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前回登場から気付いたら七ヶ月半経過してたので読者の需要を考えた結果(媚びを売るとも言う)、一足早い唐突なクリスマスイブ特別編です。え?クリスマス会?クリスマスに書くんじゃね?
糖度過多注意(訳:氏ね)
「サンタって信じてる?」
「……せーちゃん? この場合質問として正しい言い方は『サンタさんって今年も来るかな?』だよ?」
12月24日、クリスマスイブ。
世間は恋人だの告白だの冬休みなんだのと騒がしく、期間限定商品やイベントで目白押しなその一日に、態々こんなバトロワゲーにログインするプレイヤーは稀である。
不愉快にも雪がしんしんと降り頻る窓の外は、振り積もった純白が銀世界を生んでおり、見える範囲にプレイヤーは一人たりとも居なかった。
そもそも論、イブの夜にリアルよりゲームを取ってイベントのためにログインするようなプレイヤーは、居るにしても狩場か試合会場以外に無く、超有名タイトルとは言えないデイブレで態々自室でまったりしてる奴なんざ、相当な希少種に他ならない。
まあ、希少種は言い換えてしまえば特別とも言えるのだが。
人のいない街に果たして絶対に存在する会話相手は、私の問いにジト目で咎めるような口調で返す。
その様はまるで出来の悪い娘を軽く叱るような雰囲気で、ギルドの自室にて抱き竦めている湯たんぽちゃんは、目線だけで「はい、言い直してどうぞ」と言外に伝えてきた。
めんどくささに拍車かかったよなぁお前……一体誰に似たんだか?
「……サンタさんって今年も来るかな?」
「実態はモンスターじゃんそれ、来るってか私達の場合倒しに行くが正しいでしょ」
「態々言い直させた意味ある?」
「妹達の教育に悪い。信じてたらどう責任取るの?」
「母性目覚めちゃったかー。私には?」
「ダメ娘がいいとこ」
「姉妹ですらない!?」
くすくすと笑う少女は、思えば最初に出会ってから随分と大きくなった。
身長的な話でもあり、胸部装甲の話でもあり、そして人格面の話でもある。
腕にすっぽり収まっていた体格は、気付けば顎を頭に乗せれるまで成長していて、増した生意気度は余裕が生まれたから来るものなのだろう。
万年反抗期みたいな子が真っ当にひねくれて成長したのは私の影響なのかしら? でもこの子、アマラや***にはクッソお姉ちゃんしてるんだよなぁ……あれ? 生意気な態度取るのって私にだけ?
「そもコヒメちゃんならどうせ信じてないって言うの分かってるから聞いてんだけどなー」
「知ってるよ? 私と居る時だけだもんねーせーちゃんがノンデリ発言するの。受け止めて流して雑に返せるの私くらいだもんねー?」
「うわウッザ。つかヒメちゃんだけじゃなくて姫雨や白にも同じt「私と二人きりの時に他の女の子の名前出さないで?」
「面倒臭い彼女かよ」
「気分を害しました! スイーツで機嫌を取られてあげます!」
「面倒臭い彼女かよ」
「ごめんウザかったよね、流石のせーちゃんでもムカつくよね、ごめん死ぬね……」
「だから面倒臭い彼女かよ!」
頭引っ掴んでこっち向けさせればなんと、舌を出しながらおちゃらけた顔で『んべっ』とするコヒメちゃんが現れた! うわうっぜぇ。
反射的に人差し指で両頬をぶっ刺してぐりぐりすると「あうあうあう」ときゃっきゃしながら笑ってくるし、最近この子本当に私をおちょくるのが上手くなったなぁオイ!
「あっ! 見て見てせーちゃん! 外凄い綺麗!」
「露骨に話題逸らしてくるじゃん」
「イルミネーションとか超綺麗だよね〜、一回見に行ってみたいなぁ〜」
「アマラでも連れて行ってきたら?」
「…………誘ってるんだよ?」
「お前最近本当に面倒臭い彼女ムーブ好きだな!」
きゅるん……♡ とした目で見てくんじゃねぇ、あざとさを少しは隠す努力をしろよ! あと導入が雑! 数打ちゃ当たるってもんでもねぇし、連発する程段々威力落ちてくるからなそれ?
……いやなんの威力だよ!?
「だってせーちゃんのこと愛してるんだもん、愛だよ愛。愛情表現をストレートにしてるだけじゃん」
「何重にもひねくれた魔球ですけどそれ? お前ただ私に嫌がらせしたいだけだろ」
「………………そんなに否定しなくたっていいじゃん」
ぺらっぺらの告白を切って捨てれば、いじけたように顔を逸らして呟くように話すコヒメちゃん。
え? このコントまだ続ける気?
「実は照れ隠しでこういう伝え方しか出来なくて、不器用にも頑張って好きを伝えてる……それだけかもしれないよ?」
「本当にそうだったらそんなこと言えてねぇわ!」
「チッ」
「態と聞こえるように舌打ちするとか面倒臭い彼女ムーブ極まってんな」
「だってこれ一番せーちゃんうざがりそうだし」
「よく分かってるじゃないか、おしおきだ」
「きゃー♪」
お前本当に楽しそうだなコノヤロウ!? なんか今日君テンション高くない!?
それなりの広さの室内をちょこまかと逃げ回るコヒメちゃんと、そんなメスガキを捕まえようとする私。こんな夜更けに何やってんだと思わなくは無いが、存外にドタバタと部屋を駆け回るのは新鮮な感覚で……悪くない。
目に入るのは二人で悩んで決めた部屋の家具と、みんなで飾り付けをしたクリスマスパーティの装飾だ。
テーブルにまだ残っている食べ終わった食器、散らかったトランプ、イベントのMVP報酬のトロフィーに、隣室から聴こえてくる小さな寝息。
全部が全部、今の私を形作っている、小さくとも大事なモノ。その最たる筆頭はやがて窓を開け放ち、すんでのところで捕まえた少女の細い手首は、想像以上の力でもって私を連れて寒空へと飛び立った。
ばさっ! という翼の羽ばたく音。
彼女の特徴であるどんな時でも高い体温は降る雪を溶かし、銀世界を黒翼でもって空に舞う。
いつしか握られていた私の手のひら。
無意識で握り返せば悪戯げに少女は笑い、いつも私が抱き抱えるのを真似するように、気付けばコヒメちゃんに後ろから抱き抱えられている。なんでぇ……?
冬の夜だというのに、全くもって寒くは無い。強いて言うなら背中にあたる柔らかい感触だけは不愉快だが、高い体温に包まれて私は雪降る冬空の下を飛んでいた。
「まるで囚われのお姫様を王子様が無理矢理連れていくシーンみたいじゃなかった?」
「おかしいな? 逃げたのはヒメちゃんで捕まえたのは私の筈だが?」
「最初に誘いを断ったせーちゃんに反論は許されてません」
「再審を要求します」
「おさんぽしよ」
「いいよ」
いうてここ空ですけど。
返答がお気に召した少女は羽を広げて人気の無い街の上空を、私を掴んでゆっくりと飛行する。
どこまでも冷たく、そしてそれ故に澄んでいる空気を吸い込んで、相反して暖かい背中で感じる体温が、それを白い吐息へと換えていく。
目線は下の銀世界から自然と離れ、右肩にちっさな頭の重さを感じながらふと上を見上げていた。
気温によって若干青みがかっている空はくっきりと星を映し出して、雲の合間に座す欠けた月はいつ見た時よりも大きくて、綺麗だ。
喧騒から遠く、冷たくも静かな私達だけの世界で、雪に降られながら二人だけの散歩をした。
「……上機嫌だね」
「せーちゃんは?」
「ちょっと楽しい」
ゆったりとした遊覧飛行。
切る風は気持ちよく、鼻歌を歌いながら私を連れていく少女に、目的地は存在しなかったみたい。
やがて空中に静止したコヒメちゃんは、私が目的だったんだぞと言わんばかりに、飛んでた時よりもちょっとだけ強く抱き着いてきた。
寒さから自然とお互いに頭を寄せ合って、視界には二つの白い息が混ざってより大きくなる光景が何度も映る。
サラサラの髪が頬に触れ合って、呼吸音が意識しなくても聞こえる距離で。
退屈でも気まずくも無い暫しの無言の間を置いて、空を見ながらコヒメちゃんは話し出した。
「きっと、」
「ん?」
「せーちゃんは明日、色々と忙しいんでしょ?」
絶対に来て! とコヒメにワガママを言われて、今の今まで付き合わされていた私は、呼ばれるにしてもなんで明日じゃなくイブなのかは気になってはいた。
その疑問に答えるように彼女が語った、今日の約束の理由は……
「──メリークリスマス」
ゴーン……ゴーン……と、見下ろす景色の中から鐘が鳴る。
日付の変更を告げる音の到来を遠くに聞いて、ゆっくりとコヒメが耳元でそう囁いた。
暖かな息にこそばゆくなりながら目線だけで振り向くと、少女はほがらかに笑っている。
「印象に残ることとか、豪華で賑やかなパーティだとか、大事な体験はきっとあって、それらより優先して会いに来てもらう程、私は私に自信が無いの。……だからせめて、特別なことでも何でもなくても、今年一番早くあなたと一緒にクリスマスをお祝いしたのくらいは、私であって欲しかったんだ」
「……ちょっと重いかな?」なんて恥ずかしがりながら付け足す私の相棒は、まあ実際にかなり重いわけなんだけど、それを差っ引いても並の人間なら堕ちてるんじゃないかってくらい破壊力のあることを平気で言ってきやがった。
こいつ自分の言ってることの意味ちゃんと理解してんのか? このためだけにイブの日だけは来いって約束した健気さとか、男に言ったら勘違い不可避だぞ今の発言は!?
「……ヒメちゃんには悪女の才能があるから、私以外にそんなこと言っちゃだめだよ?」
「嫉妬? 独占欲?」
「親心だよばーか」
そんな女々しい感情に振り回されるださい人間であってたまるかよ。
はぁと溜息を一つ着けば、何が気に入らないのか人差し指でほっぺをつっつかれた。
なんだよ、まだ構い足りないの? ……いや違う、そうだ、そういや返答がまだだった。
「コヒメちゃん」
「何?」
「メリークリスマス」
……感慨も無く言った言葉はそう言えば、去年も一昨年も言う相手なんていなかったや。
変わるもんなんだなぁ、人って。それを聖夜に気付くってのも変な話だが。
「今日は何時に来るの?」
「夜」
「じゃ、それまでにパーティの準備しておくね」
「私からしたら二次会もいいとこなんだけどね」
「私の知ったことじゃなくない?」
「暴君め」
「歪めたのはせーちゃんだよ?」
「それはそう」
年に一度のクリスマスイブだろうと、いつも通りゲームをする。
毎年恒例の日常風景に一つ違うことがあるとするならば、初めて誰かと一緒にクリスマスを迎えたことだろうか。
思い返せば寝てたり戦ってたり血反吐吐いたりしかしてないこのイベントで、初めて平穏に過ごしてみたわけだけど……
(……ま、たまには悪くないか)
──コヒメの自然な笑みを横目に見て、私はそう結論付けた。
ブクマや評価を求めてもそもそもここまで読み進めた読者は大抵してくれてるので、別に求めてもあんま効果無いんだよなぁとか思う今日この頃……えっ!?日刊VR7位!?ナンデ!?アリガトウ!