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エイプリルフール特別編
「こーんなところに一年中引き篭ってばかりのダメ姉をはっけーん、構ってしんぜよう!」
「あんたが構って欲しいだけだよね?」
「てなわけでゲームしようゲーム」
脈絡どこ?
「聞けよ、そしていつもしてんでしょうが……で、今日は何?」
「Overcooked3」
「……PCの協力ゲーだっけ、やりたいなら友達誘ったら?」
「問、私達姉妹の主なコミュニケーションツールを答えよ」
「ゲーム」
「ならつべこべ言わずにやんぞおい」
なぜぇ……?
ある日の昼下がり、眠気に誘われながらリビングでキャラメルラテを楽しんでいる最中。
ちびちび啜る私に決定事項のように語りかけ、流し見していたテレビを弄り始める妹様。
余りにも唐突な脈絡だけど、こんなん別に日常で。
昨日散々ぱらあっちで一緒に戦ってのに、彼女は翌日だろうがお構いなく現実まで侵食してきやがる。
遊ぶ友達がいないんじゃないかって、お姉ちゃんつい心配になっちゃうよ。
まぁ、ろくに友達いないのは私なんだけど。
「何するゲームだっけこれ」
「レシピ通りに協力して料理作るゲーム」
「これ一人一品仕上げた方が効率的じゃね」
「それだと楽しくないじゃん、わちゃわちゃすんのが醍醐味なのに」
「パーティゲームってやつ? 私に対人で勝てないからってこういうのに逃げる人間だったかぁ」
「対人VRでしか存在意義無いお姉ちゃんと違って私は好物多いから」
「へー……」
え、今煽った?
「ほらコントローラー、お姉ちゃん2Pね」
「ねぇ今煽った? 喧嘩なら買うよ?」
「私一応初見だし1-1からね」
「あ待ってチュートリアル」
「え、いるタイプだっけ?」
「初心者だろうが自分の不格好なプレイは凄まじく不愉快だからいる」
「さいですか」
操作されて辿り着いたステージを前に、渡されたコントローラーを持ってテレビ前のソファに集合。
隣に腰掛ける質量を無視して画面に集中し、ボタンの意味とゲームの流れを把握していく。
えーっと? 料理の注文が来てそれを用意すりゃいいのか。
野菜は切って、肉は焼いて、蒸し物は切って混ぜて……え、これセットした後放置してると火事になんの?
皿も盛り付必要で、使った皿は洗わなきゃで……米も炊くっていっそがしいなこれ? 頭パンクしそう。
「クリアは制限時間内のスコアノルマ……ねぇ、なんで飲食店の厨房を配膳まで二人でしなきゃなんないの?」
「わちゃわちゃさせるためでしょ、取り敢えずやるよ?」
「うむ」
そうしてゲームが始まる。あれ、気付いたらやってんじゃねぇか!?
時間表示と注文リストが追加され、ステージに二人のちっこいキャラが出現した。
……食材と皿の置き場と調理場と受け取り口が全部遠いしテーブルが移動の邪魔なんすけど。
まぁいいや、私もさっさと私のやれることをしよう。
「ねぇ何してんの?」
「配膳待機。さっさと作って? 注文溜まってるよ?」
「なんで運ぶ仕事だけでいいと思ってんの!?」
え? なんで? いやいやいや普通に考えたらこうなるでしょ。
「こんなん二人でやったら絶対ゴチャってパンクするって! あと料理はあんたの担当でしょ!?」
「現実持ち出してんじゃねぇよ! 一人じゃ明らか作業間に合ないんだから普通に働いて!」
「えー」
「……まっしょうがないかぁ! お姉ちゃんこういうゲーム苦手だし失敗するところ見られたくないもんねぇ〜?」
「やってやろうじゃねぇかコノヤロウ!」
「煽り耐性低過ぎでしょ、瞬間湯沸かし器かなにか?」
全っ然図星突かれてキレたりはして無いですけどぉ〜? 馬鹿にされたから見返すためにぃ〜?
前のめりになって状況の処理を開始、思考を入力……出来ないので、なんとか指を荒ぶらせて調理に加わる。
まず注文全部寿司だな? 取り敢えず炊飯器全部に米ぶち込んで、その間に魚捌いて……「お姉ちゃん皿無いよ!」あぁもううっせぇ! 皿洗いすりゃいいんでしょ!?
つかなんで手洗いなんだよ食器洗浄機くらい用意しとけやコラ! いつの時代だよ!?
つかカンカンうっせぇ何の音!? 注文の残り時間!? 黙らせるためここに置いてあるもん先出すぞ!
チーン♪ うるさい注文の隣のヤツが消えた。
作り間違えてんじゃねぇかアラートがクソうぜぇ!
「ちょっとお姉ちゃん米、米!」
「今度は何!? って焦げてるー!?」
「なんで取り出してないのー!?」
「いそがしかったんだよぉ! 次々言ってこないでよぉ!」
「兎に角早く取り出してそれ!」
「ねぇなんか燃え広がってるんですけどぉ!」
「消火! 消火しなきゃ! 早く!」
「どうすんのこれ!? どうすればいいの!?」
「消火器だよ! それで消すの! ……消火器どこ!?」
「うわ注文遅すぎて過ぎてスコア減らされた」
「あ、だめだこれ。終わった」
「いやあんた諦めたらマジで終わりなんだけど!?」
「ポンコツ抱えてやるゲームじゃなかった……」
「あァ!? ちょっと要領いいからって比較して馬鹿にするのやめて貰えますぅー!?」
「私がいいんじゃなくてお姉ちゃんが悪過ぎるだけでしょこの社会不適合者」
「ぶっころすっ……って痛い痛いやめてやめてやめて!」
「……いや割とマジでこうやってすぐ手が出る癖は直した方がいいと思うよ」
「冷静なマジレス!? だとしてもあんたみたいなゴリラがひ弱な私に関節キメるのはお姉ちゃんどうかと思うなぁ!?」
「誰がゴリラだこのやろう!」
コントローラーを投げ出して、そっからは馬鹿みたいな取っ組み合いだ。
お互い感情のままに言いたい放題して、擽りや揚げ足取りをして、好き放題に煽り合って。
そんなよくある日常の、些細で下らない姉妹喧嘩。
「はぁ、はぁ、はぁ……はーあほらし、私ら真昼間っから何やってんだろ」
「……そう思うんならもうちょい早めにやめない?」
「いやだよ負けたみたいじゃん」
「馬鹿みてぇな理由」
「誰に似たんだろうね?」
「お互いにでしょ」
汗をかき、水分補給のため手近のコップにあるものを飲んでみたが、それはどこまでも温くて不味かった。
ああ本当に、しょうもない一日だ。
エイプリルフールのIFに書くには人の心が無さ過ぎる