぶ。
エアハンマーによる自傷跳躍を駆使して、空中から高速で距離を詰めて行く。
……思ったより機套の空気抵抗軽減効いてたな、想像より遥かに加速が遅ぇ。
「カッコイイでしょそれ?」
「ちょっ、上からぁっ!?」
「人が話しかけてんだから会話しようぜ?」
何度か魔法を蹴って視界に捉えたのは軽装の狩人。
クロスボウで照準を付けるより尚早く、ブラストジャンプで斜め下へと急加速。
思考が入力していた奇襲法は回し蹴り。
AGIがSTRを後押しした一撃が、胴体を撃ち抜いて男を吹き飛ばす。
チッ、目測誤った。首飛ばすつもりだったのに。
「そもそもさぁ、人が明らか喜んでんだから邪魔しちゃ失礼だと思わなかったの?」
「……いや、誰だって試合中に大声上げるような初心者いたら奇襲しに行きません?」
「うーん、それはそう? でも別に私は正論は求めてないんだよね。相手が気持ちよくなるよう動くのがコミュニケーションでは大事だよ? その点君は失格かなぁ」
「いや理不尽過ぎない? あ、その武器かっこいいですね。良ければ出所とかおs」
「や☆だ」
抵抗を諦めたのか、気軽に会話に応じてきた彼に向け、地面にぶっ刺さっていた暴血狂斧を引き抜き唐竹割りに振り下ろす。
ずしんとした重量が、生き物を斬り殺した。
質量を引き裂く感触と共に、私が殺した。
粒子となり幾つかのアイテムを置いて消えていく気の良さそうなプレイヤー。
久しぶりの殺人だぁ、あんま抵抗してくれなかったのが残念だけど。
「……そういや今バトロワしに来てたんじゃん」
遺装の衝撃で飛んで、奇襲の反射対応で忘れてたけど、今いる場所PVPの会場じゃんか。
感覚とか情緒とか諸々がリセットからで気付いたけど、確かにこんなとこで隙晒してたらそら殺しに来るかぁ。
「うーん、試し斬り何人出来るかなぁ?」
"束の間平穏"の効果が切れて、最大HPが半減した状態で私はそう呟いた。
……地味に"狂乱"これ効果時間中永続付与かよ、平穏の後から重ねてズルは出来ないかぁ。
ハンマーヘッドという単語はあるのにアックスヘッドという単語が無くて困惑しながら独自言語を生み出す作者