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ニキ「誰が一回の更新時間判定に一話しか更新しないと言った?」
読者「なん……だと……?」
「だ、大丈夫ですか?」
「あー……うーん……マジきっつい。過負荷で警告アラート止まらねぇ」
「そ、そこまで!?」
「……まぁ大丈夫、インタビューは受けるから」
さっきから頭痛が死ぬ程やばい。0.5秒くらいで済んだとはいえ全開で心眼使ったからマジでキツい。
あー何も考えたくねぇ……物理的な痛みは無視出来るけど、これだから心眼は嫌なんだよ……脳火事場が軽率に切れる理由の大半って他のギアが総じて反動がクソだからだぞ、脳が縮んで軋むこの感覚って寝なきゃ絶対治らねぇから使いにくいったらありゃしねぇ……
「……そもそもなんでここまで切り札切らなきゃ勝てねぇクソ野郎がいるんだよ、私じゃなきゃ死んでたぞクソが」
「いや、貴方であっても死んでおくべき場面が何十回とありましたが?」
「寧ろ見てる側からしたらEnj選手が可哀想に見えましたよ……」
え? 私が死ぬわけねぇじゃん、何言ってんの?
少なくとも殺すだけなら誰だろうと……まぁ白ちゃん以外ならどんなプレイヤーにも殺される道理はねぇし。
「あ、3カウントで入ります。大丈夫ですか?」
「うん」
エリア縮小ギリギリの決着をし、帰投時間が来ると同時に特殊な控え室に飛ばされた私は、解説の運営員と実況のVチューバー? に連れられて、勝利者インタビューのために解説席まで呼ばれていた。
(金は……十分か? まぁ当初の計画通りにいけそうかな)
あ、ボーっとしてて入り聴き逃した。おいゴラ背中を押すなカッコよく登場する私の算段がぐえっ。
「──というわけで、優勝に輝いた"冒険家さん"選手です! 登録名通りに何度も冒険的な挑戦をし、驚異の54キルを叩き出したEnj選手を単独で打ち破っ──」
(──え、待って、54キルって何? アイツそんな暴れてたの?)
なんか実況が言ってるけど、耳に入ったワードが強過ぎてなーんも頭に入ってこんが? え、いや何をどうしたらそんな事態になんのアイツ怖っ。
やっぱアイツ戦闘力おかしいってぇ! 四バカ捻り潰した私よりやってることエグない? つかそれ叩き潰した私って凄k……
「──はい、というわけで! "冒険家さん"選手、優勝した感想をどうぞ!」
「はえ?」
唐突に手渡されたマイクを前に目が点になる。え、なにこれ? あ、インタビュー中かってもう出番? あやばいマジで頭回ってねぇじゃん。注意力死んでんねぇ!
せっつかれて構えたマイクに、目の前に移る爆速のコメント欄。速いのもあるけど視界が霞んで読み取れねぇ……まぁ、心眼みたく速度で見りゃ盛り上がりは認識出来るか。
「あー……こほんこほん。……視聴者のみんな〜、私の可愛い声が聞こえてる〜?」
……おいギョッとすんなスタッフ共、実際に可愛いだろうが私の声は! クソ疲れてる中精一杯絞り出した愛嬌だぞ萌え死んどけやカス。
速度は……上々かな。読み取れんけど、きっと可愛いとか好きとかで埋まってる筈でしょ。
「──私の名前は彁。別名で参加したのは賭けのオッズを上げるためかな」
まぁ、どんだけ頭が死んでようが話すことは決まってるし、それを態々面に出す理由もねぇし、何も考えなくても決めてただけあって、話す言葉は本当にスラスラと出てきた。
……あれ? これ別に向こうからの知り合いはいねぇし、別名義で登録する必要無かったのでは? ……深く考えたら負けだ脳死しろ私。
「で、私って闇金みたいなとこで十億くらい借金してさ、予選開始前に自分の単勝に全額突っ込んだんだよね」
もうちょっと借りれたら良かったんだけどなぁ、コンストラクトちゃんもケチだよねぇ?
てかめっちゃ周りから引かれてる。草。コメント欄爆速でおもろー。
「──ねぇ。ギルドってさぁ、転移陣が設置出来るのって知ってるかな?」
そもそもなんで私がこの大会に出たのかって?
それは当然金策のためではあるけど……なら、何に使うためにこんな大金が必要なんだと思う?
ねぇ? 視聴者共。私が何に使うためにこの大会に出たんだと思う?
「街ごとの、マップごとの移動ってだるいよねー。長いし、広いし、時間かかるし……街に転移装置が無いからさ、行き来するのってクッッッソだるいよねー」
実感篭ってんのは……まぁ、マジで語ると長いんだよな。
或る意味マップ探索を鈍足化させた最大の要因の一つだし……この要素に潜在PVE民の何割かが殺されたと行っても過言じゃない。
「で、私が調べた情報だとね? 本ッッッ当に莫大な金額を掛ければさぁ……プレイヤーが建てたギルド、そのギルドハウスに、他のギルドハウスと行き来出来る転移陣が設置可能らしいのよ」
勝利者インタビュー? 今の感情をお聞かせください? 知るか。
私の感情は私だけのものだ、そんなのもう消化し終わってるし、それは私だけで消化しきるから私が気持ちよくなれるのだ。
この感情に他人の言葉による付属も噛み付きも要らない。だからこの場は……参加を決めた時点で最初から狙っていたこの場所は、目的の宣伝のために使う。
私という最強の戦力を旗に、最高のメリットを提示して……予定に無かった最高に熱い激闘を自己紹介に、私の声はこのゲームへ高らかに届き渡る。
「で、例えばギルドハウスを全ての街に建てればさ、全ての街を転移で行き来出来るギルドが作れるんだよ──それって、凄く便利だと思わない?」
コメント欄が更に加速した。あっは、みんな本当に現金だねぇ?
それによって生まれる利益は、夢物語を成しうるかもしれない金の存在は、それを示唆した存在の──私というこのゲームで最強の戦闘力を証明した廃人が発足する案は……一体、どれだけの魅力を生むんだろうね?
「インタビュー前──休憩時間に公式から発表があった、明日開催される二人版とパーティ版の公式大会。私はそこの二人版にも出るつもりだよー。そこで何するかは……まぁ、言わなくても分かるんじゃないかな?」
──これは宣戦布告だ。
大会に参加する予定の廃人達からは、私を殺さなければ優勝も、そして生まれるであろうこのゲーム最大のギルドの結成のための……私の更なる金策を邪魔出来ず。
そして観戦者からすれば、私という最大の優勝候補……ほぼ確で勝てる賭けの対象を見つけられて、凄まじく便利なギルドの結成を喜べる。
ああそうだ、祭りは今漸く始まったんだ。まだまだ終わることは無い。
「明日、大会終了後に私は一つのギルドを立ち上げる。目的はエリア探索及びこのゲームの攻略のため。メンバーにはシステムルールで獲得した金額の何%かをギルドに自動で貰うけど……対価として全ての街への転移門の設置と、その自由な無償使用を約束する」
私はこのゲームを加速させる。
この大会に出たのは全てはマップ探索を人海戦術で早めるためで……私が二周目でしてきたことに、一切の無駄は無い。
「──さあ、明日会おう挑戦者達よ」
完全に空気を奪われ聞き入っていた実況解説にマイクを投げ渡す。
さっ、インタビューは終わりだよ? さっさと閉めてくんねぇかな眠いんだよこちとらさぁ?
「い、以上、冒険k……彁選手の、インタビューでした!」
笑顔で右手を振ってみる。
パサパサと軍服のコートが揺れて、軍帽がズレかけたので左手で軽く抑えて……暫くした後にモニターが暗くなり、スタッフに掛けられる言葉を振り切ってメニューから会場の外へ出た。
「……やぁやぁやぁ、ねぇちょっとお姉さんと遊ばない?」
『お断りしますゥ……』
「黙れ下僕さっさとこい」
ログインした時の明るさはどこへやら。
暗く染まりきった異世界の片隅で、私はあるプレイヤーに通話を掛ける。
掛けた相手は私の頼みは絶対に断れない……即席だろうと私に絶対に合わせられる、一周目の優勝者。
「さ、まるで間章のように蹂躙すんぞ……黒騎士」
『……本当に他人に容赦が無いよね、姫』
出来るんならソロ部門も消化試合で済ませてたんだよこちとらよ、妹にスイッチ入れられて暴れ散らしたけどさぁ。
──元より私は大会に向いてない、大半のスキルが腐るPVE専用ビルドなんだから。
「……さ、後処理もさっさと流して、最初の"怪物"を殺しに行こう」
知名度稼ぎも楽じゃねぇなと思いながら立とうとして……意識が切れたように崩れかけた。あはっ、マジ気力だけで立ってるじゃん私えら。
(……これで、今日やることは全部終わったかな)
体が重い。頭が痛い。痩せ我慢で動いてる。
それでもなんとか引き摺るように、力が入らないからフラフラ歩いて……あれ、歩く意味あったっけ?
もう別にログアウトすりゃ良くないか? もう別に街の中なんだし。
(……いや、)
薄れていく視界、思考、意識。理由なんか分からないくらい頭が回らなくて。
(違う、一つだけ……、)
それでも記憶が、衝動が、私の足を無意識だろうと動かして……
(……まだ一つだけ、やることが終わってない)
結局は足から力が抜けて、脳波がちゃんと通らなくて、もう何も見えなくて、気付けば倒れていく私は……
温かくて柔らかい、よく知る誰かによって抱き締められる。
(……ああ、そうだ)
「──勝ってきたよ、コヒメちゃん」
「ん。おかえりせーちゃん」
──そうして私はやることが済んだから、安心して意識を手放せた。
「……お疲れ様、せーちゃん」