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VR日刊最高4位、週間で10位に入りました!大体PVが一週間前の10倍くらいになってます!ありがとうございます!(戦々恐々)
思えば私は人生において遠出したことが一度もない。
先天性色素欠乏症……俗に言うアルビノに加え、若干の共感覚を持つらしい私は、日常生活をする上でこのズレが偶に致命的な作用をする。
保育園の出席率は50%くらいだった。
特筆して病弱という訳では無かったけど、夏場とかの日光が強い日は紫外線が物理的に痛いので行きたくないし、免疫不全のせいで体調が崩れた場合の快復が遅かったり、年長辺りからはお絵描きの時間に出来た軽いトラウマ──今は屁でもないが──で精神的に行きたくなくなったりで、私は人より保育園を休みがちだった。
幼年期における同年代の他者とのコミュニケーション不足は、グループ形成からハブられるといった物理的な不利益に加え、人格形成や情緒の育成に悪影響を及ぼすらしく、考えてみれば私の性格がよりひん曲がり始めたのはこの頃からだ。
発育に関しては人より小柄、とりわけ筋肉は無く非力で、足も遅く運動神経はゴミだった。
ただ、かといって別に外遊びが嫌いというわけではなくて、人並みには誰かと一緒に遊びたいと思う心はあったのだが、ここで問題となってくるのは紫外線。
アルビノってのはこういうところが実に不便で、可能な限り陽の光を浴びないよう生活しろと言われている私に、外遊びに参加する権利等はなからない。マジで天気が終わってる日ってのは雨や雪の日を差すのであって、それらは断じて外遊び日和になるこたないのだ。
遠足? バスを使った行事の遠出? 体力も鑑みられて全部不参加だよ。雨降って保育園側の予定日がズレた時は内心ほくそ笑んでるような幼児が私だ。終わってんだよな、この時点で。性格。
小学校の出席率は諸々あって40%くらいだった。
六年過ごしといて人と関わった記憶が殆ど無い程度には、私はぼっちだったんだと思う。
特別クラスにぶち込まれることも無く、普通にクラス分けされて、普通に授業をされて、まぁ当然ながら普通に置いてかれかけた。
保育園と小学校の一番の違いは、私は勉強強度の有無だと思うんだ。
果たしてjsの性格がひん曲がってる雨宮霖ちゃんは、学校を休みがちだからと言って授業に追いつくために予習復習をちゃんと家でしたのでしょうか?
否に決まってね?
学校に好んで行く輩というのは断言するが、勉強では無く友達と遊ぶために行ってるのだ。
畢竟、友達のいない人間にとって学校なんざつまらない監獄ですらあり、なんなら私は勉強を好きな人間なんてのは異星人だとすら思っている。
先生達はあの手この手で生徒に楽しく勉強してもらうよう努力をするが、情緒が育つにつれあまり学校に来ない白髪赤目の超絶美少女に気軽に接してくれる聖人は減っていき、孤立した私を見兼ねて無理矢理に話しかけてくる大人に、大人に反抗したい時期真っ盛りの子供が懐く筈もなく。
そもそも遊んでたい年頃の子にとって勉強はマイナスイメージから始まるってのに、大人とも同年代の子とも上手くやれない私が、なんとか学校に行って嫌々やらされるのは疎外感を感じてやまない授業と来た。
まあ、勉強なんざ嫌いになって当然よな。
休んでも宿題は出されるし、かといって休んでる間に進んでる授業に追いつくために家で自学しとけって言われて、素直に従う子供なんていると思うのか?
苦痛、苦痛、苦痛に次ぐ苦痛。
環境が合ってないと切り捨てればそれまでだけど、異物なのは自分だってあの頃普通に分かってたのがダメだった。何故なら逃げ道がねぇ。環境が悪いっつって他人に責任転嫁すんのはダサいと思うような性格の私は、果たして中学年辺りから不登校児になりましたよ、ええ。今の私が過去を振り返って言えるのは「寧ろよく中学年まで耐えたなお前?」だ。
唯一嫌いじゃなかったのは図画工作のコマ。
真っ白な手で緑色の粘土を捏ねたり、絵の具とパレットで絵を描いたり、モールを束ねて作品を創ったりと、目の前或いは頭の中にある見本通りにクオリティをただ無心で追求する行為は、情緒が育ってきて尚好きなのは変わらなかった。
成績表という数字に表される優劣で、他人を遥かに上回っている私の才能が証明されるのは凄く気持ち良くって、賞すら軽々と取れる私に水を差したのは、お前らに聞いちゃいない他人からの感想だ。
アドバイスみたいに上から目線で貰った大人からのそれだけが、私の作品を濁らせる。
やれ色が幻想的だの現実的過ぎてつまらないだの、好きで描いてんのにいらないもんばっかで私の快楽を邪魔してきやがって。
腹立って一時期言われた通りに描いてみた。賞を簡単に幾つも取った。全校集会でも晒された。いつもより綺麗だね! 凄いね! って褒められた。クソが。
描きたい絵から褒められる絵にシフトして暫く経ってから久々に体調がぶっ壊れた。三週間ぶりだなーとぽわぽわした感想で検査を受けた結果、初めて私はストレスで体調を崩したらしい。最初はアホみたいに笑ったけど、虚無顔になる頃には有り体に言うなら私は萎えた。
図画工作はお昼寝タイムとして活用することに決め、誰かが零した絵の具のカオス極まる水容れを思っクソ被ったのはその次の週だったかな。
そんなこんなで私は不登校になった。
学校行事? 行くとでも? 運動会も合唱祭も遠足も林間学校もその他諸々のイベントは既に全て欠席していた。
今更これからの授業を全欠席したところで誤差だと自分に言い聞かせ、結果的に小六の修学旅行でさえ私は欠席する。
成績表と睡眠時間をトレードした結果辿り着いた真理、やっぱ色はクソだよクソ。
不登校を極め始めてから趣味で描いてた絵はモノクロばっかだ。
鮮やかな色彩に拒否反応が出るという人間として実に終わってる感性を生やした私は、白と黒だけで作品を作ろうと躍起になって……せめて引き篭るならもっと有意義に遊べと見兼ねた保護者が私に買い与えたのはゲームと漫画。
まぁ、ハマったけど。面白ぇのがこっから更に私が変な方向に捻れることだ。
綺麗な絵だなーと画集自体はお小遣いで買っていたので、当初は漫画すら絵の参考にするかーって気で読んでいたのだが、週間や月刊で連載し、面白さを追求して描かれたそれらは、絵の材料としては不足もいいとこだった。
畢竟、ただ娯楽として消化するしかないと理解してから次に踏んだ地雷は単行本のカラー電子書籍。
色!? 邪魔! と叫んでいたのが懐かしい。アレを踏まなければ私は一生『微妙に思える画力の作品』を手に取らなかったから世界が広がるキッカケにはなったんだけど、弊害として私は他者の作品に内容とストーリーしか求めなくなった。
ああ、実に弊害だぞこれは。なんせ最新の大作だろうとビジュも作画もまるで考慮せずただ内容だけを厳しく見て採点するんだから、世間で人気な大抵の作品評価がクソまで落ちるのだ。
例なら少年ジャンプが分かりやすい。読んだ上で言うがあの雑誌の作品は軒並み嫌いだ。世間で人気だとプッシュされる漫画界の上澄みでさえ、私の捻れた価値観においては凡百の駄作と変わらない。
はてさて、この価値観はゲームにおいても変わりない。
高クオリティのムービーで内容量を誤魔化してる人気シリーズの続編とか軒並み手を出せないし、アクションも下手だから態々買う気も無い。かといってシナリオゲーもいざ手を出してみたら九割九分が変哲も無い凡作で、そもそも前提として漫画より高いんだよ……!
結果として、私は飽きた。
頑張ってもいいものに出会えないってのに、態々リソースを費やしてまで幾多のゴミに出会いながら砂金を集める作業はなんたる虚無か。
腹立って丸一日掛けて感情全部叩き付けたデカい絵を描いたところ、後日これが県のなんかのコンテストで大賞を取ったらしい。
私もう人間ちゃんのことが分かんないよ……こんなしょうもない駄作が大賞取るって、一生価値観が理解出来そうにないや。
荒れてた私に保護者が次に与えたのは最新の完全感覚没入型VRマシンだった。歓喜より先に困惑が来たわ、よりによってこんな駄目娘のためにどうやって手に入れたん???
取り敢えず仮想世界にログインしてみた結果、私を待っていたのは人生最大の衝撃だ。
叩き付けられた景色は視覚で処理せず脳に直接見せられてるが故に、アルビノの色覚異常を貫通して正常な色彩を遂に私に見せつけた。
日光に焼かれることも無く外の世界を自由に走り回ることが出来た。
現実のゴミみたいな体力はステータスが解決して、そうして私は普通を知った。
平等なる正常に塗り潰された私の五感は空を見て、漸く空の色を知る。
予感がした。
それはこれまで長いことずっと私に付き纏っていた……『退屈』が死んでくれる予感だ。
ヘッドギアには既に一本のソフトがインストールされている。
忘れもしない世界初の……始まりのVRMMORPG
予感を胸にアバターを作って、不登校児は未知の世界にやがて挑んで……
始めてみた結果、スライムに殺された。
リベンジした結果、スライムに殺された。
この瞬間理解した、私VRの才能無いわって。
私は卑しい無名作家なので乞食しますが、なんか今凄く伸びてるから良ければブクマや評価等で応援して頂けると嬉しいです……