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「"合成"……作ってから気付いたけど、棍棒のが通じるかな?」
適度に植物を採取し、"猪牙の槍"を三本再生産。
酷使してたけどまさか猿合戦中にぶっ壊れるとは思ってなかったや。
鉈だけだと火力足りないし、かといって槍だけだと防御が不安だし。
異色の二刀流も慣れてきたし、暫くはこの組み合わせがスタンダードになりそうかも。
「にしても本当に木ばっかだな、こんなん私に燃やされるために生えてんでしょ」
行動の邪魔にしかならないし、素材として使われるくらいなら私の役に立って生まれ変わる方が幸せだろ。
手当り次第にライターで木に火をつけて森林破壊を繰り返し、明るさを確保しながら進むこと約五分。
猿達の逃げていった細かな木々の抜け目が、急激に広がった。
火の粉と焼煙に満たされた空気が、晴れた。
開けた場所に、着いた。
「……懐かしいなぁ」
目の前には大きな泉。
湧き出て溜まってる訳じゃ無さそうだし湖か?
それは不自然な程木が少なく、開けた空間のど真ん中。
ゲーマーならまず予想出来る、分かりやすいボスエリアだ。
「GURURU……」
「あぁお出まし?」
高速で迫る巨大な黒影、正体は背後からのぶん殴り。
振り向きざまに飛び蹴りをして、威力を殺して吹き飛ばされる。
宙を舞う私の体に追撃警戒で『エアハンマー』を叩き込み、吹き飛んで行く軌道を逸らす。
着地点は……否、着水点は、湖。
爆音と水飛沫を上げて、体が水の中へと沈んでいく。
少し痛い。
(纏刃の炎って水中でも消えないんだ)
水中なら即座に手は出されないので、削れた体力を戻すため取り出したポーションを水中で飲む。
(足は……まぁ動くな。息はポーションゴリ押しで)
空になった瓶を捨て、燃える鉈を灯りに、放った槍を見付けて掴む。
両手が塞がって泳ぎにくいが……まぁそれだけだな?
足を使ってじわじわ水面へ上り、5秒程で面倒になって"エアハンマー"を足裏に叩き付けた。
あ、HP収支マイナスになっちゃった。
まぁ横着は全てに置いて優先されるし、しょうがないね。
「いやぁー初期装備だと水中は冷えるねぇ……そう思わない? "ハリケーン"」
反応は特に無し。シカトされてんじゃん腹立つわぁ。
飛沫を立てて、勢いよく湖から飛び出る。
晒された空気と重力は酷く不愉快で。
水を吸った服とマフラーが重くて気色悪い。
「つか邪魔」
余りに鬱陶しいので乱雑にマフラーを解き、ついでに上着も脱ぎ捨てる。
インナーシャツだけになろうが所詮ゲームアバターだし、戦闘中地味に視界にちらついて鬱陶しかったから丁度良い。防御力? 知らんわそんなん誤差だよ誤差。
『大猿:Lv30』
「……そっか、『鑑定』持ってないのか」
正式名では無く、仮称が名前たる巨大な個。
筋肉があった。
体躯があった。
4mはありそうなその巨躯は、分厚い筋肉で出来ていた。
その白い肉体……とりわけ両腕には、白い包帯が巻かれていた。
レベル高っかいなー、夜判定で5上がってるとは言え。
「つまり捩じ伏せ甲斐があるねー?」
「オオォォォォォン!!!」
大猿が跳ぶ。
着地点は私の座標。
大地を全力で蹴り飛ばして離脱すれば、私の踏み込みで割れていた地面が破砕する。
ああ、いいね。
殺意に満ち溢れていて、然し大した思考はしていない。
悪辣でなく、純粋な性能で。
久々の真面目に作られたボスモンスターだ!
「ウォォォォン……」
勢いそのままに、大猿は私を無視して泉へ飛び込んだ。
何故、という疑問を持ったやつは、水中から即座に出てきたその姿を見て決まって絶望する。
おいおい冗談だろ? ってな具合で。
「初見殺し特化。だからこそ本体性能は低く、対策さえ出来れば序盤で最も狩りやすいボスになる」
テンションが上がっていき、反面に頭は冷えていく。
私はそれを知っている。
苦戦し、思考し、同じ解答を出して善戦し、結局は数の暴力で突破した序盤の壁。
野性的であるからこそ、抵抗感が無い鋼の鎖。
最初に真似してろくに動けなかった奴は笑い草だったよなぁと、下らないことを思い出した。
「さぁ、殺そうか!」
ニタァ……と嗤う大猿の体を、白いベルトのような物が締め付けている。
それは私が先程包帯のようなと評した物であり──
──それは『鋼結草』と呼ばれる、水に濡れると硬度が跳ね上がる植物の塊だ。