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昨日は特殊相対性理論について学んでました
物理っておもしれぇ(光速度不変の原理とかいう世界のバグを見つつ)
「ぜ、全滅ぅ〜〜〜〜〜〜!? 『冒険家さん』選手たった一人によって、優勝候補四人が粉砕されました〜〜〜〜!!!!」
「ビルドも確かに強力でしたが、何より戦闘が上手過ぎますね……後半は特に、人数差に付き合わない立ち回りで一気に制圧仕切りました」
熱狂。彁の戦闘を見た実況席と視聴者は、今日一番の盛り上がりを見せていた。
このゲーム内情に詳しくない人達にとって四皇と呼ばれるプレイヤー達は、どれだけぶっ飛んだ強さなのか想像することは出来ない。
が、それでも尚コメント欄が爆速で流れるのは、ひとえに彁の暴れ方が常軌を逸していたからだろう。
強いと言われるプレイヤー達を四対一で下し、多種多様な手札を見せ、そして何故か触手を生やし、凄まじいPSで蹂躙する姿はクソ面白いネタに他ならないのだ。
『ウインク可愛い』『強過ぎて草』『足舐めさせてください』『どんなスキルしてんだコイツ』『化け物じゃんwww』『四皇が鎧袖一触じゃんえぇ怖…』『俺の金があああああああ』『Amazing!』
「コメント欄も盛況ですね鳶さん」
「ええ、本当に。実際凄いことをしましたし、かっこよかったですしねぇ……」
しみじみ語る二人はまるで感想戦かの様相を呈しているが、然しまだ試合は終わっていない。
生存人数二人の表示があるのに呑気なそんな会話が出来るのは、お互いがマップの真逆の位置にいることを嫌という程知っているからだ。
「……さあ残るはあと二人、この大会きっての両雄によるビッグマッチを残すのみとなりました」
「よりによってこの二人かぁって感じですねぇ。予選順位にして63位と174位のダークホースであり、両者共にMVP候補。これなら最後の運営側からの仕込みも上手くいってくれそうで楽しみです」
そう述べる解説の鳶は、ニヤニヤしながら試合中継を眺めている。
その理由を知ることになる視聴者達が思わず声を上げるのは、それからすぐのことだった。
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「んー…………ふぅ。私含めてラストにぃ? まだいんの?」
ガルナにオーダーメイドした武器は全て、操血で作った触手の先に死霊魔術で合成出来るように、持ち手が骨の素材で出来ている。
あくまで私が手で握るつもりは無いので、特徴としては太く、大きく、取り回しが悪そうな物ばかりだ。
「あ゛〜HPやっば、戦闘展開は余裕だったけどリソース大分削れたや」
鋼で造られた刀身2m弱のクソデカソードブレイカーをアイテムボックスにしまえば、武器破壊用に滅茶苦茶重くしたのもあって一気に体が軽くなる。一瞬なら兎も角地味に腰に来るなこれ……漸く止まったHPとMPの減少をポーションガブ飲みで補給してと、さて戦利品でも漁るかね。
「………………大体似たようなもんしかねぇじゃねぇか!」
近場の廃墟に身を隠しつつドロップしたAFを見てみるが、大体がスキル熟練度上げる『覚醒の霊薬』なり、HPMPの上限を上げるものなりしかねぇぞどうなってんの!? 自分の戦闘力に自信ニキしかいねぇんだけど!?
これならまだ愚妹シバいた時のが『爆破の魔剣』なり『スキルオーブ』なりで実入りあったぞ畜生、ちょっとは汎用的な罠や道具持っとけよ馬鹿どもが!
「使い捨ての攻撃無効化AFは私が全部ぶっ壊したし、報酬ほぼ無いようなもんじゃんこれぇ……」
うーんお排泄物、あれだけ頑張った意味とは? 「楽しかったから良かったじゃん」で済んだら飯は食えてねぇんだよ。
まぁでもお陰で今の私のマックスパフォーマンスを試せはしたし、私の検証にはなってんだよね一応。
これだけやれるならもう──
「あっスキャンの時間だ」
考えてたら死の影切り忘れて無様にもMAPに光点を晒してしまった。ただ確認してみれば直近に敵影は無しだし、接敵までに暫くは時間あるか、と……
『突発イベント発生!』
『突発イベント:ファイナルマッチアップ』
『概要:フィールドマップが特別仕様に変更、スキャン間隔を1分に短縮』
『運営からの言葉:最終決戦です、いいゲームを!』
「……ああそんなんあったなぁ」
廃墟の窓から見える色が暗くなり、そして明るくなった。
これまでが昼に降り注ぐ日光だとするなら、今世界を照らすのは夜を焼き尽くす星明かりと人工的な照明だ。
世界に音が増えた。
それは機械の駆動音、蒸気の吹き上がる音、自然に淘汰された都市を塗り潰す近未来的な合奏だ。
「決勝特有、ラスト二人になってからの、絵面を盛り上げるためのエリアの決戦仕様。体験すんのは初めてだな」
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「最高の試合は、最高の舞台で。決勝の最終決戦が始まるのなら、それ相応のフィールドが必要だと思いません?」
マップ"未来都市"は、風化し人の居なくなった未来の東京がモチーフだ。
水没した果てしない線路の脇に立つアンテナが、飛行機の残骸が、幾つもの砕けた廃線が集約する巨大な駅が哀愁を誘うそのマップは然し、今は全くの別物へと変わっている。
天候は昼から夜に変わり、星明かりが照らす都市群は、建物から発せらる眩い光だけで光源を確保している。
そこに廃れた物も、壊れた物も、残骸も無い。
それは誰かが意味に捻りを加えなかった、ただ発展した先にあった"未来都市"だ。
夜行列車が走り出し、鬱陶しい程のネオンで照らされ、高層ビルが過剰なまでに建ち並ぶ……文字通りの未来都市。
或いは現代日本を再現したようなマップが、これより剣と魔法を扱うプレイヤーが殺し合う舞台となる。
「ファンタジーが現代の都市で暴れる構図って、映画みたいでいいと思いません?」
──当然の話であるが、ゲームの運営には金が掛かる。
VRゲームは基本的に購入費+月額費性でユーザーから運営資金を回収しているため、ユーザー数が少なければ何れ運営が回らずサ終を迎えることになる。
故に開発側は常に『既存ユーザーを離れさせない努力』と『新規ユーザーを獲得する手段』を考えなければいけないわけである。
興行と、話題と、絵としての良さと、何よりロマン。
これがもし塩試合になろうものなら、盛り下がりも凄まじいことになるであろう試みは、果たしてどんなドラマを生むのだろうか。
果たして勝ち残った二人のプレイヤーに賭けた、大袈裟に言ってしまえばこのゲームの未来を握る一戦は、どれだけの盛り上げるを見せるのだろうか?
「……さあ、『Enj』選手の射程距離です」
その答えは開戦の一発を見れば、自ずと分かることだろう。
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──少し集中を欠いていたことは認めよう。
妹にノせられて脳火事場を解禁し、それからよく知ってる廃人四人を蹂躙して、ある程度精神的に満足しちゃってたのもあるんだろう。
私は唯一このゲームでの二周目のプレイヤーだ。故に当然、一周目の世界で強い奴なら大体覚えてる。
「接敵は……エリア中央辺りになるかなぁ」
ヒビも無く、綺麗に舗装された黒のコンクリートを、前回のスキャンで映った光点に向け歩いている。
HPもMPもSPも、実質的なHPであるシールドも100%、『殺戮躍動』も死霊を適宜自壊させて維持出来ている。
万全、だからこそ私からしたらこれは消化試合なのだ。
「三回のスキャンでほぼ動かないってことは罠張ってるんだろうし……さて、お手並み拝見といこうかね?」
先の四対一と、私の記憶からして、もうこの試合で私をタイマンで倒せるプレイヤーは存在しない。
だからこそ今の私がこの決戦に求めるのは、少しは楽しませてくれよ? という願望で、罠だろうがなんだろうが、態々全て正面から踏み潰してやる予定だったのだ。
「さてスキャン、逃げも隠れもしないよ私は?」
間隔が短縮されてから都合、四回目のスキャン。
前回記録した敵の位置にもうすぐまでの距離で迎えたそれは、まずマップに私の光点が表示されて……それで終わりだった。
敵影、無し。
「……あ? 探知スカされ──」
積もり積もった結果の致命的な判断の遅れ。
対応を思考するよりそれは早く、速く──
──頭を撃ち抜かれた私は久方ぶりのトマトになる感覚で、目玉と脳味噌を勢い良く空中にぶちまけていた。
最近ブルアカ配信者のアーカイブを身漁るゾンビになってもうてる助けて時間が溶ける