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連続更新二日目
また独自単語が増えたぁ!
「はぁー………………謝罪の一言くらいは……まあ入れるわけないよなぁ君が」
「よく分かってんじゃん私のこと」
「で、リベンジのために修行にこのゲームに来たと? 連絡するのはその後にして?」
「あまりにも勝ち目の無いカチコミ入れる程馬鹿じゃないしね」
「姫はそもそも馬鹿ではあるよ?」
「あ゛?゛」
白ちゃんとのやり取りの一部始終を聞いた俺は、流石に話の内容が酷過ぎて頭痛を覚えていた。
一応話の裏を取るためにWebサイトも検索したが、マジでやってんのかよこの女……事件が昨日にも関わらず既に結構拡散されてるし、その上で当人の片割れが求めてるのは対応の相談じゃなくて次は勝つための相談ってヤバいだろ。精神図太過ぎだろメンタルがオリハルコンか?
……てか、だとして、だ。
「なんで君の脳内はそっから拷問に繋がるの?」
「りっきーぶっ殺してから大分経って脳が再生しちゃってんのよ。だからいっぺんズタズタに引き裂いて死にかけたくてさぁ、痛覚150%でギリ死なない適量で軽めに五時間くらい拷問されたいのよ」
「どうしよう、R18Gのこのゲームで過去一番SAN値削れたのが友人との会話に更新されたんだけど」
「今私の超絶カワボをクトゥルフと同列扱いしなかったかお前?」
「ニアイコールでしょ「は?」てか霖ちゃん、また脳火事場やる気?」
「……まあ、やらなきゃ勝ち目無いからねぇー、アイツ」
心底嫌そうな顔で溜息を吐いた少女は、ジトっ……とした目でこちらを睨んでくる。
それなりの付き合いになる霖と俺はかなり特殊な関係だ。言外に俺を態々呼んだもう一つの理由を伝えてくる彼女に、視線で察して一人納得する。
「……君とも無関係じゃない筈だけど? プロゲーマーに内定してる仮説保持者さん?」
「……ネタが割れるかは保証しないよ、多分タイプがかなり違う」
VRゲームにおける技術の到達点──仮想世界仮説。
その第三番を持つ俺を今日呼んだのは、仮説保持者たる俺からの見解が聞きたかったからだろう。そもそも拷問の手伝いなら妹ちゃんにでも頼めばいい話だし、すんなり気分転換の誘いに乗ったのもこっちが本題だからだ。
「だとしてもお前からの意見が聞きたい。私より黒の方がVRについて詳しいでしょ。──ねぇ、あの化け物は一体何?」
「……化け物、ねぇ……」
かつて俺を下した少女にその単語を使わせるくらい、今回の相談は相当にヤバいらしい。
隣に腰掛ける彼女が見せてきたディスプレイに映るのは、当然のように転載されている白と霖の戦闘動画。
それを当人の解説を聞きながら一通り見終えた後、少し話すことをまとめてから俺は口を開いた。
******
「……姫ってVREEGAテスト受けたことある?」
「なんだっけそれ?」
「virtual reality electroencephalograph Appropriate……つまりVR空間に対する脳波適性の検査なんだけど」
「あー……名前は兎も角存在は知ってるかな、VRの才能を数値化したやつでしょ?」
「そうそうそう」
私から見た黒騎士は真面目な天才だ。
第三仮説に彼が辿り着いたのはベースとなる才能に加え、人一倍に最新技術たるVRシステムについて猛勉強したからに他ならない。
白ちゃんにボロ雑巾にされて以来、あの時一体何をされたのか考えちゃいるが……あの加速現象の術理について、私は全く持って見当がついてない。
果たして専門家に戦闘を見せて返ってきた返答は、前提知識と言わんばかりの才能についての話だった。
「平均値で言うと大体500、そこから反応速度に差が出てくるのが600前後で、明らかに反応速度がおかしい奴……世間一般で言われる天才共のラインが、VREEGAでいう700くらいなんだけど……そっから更に上に一個、VREEGAには明確な境界線がある」
「境界線って?」
「VRで反応速度に差が生まれるロジックは、脳波の姿形がVRゲームの電気信号に近ければ近いほど信号変換の所要時間が短縮されるからだけど、これが元の脳波が余りにも電気信号に近い場合……システムがノイズ混じりの信号と捉えて誤作動を起こす事例があった」
「……超技術で作られたVRシステムに、誤作動?」
黒はそこで一旦言葉を区切り、コーヒーを飲みながら何事かを検索し始める。
「数値に直すと863、これが誤作動を確認した……適性値によって世界が歪む境界線」
「私が聞いたことないのは……」
「ほぼいないからだね。世界人口の内VRゲームが普及している先進国かつ、今なお高額なVR筐体を買える家庭が調べられる母数だし」
「黒でどれくらい?」
「確か811。第三仮説の俺ですらこれだから、正直日本にはいないと思ってたんだけど……」
「…………なら、誤作動の具体的な内容は?」
聞くと同時に渡されたディスプレイに表示されたのは、日本語へ翻訳されている英語で書かれた研究資料。
「極めて電気信号に似通った脳波は世界に対する命令とほぼ変わらない。力を入れようと拳を握れば、それを命令と誤認したシステムが筋力値を上乗せしたケースが例えばその一つ」
資料を読み進めていくほどに、次第に顔が歪んでいく。
こめかみを抑えながら咀嚼した情報と問題点は、或いは知らない方が彼我の距離を知らずにいられて幸せだったのかと思う程に……これは絶望的な相手だ。
「白の加速種別はAGIの+じゃなく自身の倍速化みたいだけど、この誤差のような現象しか起きてない資料中に、彼女と同じ加速現象は存在しない。それなりの被験者で集めた筈の、アメリカの研究機関の資料にね」
「黒から見て私の適性値って大体どんくらい?」
「んー……正確に知りたいなら検査するべきだけど、あって600前後だと思う」
「上げる方法は?」
「ミ=ゴに頼んで脳改造してもらうくらいかな」
「はい第一仮説ハラスメントォ!」
第二仮説も第三仮説も言ってしまえば、ある程度似たような現象は起こすことが出来た。
それが例え劣化品であろうとも『脳火事場』なり『****』なりとテクニックに落とし込める余地があったのに対し、黒の話を総合して見えてきた白の持つ第四仮説の正体は──
「俺のとも力羅さんとも違う、完全才能依存型の仮説……推定VREEGA950オーバーから繰り出される仮想現実改変が、第四仮説の正体だよ」
──私が何一つ真似出来ない、才能の暴力だ。
******
「……霖ちゃんも化け物ではあるんだけどね」
一旦対策を考えるからとログアウトしていった姫様を見送った俺は、結局延期になった拷問に胸を撫で下ろしつつ、一人になったカフェの個室でそう呟いていた。
痛みが全て幻痛・幻覚・偽物でしかない、アバターという本当の体じゃないこの世界で、廃人化する程まで長期間、自身を過剰な痛覚刺激で虐め抜いた少女は、VR空間にいながら生存本能で脳に筋力のリミッターを外させるような狂人だ。
"脳火事場"──そう呼ばれるテクニックについて初めて聞いた時、丁度まだ仕え始めた時期だったこともあってドン引きしたのが懐かしい。
才能の壁を狂気と執念で飛び越えるその姿は痛々しく、惨たらしく。然しながら目を奪われる程に、魅入られる程に、爛々と輝いている。
何度叩き潰しても正面から刃向かってきた唯一の勝者は、今日も今日とて理不尽を前に頭を捻り尽くしていた。
「無理だね」
純粋な戦力比較、何重に贔屓を入れた上でも、俺の結論は変わらない。
仮に脳火事場が切れたとて、速度差が何倍もある相手にそれが何の意味がある?
あの子に大したVRの才能は無い。加えて、相手と正面戦闘での勝利しか認められない彼女は、自身の搦手を許さない。
動画を見ただけで俺でも勝てないと確信する相手に、正々堂々としか戦えないあの子に一体何が出来る?
「ああ本当に──勝ち方が想像出来ないや」
理性が出した結論を確かに抱いた俺は……高揚感を堪え切れずに噴き出した。
分からない、有り得ない。そんな絶対の事実が覆る未来を……従者たる俺は確信している。
それこそが黒騎士が姫と仰ぐ少女の姿なのだから。
「さぁーて今回はどんな暴論を引っ提げてくるんだあいつ? マジでミ=ゴでも見つけたら一ヶ月はツボってる自信があるぞ」
課題は学校で終わらせたし、アニメを見る気分でも無い。ソシャゲのデイリーは明日の早朝で間に合うしと手癖で操作していたディスプレイには、動画配信サイトの○ouTubeが。
「久々にこのゲーム遊ぶかなぁ〜……と?」
ゲームのお供にホームから適当に良さげな配信を探していると、ふと目に留まるサムネがあった。
「見たくないもの見たな……」
即座にスクロールで消したその動画は、丁度最近有名になってきた配信者集団の物だ。
過激な企画と物言いでVRテクニックをディスるその様は、特にその頂点とも言える俺からして気持ちいいものでは無い。
「……まあ、姫と鉢合わせることは無いでしょ」
一瞬だけ見え、そして直ぐに記憶から消した大文字だらけのサムネには、確かにこう書いてあった。
『話題のゲーム、天光のエクリプス始めてみたwww』と。
Q.霖これからどうすりゃいいの?
A.黒「多分無理ゲーだけどこれどうすりゃいいんだろうね!(ワクワク)」
そういえばバハちゃん/ニキって名前でツイッター(頑なにXは認めない)やってます
更新告知や近況報告等挙げてますので気になる方は検索してみて下さい