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ちょい重め
まあこの小説じゃ今更か!
「………………冷た」
何か悪いことをしたのかな? 気に触ることを言ったのかな?
ぐるぐる回る頭がずっと考えてるのは昨日の出来事。ピンチの自分を助けてくれて、初めての友達になってくれた人が、急に私を殺そうとしきてきたこと。
世界に裏切られたような絶望の中で無我夢中に戦って。どこか危なげだけど優しかった霖さんは、私を助けたのは全部私を殺すためだと言っていた。
戦いが終わった後、本当に訳が分からなくてログアウトした私は、ショックを受け入れられずにご飯も食べずにベットで寝て……一夜経っても何も分からない頭のまま、泣き腫らした顔を洗面台で洗っている。
「……どうすればよかったんだろう」
答えなんて出ないと気付いているのに止まらない思考。後悔と困惑と喪失感がぐちゃぐちゃに絡み合った状態で私は……生きている。
どうしようもなく怖かった。
それが自分に関してなのか、他人に対してなのか、心に対してなのかは分からないけれど、孤独と焦燥感が肌に突き刺さって抜けない私は、誰かに吐き出すことも出来ない。
「………………」
視線が無意識にママを探していたの気付いて、反射的に冷水を頭に叩き付ける。
ママは既に駄目な娘を置いて仕事に出掛けてるし、そうでなくてもこんなこと話したら心配させるだけだ。
タオルで乱雑に顔を拭いて薄目に見た時計は9時12分、学校は一時限目が始まったくらいだろうか。長らく引き込もってるから時間割すら自信が無い。
視界の端に見える書き置きにはきっと私のご飯について書かれてあったのだろう、飲み物を取るために開けた冷蔵庫には、ラップのされた野菜炒めが増えていた。
これが私の日常だ。
惨めで情けなくて友達もいない、ふとした時に自己嫌悪で泣きたくなるいつもの光景。
暗い憂鬱に溺れながらただ生きているだけの生命で、変わり映えの無い毎日を消化している。
変化の切っ掛けを、底から救い出してくれる光をただ夢見ているだけの──駄目人間が私だった。
「…………夢、叶ったのかもって期待したんだけどなぁ」
あんな目に遭っておいて彼女にまだ執着する理由はきっと、暗闇で見た星に目を焼かれたからだ。
それがドロドロとしている黒い凶星だったとしても、底で手にしかけたそれは余りにも眩しくて。
辛くても、悲しくても、限界でも。
「ログイン」
初めてのフレンドに変化を求めるしかない私は、逃げるようにゲームを起動していた。
******
「……イベント?」
いつもより人が多い街から離れ、いつもの森でモンスターを殺す。
常に雨が降りジメジメしているこの場所は、雰囲気が心地良くて落ち着ける。座って確認した通知メールの内容は、運営さんからのイベント告知と案内だった。
"霖さんのじゃないのか"とか、"もし霖さんからだったらどうしよう"とか、十分くらい右往左往した時間は何だったんだろう。結果として情緒と心拍数は落ち着いてはいるんだけど……
「ランキングありの、ボスの討伐タイム競走……? レベル帯で得点にボーナス……私には関係無いか」
会って何がしたいのか分からないまま勢いだけでこの世界に来たけど、問題の霖さんは居なかった。
目的が早々に無くなって現実逃避をするしか無い私にとって、こんな短な文章だろうとしっかり全文字読み込むくらいには手持ち無沙汰だ。
何かを考えても気分が沈むだけだし、家にいたら余計いたたまれなくなる以上、ゲームで体を動かしてる方が気が紛れて。
「あーいたいたいた! 漸く見つけたよ話題の子!」
──だからだろう、この誘いに乗ってしまったのは。
寝起きとメンタルダメージから来た判断力の低下に、目的が無くなった直後の虚無期間が合わさって。
「ねえ君! ちょっと取材に協力してくれないかな?」
人が良さそうで、分かりやすくイケメンな外見の声の主は、私とそうレベルが変わらなそうな装備をしていた。
話しかけられている。
機能しない頭で返したのは「あ、えっと、誰ですか……?」という、コミュ障特有のつっかえた言葉で。
『ま、この時間にログインしてる若そうな子にコミュ力あると思っちゃダメよ、特に話しかけてくるタイプの奴は大体距離感がおかしい』
『平日昼間に見る若い子って要は学校サボってゲームしてる社会不適合者が大半なんだから、そんな奴がまともな人格してるわきゃないでしょ』
ふと霖さんとした会話が脳裏に過ぎる。
信じられない人から聞いた言葉に、信ぴょう性はあるんだろうか?
爽やかな雰囲気の、大人びた青年。
歳の推測出来ない、恐らく大学生くらいの人は、笑顔で私にこう言った。
「俺? 俺は羽蛾dis流……しがないY○uTuberさ!」
──そうして最悪は加速する。
サイコちゃんマジで最低だな、こんな子にあんな可哀想なことしたなんて!
次回『炎上』