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半分くらい書き終わったところで全部一回消えてスマホぶん投げたくなった
書ききって怒りの更新です
世界は既に変わり始めている。
バタフライエフェクト──小さな出来事がやがて回り回って大きな事柄を引き起こす例は、果たして今、何によって起きているのだろうか。
ボスのソロ討伐? コヒメとの出会い? 使徒の討伐? ──否。
仮にそれら全てが起きなかったとしてもEnjは大会に参加していて、あくまでそれらは彁の強さくらいにしか作用しない出来事だ。
「結局のところ"既に"変わり始めているのなら、それは前提としてタイムリープという超常現象を観測出来なければ不可能だ」
──始点は、本当に始点にある。
Enjとの出会いは、これから彁が対面する出来事達との前哨戦に過ぎない。
或いはEnjとの戦闘によって加速しうるこの物語は、この世界に憎悪を抱く彼ととうの昔に──
──譫̸̢̛͔̈́̂̎懊̸̢̙̄͛̀͝※҈̧̮̙͐̚͞縺̷̝͓͗͜͠ョ҉̡̩͈̿͡逾̵̢̗̠̲̓̀͝樊̷̢̭͕̊̒͌͝ァ҈̨͖̽̉͛̕との戦争は始まっている。
「その前提が成立しているのなら……それは一体何を意味するのだろうかね?」
研究所の奥深くで、侵食が始まった。
初見殺しを仕込まれ、ただ悪意を込めて変質していく怪物は……やがて全世界に日の目を浴びる。
──狂人の初めての生配信の標的として。
*****
「重かった」
「体欲しがったのお前じゃん」
「言い方」
自然と手を繋いでいる私達は、適当に街をぶらついていた。
なんか早く起きれたからログインしたけど、結局大会あるし街から出られないんだから、やれることと言えばコヒメちゃんを弄って暇を潰すことくらいしかない。
黒との合流まで時間はある。このまま適当なカフェかなんかで時間潰すかぁと考えていた私に……コヒメちゃんは結構面白いことを言ってきた。
「あ、そういえば」
「ん?」
「昨日、私と同じ巫女、見たよ」
「え、マジで?」
「うん」
EXクエスト『九天奉姫』、それは各分野のトッププレイヤーただ一人に挑戦権が与えられる、このゲームのエンドコンテンツ。
気になって確認した参加人数表記は……『現在の[九天奉姫]参加人数:3/9人』となってい
…………んぅ?
(……あれ? 確かに今……)
一瞬、ほんの一瞬だけど……数字にノイズが入って見えた?
3/9人という表示に対して、3が4に、9が8に一瞬ブレたような……或いは心眼中だったらそれが見間違えかどうか分かったかもしれないけれど……
「? どうしたのせーちゃん?」
「いや……疲れてバグっぽく見えただ──」
「──あなたが、セイ?」
──殺気。
瞬時に抜いた腰の刀で迎撃するが……完全には間に合わない。
片手でコヒメを掴んで力任せに投げ飛ばし、金属のぶつかる硬質な音が目の前で鳴って──ピリッとするダメージの感覚が私の右頬から発生していた。
「いっつ……せーちゃん!?」
「大丈夫大丈夫かすりk…………え?」
視界の端に映ったダメージエフェクトを前に……私の思考は一瞬だけ停止した。
血だ。
本来このゲームにおいて、そんなエフェクトは存在しない。
R12指定では有り得えない、アニメチックなゲームエフェクトからは逸脱した、それでいて私には余りにも慣れ親しんだ……異常過ぎる光景だ。
「……すごい、かわした」
意識が一気に冷えていく。
Enjの時とは真逆な──私の一周目の全盛期のテンションまで。
熱さの欠片も無い冷徹な殺意に満ちた、慣れた殺し合いをするための精神状態へと。
一瞬で私をそこまでぶち込んだ下手人は──コヒメちゃんと同じくらいの年と背丈の女の子だった。
恐ろしい程までに美少女なその子は──ああ、本当に不気味なことに──
「──誰だテメェ」
──NPCだ。
『EXクエスト[九天奉姫]の参加資格を得ました』
『EXクエスト[九天奉姫]は複数の目標条件を全て達成することでクリアとなります』
『EXクエスト[九天奉姫]は複数のプレイヤーによって進行し難易度が上下します』
『現在の[九天奉姫]参加人数:3/9人』
『[九天奉姫]に『アマラ』で参加しますか?』
──その余りにも無機質に感じたシステムメッセージに、不気味を通り越して寒気がする。
嬉しい筈の情報を前に、私は空恐ろしさを感じずにはいられない。
(──超物理属性)
街中でいきなり襲ってきたその少女の攻撃が持っていた能力が、私のアバターに血を流させた。
私はその能力を知っている。
だって『死神』はそれに特化した──殺傷力に特化していた職業だったのだから。
だってその能力こそが──
「ねぇ、私の修行に付き合ってよ」
──プレイヤーアバターと"怪物"を唯一このゲームから永久に殺せる、私達が死に物狂いで求めていた能力なのだから。
そうして物語は加速する