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12時に更新する予定だったから誤差だよ誤差
VRMMOが世界に浸透してまもなく。現実と物理法則が違い、様々なゲームとしての仕様を持つ仮想空間には、当然ながらVRゲーム特有のテクニックが生まれてきた。
魔法蹴れれば空中ジャンプ出来るんじゃね? 痛み我慢すれば人力でスーパーアーマー出来るんじゃね? 等、プレイヤーの発想によって様々な技術仮説が検証されていく中……そもそも検証そのものが各種要因によって不可能な仮説があった。
無理難題を極める前提条件によって、可能か不可能かすら分からないイかれた発想群……その内、
「実現が確認された順にナンバリングされる、世界でただ一人の怪物の称号」
『そ。その四番目が発見されたのよ』
「デマ乙」
『わぁ辛辣』
仮想世界仮説、或いは電脳世界仮説とも言われる、誰かが実現してしまった本来検証そのものが不可能な筈の超技術。
私とコイツにとって馴染み深い単語のそれは……決して簡単に生まれるようなものでは無い。
(というかそんな簡単に居てたまるかよ)
……ただまぁ、確かに興味が惹かれはする話題だ。
切り倒した木に座り、さっきまでと打って変わって楽しげに話す男の言に耳を貸す。
表示される時刻は12時半、クラスメイトは給食を食べ終わった頃だろうか?
「逆にお前はこの件についてどう思ってんの?」
『情報源の正確さは保証する』
「なんで?」
『噂が出回ってないのに俺に届いた情報だから。割とトップシークレットじゃないか?』
「ああ、じゃあマジ臭いなぁ」
しょうもなくも当然の話ではあるが……仮説保持者はネット上でクソ叩かれる。
世界でたった一人、不平等に才能という理由だけで、文字通り誰にも真似出来ないことを平然と出来てしまうわけなのだから、そんな不条理を目撃した常人は絶望と嫉妬に駆られるものだ。
……まあ、仮説保持者に対して全プレイヤーは下位互換でしかないのだから、無理もないのだが。
「まだお前も風当たり強いの? 世界初、仮説持ちのプロゲーマー様は」
『まあ結構。PSが低くてまだ良かったよ俺の場合、何やっても居心地悪いしイメージアップとかどうすりゃいいんだ』
「嫌味?」
『生まれ持った体質でただ生きてるだけなのに、大半の人間から否定されるって結構よ?』
「私にそれ言うか???」
超絶ルックスに加えて先天性色素欠乏症な私がどれだけ苦労してきたとお思いで? 病弱なのも相まって幼稚園からまともに友達なんて出来たことないんだが? ……あっ言ってて悲しくなってきたこの話はやめよう。
『……で、気になった?』
「少なくともこんなクソイベ走るよりは百倍くらい楽しそう」
『何かを上げる時に何かを下げながら言うの友達出来ないからやめた方がいいぞ』
「お前は私の親か何か?」
『それってパパk』
「○○」
少なくとも中学生にぶっ込む下ネタじゃねぇだろボケェ!
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「ふむ」
彼から聞いたゲームについて、私は知っている……どころか既にやっていた。
最終ログインは七日前、『天光のエクリプス』……通称『天エク』と呼ばれるこのゲームは、大体一年前くらいからサービスを開始しているVRMMORPGだ。
「刑期は……うーわあと八日も残ってる」
久方ぶりにログインしてまず目に映ったのは鉄格子。辺りを見渡すには適していない暗さの中で、一番の光源は私の装備というこの有様。
カサカサ動いていた何かを戯れに踏み潰し、廃れた内装に懐かしさを覚えながら、取り敢えず自分のステータスチェック。……あーそうそうこんなキャラだったわ。
看守は……見えるところにはいないか。辺りに他プレイヤーは……うーわ知ってる顔しかいねぇ、相変わらず何やってんだよお前らよー?
「さて、脱獄するか」
大罪人が捕まることで収監される、犯罪者更生施設『ヘルヘイム』
その独房の一室で目覚めた私は、第四仮説を探さなきゃいけないのでしゃあなしに脱獄を開始した。
実はこれ情報提供したように見えてしち面倒臭いアルビノサイコを上手く他人に擦り付けただけという