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気付けば総合評価が6000超えてました!あとVR週間8位に入りました!ありがとうございます!

それはそれとして書きすぎて遅れた( ꒪ཫ꒪)

 自転車に乗ったことはある?

 これまでどれだけ走ってきた?

 戦う妄想ってどれだけしてきた?

 体の動かし方をちゃんと覚えてきた?

 自分の限界って分かってる?


 私に不足しているものなんて挙げてみたらキリがない。

 現実での成功体験で持ってるのは創作活動への賞賛だけで、果たして私はVR空間に代入出来る経験なんて何一つ持っていなかった。

 そも、根本的に私は不器用だ。

 慣れたことに失敗するこた無いが、初めてやることで上手くいった経験なんて1度も無い。

 夢として語られてきた異世界での戦闘は、私には難し過ぎた。


 ちゃんとした走り方も、走った経験も、身体を動かす経験も、戦う妄想をした回数も、夢を持つ経験も、自分の最大パフォーマンスも、何もかも知らないし分からない。

 出力した命令に対する結果の予測が出来ないのに、戦った。

 反応するタイミングや肉体の反応速度もろくに知らない私が、戦える筈も無いのに。


 だから、一つ一つ覚えていった。

 あらゆる現実で不足していた経験を、仮想現実に最適化したやり方で。

 それは無地の布を染色するのに近い。

 重力に晒された世界のゴミみたいな肉体での動き方じゃなく、圧倒的運動能力で身軽な世界を動くためのやり方を。

 そのためだけに、私の感覚をチェーンナップしていった。

 VRで動くためだけに特化した、初めて知っていく身体の動かし方。

 初めての骨折はVRを始めてから二ヶ月後だった。

 まあ、そりゃする。だって現実で動くように身体の使い方を覚えてないんだから。

 筋肉もまるで無い貧弱な肉体なんて、変な動かし方をすりゃ骨も折れますわな。

 入院期間中は最近病院に配備されたVRセットを使わせてもらった。

 もう既に何千回とモンスターに殺されてきたけど、私は未だに序盤のエリアで身体の動かし方を練習している。

 何度も何度もアバターを消したため、レベルは最高記録が15くらい。


 まぐれで勝ったことはある?

 すっぽ抜けた剣がたまたま急所に刺さったり、へっぴり腰で倒れた私が握ってた剣先にのしかかってきたモンスターが刺さったり、或いはぐるぐるぱんちみたいに錯乱して剣を振り回してる時に気付いたら殺してたり。

 そんな時決まって私を支配する感情は『不愉快』だ。

 経験に飢えている私にとって、何の糧にも証明にもならない勝利なんざ要らない。

 完璧主義と言えば語弊がある。戦闘内容なんざどれだけクソでも許容出来るけど、偶然による勝利が我慢ならないってのが正しかった。

 周りの初心者に全然進んでねぇじゃん笑とバカにされたので、キレて対戦を申し込んだりもした。負けた。クソがクソがクソがクソが。

 偶然を嫌い、言い訳の効かない正当な殺し合いの結果だけを納得出来るモノとして刻む。そんなクソ難儀な性格だと判明した私は、精神鑑定で異常と見なされ入院期間が更に伸びたりもしながら、長い時間を掛けて漸くモンスターに戦えるまで成長した。

 ちゃんと偶然に任せず戦闘が出来るまで経験を積むため、偶然のせいで上がってきたレベルを適正値に戻すため、幾度と無くデータのリセットを繰り返した私は他の人より三ヶ月遅れでゲーマーとしてのスタートラインに立った。

 スライムを軽々と屠り、ゴブリンの流麗な剣技を受け流し、ウルフの攻撃を華麗に躱す。

 経験と実力を付けて、漸く私は次のエリアに進んでみた。晴れ晴れとした達成感の中歩いて、歩いて。



 数分もしない内に新モンスターに殺されるような人間が、私だ。



 幸いにも基礎は作れていたので、そのマップに対応するのは大体二週間で済んだ。

 流麗だと思っていたゴブリンの剣技が粗雑極まりないと知った私は、数十分は項垂れていた。


 次のエリアに進んだ。死んだ。適応は一週間で済んだ。

 ウルフの攻撃が予備動作ゴリゴリのクソ躱しやすいものだと知った私は、その場で反復横跳びの練習をし始めた。


 次のエリアに進んだ。前よりは死ななかったけど死んだ。はいはいいつもの。覚えるまでは四日くらい。

 ここら辺から私は引き際を覚えた。街に戻されるのがだるいので。


 次のエリアに進んだ。前より死んだ。中盤マップとかなんとかでモンスターの強さが激的に上がってた。確か二週間以上は沼ったと思う。


 経験を得る効率というものが、私は根本的に終わっているらしい。

 戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで、戦って、死んで………………


 初めての経験だった。経験を自発的に得るという行為そのものが。

 初めての感覚だった。例え牛歩でも出来ることが確実に増えていくことが。

 或いはこれが勉強をする感覚とでも言うのだろうか?

 人間としての経験を積み重ね始めた私は、最初のエリアで足し算を学び、次のエリアで掛け算を叩き付けられる。言ってしまえばそんなレベルの課題が永遠にループするのが、私がやっている仮想現実での冒険だ。

 そうこうしている内に、新しい問題に混ざって応用問題が出始めた。そのゲームで言う上位種というやつで、似た外見ながら圧倒的なステータスを持つモンスター達。

 ゴブリンキングやガルムに代表される高位モンスター達を前に、当然ながら私は死んだ。

 適応にかかった時間は、一日。

 加速しただけの同じモーションを全て初見で回避出来たのは、ちゃんと適切に経験を積んでいたからだろう。

 身体が覚えている。そのレベルまで覚えたのだから、別に不思議には思わなかった。

 VRの動きに最適化していった私の経験と反射は、やっと現実の経験を代入してすいすい進んで行った他プレイヤーに追い付く。


 少し自信を付けて次のエリアに進んだ。滅茶苦茶死んだ。

 どうやらこれから先の高知能なモンスター相手には、勝負の駆け引きとやらが必要なようだ。

 全てのモーションを身体に叩き込んで反射だけで戦えば、別に攻略自体は出来るのは分かっていた。

 突破には一ヶ月かかった(当然ながら糧にした)


 万象一切合切は時間が解決する、幼心に私はそう理解した。


 気付けばVRを初めてから随分と時間が経っていて、不愉快にもポストに届けられたプリントには楽しそうな修学旅行の写真があった。

 貰ったそれをゴミ箱に捨てた私は、仮想現実で修学旅行よりも濃い冒険を毎日のように繰り広げる。

 羨ましくないと言えば嘘だった。だからこそ捨てたんだけど。

 卒業式にも出なかった私は、引き篭りのまま中学校に入学する。

 一応着用自由の標準服がある、私服登校可能な公立校だ。

 入学式には出た。日光と目線が凄く痛い。あっちじゃ誰にも何も言われなかったのに、現実で白髪赤目ってのはやっぱり目立つ。

 フードで隠してても髪は見えるし、結ぶと蒸れてクソ暑いし。

 やっぱ中学も不登校決め込むかなぁと思ってた矢先、なんということでしょう! 技術の進歩で先天性色素欠乏症の人向けに、紫外線をほぼ無効化出来る塗り薬の実用化に成功したとのニュースが!


 なので当然ながら学校に行かされることになった。クソが。


 授業に追い付けないのがストレスな私は、VRの経験の逆輸入……不快感をそのままにして許してしまうことへの抵抗感で、二週間で小学校分の授業範囲を終わらせた。

 VRゲームをやってて気付いたが、基礎さえ出来てりゃ私はこと応用問題に凄まじく強いらしい。

 記憶にある体験と似た問題に出会う度に、記憶した時と全く同じ感覚が蘇る私は、社会科や漢字みたいな記憶テストとかなら(感覚)だけで全問正解出来た(因みに算数はダメだ、計算せずに答えが出るから途中式書かずに減点される、死ねクソ教師)

 妹に話したら「共感覚の一種じゃないそれ?」と言われて合点がいく。


「……コレ、上手く使えないかなぁ」


 wiki曰く、共感覚ってのはある情報 (文字、音、月日の概念など) を頭の中で処理しているときに、その情報が一般的な形(例えば文字が文字として認識される) 以外に、それとは無関係だろう種類の感覚や認知処理(音に対して色のイメージを持つような)まで引き起こす現象のことを差すらしい。

 私で当て嵌めるなら、『視認した現象(一般的な形の情報)』に対して言語化出来ない『感覚(無関係の認知処理)』を覚える共感覚かなぁ。

『過去に学習した最適解』も『感覚』と紐漬けて記憶してるから、似た問題に対して『同じ感覚』を覚えて解ける感じかな?

 視覚情報に対する感覚想起は、現実でも結構起きた。それが転じて、不快感等の感覚に我慢がならないのは人一倍感覚に敏感に生きてきたからかもしれない。


 数日間検証した結果として、私の共感覚は完全感覚没入型VRにも作用することが分かった。

 どこにだったと思う? VRギアから送られてくる電気信号にだ。

 感覚刺激によって共感覚を引き起こすというプロセス上、脳に直接電気信号ぶち込んでくるVRでも発動するのは当然っちゃ当然である。


 現実では不可能なことであろうと、思考通り忠実にアバターが動いてしまう仮想現実において、私の共感覚によって想起されるイメージは一種の命令としてゲーム側に処理される。

 視覚情報に対してのみ働いていた私の共感覚は、脳に直接繋がれた電気信号……つまるところ仮想現実におけるアバターの全操作及び五感のフィードバックに対しても働いた。

 思考だけで身体(アバター)が動く世界において、想起される感覚(イメージ)というのは命令とさほど違わない。

 何万回と死んで、成功体験を感覚と共に記憶してきた私は……結果、感覚に紐付けられた『過去に学習した最適解』が、私のアバターを動かすに至る。


 電気信号そのものに共感覚を発揮する私の脳は、類似刺激(記憶に有る似た体験)へ無意識に『感覚』を想起する。

 そう、無意識に。

 考え無くとも見て、聞いて、嗅いで、触れて、味わう状況(・・)に対して私は、無意識で似た状況でした成功体験を出力出来た。


 これは才能だろうか? ……断じて否だ(・・・・・)

 常人のあるべき能力が足りていないのをこれ(・・)で補わなきゃいけない時点で、他人の劣化にも程がある。

 初見じゃあ私は何も出来ない。

 基礎を叩き込むのにも、成功体験を得るのにも、私は人の何倍もの時間を必要とした。

 その上で手に入るのは過去に出来たことを間違えない保証。元より器用な方が何十倍も何百倍も応用が効くわ。

 共感覚なんざ無くても覚えの早い他の人間は、さっさと学習して復習して何かに詰まることも無く、私より先に行けてしまう。

 ゴブリンキングやガルムを初見で倒せないプレイヤーなんて数少ない。ゴブリンやウルフをちゃんと学習もせずに突破したプレイヤーでさえ、豊富で早熟な経験の引き出しから適当に処理してしまう。


 ──きっと私に、才能なんて無いのだろう。


 虚ろな目で天井を見ながら辿り着いた残酷(答え)

 萎えるとまでは行かなくても、流石に一つや二つ思うことはある。

 私は異端であるのだろう。ともすれば異常でもあって、どうしようもなく不良品だ。

 欠陥品である事実を抱き締めて、普通から逸脱していた雨宮霖はやがてこう嘯いた。

 私は特別な人間である、と。

 普通とはかけ離れた人生から、色んな特別を全て好意的に捉えて考える。

 先天性色素欠乏症も、共感覚も、運動音痴も、欠けた才能も、キャラ性を立たせる不器用さも……『霖』という極めて珍しい名前さえも、全ては私という主人公を形作るために必要な特別要素だと嘯いて。


 そう思い込んでしまえばこんなクソみたいな世界でも、ほんの少しだけ愛せるようになった。


 学校に行く日が増えた。

 テストで100点を取ってみた。

 学校行事のある日に休まなかった。

 多少はクラスメイトと話すようになった。

 少しづつ、少しづつ。VRゲームで不足していた人生経験を紛いなりにも得た私は、少しだけ現実が息苦しくなくなっていった。

 初めて運動会を観戦して、文化祭当日に体調を崩して、体力を鑑みられ学外行事にはまだ出れない。

 中二の二学期に入ってから暫く。よく聞くようになるのは、いつだったかムカついて写真をゴミ箱に捨てた、修学旅行についての話だった。

 二年で行く学校もあるらしいが、ウチの中学が修学旅行に行くのは三年生の初夏だ。

 早い話ではあるが、それまでには体力を付けとこうかなぁと思い立ち軽い運動を始めた11月、私は第二仮説に遭遇する。


 改めて理解した、私VRの才能無いわって。


 ただ(・・)それでも(・・・・)

 私は理不尽なんかに負けない、かっこいい存在でいたい。

 私は主人公であるんだと駄々を捏ねた。そんな思い込みを守るために、例え地獄を味わおうとも私は足掻いた。

 子供の小さな妄想を守るために、本当に小さな小さな幸福を守るためだけに、私は等価足りえない余りに膨大な苦痛を支払った。


 泣きそうになりながら抗ったのは、私に才能が無いという事実にでは無い。

 きっと、才能だけで勝負が決まるという現実を認めたくなかったからだ。

 勝ち方なんて幾らでも選べる中で小細工無しの真っ向勝負に拘ったのは、運や相性という名の言い訳されてしまうまぐれ(・・・)を嫌ったからだ。

 嫌だ。

 世界中の誰よりも苦痛を積み重ねて、世界中の誰よりも努力した確信がある人間でも、結局は生まれつきの才能には勝てないなんて結果が出るような世界なんて。

 嫌だ。

 絶対に勝てないと思い込んで、辛いからと努力を辞めて、情けなくも外野から才能を言い訳にして叩くだけの、挑戦すらしようとせずに世界をクソだと断じて諦める大多数の人間と同じカテゴリに居ることが。

 だって悔しいじゃないか。

 生まれた時から勝てない人間が居る世界なんて。

 ……だから、私は主人公になれると思って、足掻いた。

 否定したかった。

 仮説の存在をじゃない、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまらない現実を。


 100回やって1回取れる勝利なんていらない、100回やっても相手に勝てないと思わせる絶対的な勝利だけが欲しい。


 やがて本当に死にかけてまで超えた理不尽は……凡人だろうと才能は超えられるという現実は……ああ、なんと清々しかったことか。


 ──それから黒に出会って、進級して、ついに一週間後には修学旅行だ。

 今目の前に聳え立つ次の絶望の名は第四仮説、私とは対極にあるVR空間の天才の極限。

 最高の気分で初めての旅行に行くために、私が世界を好きでいるために、超えなくてはならない次の理不尽。


 ただ天文学的なツモで常人の何倍もの速度で動くことが出来る人間に比べれば、共感覚を持つだけの不器用な(才能)なんざ塵芥もいいとこだろう。


「……ま、だから何って話だけど」


 それは諦める理由にならない。

 現実が非情だろうと、足を止めていい理由にはなり得ない。

 感覚に従って生きてきた私にとって、この不快感は絶対に捨てちゃ駄目なものだ。かっこよく生きられないなら死んだ方がマシだ。

 理不尽を実力で否定するってのは、決まってかっこいい存在だろ?


「我ながら呆れる程のロマンチストだ」


 努力が必ずしも報われるとは思わない。そんな無責任なことが言えるのは成功した人間だけだ。

 他人がする必要の無い努力を重ねて漸く人間のスタートラインに立てる私は、でも、だからこそ、報われる世界であって欲しいとは思ってる。

 足りたのか? 足りてる筈だ。

 足りると思えるだけの地獄と絶望を味わってきた私は、それを対価に報い(実力)を貰う。


 仮説すら塗り潰せる程の、死体の上に出来た現実を。


「ざまぁみろ」


 銀雪の舞うバトルフィールドに一人立つ。

 目の前に表示されているボスのタイムアタックの記録は、レベルによるボーナス倍率で減算された末のスコアだ。


 大差(・・)


 三位をぶっちぎっていた二位に更なる大差を着けた、一位に表示されている名前は──


「──かっこいいでしょ、私の名前」


『霖』という自分の名前が、私はこの上無く好きだ。

サイコちゃん豆知識②


ジャンプ漫画で一番好きなキャラは球磨川禊


二サイ本編のイカれ具合を改めて見返すと面白いかもよ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 情報処理の速さと、記憶にない触手を使いこなせる理由が分かるの良い。 [一言] でもサイコちゃんは名前変えちゃうんだよね
[一言] 成功体験なんてほぼない自分としてはやれば成長できるサイコちゃんは凄いのではと思うけどそんな事言うとぶん殴られそうだ
[良い点] 何話か前から『モブキャラの皆さんこんにちは』とかめっちゃ思い出してました。 彼の魅力は多々ありますが、個人的には神経衰弱とか好きです。 [一言] 努力の天才だ! とか言われたら死人が出そう…
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