116
Q.なんで定期的に評価求めるの?
A.日刊ランキングに乗ったらより多くの人に読んで貰えるからですかねぇ…あと私が嬉しい
よかったらしていってね
「ふざけんなよアイツ……私相手にどんだけ舐めプしてたんだよ……!」
「あー……ご愁傷さま?」
観戦席で試合を見てるけど、時間が経つにつれて隣人がどんどんうるさくなるのが鬱陶しい。
結構大事なことは聞けたけど、真隣に座ったのは失敗だったかもしれないと思いつつ、おやつのポップコーンを口へと運ぶ。
「せーちゃんって戦闘技術以前に発想がおかしくない?」
「発想があってもフィジカルが無いと体現出来ないから普段そこまでヤバく無いんよ……アイツステータス着くとあそこまで理不尽になんの……?」
銃弾を掴んだり、自分で自分の目を潰して再生させたり、これどう見てもせーちゃんの方が悪役だよね。
技術の粋を化け物にぶつけて討伐しようとしてるような……というかぶっちゃけ、お互い知らない人だったらEnjさんの方を応援してるだろうってくらい、せーちゃんの暴れ方はなんというか……理不尽だった。
「……それはそれとしても、あの人本当に巧いなぁ」
「……多分だけど、単純なPSならお姉より上だと思う」
「ひーちゃんの知ってる人?」
「いや知らない奴。あんだけ強けりゃ覚えてない訳ねぇし、私が見てきた中でお姉除けば一番強いよあの人。現に試合が成立してるじゃん」
「そんなレベルで?」
「そんなレベルで。私だったら数十回は死んでるし……いやお姉であっても死ぬべきじゃない?」
「どっち応援してるのひーちゃんは……そういえばプレイヤースキルだけならって?」
「あー、なんていうのかなぁ……要所要所の判断が変なんだよね。上手く言語化は出来ないんだけど、私が思うくらいだから、それはアイツも感じてるんじゃないかな」
「ふーん?」
大きな歓声が周りからずっと上がり続ける中で、私達だけがさほど興奮せずに会話を続けていた。
時々ひーちゃんが凄く鋭い目で辺りを威圧してるのが気になるけど、それさえ気にしなければ誰に邪魔されることもなく、私は平和に空に映るモニターを鑑賞出来た。
「あ、ポップコーン貰うよ」
「どうぞー」
「あと口端にカス付いてる」
「うえっ!?」
新しく出来た友達は、偶に情緒不安定だけどまるでお姉ちゃんみたいな人だった。
******
「あっは! みぃつけた!」
「お前に地形という概念は無いのか……っ!」
軽くだがギアを入れ始め、頭痛と脳の軋みが加速し始めた。
クソ痛い、クソ辛い、クソ苦しい。だからこれやるの嫌なんだよ……!
感覚の状況再現、それによって今まで以上にかかる脳の負荷を歯を食いしばって、情報の"量"で捉えてソイツを見つけ出す。
直進、壁と天井を筋力でぶち抜いて、さあ直線距離で私が会いに来たよ! 盛大に死んで出迎えろ!
「明らかに機動力落ちたなぁテメェ!」
「チィッ!」
ジグザグに進路を刻んで叩き付ける横薙ぎを、Enjは後ろに飛びながら受けることで衝撃を殺してきた。相変わらずの体術だけど受ける選択をせざるをえなかったのは、回避が間に合わない事の証左だろぉ!?
壁を突き破って吹き飛んでいく先はフードコートエリア、大量のイスやテーブル、厨房が並ぶ中、床を削りながらの着地と同時に、視界封じのテーブルが幾つも飛んでくる。
スローモーションで見えるその光景は、一見すると縮地で加速して体当たりでぶち抜けばいいものだ。
が、相手は未だ私が殺せてないEnj。さあ更に発想を飛ばせ、仕掛けてくるブラフと本命をこの一瞬で思考しろ!
「──これか」
飛んでくるテーブルに跳弾させるつもりだろう銃弾を、テーブルを蹴り角度を変えることで封殺し、吊り紐を切られ落ちてくる照明より早く前へ飛び回避。そのままレジカウンター裏に逃げたEnjに突っ込んで──即座に攻撃対象をワイヤーへと切り替える。
切るというより千切るが正しい感触での切断、一瞬の私のロスの間に壁をぶち抜いて更に逃走を図るEnj……お前も地形壊してんじゃねぇか!
踏み込む直前、炸裂する光球。また目眩しかちょこざいな、状態異常を無効化してポーションをかけ、探知方法を即座に切り替える。
再度加速する激痛と、脳に流れ込む莫大な情報量。
音も、匂いも、姿も、気配も。何もかもをシステムが消して私から離れていくEnjを、私の脳が──スキルを殺して見つけ出す。
「……あーマジで鈍ってる、全力だと多分これ出来て一秒か……なっ!」
吐き気を飲み込み、まだ何も見えない視界でさあその場所へ。
把握した座標へ一直線に突っ込んで、見えない敵を荒業で捉えた私は……待ち構えるワイヤーを破壊して減速しているEnjの元へ!
逃走? 潜伏? いい加減ネタが尽きてきたか? 私からは逃げられねぇよ!
「追い込まれた気分はどぉお?」
「──チェックメイトといったところだ」
「はえ?」
直進し、ぶち破って、追いついた。
奴が居たのは巨大なホール状になっているフロアだった。
障害物も特に無く、何故か撒かれている煙幕くらいが肌で感じ取れた特筆点で、寧ろお前にとってやりにくいだろう環境だろ?
距離約20m、一瞬で詰められる距離は然し、それまでにEnjが別の店へと移動するだけの時間がある位置関係で……
「視界以外で見付けるからこそ、お前は致命的に気付けない」
追い付く寸前にそんな言葉が聞こえた瞬間──
──私は凄まじい爆発と駅の崩落に巻き込まれた。
******
Enjはフラッシュグレネードとステルスのコンボで視界から逃れたのに一瞬で捕捉されたことから、彁に視覚以外での捕捉方法があると理解した。だからこそ次に仕掛けたのは、視覚でしか見破ることの出来ない罠だ。
彼女にとって捕捉方法は聴覚だろうと嗅覚だろうとどうでも良くて、重要なのはもう一度目を潰せば彁はまた何らかの……視覚以外の方法で即座にコチラを認識することだ。
不利であることの演出に、思考誘導。
あらゆる策を彁の化け物地味た判断速度で捩じ伏せられたEnjは、事ここに至り、とうとう彁から油断を引き出し一手出し抜いた!
「ふ、粉塵爆発ゥゥゥゥゥゥ!!! Enjがフードコートエリアで密かに回収していた小麦粉を一斉にばら撒き、エリア一帯を爆破させましたぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いや多分これそれだけじゃない! あれだけの量ならEnjは元々この試合に小麦粉を持ち込んでるっ! ただの小麦粉なら例え何トンだろうとほぼコストを圧迫しないから、持ち込み段階で仕様の穴を突いてEnjは大量の小麦粉を爆薬として持ち込んでます!」
彁の放つ一撃よりも遥かに甚大な破壊を齎したのは、彁が煙幕だと誤認してしまった莫大な量の小麦粉だ。
着火させた有り触れたグレネードは密室に充満する大量の小麦粉で粉塵爆発を起こし、爆炎と轟音を立ててフロアそのものを破壊した。
圧倒的火力に晒された施設は当然ながら崩落し、何百トンとある床と天井が瓦礫となって降り注ぐ。
瀑布のようにずっと鳴り続ける、轟音だけで構成された大合唱。
それは無慈悲に残酷に、凡そ一人の人間を殺すには余りも過剰なまでに、まるで化け物でも殺すような規模の火力が彁に向けて叩き付けられた。
「Enjはギリギリ爆破範囲から逃れてますね、まぁ当然っちゃ当然ですが……」
「なんにせよこれで決着で、す……か………………え?」
爆炎は未だに止まず、崩落はまだ続く。
普通死んでいるべき状況は然し、それは5秒経っても10秒経っても試合は何故か終了せず……ある一つのカメラが捉えたその光景に、全視聴者は戦慄する。
そのカメラが映し出したのは、大量の骨と肉をごちゃ混ぜにして造られた、卵のような形の死骸の山。
かなり破壊されているそれは、盾であり、鎧であり、繭であり、壁であり、シェルターであった。
まるで生物を守るかのように固められたソレを見て、先に来る感情はきっと驚愕よりも恐怖だろう。
──生きている、と。
「「どうやったら死ぬんだよアイツ!!!」」
そうして怪物は笑い声を上げて、その殻を刀で斬り裂いた。
自身の対応能力を一手ぶち抜いた化け物に、妹の時以上の瞬間的な興奮を覚えながら。
******
「あは、あはっ、あっはははははははははははははははははっ!!!!!! やっべぇ! 死ぬかと思ったじゃん!!!!!!」
爆発は直撃したし、なんなら私は確かに一回HPが0になっていた。
加えて言うなら『不屈』の食いしばりも崩落による地形ダメージで秒数貫通出来るだろうし、ああ本当にすげぇ! 対人で確かに私は1プレイヤーに殺され掛けたんだ!
PSで対処出来なくて、私ともあろう人間が、認識外で自動発動するスキルが無ければ負けていたんだ!
「超屈辱! なんなんだ今日は最高に面白ぇ!!!!!」
『不屈』が発動した時点で全MPを使って作った分厚い死骸のシェルターで爆発の後の瓦礫を防いだ私は、生きてはいるけどHPもMPも、散々"断天"を使わされたSPも死にかけだ。
SP以外はまだポーションで何とかなるが、これでもう『不屈』は使えない。あはっ、いいねぇゾクゾクして来たじゃねぇか、後が無い強敵戦ほど楽しいもんは無いからなぁ!
「回復を待つぅ? このテンションで出来る訳ねぇだろそんな女々しいことォ!」
二種類のポーションを飲むだけ飲んで、もう要らんとばかりにシェルターを左手の武器で斬り捨てる。
直後に降ってくる瓦礫の山を、脳火事場で爆発的に強化された筋力を用いた縮地で……超加速したタックルで一直線にぶち抜いていく!
「我流再現第六仮説──」
さあ、脳味噌の酷使を始めよう。
この戦闘はこれを切るだけの価値があるし、結局これって頭がクッソ痛いだけで死ぬまではノーリスクだ。それにトップギアまで入れなきゃ多分脳出血で死にはしねぇ。
「第一ラウンドはお前の勝ちでいいけどさぁ……」
まだ試合が終わっていないことから、Enjは既に私の生存に気付いている筈だ。あっほらもう砂で狙ってんじゃん防がなきゃ。
ビルに跳弾させて背後から来た狙撃弾をドンピシャで斬り捨てて、衝撃で崩れかけた体勢を"ブラストジャンプ"で持ち直して宙を跳ぶ。
この短期間でどんだけ移動してんだってくらい離れていたEnjまで残り凡そ1km、彼女が在るのは遠方の橋の上。
気付けば夜闇の大半を毒が締め付けていた。大会のエリア最大縮小まであと一回ってところだろうか? 時間ももうギリギリで、戦闘可能エリアは後僅か。
ああ、なんて……クライマックスに相応しい!
「さぁ、第二ラウンドを始めようか!」
装弾より速く空中を翔け、視界に捉えたEnjの表情は"ふざけんな"といった具合だった。
おいおい、この場面で笑わないって本当にゲーマーか? こんなに楽しいラストバトルなんて中々無いぜ? 推定第五仮説!
飛んで、跳んで、翔んで、トんで!
銃剣状態の『エル・イルファ96』二丁を抜き、Enjが牽制射撃に放ったマッハ1の30発の弾丸を、私は大半は避けながら、直撃コースの12発だけを二刀の乱舞で叩き落とす。
ああ、体が軽い。使徒戦の時よりも感覚が研ぎ澄まされている。
跳ね上がった筋力により爆速で動ける肉体と、今の処理能力の認識なら、例え弾幕だろうとこの装備なら切り抜けられる。
超音速の銃弾ですら、今の私にはよく視えた。
「ただいま」
「帰れ」
昔、脳火事場に入るためによくやってた絶対に殺す宣言をして、絶え間ない激痛に感覚を更に研ぎ澄ませ。
右手に握る蒼刀[長波]と、左手に握る蒼刀[打波]の、長巻と打刀による二刀流。
解禁した手数の暴力で、さあ反撃と行こうじゃないか!
多分この作品が一番映える媒体って漫画だと思う
サイコちゃんが楽しそうでなによりですね(前半との落差)(負けるな頑張れEnjちゃん)