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総合評価5000超え&初レビューを頂きました!!!ありがとうございます!!!!!
よかったらブクマや評価して作者を更に喜ばせていってね!!!!!
本当にただの偶然だった。
ただ憂さ晴らしにモンスターを倒してたら、全員死んじゃいそうな人達が居て、困ってそうだから助けただけだった。
お礼が欲しかった訳じゃないし、褒められたかった訳でも無くて……多分、引き籠もりの罪悪感から、少しでも良い人になろうと行動した結果だと思う。
「一回俺とデュエルしてください!」
「あの、どんなスキルか見せてください!」
「良かったら一緒にパーティ組んでくれない?」
「もしよかったらフレンドに……!」
"ああ、多分、悪気は無かったんだろうな"と気付いたのは、後々冷静になってから。
私なんかの何が良かったのか、若しくは何か対応を間違えてたのか、今目の前に居たのは自分の都合で助けた先日の人達だった。
キラキラと目を輝かせて私に詰め寄ってくるその人達は、学校でのトラウマを刺激する私の一番苦手なタイプの人種で、「あう」とか「その」としか二の句を継ぐことが出来ないくらいに、その時の私は恐怖で頭が真っ白だった。
何を言ってるか聞き取れない。
目を合わせられない、視界がブレる。
本当に今ちゃんと立てているか分からなくなってきて、感覚がどこに行ったのか迷子になって繋がらない。
過去の映像がフラッシュバックして、いつの間にか足が震えていた。
人と関わるのが怖い、話すのが怖い、顔を見るのが怖い。
時間感覚すら曖昧で、もう何時間もここにいるみたいに長く、疲労して……息すらも、苦しい。
目の前が暗くなっていく。
まるで幻覚に殺されるみたいな感触が、全身の力を奪っていって……
(あ、だめだこれ)
体が落ちた。
目線がふらつきながらがくっと揺れて、足が曲がったのを認識した。
倒れてる。
そう認識した瞬間には、もう踏ん張ることは出来なくて──
「ねぇ、揉め事なら私の目に入らないとこでやっててくれねぇかな?」
──そうして倒れる寸前に、気付けば私は誰かに抱き留められていた。
(……あれ?)
体重は何処にも掛かっていない。踏ん張ってもいなくて、まるでプールから出た直後みたいな浮遊感の中で、待っていた衝撃はいつまでたっても私を捉えることは無い。
肩と腰に強い感触、包み込むような優しい感触が頭と背中。
熱い。
奥底から冷えている私とは余りにも対照的なその熱は、私を後ろから支えてくれていた。
「人の顔くらいちゃんと見ろ、困ってんだろこの子……散れ」
強い声を聞きとった。
頭のすぐ左上から発せられた威圧感なその音は、私の苦手な雰囲気のものなのに不思議と怖くはなかった。
熱を感じる。
驚きで脳内が一瞬漂白されて、抜けた気が戻ってから最初に瞳が捉えたのは……いつか見た純白。
(あ……この色)
視界の端に綺麗な白が見えた。
ふわふわした感覚のまま、視線でその先を追っていくと、それがサラサラな髪の毛の端っこだったのが分かった。
その人の長い髪が頬に掛かる。隙間から覗く横顔は今までの人生で一番可愛いと思える美少女の物で、大きな垂れ目が特徴的なその人は、本当に真っ白な肌とは対照的な深紅の瞳を持っていた。
「あと傍観してるお前らもなんで動かず見てんだよ、子供だろうが助けろよ大人」
私はこの人を知っている。
前回も同じようにぶつかって、責めるでもなく興味無さげに去っていって。
今回は倒れ掛けた私を抱き留めて、ゾッとするような目付きで周囲に睨みを効かせている。
触れる体温は暖かく、対して振る舞う態度と言動は冷たくて、嘘か幻で出来てるかのような二面生を感じるこの人は……
「……君、大丈夫?」
まるで王子様のように、優しい声で私にそう訪ねてきた。
******
「それでたまたま助けたパーティと再会して街中でいきなり詰め寄られたと……ま、この時間にログインしてる若そうな子にコミュ力あると思っちゃダメよ、特に話しかけてくるタイプの奴は大体距離感がおかしい」
「……そうなんですか?」
「そうだよー? 平日昼間に見る若い子って要は学校サボってゲームしてる社会不適合者が大半なんだから、そんな奴がまともな人格してるわきゃないでしょ」
「うっ……」
「私然り」と付け加えた彼女の言葉は耳に入らず、余りに的確な抉りが効いて私はその場に蹲っていた。
不登校、コミュ力不足、社会不適合者……全て自分にそっくりそのまま当て嵌るからこそ、事実として心に来る。
ああそうだ、私って社会不適合者だったんだ……自覚してみれば通りで人に話しかけられただけで精神崩壊するわけだ。はは……
「あれ私何やってるんだろう?」
「平日昼間っからゲーム」
「クズじゃないですか」
「清々しい程の不良だね」
「ふ、不良……」
表通りから外れた個室付きの飲食店で、私は目の前に腰掛ける人に何があったかを話していた。
気付けば無理矢理ここに連れてこられていて、最初は緊張と人見知りで震えていたんだけど……適度に狭くて人の目が無いこの空間は、(自室で)慣れ親しんだ雰囲気なのもあって、時間が経つにつれて落ち着いてきた。
(……本当に綺麗な人だなぁ)
嘘みたいに顔がいい女の人……霖さんは、恐慌状態だった私を助けてくれた恩人で、少し話をして分かったのは、彼女は別に優しさでもって私を助けてくれたわけじゃない。
親身になってくれた訳じゃないし、かといってなんとなくで動いてる訳でもなくて……言葉にするなら自分の芯に従って行動している、私とは正反対な強い人だということ。
まるで王子様みたいに颯爽と現れて、メンタルケアにここまで連れて来てくれたと思ったら、全くの遠慮無しで私を言葉でグサグサと刺してくる。そんなよく分からない人間を前にして、私の脳はぐちゃぐちゃになっていた。
情報の処理が追いついてないからか、良くも悪くも機能しない思考。存在地の浮遊感のままに対面する不思議な人は、私からしたら奇跡のように普通に話すことが出来る人になっていた。
吊り橋効果って言うんだっけ? こういうの。
「次からはだるいのに絡まれたらさっさとログアウトすること、都合よく私みたいに助けてくれる真人間がその時いるとは限らないんだからさ?」
「……霖さんって多分学生ですよね? さっきの話的に真人間はこんな時間に──」
「よしこれも何かの縁だフレンド登録しとこうぜ、呼べば絶対助けに行くからさ」
「あ、はい……えっ、はいっ!?」
凄い早口で捲し立てられて煙に巻かれた感じがするけど、実際に言われた言葉は私の意識を奪うには十分な物だった。
フレンド──日本語訳に直すと友達の意味を持つ単語。
システムとして命名されたその設定は、きっと本来の友達の定義とは違う、同音意義語に似た名ばかりの物だろうけれど。
人にとっては簡単に言えることを言葉に出来ない私にとって、日常会話の一コマが如き軽さで叩き付けられたその言葉は……
(……久しぶりに、友達になろうって言われた……っ!)
私が霖さんを好きになるには、十分過ぎる理由になった。
チョッッッッッッッッッッッッッッッ