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 究極、私にとって言えばボス戦なんて茶番なのだ。

 装備が微妙だろうがステータスが低かろうが、有り合わせの武器さえあればどうにでもなる……それだけの確信と強さが私にはある。

 研ぎ澄まされた私のPSと、忘れたくとも脳裏に溶けきったこの世界の記憶が、それだけの確信を私に持たせていた。

 ともすれば詰めれば作業に出来る程に、例え初心者のステータスだろうが私にとって序盤は温い。


 それは例えボス戦だろうが、終わってみれば苦戦も無い勝利が決まっている戦いだ。


 ああ然しどうだろう?

 そんな風にただ作業として処理する戦闘は楽しいのだろうか?

 単純に戦闘が好きで、死闘を愛していて、過酷を求めていたゲーマーだった私が。

 愉しく感じずにするゲームなんて、楽しめるのだろうか?

 怪物を全殺しするという目標があったとして、私はそこに行くまでに快楽無しにこの世界で生きる必要があるのだろうか?


「断じて否ァ!」


 旋風のように切り込んで、跳躍を多用しすれ違いざまに斬撃を幾度も放つ。

 腰のランタンがカチャカチャ跳ねて、風圧にたなびくマフラーとコートが私の軌跡を追う。

 夜闇を駆ける光と、塗り潰すような轟音が森に木霊(こだま)した。

 戦況は、ああ実に白兵戦!

 数瞬前にいた座標が暴力的な筋力で破壊されて、足が止まれば死ぬなこれ!


「私が一番大事なのは、私が楽しむことなんだよ!」


 振るわれる剛腕をバックステップで躱し、魚刃で交錯させるように攻撃。

 吹き荒ぶ風圧と、相対するように得た肉を切る感触。

 姿勢を下げて力を足に、追撃を跳ね飛ぶように避け、すれ違いざまに連撃。

 筋肉に阻まれた感触と、皮を抜け肉に切込みを入れる感触。

 鉈くんの"()"が立たなくて、魚刃くんが肉をぶった斬った報告だ。

 豆腐を切るみたいな感触っつうのかな?

 私料理ほぼしないから知らんけど。

 あっはぁ適当!


「お前みてぇな奴はリーチ縛った方が楽しいよなぁ!?」


 ボスには複数の種類がある。

 私がさっき倒した大猿──ハリケーンは、タイプでいうと()()()()()だ。このタイプは()()()()()()()()()()()ボス以外のところで難易度を上げており、ハリケーンの場合だと鋼結草の鎧だったり、前哨戦の『猿合戦』というイベントがそれに当たる。

 対して、私が今殺している巨大熊──"チャリオット"は()()()()()という、ただ高いステータスでゴリ押してくるタイプのボスだ。


 特徴は、ただ単純に強い。


「分かりやすくて結構!」


 私がハリケーンの首を引きちぎれたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 下位種のただの猿共も群れである分一匹一匹はステータスが低かったし、ボスたるハリケーンもその特性は変わらない。

 だからこそ私の最大火力で急所キルが成立したのであって、他のボスも同様のことは……ましてやチャリオットに対してはまず届かない。

 そもそも首がクッソ太くてかつ頭が高い上に、肉弾戦特化のパーティ基準の強さのボスだ。


 そんなのソロなら白兵戦でHPキルしなきゃ各方面に失礼でしょ。


 どの方面だよ? さては脊髄で思考をしておられる?


「ひゅーこっわ!」


 タックル。

 壁が爆速で迫る様。

 トラックみたいな突撃を股下に抜けて回避。

 瞬発力はギリ勝ってるので反転と同時、跳躍からの連打。

 AGIの加速をダメージに乗せ、すれ違いざまに切りまくる。

 正面からやり合える相手じゃないし、殺すなら削ぐように削るしかない。

 ああいいね、即死火力の嵐の中で長期戦だ。

 ハリケーンみたく弾かれなくて、攻撃自体の難易度が無い。

 スリルと自由に殺しあってる実感が、私のボルテージを上げていく!


「リーチ足んねぇーあっはっは!」


 暗闇の中の機動戦。

 足場は平面で安定しちゃいるが、距離感が掴みにくくまぁまぁ滑る。というか力が逃げる。

 反面、大熊は自由に全力で暴れ続けている。

 爪の連撃、図体を生かしたタックル、爆速の突進。

 風を切る音が耳を抜け、或いは叩く。

 それは一つは涼音で、一つは轟音。

 いなしようがない攻撃を避け、すれ違いざま地道に肉に傷を入れていく作業。

 咆哮が風切り音を裂く。

 刹那、暴れ狂う剛腕が眼前で破壊音を奏で始めていた。

 飛び散る破片すら届かない距離まで跳ね飛べば、暴れをやめ突撃してくる重戦車。

 引き付け、斜め前に躱し、肉を斬る。

 衝突速度をエネルギーに変えた斬撃は、深く、短い。


「はて、これ楽しいけど魚刃1本で持つのかな?」


 避けて、跳ねて、切り刻んで。

 状況だけで見れば完封しちゃいるが、その実不利なのは私の方だ。

 避けられるステータスはあるし、動きは見えるし、ダメージを入れる手段はある。

 問題は一撃毎の火力の低さ。

 コイツは図体がデカく、そして太い。

 大剣ならまだしも刀で切り込める深さには限度があるし、下手に刃を埋めれば筋力で芯から折られること間違い無し。

 必然的に丁重に扱うしか無いのだが、そうすると当然一撃毎のダメージは落ち、"耐久消費にダメージレースで負けてしまう"。

 切り札はあるにはあるが、使うにしても体力を削らないと始まらない。

 長巻? ()()()()()()()使いたくねぇ。

 どうして好き好んで得意武器使わないといけないのか。

 そもこいつとのインファイトが縛りになってるってのにリーチ得たら終わるだろそれ。

 さては長巻くん作った意味無いな? わたちのきちょうなじかんかえして。


「じゃあそれ以外は使用可ってことでぇ!」


 MPを搾って『緊急召喚』を発動、アイテムボックスの操作を介さず手元に呼び出したそれを掴み、バックステップ主体で立ち回って攻撃を誘発させる。


「そぉらおやつだぞー! ……いや夜食か?」


 支離滅裂な思考を口がリアルタイム実況。同接一万は取れる声だね。

 噛み付きに合わせて燃やした物を放り投げれば、一泊遅れて熊の口内で爆発した。

 野太い悲鳴を上げて後退するボスを尻目に、縮地も使って一気に視界から姿を消す。


『小型環境爆弾

 攻撃力40

 みじん切りにしたダイナマイトウの身を植物で包んで球体にしたもの。投げるのに丁度いいサイズであり、強い衝撃を加えると大爆発を引き起こす。導線などは無いので注意』


「残弾は2、そう易々とは使えないなぁ」


 樹上に隠れてアイテムボックスから直に取り出したMPポーションを飲み……縮地で空に身を投げる。

 勢い良くぶっ飛んで別の木に飛び移る直前、私がいた木は巨木で殴り飛ばされていた。

 わぁお彼岸島スタイル。


「グアアアァァァァァァァ!!!!!」


「あんま叫ぶと喉痛むよ?」


 眼下にはクソデカ倒木を両腕で掴んで吠える森の熊さんが、殺意満々といった顔でそれを振り回していた。






 可愛いね?

サイコちゃんの得意武器は長柄全般>片手剣≧重量武器>その他って感じです

片手剣は大体のVRゲームにおいて剣士の初期武器だから、大半のプレイヤーは必然的に慣れます

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