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(あ、やばい、しぬ)
勝利の快楽は基本長くは続かない。
脳内麻薬、アドレナリン、その他様々な名前の快楽物質は一時的なものでしかない。
そして積み重ねた苦痛の伴わない達成感なんて、すぐに冷めてしまうものだ。
興奮の終わった後に残るのは、認識から逃げていた疲労と痛み。
チャリオット戦は楽しかった。苛烈にアバターに指令を下して、緊張感の中超近距離で切りあって。
ハリケーン戦も楽しかった。ムカついてから脳みそ酷使して、首をへし折って瞬殺した時は脳汁出たし。
猿合戦も楽しかった。一時間ずっと焚き木のサウナの中ずっとアバターを動かし続けて、殺戮して。
それらが今積もりに積もって、私の思考能力が悲鳴を上げていた。
要はマジで頭が回らねぇ。
「おえぇ……一旦ログアウトじゃあ……あ、ダメだここセーフティエリアじゃん、しゃあねぇ次の街行くか……」
ふらふらする体を起こして、取り合わず持ち合わせのポーションを全て一気飲み。
右腕半ばからの切断痛は止まないが、全身のダメージとHPの回復は起こっているので行動は出来る。
勝利、それ自体はとてもえらい。
然し高々痛覚と疲労程度に負けて休息しようとするのは、なんか自分に負けたみたいで嫌だ。
幸いここからなら遠くは無い。ちまちま片手で散らかってる装備を回収し、長巻を取り出して準備完了。
疲れた時は寝るのが一番。
さっさと街に辿り着いて、ログアウトして寝ようじゃないか。
「激痛が疲労と脳死具合に拍車を掛けやがる、鎮痛剤か義手欲しい」
太陽が眩しい。
木々の天井から差す木漏れ日が、私の目ん玉と体を焼く。
つか実際に焼かれてる、いやそれは腕の断面の痛みだわ。
にしても夜明けだなぁ。
気力を奪いますね、気分は最早アンデッドだ。
森に出るアンデッドならチェンソーでも持ってそう?
ジェイソンじゃん。名前似てんね?
私みたいな美少女には似ても似つかない名前が出てる。
「うーん脳死」
思考回路が支離滅裂。
愉快だ。
******
「極限状態の時程クセでるよね」
片手で森を殲滅する。
森? 森。
森を形成するモンスターを駆逐する。
脳死で、思考を放棄して、気の向くままに。
植え付けられた戦闘力が勝手に暴れる。
木にはノータッチ、生きてないし。
死体は殺すけど、まぁ道具には優しくしなきゃ。
「あーアイテムいっぱいだってよ、あはははは」
長巻くんを操る。
先端で撥ねたり、刃で落としたり。
何を? 首だね。
モンスターの話じゃん。えっと……猿と猪と蛇と狼だ。
今は頭蓋割ってる。
近い順から好きなように、何かされる前にぶっ殺してる真っ最中。
バランス取れなくてやりにくい、動かないでよ。
邪魔だなぁ、障害物。
自由に斬撃振ると木に引っかかる。
焼き倒してないし、突きを筆みたいに戦おう。
つか木ごと切るか。
「殴ればいいじゃん頭いい」
なんか寄ってくる奴らを片っ端から駆逐。
蹴って、切って、突いて、叩き付けて。
蹴り潰してから片腕無いから殴れないのに気付いて、長巻の柄で殴ってあげた。
耐久値削れそう、ふふ。
貧血気味かも。
モンスター殺して回復しなきゃ、血液。
うーん血まみれ。
「あぁ^〜腕からスリップダメージの感傷ぅ〜」
なんか継続的に痛み発生してたけどこれ出血だったわ。
幸い程度低いから誰か殺してりゃ釣り合うレベルだけど。
優秀じゃんね『継戦能力』
輸血パックおいしい。
引いては私が天才レベル。
やっぱりぃ? 知ってたぁ。
「漸く抜けたー」
全部ぶっ殺して視界が晴れた。
うぐわぁ日光痛いやめて。
「気分は持久走ラスト一分の全力疾走」
さっきから息を吸うようにしてた縮地で走る。
一歩一歩、全部縮地。
加速が渋滞して風を切るような。
速い速い、AGIの限界超えてんぞこれ?
別に日常だった。
わぁお茶目。
「あ、ごめん轢いた、気持ち悪い死ね」
肉をぐにゅぅって踏み躙った。
多分兎とか? 恐らく犬。
足捻りそうになった。死ねばいいのに。
ってもう殺してんじゃんあはははは。
「門番さん門あーけて」
「え、あの、」
「はーやーくー」
「え、あ、はい!」
速度全部地面に落として急ブレーキ、ガリガリ靴底削って土煙くんとこんにちは。
街の出入口、早朝だから? 開けてない衛兵に話しかける。
あ、開けてくれるみたい。
別に壁から登ればよかったかも。
馬鹿かな? いいやうっかりだよ。
全てを疲労のせいにしよう。
つまりこの世界が悪い。
私ってつまり正義だし?
『"冒険者の街ツーブライト"に到着しました』
『セーブポイントを変更しま「ログアウト」
視界が切り替わる。
暗転、何処までも眠れそうな浮遊感。
泥みてぇに底に叩き付けられそうな感覚。
五感が遠のく。
六感の接続が切れる。
認識する。
消える、感覚。
余りにも懐かしい、染み付いていたそれが、表皮を撫でてぶり返した。
現実だ。
******
真っ暗。
視界が遮られて、頭が物理的に重い。
体が重い、重力を感じる。
鼻腔を自分の部屋の匂いが掠める。
感覚が、全身にへばり付いていた。
酔っているような、吐き気がする。
頭が回らない。
世界がぶれる。
死にそう。
眠い。
(……ヘルメットは外そう)
億劫な肉体操作。
気持ち悪い中、それを外して。
そして意識を手放した。
毒気抜かれるとコイツ割と幼くはある
次回閲覧注意




