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 セーフティエリアとは、モンスターが入って来れずPKも不可能な、居るだけでHPやMP、部位欠損すら回復するプレイヤーの休憩所。

 基本的に街はほぼ全域がセーフティエリアだが、フィールド上にあるものは最初は使えず、エリアボスを倒したり一部クエストの達成等で使用可能になるものが殆どだ。

 敵が来ず、安全で、解放した直後の状況。

 何にも警戒すること無く、採取するのには丁度いい環境だ。





『ダイナマイトウ

 川魚。イ刀の近縁種。頑丈な鱗で覆われた身は強い衝撃を受けることで爆発する。磨り潰して団子にし、爆弾として使う地域もあるとか』

『イ(トウ)

 川魚。ダイナマイトウの近縁種。異常に硬く長い刀のような背鰭が生えており、実際に刃物のように鋭いことから名付けられた。並の刃物よりよく斬れる』

雷魚(ライギョ)

 川魚。発電器官を持っており、狩りや生命の危機に瀕した時に放電する。解体は至難の業』

宝山椒魚(ホウサンショウウオ)

 水棲動物。雑食性で、食べた物を体内に物質として形成する。個体によって好物が異なり、形成される物質は千差万別。低級の経験値塊やエンチャント剤が大半だが、偏食傾向によっては魔石や鉱石、果ては武具が出来ていることも』


「案外楽しくて熱中してしまった」


 やる気が起こらず暇潰しがてら素材採取も一応兼ねて、サバイバルキットから出した釣竿で猿肉を餌に湖に糸を垂らすこと数十分。

 焚き火が命尽きたのを丁度良い切り上げ時にした。

 名目上の目当てはイ刀だったのに三匹釣っても続けたのは入れ食い状態の魚共が悪い。


 だって反射神経だけで釣れるんだもの、楽しいじゃん?


「んじゃあ、軽く作っちまおう」


 そこら辺の木材を掻き集めてライターで焚き火を再作成。釣竿を片付けて、腰のランタン頼りに辺りを捜索。

 大猿が巻いているだけあって、このエリア周辺には『鋼結草』が群生していた筈だ。


「と、あったね」


 少し探せば簡単に灰色の植物が見つかった。


『鋼結草

 白みがかった植物。靱やかだが一度濡れると硬度と結合力が跳ね上がる』


 コイツは水に浸さなきゃ柔らかいので、ブチブチと根こそぎ引き千切っていく。

 十分な量が集まったら後は作るだけだ。


「武器、色々あった方がいいしね」


 大猿の真面目な攻略法は打撃や魔法によるHPキルであり、槍はぶっちゃけ悪手もいいとこだった。

 弾かれるし武器火力は低いし(鉈よりは遥かにマシ)、無理矢理隙作って殺したけど、攻撃方法が刺突だけだといずれ詰む。

 苦手な奴は仲間に頼むとかソロ攻略なら言ってらんないし、無いならまぁ作るしかないのだ。


「硬ったっ!」


 焚き火の元に戻りランタンを目の前に置いて、イ刀の背鰭をサバイバルナイフで剥がしていく。

 かなりの抵抗があるがまぁ切れなくは無い。鋸のようにガリガリとゴリ押して、魚と刀を分断しにかかる。

 暫しの時間を経て成功し、鞘も鍔も無い片刃の刀身が手元に出来た。

 全長は1m程。

 このままでは使えないので、次に刃を30cm程ナイフと(やすり)で潰していく。

 シャリシャリと金属が擦れる音が、パチパチと焚き火が燃える音が響く。

 もう慣れた少し煙たい臭いが、夜の森の澄んだ空気に溶ける。

 静寂が心地いい。


「……まぁこんなもんでいいでしょ、"合成"」


 落ち着く音と匂いに揺られて作業は進む。

 握って指が切れない程度に潰した背鰭の端に、鋼結草の束を合成した。


 巻き付けるようなイメージ通りの、包帯のような植物による持ち手。

 伸ばされ、隙間なく、接着剤無しで完成した刀の柄だ。


『魚刃[イ刀]

 要求ステータス:無し

 斬撃30/刺突15/切れ味42/強度23/耐久値100%

 イ刀の背鰭を刀身にした鍔の無い刀。魚刃の特性として濡らすことで性能が上がり、イ刀は切れ味が特に上がる。

 又、柄が鋼結草で出来ており、濡らすことで強度が上がる』


「うーん改めて見てもファンタジー……何故魚から刀が作れるのか」


 出来上がったのは初心者武器として有名だった魚刃シリーズのイ刀版。

 握ってみた感触は悪くない、猪牙の槍よか遥かに持ちやすい。

 試しに湖に突っ込んで引き抜いてみれば、心無しか刀身が生き生きして見えた。


『魚刃[イ刀]

 要求ステータス:無し

 斬撃32/刺突17/切れ味45/強度30/耐久値100%』


「猪牙の槍、果たして魚如きに負けて良いものか」


 魚刃で+2と3、鋼結草で強度+5。強化前ですらこの時期の武器攻撃力より遥かに高く、濡らせばLv40台の武器にすら匹敵する。

 現時点で手に入る武器に比べれば正に破格の強さ。流石は有名になるだけあるや。おさかなソードつよい。


「まぁ言うてもしゃあなし、どんどんつくるぞー」


 まだ二匹残ってるし、なんならダイナマイトウには未着手だ。

 またいつこうして休憩を取りたくなるか分からないんだから、やれる時にやりきってしまわねば。

 





 ******






『魚刃長巻[イ刀]

 要求ステータス:無し

 斬撃30/刺突15/切れ味42/強度20/耐久値100%

 イ刀の背鰭を刀身にした鍔の無い長巻。魚刃の特性として濡らすことで性能が上がり、イ刀は切れ味が特に上がる。

 又、柄が鋼結草で出来ており、濡らすことで強度が上がる』

『鋼鎖草棍

 要求ステータス:無し

 打撃33/切れ味5/強度23/耐久値100%

 鋼結草を鎖のように巻き付けた棍棒。濡れることで強度が上がり、非常に重く、硬くなる』

『鋼鎖草甲

 防御力15/強度23/耐久値100%

 鋼結草を鎖のようにし、それを巻き付けて包帯のようにしたもの。濡れることで強度が上がり、非常に重く、硬くなる』

『小型環境爆弾

 攻撃力40

 みじん切りにしたダイナマイトウの身を植物で包んで球体にしたもの。投げるのに丁度いいサイズであり、強い衝撃を加えると大爆発を引き起こす。導線などは無いので注意』


「はい飽きた! 戦闘したい!」


 丸太の切り株で作った簡単な作業台の上には、魚肉や植物の破片が散乱している。

 ぶちまけたられた三角コーナーみたいな光景の中はサバイバルナイフや魚の腸、鑢やボロボロの植物によるものだ。

 それは私の30分に及ぶ作業の形跡。

 元よりチマチマしたことが嫌いな私に取って、暇潰しに始めたとてそれは余りに長かった。


「よっしゃ試し斬りにボス狩り行くか」


 ランタンを腰に提げて、鋼結草の包帯を手首辺りに巻いて、サバイバルナイフを鞘に仕舞って、爆弾を……アイテムボックスに突っ込んで。

 必要無くなった作業台を焚き火にぶち込んで、強制的に生産活動を終了する。

 装備は揃ったし、作業には飽きたし、戦闘はしたいし、まぁ潮時だ。

 積もりに積もった意欲の発散に行こう。


「爆弾3、棒4、刀1、長巻1、後は水を入れたポーション瓶4本に、開けるの手間だが腰に水筒。まぁこんだけあれば殺せる(火力は足りる)でしょ」


 基本的にボスは1()()()()()()()()、かつ()()()()()()()()()()がある。

 当然この森も例に洩れず、もう一体のボス──大熊"チャリオット"というモンスターが存在する。


 遺装ガチャも出来るし、アイツはガチ戦闘になるだろうし、今の私の相手としては丁度いい。


 サブ武器をアイテムボックスの上部に配置して。

 右手に刀を、左手に松明代わりの燃える鉈を握って歩き出す。

 ボスの場所はここから凡そ徒歩30分。

 場所はうろ覚えだ。頑張ろう、捜索。


「夜明けと同時に始めたプレイヤー達に、私の勝鬨をワールドアナウンスで聞かせてやろう」



 世界は深夜。

 フィールドに探索に出るプレイヤーは皆無。



 決着は夜明け。

 日の出が私の勝利を照らしてくれることでしょう。





 さぁ、冒険に行こうじゃないか!

長巻…薙刀の刃が長い武器種のこと

自分は隻狼の破戒僧で知りました

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