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なんか謎に更新
「行けっ! 差せっ! ああなんでそこで失速する!?」
「アラエミてぇてぇ」
「え? この娘チソチソ生えてるの? ドスケベ大将軍じゃんこんなん」
「ああクソ好みのふたなり絵だと思ったらAI産じゃねぇか」
「やはり○○○合衆国こそ至高」
「次のテロどこでやるー?」
「普通に王城でええべ」
「借金ほっぽってVRで麻雀指すの最高に終わっててたのちー!」
「はいロン」
「クソが○ねええええええええええええええ!!!」
すっげぇこれが最底辺かぁ! 一秒足りとも同じ空気を吸っていたくねぇ。
てか揃いも揃って囚人服着てんじゃねぇよ、着衣自由なのに何故態々それを着る???
「たいちょー、脱獄希望者見つけたよー」
「おうマジかでかした太もも新興国……って霖ちゃんじゃん」
「お久」
大体学校の教室くらいの薄暗い広場にて、11人のプレイヤーがだらだらと過ごしている。
私をここに案内したプレイヤーが呼び掛ければ大半は私に見向きもしないが、奥から反応したたった一人、全身に手錠と鎖を巻いた男は、その声に対し喜色を浮かべながら私達の元へと歩いてくる。
(相変わらず会話の内容が酷い)
普通に見ればなんてことない光景だが、然しこいつらは全員ゲーム内の監獄にぶち込まれてる犯罪者だ。
罪を償う気も無しに真昼間っから刑務所の隠しスペースに集まっては、やれ競馬を見るわpixivを漁るわ脱獄以前にテロの計画を立てるわ、人間としてダメな奴しかいねぇの本当になんなんだよココ。
「珍しい奴もいたもんだな、投獄から一週間後に脱獄希望するなんて」
「おう平気で私の捕まった日時を把握してるのやめーや」
この監獄の出方は二つある。
一つは刑期を終えるまで時間を過ごすルートだ。
刑期の長さは罪の重さに比例し、ログアウト状態でも時間は経過するので、軽い罪や今すぐ出たい訳でもなければ、別ゲーで時間潰してるだけで簡単に出られる正規ルートだ。
そしてもう一つが監獄から脱獄するルート。
当然ながら失敗したら刑期は更に伸びるし、本来あった刑期が終わるまでに再度捕まれば、暫くログイン自体が制限されるハイリスクハイリターンな方法だ。
本来脱獄はこのゲームにおいて難しい。
徘徊する看守に、かなり制限されるスキルとステータス。マップ把握や解錠、ハイドはプレイヤーの職業によって習得出来るかが決まり、そしてこんな場所に送られてくるような犯罪者は大半がガチガチの戦闘職だ。
「じゃ、何で払う? 言っとくが無料なのは初回だけだからな?」
「お前初回無料まだやってんの?」
「脱獄を望むような血気盛んなPKって必ずここに帰ってくるし、二回目来なかったらそいつは善良な一般通過殺人鬼だったって自分のしたことに誇りを持てるからいいもんだよ」
「善良な一般通過殺人鬼」
だからこそこの男……ただ『ヘルヘイム』からの脱獄にのみ特化した変態ビルドのプレイヤーが営む"脱獄屋"は、監獄内にてビジネスとして成立していた。
男の名は『アリアドネ』
「嗚呼、今日も俺の刑期が伸びてゆく……俺のこの刑期こそが世界に悪を解放した重さだと思うと……自分の命に堪らなく興奮するッ!」
他人の脱獄を手伝っては自分の刑期を積み重ね、それで興奮するような理解出来ない変態だ。
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「でえ? なんで戻ってきたの霖ちゃんは。性格的に萎え落ちしたタイプと思ってたけど」
「仮説が出たって聞いたから」
「あーあの噂ね、霖ちゃん都市伝説系好きそうだもんねー」
「知ってるの?」
「追加報酬くれたらここ最近のネタ話してあげるよ?」
アリアドネはプレイヤーの脱獄を手伝う代わりに依頼料として、アンダーグラウンドに生きてるような奴らから極秘情報やレアアイテムを得ることでゲームを楽しんでいる、一種の情報通でもある。
外部SNSやゲーム内掲示板には顔を出さず、出会えるのは監獄内限定。それも環境上絶対に交渉の主導権を握れるが故に、報復も恐喝も不可能な無敵の存在の彼は、対価さえ払えばどんな情報だろうと義理もクソも無く簡単に喋るクソ野郎だ。
まあ最も、デスドロップ処理後の手持ちで聞ける話なんてそう多くは無いのだが……脱獄ついでに面白い情報を知れるのだから、上手い商売してるよなーコイツ。
うーんと…………ああ、丁度オークションに売る予定のレイド報酬持ってたわ。これでいっか。
「ん、まいど。……うーわこれ無双強襲戦の報酬じゃん、しかも部門賞」
「尻尾斬った。生憎私には使えなんだけど」
「現行最高等級のハルバードとか喉から手が出る程欲しいやつ沢山いたろ……うわ能力エグっ、自分で使えば?」
「長柄武器なんて使ったことないですー。てか私不器用だから剣くらいしか使えねぇよ、練習にどれだけかかると思ってんの?」
「知らんがな。……で、仮説の噂?」
「内容は話さなくていいよ、お楽しみだし。だから居る場所と外見の特徴くれ」
「ほいほい」
勝手知ったる庭かの如く、看守に一度も遭遇せず、カメラに細工をし、暗証番号にロックされた扉を易々と突破していくアリアドネ。
一応ここ、全11層ある巨大収容施設なんだけどなぁ……と、凄いよりキモイが勝る感想を抱きながら歩いて、歩いて──
「……結構話してたのに誰とも会わなかったんだが」
「伊達に商売にしてねぇし。じゃ、俺こっから捕まるから囮にして逃げてね」
「相変わらず最後はゴリ押しで草」
──やがて辿り着いたのはC4と書かれた扉の前。
入口に陣取っている看守の注意はアリアドネが惹き、その隙に依頼者が逃げるのが脱獄屋の最後の流れだ。
「また来いよー」
「普通そこはもう帰ってくるなじゃないの?」
それが最後の会話だった。
閃光玉と煙幕玉を投げるアリアドネに続き、私達は出口へと走り出す。
(ここでコイツぶっ殺したら面白ぇんだろうなぁ……)
こういう軽はずみな好奇心で殺しちゃうから捕まるんだよなぁと自分で自分にツッコミつつ、そうして私はシャバに出た。
さ、まずは憂さ晴らしにPKでもしに行くか!
ハ ン タ ー 放 出