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備考:本編の(タイムリープ分も含めた)四年前のサイコちゃんです
初々しいね!
「あ、霖ちゃんおはよー」
「ん、お久」
「華奢じゃなきゃ相変わらず犯罪者みたいな風貌ね」
「好き好んで被ってる訳じゃないと分かってて言ってんな?」
「はい換気」
「ぐわー」
既に暑くなり始めた五月某日。太陽に内心中指を突き立てながら着ている長袖パーカーのフードが外れ、登校中に蒸れて仕方がなかった顔が漸く外気に触れた。
進学校という程でも無いのに軽はずみに付けられていたクーラーで教室内は外より涼しく、体力の無さも祟って息切れしていた私は思わず自分の机に溶ける。
あ゛^〜きもちいい……冷えた硬さが骨身に染みるゥ〜……
「髪だばーなってるけど?」
「綺麗でしょ?」
「弄っていい?」
「前みたいに編むなよ? アレ解く時クソ痛かったし」
「それに関しては不器用な霖ちゃんの問題では?」
「あ、私も弄りたーい!」
「よっしゃまずはツインテール行くか」
「いやいやポニテでしょ?」
「うーん……もっと伸びたら更に色々出来るんだけどなー?」
「……私は着せ替え人形か何か?」
「レアキャラではあるでしょ」
それはそう。
久しぶりに登校した途端私に群がってくるクラスメイトの女子達は、我先にと私の髪を弄り始める。目に掛かる白の隙間、視界の端に映る幾つもの制服の膨らみは総じて薄く、中学三年生と言えどこんなものかと、自分の発育具合の正常性を再認識した。うん、まだ遅れてない。だからまだ大丈夫だ焦るな私。
(VR漬けになってくると髪色と胸部装甲の基準がバグってくるんだよにぇー……)
見渡す限りの黒と茶色、偶に混じるそう染められた緑や金。
VRじゃ目立たない私の髪色も、そんなところに混じるからこそ私の白は浮いていて、こんな風に特別扱いされてしまう。
悪い気はしないけど、いい加減飽きないんだろうかこの子達?
まあ飽きないからこうして髪弄られてんだけどさー……あ、鏡に映る私可愛い。
「そう言えばもそろ修学旅行だけどながちゃん来るの?」
「絶対行くが???」
「え! 本当!?」
「いつも体調不良か世界を救うのに忙しいとか言って休む霖ちゃんが!?」
「サボり常習犯の霖ちゃんでもやっぱ修学旅行は行きたいの!?」
「言われようにキレそう」
私こと雨宮霖14歳は、先天性色素欠乏症且つ病弱でもあるせいで、幼稚園から中学三年生に至るまでことごとく、学外行事に参加することが出来なかった。
ある時は熱、ある時は体調不良、ある時は記録的猛暑による日差し、ある時は予定された長期間の野外行動に対する見送り……何種類ものパターンと理由で潰されてきた私の学校生活において、差し迫ってきた修学旅行という行事は特別な意味を持っていた。
「私さぁ、体質のせいで人生で一度も旅行に行ったこと無いんよね」
「え、まじで?」
「あー……肌めっちゃ弱いんだっけ? アルビノって」
「そ。だからすげぇ楽しみなのよ修学旅行」
化学や医学が発展し紫外線対策が進んだ昨今、私みたいな希少生物が普通に外で活動出来るようになったのもつい最近。
まるでずっと昔から続編を望んでいたゲームが、もうすぐ発売されるかのような期待感……衝動に突き動かされて、私は今ここに居る。
「動機が可愛いのよねお前って」
「は? 私はいつでも可愛いだろ寝ぼけてんの?」
「口を開けば罵詈雑言」
「ビジュとのギャップがひどすぎる」
「よし編み込み出来た!」
「やっるぅ〜!」
「わぁ超可愛い☆ふざけんな何してくれてんの!?」
「ほどいたるから安心しなって」
「なら許す」
顔を上げると後頭部に重量を感じた。ああ後ろで纏めた感じ? 視界開けるけどそれ日差しが目に刺さるのが痛いんだよねーそれ。
起きたついでに涼しい教室を軽く見渡して見つけたコマ表には、六限に班決めが入っている。それだけでこの退屈な学校に来る理由にな……
「にしてもなんで編み込み?」
「一限体育だし纏めないと邪魔でしょ」
「なるほ」
「ああ……髪長いと大変だねー」
え?
******
『……で、朝のHR前に早退して真昼間っからゲームしよですか。あーいかわらず霖ちゃんはいいご身分ですねぇ〜???』
「一限から体育は聞いてない」
『そんな理由で学校をサボるな』
「あーあー聞こえない聞こえない」
そういや私って今日ゲームのイベント走らなきゃ行けなかったんだよね。
あークソこれだから周回系のイベントはだるいんだよー! 本ッ当は学校に行きたかったけど! 授業滅茶苦茶楽しみだったけど! ランカーとしてはイベントを走らない訳には行かないからなー残念だなー!
「修学旅行とか知らねー! 一限から体育なのに六限の予定決めまで学校にいられるかコノヤロー!」
『相変わらずの自己中ぶりに呆れを越して笑ってしまう』
「気分より優先する事項なんて無くね?」
『普遍的に嫌でもやらされるよう強制される学業をしろよカス』
「こんな時間から作業通話繋げられるお前に言われても……」
『よし切るか』
「やめてきらないできらないで」
白髪赤目の美少女が大剣二本を乱雑に振り回し、ゲームでよく見る感じのモンスターをバッタバッタと斬り殺す。
ゲームじゃよくある光景のそれは然し、舞台が完全感覚没入型VRMMOなのが特筆点だった。
「……開発されてもう四年かー」
家に居ることが多かった私にとって、フルダイブ型VRゲームとの出会いは正に天啓だった。
尽きない体力、日光を気にする必要の無い体、平凡まで成り下がり騒がれもしない白髪赤目……命のやりとり。
黎明期からこの仮想空間を遊び倒してきた私は中学生にしながらVRゲーにおける一種の廃人の域まで足を突っ込んでいて、今目指していることだってその一端に他ならない。
「あークッソニートキメェ! ランキング一生追い付けねぇんだけど!」
『VR機器の値段的にニートでは無いと思うんだが。強いて言うなら努力して働く必要の無くなった勝ち組?』
「○○」
『ゲームに検閲されることを呟くな。……なんだっけ、期間限定で出るモンスター倒してポイント稼ぐランキングイベントで20位以内?』
「そう」
『なんで?』
「いけそうなのと暇だから」
『現状』
「42位、気ぃ狂いそう」
『元から狂ってんだろ』
「あ゛ぁ゛ん゛?」
通話越しに『学校サボってやることがそれか……』とか聞こえたけど、いやだって暇だし仕方ないじゃん。最近目標なかったし、そんな時に丁度良さげな承認欲求満たせそうなイベント来て走らない方がおかしいでしょ。
完全脳筋ゴリラビルドの『霖(Lv120)』ちゃんはレベルカンストまで手塩に育てただけあって、他のランカーと比べてスキルも装備も見劣りしていない。
「つまり不可能じゃない……! だからこそ挑戦する価値がある……!」
最悪ランカーをPKして回りゃあ上位全員引き摺り降ろして私の単独一位も夢じゃない……ククク今宵の爆炎龍神Z刀は血に飢えてるぜ、実に完璧な計画だぁ!
『で、じゃあなんで俺に作業通話掛けてきてんの?』
「周回が辛いから(即答)」
『……イベント期間って後どんだけあんの?』
「58時間」
『………………はぁ』
「なんだぁ! その溜息はぁ!」
諦観を多分に含んでんの顔見なくても分かったぞ!? さながらクソ面倒臭い人間に絡まれた時の私みたいな反応しやがって!
『……あっ、じゃあお前暇だからそんなキチガイみたいなことしてんだろ?』
「誰がキチガイか」
『ならさっき聞いた面白い噂があるんだが……暇潰しに聞いてみないか?』
「噂ぁ?」
『ああ。それもお前にとって無関係じゃない話だし、こんなんよりよっぽど健全な暇潰しになると思うぜ?』
──全てはこの男の言葉から始まった。
彼が私との作業通話(残り58時間)を拒まなければ、きっとこの物語は間に合っていなかったと思う。
私を地獄へと叩き落とし、人生を歪ませ決定付けたある少女との物語は……
『……とあるゲームで、第四仮説が発見された』
フレンドのそんな一言から始まった。
例えば『コイツPKだよ』って情報に対して「あんま街にいるとPKKに殺されちゃうからさ?」って感じに、ストレートに明言せず捻った描写にするのが最近のニキ先生のトレンドというか試みというか
情報圧縮と冗長さ、説明臭さの軽減、世界観の構築にも使えてなんか一気に世界が広がった感(洋画等から吸収)