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 思考にニトロをぶち込むように、感情で肉体を支配するように。或いはスイッチが切り替わったように、若しくはスイッチが漸く入ったように。


「さぁ、煮え滾れ私の血流!」


 湧き上がる感情のまま口から思考を垂れ流し、強烈に踏み込み殺意ゴリゴリの突きを放つ。

 急襲、対して標的となった首を守るよう手を翳し、鋼の包帯で大猿が弾いた。

 そのまま雄叫びを上げて反撃してくるが、鉈で軌道を無理矢理逸らし、更に刺突を繰り出して──当然のように防がれる。

 腕に返る重い衝撃も、関係無いとばかりに両腕を回転させて。

 ギリギリで躱し、ギリギリで逸らし、直撃だけを避け、執拗に首を狙う、狙う、狙う!


 避けず離れず、張り付いて攻撃をし続ける!


「ウォォオオォォオ!!!」


 怒り心頭といった面持ちでしてきた全力のスレッジハンマー。それに垂直に蹴りを叩き込んで弾けば、的を外した両拳が大地を粉砕し破片を飛ばす。

 それは腹を抉って、頬を裂いて、髪を切り裂き、痛みを走らせた。


 ──だからどうした?


「るっせぇ死ね!」


 熱狂の前の瑣末事、気にするべくもなく攻撃(殺意)を敢行。

 さぁ圧倒的超近接戦闘(インファイト)だ!

 カスダメ気にして殺意が表現出来るかよ!


「あっそうだ、加速しよう」


 晩御飯を決めるような軽いノリで宣うは、余りに横暴なDPSの解決法。

 火力が足りない、殺意が足りない、表現が足りてない。だからこそ加速する、加速をさせる!


 エアハンマー連打開始、

 ベクトルは()()()()()()()()()


 攻撃を避けれないまで急所を狙い、後隙を魔法で潰しながら異次元な回避を決める。


 ()()()()


 舞う。

 或いは跳ね飛ぶ。

 あらゆる方向に自傷加速だけで回避し、回避行動を捨て、ただ身体は攻撃だけを入力し続ける。

 魔法操作すら火力の邪魔だ。

 思考エンジンを増設、そっちに魔法操作をぶん投げる。

 全身に絶え間無い衝撃、脳味噌が負荷に軋む音、破片で身が削がれるような感覚。

 そこから鈍痛が滲み出た。


 ──そんなの今はどうでもいいだろ?


「あぁ、実にどうでもいいな!」


 カフェインが血中で燃焼して行く錯覚。

 使わず沈澱していた燃料がエンジンを吹かして、無理矢理脳の酷使を成立させている。

 全身が、思考が、感情が、筋肉が。

 現実を包む熱狂の鎧が、私を蒸し焼きにしている。

 どうして痛み如きに、今の私の邪魔をすることが出来ようか?


「いいねぇ実に酔ってきた!」


 吹き荒れる攻撃判定の嵐、豪腕と豪脚が私を殺すために振るわれる。

 それらは全て一撃必殺。

 既に半分切ったHPで直撃すれば確実に死ぬだろう。

 私はそれを捌く。

 避けて、躱して、弾いて、逸らして。

 攻撃にも当て始めた魔法が徹底的に処理していく。

 攻撃を剥がして、隙間に攻撃を差し込んでいく。

 跳んで、跳ねて、直角に曲がって、四方八方から攻撃の嵐になった。

 それら全ては執拗に首に吸い込まれ、そして執拗な防御に弾かれる。

 言い方を変えるならボスモンスターに執拗な防御に回させている。

 咆哮が轟き、森は砕け、私に衝撃が駆け巡る。

 痛みが、疲れが、熱量が、衝撃によって何度も身体に浮上する。

 だがそんなものは無視して、カフェイン染み渡る血流が無視させて、代わりにある物だけを掬い上げた。


 私が死線を走るのに、必要な燃料を!


「あはっ、随分意識してくれてんじゃん、私のこと好きなのお前? キメェ死ね!」


 戦況は果たしてジリ貧。

 全力の捨て身で首にしか攻撃しない私に対し、大猿が選択したのは籠城だ。

 手を替え品を替え殺意を放とうとも終着点が全て首故に、意識して守られればそれはまるで効果は無く。

 武器の耐久値か、私のHPか、現状が変わらなければダメージレースはそこでしか起こらない。


 だとしても私は手数を増やす。


 脳味噌を酷使し、自傷して回避し、ただひたすらに首だけに火力を集中させる。


 腕にも、顔にも、心臓にも目もくれず。




 どこから首を狙いに来るか、"槍"だけ見るようになるまで。




PS(プレイヤースキル)再現──」




 三次元機動の末辿り着いた大猿の頭上にて。

 私の更に上空から"エアハンマー"を発動し、風を蹴り大猿の背後へと急速降下。

 急激なGの中で身を捻り足だけで着地。

 視界から私が急に消え、捉えようと振り向きながら首を手で庇おうとする大猿が見える。

 当然放たれている私の攻撃。


 然しそれは()()()()()()、刃すれすれの位置を掴んだ、手首のスナップで射出された(もり)のような突き。


 脳裏に浮かぶのは過去何千回と放ち、そしてスキルのアシスト無しで、純粋な技術として練習したあるアーツ。


 手中から解放され、前へと進んでいく猪牙の槍。


 それに対して私の腕は背後へと、引き絞るように畳まれる。




「──"(かすみ)"」




 射出されていた槍の軌道が変わる。


 それは石突を掴み体を反ることで、逆再生するように私の元へ戻っていく。


 ガードが空振り無防備な顔を晒す大猿に対して、私は全力の一撃を放てる態勢。



 解放、一閃。




 全身の力を伝えた神速の一撃が、()()()()()()()()




「気分はいかが?」

「ゴアアァァアアアァアァァァァァ!?!?!?」

「わぁ、元気なお子さんですね。産声かな?」




 絶叫。

『槍技』上級スキルを()()()()した刺突が皮を貫き、肉を抉る。

 抵抗を引き裂いて、筋肉を引き千切る。

 懐かしい殺戮の感触だ。

 ああ愉しいと感じながら、暴れる気配を感じたので離脱。

 追撃に石突に"エアハンマー"を撃ってめり込ませてあげた。

 悲鳴が増して気分がいい。

 熱狂に吹く、清涼剤のような爽快感だ。


「脳だと反撃くるかもだから目だよ、ありがたく思……ああっ、二号ちゃん壊された!?」


 狂乱しながら刺さった槍を折り、腕を滅茶苦茶に振り回しながら私へ迫る。

 取り敢えず回避に専念し、"緊急召喚"スキルを使って予備の"猪牙の槍"をアイテムボックスから取り出した。

 あ、MP切れた。

 まぁいいや、どうにかしろ。

 出来るだろ? まぁ私天才ですので。ひゃあ横暴ゥ。


「よっしゃ仇取るぞ三号! ……つかもうお前()邪魔っ!」


 ライトと盾代わりに使っていた鉈を大猿の体にぶっ刺して(投げ捨てて)、"猪牙の槍"を両手で振るう。

 さぁ決戦、大猿戦も佳境に突入。

 余裕が一転、本能だけで私に殺意を叩き付けてくる手負いの獣。

 暴風のような攻撃の合間に、冷静に突きを叩き込む。

 首や残りの眼球に"霞"をチラつかせれば、その都度(攻撃)が止んで面白い。

 別にモーションの再現だからスキルみたく威力あるわけじゃないんだけど。

 態々練習して自力で覚えるくらいには、この技はフェイントとして強力だ。


「ほらどうしたの? 全然当たってないよ? がんばれっ! がんばれっ! ……そして無様に死に晒せっ!」


 大猿というボスは、なんの妨害も出来ずに攻撃を許してしまえば嵐のような猛攻に晒される。

 が、弾きで生じる隙がデカいため、STRに耐えうる硬さと鋼結草の鎧を抜ける火力があれば、普通に殴り合うことが出来るボスだった。

 逆に言えば用意出来なければ戦えないようデザインされているため、序盤に攻略させる気の無いボスとも言える。


 所謂ギミックボスというか、持ち物検査というか、足切りというか。

 そういう手合いは決まって実戦闘力は低く、条件を満たせているなら、大猿は序盤のボス中最も弱い。


 果てさて、今の状況はどうだろう?


 AIに覚え込ませた痛みと経験。


 彼の攻撃は私に当たらず。

 私の攻撃は彼の攻撃を止められる。


 後はコイツを殺せる火力があれば、勝ちだ。


「──────!!」


 咆哮からのバックステップ。

 距離を詰めれば全力の叩き付けの風圧で飛ばされ、その間に奴が両手で地面を掴んだ。

 見たことあるそのモーションはブレスの予備動作。


 空中の姿勢制御に意識を割き、着地する頃には発射の直前。

 標的は遥か遠く。

 発射まで凡そ一秒弱。


 ──詰められない距離だと思った?


「通じねぇよ!」


 ──あるプレイヤーは問うた、『STRが筋力なら、AGIという()()に干渉しないのはおかしくないか?』と。

 成程確かにと幾許かのプレイヤー達が検証したその疑問は、やがてあるテクニックをこの電脳仮装空間に生み出した。

 VRゲームにおけるSTRとは、筋力を発揮した際にゲーム的に出力されるエネルギーの大きさだ。

 それは攻撃判定や運搬等の持続使用時に影響する"ただのステータス"だけではなく、エネルギーという過程を経て出力される物理である。


 足裏を軽く浮かし、力のパルスを股関節から足へと意識しブチ通す。

 体重と筋力を十全に乗せたアバターのモーション。

 STRにより出力されたパワーが大地を砕き、踏みしめると同時、破砕音毎全力で蹴り飛ばす。

 入力した行動は踏み込みに過ぎない。

 然し、それは意図して、意識してアバターを操作したことで、爆発的な加速を体現する。

 S()T()R()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()A()G()I()()()()()()()()()()……俗に"()()"と呼ばれるテクニックが、肉体を一瞬でAGIの最高速度に到達させた!




 彼我の距離は目測10m程




 十分な加速距離




 猪牙の槍を大袈裟に引き絞り











 喉を狙った私の渾身の突きは────











 ────大猿に掴まれた。





















()()()()()()()


 ()()()()()()

 突きの姿勢のまま槍を()()()零距離へ!

 両腕の間に潜り込めば、私の霞ブラフを真似た、ブレスをチャージしていなかった首があった。


 小癪な。


「君に一番効くのは打撃なんだぜ?」


 スローで流れる世界の中で、一指一指確認するように、ゆっくりとその首に指を(ひた)していく。

 視界の端で折れる、槍。

 代わって今掴んでいるのは、首。

 全身が叩き出した速度というエネルギーは手に伝わり、今度はSTRをAGIが後押しする。

 力を込める。

 全身の運動エネルギーを前へ前へと、最先端に受け渡す。

 ミキミキッ……という感触が手に伝わってくる。

 力を込める。

 鋼結草越しに皮膚に五指が完全にめり込んだ。


 このゲームの物理法則は現実通りだ。

 草木を焼けば燃えるし、頭蓋骨を潰されれば生物は死ぬ。

 現実で生命活動が停止することをされれば、生物は即死する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 故に強敵は大抵即死の危険がある状態では防御や回避を優先するし、例え怯んでようが生存本能だかなんだかで反撃するが……それは頭が正常な時に限る。


 麻痺していればリアクションは緩慢になるし、熟睡していれば抵抗は薄くなるし、気絶しているなら力なんか入らなくて。


 痛みで疲れているなら、完全に虚を付いたのなら、反応は鈍くなる。


 大猿にとっての脅威は今死んだ。

 目を奪い、首を貫かんとした殺傷力を破壊した。

 私単体には殺傷力が無いと彼はそう判断し。

 対価として無防備な首を私の手に晒す。


 余りにも軽率。


 私の左手が猿の額に届いた。

 力を込める。

 何も中継しない現状一番攻撃力のあるもの(純粋なSTR値)が、物理法則を十全に活かして柔軟に必殺を体現する。

 打撃で砕けるかは分からないし、鉈で刎ねれるかは分からない。でも別に骨を折るだけなら、素手の方がやりやすいでしょ?


 アトラクションのように大猿の体を蹴って。

 腕の場所そのままに、体をその場で回転させて。

 STR(筋力)と、AGI(速度)と、重力と、重量が。

 反応をされるより早く、速く。

 余りにも一瞬に……一箇所へと叩き落とす!


 異常な音が、異様な感触が、伝わる。


 壊す音が、殺す感触が、伝わった。



「じゃあね」



 大猿の首を、折った。



 大猿の首が、折れた。



 手中の彼の頭には、恐怖に支配された隻眼があった。




「あは、ぶっさいくぅ」






《エリアボス『ハリケーン』を『彁』がソロ討伐しました》

《セーフティエリア『シレネ森林第一』が使用可能になりました》

『初討伐報酬を獲得しました』

『初ソロ討伐報酬を獲得しました』

『称号『エイプキラー』を獲得しました』

『称号『夜明けの始まり』を獲得しました』

『称号『夜明けの一等星』を獲得しました』

『称号『冒険家』を獲得しました』

『風魔法"ブラストジャンプ"を習得しました』

『レベルが上がりました』

『ステータスポイントを獲得しました』

サイコちゃんの色々な技術は大抵サイコちゃん発祥では無いです

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― 新着の感想 ―
[一言] サイコパスはモノマネが上手いんだ
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