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『レベルが上がりました』

『ステータスポイントを獲得しました』


「はい、こちら報酬です」

「どうもー」

「それとD級にランクアップできますが、申請しますか?」

「お願いしまー」


 ゲーム世界、相変わらず世間は夜だ。

 ギルドに立ち寄って二つ依頼を受けるついでに、最初の街で受けていた依頼の報酬精算をする。

 馬鹿みたいに入る経験値と、金。

 割合はボス二匹で計4割、猿のフリー討伐が6割程。うーむマジでくそうめぇ、猿合戦様々じゃあ。


「果てさてレベル27か、30遠いなー」


 ギルドを出て街中を歩く。

 見かける人は全てNPCで、プレイヤーはまるで見かけない。見回しやすくて実に結構。


 ──ここ、第二の街ツーブライトは、冒険者の街である。

 近くにダンジョンが幾つもあることで発展したこの街は、取り分け戦闘に関連する施設が多い。

 それは例えば買うことでしか習得出来ないスキルがあるスキル屋や、1on1を楽しみたいプレイヤー用の闘技場、そして立派な生産集中区画や転職施設があったりなど、兎に角戦闘力を上げる手段が豊富にある。


 王都が崩壊した後は基本この街を根城にしていた程度には便利な街だ。


「装備整えてさっさと転職するぞー」


 ぷらぷら揺れる私のコートは傷だらけで、そして右肘から先が無い。

 武器を留める金具も鞘も無い私は、全て抜き身で持つかアイテムボックスから取り出すしかない訳で、金が手に入った今直近でしたいのは当然装備の更新だった。

 記憶の向くまま辿り着いた路地裏への入口。

 入り組んでいる深淵へと、私は足を踏み出した。


(右、左、直進、塀を乗り越えて、右、左、左、奥、下で、壁に入る)


 ヒントを全てすっ飛ばして、迷路地味た暗闇を迷わず歩く。

 分岐を曲がって、行き止まりを登って、魔法で作られた実態の無い幻の壁を抜けて。


 数分間続く面倒な道筋の果てに工房があった。


「らっしゃい……ん? 異邦人だって?」

「やあガルナさん、私の装備作ってよ」


 店奥から聞こえる声は私に対して懐疑的で、姿を表したその男は私を随分と警戒していた。


 こんなぷりちーな私に対して、よくもまぁそんな目を向けやがるな。


「いきなりだな……ここについてはどこで知った?」

「コートの修繕と、刀の鞘と、武具留めの金具とベルト、あとは手頃な手袋と靴が欲しいかな」

「おい聞けよ、ここは認めた奴にしか武具は作らねぇんだぞ」

「こんな行き来の面倒な場所に辿り着いてる時点で紹介人に認められることをした証明でしょ。ましてや私はつい最近現れた異邦人だし、相当な信用が必要なんじゃない?」

「だとしたらどんなことしたんだよお前さん、こんな短期間に俺の店紹介されるって相当だぞ……不気味だなぁ」


 彼はこの街一番の万能鍛冶師"ガルナ"。

 装備の点検から作成、細かな修正やオーダーメイド、果てには遺装のメンテナンス等、大抵のことをこなせるNPCだ。

 結構な背景ストーリーがあり、こんな場所に居を構える程度には重要なイベントと面倒なフラグ管理の果てに出会えるキャラクターでもあるのだが……まぁイベントの報酬が裏路地の道順ってだけだから、知ってりゃこうしてフラグスキップ出来るわけだけだった。


 こういうのもゲームの二周目の醍醐味だよね?


「……まぁいい、ここに意図的に来た奴の話には乗るのが契約だしな。……依頼は受けよう、物はどれだ?」

「ん」


 話の早いおっさんに、"魚刃[イ刀]"、"魚刃長巻[イ刀]"、"機套[不屈]"を渡す。


「武器の方はクソみてぇな出来だな「殺すぞ」自作かよ、これ俺がそもそも打ち直した方が良くねぇか?」

「追加料金は?」

「素材持ち込みの打ち直しだから鞘含めてもそんなにはかからん……そもそもの合計予算はどれくらいだ?」

「50万ちょい」

「余裕だな。コートは……遺装だが腕だけだ、そうかからん。金具とベルトってのはどこの何用だ?」

「腰に刀の鞘提げる用と、背中に長柄固定用の汎用ベルト」

「汎用? 得物は刀と長巻じゃないのか?」

「大抵の直剣と長柄全般は使える」

「どうなってんだよお前の恩恵(スキル)

PS(自前の技術)だよ。手袋と靴は格闘用で軽くて硬いの」


 簡潔な質疑と応答。

 品定めするような、職人の目と言うのだろうか? 武具と私が隈無く観察されている。

 腕と、重心と、身長と、体重かな?

 おもむろに手を取られ、見られながらにぎにぎされる。きゃあえっち。

 事が済めば今度は足を。触って、見て、確かめられる。

 不快感は特に無い。

 妹とは違って、そこに変な感情は介在しない綺麗なものだ。


 妹とは違って。


 ……アイツマジで怖かったなぁ。


「……25万てとこだな、他に入り用の物は?」

「んー、じゃあ15万くらいのハンマー欲しい」

「了解、好きなの探して買っていけ。……作業に大体二時間は貰う、ここで待つか?」

「あー……うーん……そうだなぁ」


 概算が着いてふと考える。

 暇、暇か。暇潰しになるようなことか。

 あるっちゃあるが、果てさてどうなんだろうか?

 いやまぁ確かに初期装備で狩りはしたくねぇし、制限時間が二時間となるとやれることは限られるけど、驚くくらいに気が進まない。


 さてはあの圧、トラウマになってんな?


 ……それはそれで不愉快だな?


「訓練所あったよねここ」

「ん、ああ、よく知ってるな」

「そこで潰すよ」


 立てかけてある武器達から、手頃なハンマーを掴み取る。

 2m程の柄に、クソでかい鉄塊が付いたもの。

 結構重いけど、全然振り回せる範囲だ。

 重心が分かりやすくて実に良き。


「久しぶりにバトロワやるかぁ」


 会計を済ませて、私の物になった大重量を肩に担ぐ。


『黒鉄のハンマー』という名のそれが、私の暫くの相棒だ。

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