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そういえばこの小説の投稿から一年が経ちました
時間の流れって早いですねぇ……
デイブレイクファンタジーは原則として、スキルを発動するのに発声は必要無い。が、発声しない無詠唱の場合、スキルを"発動する"と決めた瞬間から、実際に"発動する"までにラグが発生する。
この発動までのラグは発声している場合は起こらない現象であり、プレイヤー間に駆け引きを生むゲームとしての仕様だ。
「瞬間対応でもねぇのに態々口に出す必要ねぇだろ」
全部嘘。
足音を氷で強制的に響かせ、落雷で場所を釣る。
全てはこのフィニッシュプランのために、何十にも嘘を重ねた発声でタンクを真っ先に処理した私の視界には、爆ぜたコンクリートの破片がスローモーションで飛んでいた。
生存力は高いが反応速度で劣るREMONが死に、空を射抜く矢が雷撃に掻き消され、一瞬では処理不可能な情報量が戦況に更なる思考停止を生んだ。
ああ、余りに判断が遅い。処理すべき情報量が無さ過ぎる。
もう既に蹂躙は始まってるよ?
「"ブラッドジャベリン"!」
発声。同時、操作されたのは氷床の下!
戦闘中に飛び散っていた操血の残骸を『血魔法』の特性で掌握し、コーティングを破砕し飛び出た幾本の槍が背後にいる前衛二人へと奇襲する!
「「ッ!?」」
当然軽く迎撃されるだろうそれは然し、私に更に不可避のタイムアドバンテージを作り出すための餌。
魔法発動と共に地を蹴り飛ばした私に対し、彼らは致命的に反応が遅れた。
後衛の位置が割れているというのに、この私に対してだ!
「あはっ! 誰からでもいいなら後衛から潰すよなぁ!?」
体が浮いているかのように軽い。トップギアに入った思考速度を邪魔する物は無く、全能感で満たされている私は飛んだ。
未だ白くて見えない視界の中、音で索敵し終わっている方向へと。
爆速でインプットし処理されていくあらゆる情報が、そのアバターの輪郭を認識の上に暴き出す。
後続は間に合わない。視えなくても見えているその敵へ、さあ一瞬で距離を詰めろ!
「"操血"、"錬血"」
「クッ、ソッ、がァっ!」
感覚で捉えた返答は魔法とAFによる迎撃……に見せかけたトラップによる時間稼ぎ。
私の知覚は目でもなきゃ音だけでもない。態々そんな悪態をこの場面で着くわきゃ無い、釣りのためのブラフだろ見えてんだよ雑魚が!
知覚領域を広げる、目を見開き脳味噌を空間に張り巡らせていくように。
勘であり、感覚でもある、ステータスで補強されたそれらで盤面を精査して──
「ここ」
「なっ!?」
アーツ『震天動地』発動、脳火事場と『鞍馬の天脚』で強化された脚力が、莫大なSTRで埋設されていた地雷を全力で踏み抜く。
重量を感知し起動した地雷を──その爆発以上の狂った火力でぶち壊す!
バガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンン!!!!!!!!!!!!!!
世界が終わるような轟音が私の足元から鳴り響く。
それは空気を裂いて、大地を粉々に破壊して、爆音を衝撃が、爆発を破壊が捩じ伏せる。
地割れですら形容に遠い、余りの廃火力は地形を出鱈目にひっくり返し、近くの幾つものビルを倒壊させていく。
巻き上がる残骸と砂埃、白煙が硝煙のように立ち込め、崩壊は未だとめどない。
ダメージをダメージで押し潰す暴力の押し付けは、突き出る鱗のように地形を飛び出させ……辺り一体にスタンを撒き散らした。
(お前らにはまだ見せてねぇからなぁ!)
突き出て荒れ果てた、私を中心に広がる放射状に破壊されたコンクリート。凸凹のそれをSTRで叩き潰し、体を強引に前へ飛ばす。
誰一人として追い付かない、私が描く怒涛の戦闘展開。
ほぼ抵抗をさせずに辿り着いた後衛の眼前で、さあ……
「マッチアップの時間だぜ?」
ミダラとノムキンを何重にも足止めした上で成立させた1on1、助けが来るまで持ち堪えられるかなぁ!?
「ハッ、後衛に白兵戦が出来ないとでも!?」
「いえ全く? だって私後衛職だし」
最も私相手にお前の練度じゃ出来ないも同然だけど。
赤を纏った蒼刀[長波]の刃に応えたのは、仕込み杖となっていた彼の得物。
一刀で武器を切り飛ばし、返す刀でその身を叩きシールドをぶち壊す。
その間に用意していた迎撃のなんかの魔法を蹴りで相殺、そのまま足を踏み込みに使って刺突。切っ先が最高速に達した瞬間、『錬血』で刃に纏わせていた血を魔法へと変換して……射出!
「"ブラッドジャベリン"」
当然ながら私も出来る魔法カタパルトによって超加速した血の投槍が、突きを紙一重で躱したはわジェネに直撃する。
咄嗟に胴体を庇ったのだろう、衝撃によって吹き飛んでいく彼の左腕はちぎれていた。
それを視認し、認識し。鈍化していく視界の景色を前に、脳味噌があるノイズを捉える。
「"操血"……"死の影"」
血で出来た触手を視認させながら、発声と同時に掻き消える私の姿と気配。
それを見て反応し驚愕したのは、私の前後にいる二人だった。
******
「コイツ、確実に殺しに……っ!?」
「チィッ!」
彁を除き、この場で一番機動力があるのはノムキンだった。
それはAGIもそうだが、一番の理由は風魔法を持ち、空中を自傷跳躍で移動出来るからだ。
『トラバサミ』現界から続く彁の怒涛の情報制圧は、何れも虚を突くものであったが、それらは全て対地妨害だ。
(ステルスの触手の海を空中で捌けってぇ!?)
だからこそ最短最速で空中を抜けてきた彼ははわわジェネシスの脱落に間に合い、彁に察知される間合いまで詰めることが出来ていたのだが、そんな彼に出される対応は見えない触手が待ち受ける空域だった。
(……いや違う、今捌いて詰めれなきゃ勝てない!)
突っ込めばまず死ぬだろうその空間に、然し彼は自分の反応速度を信じて飛び込んだ。
エアハンマーを蹴り、見えない彁の背後から、土壇場だろうと自分の実力を試し、限界を超えられると確信する生き物は──
「勘で全部流してやr」
──反応するよりも速く、反転した彁の一刀で切り捨てられた。
******
「なっ!?」
氷の魔剣もブラッドジャベリンも震天動地も、全てはノムキンを浮かし、ミダラを足止めして分断するための手段だった。
AGIの差を計測し、それが最も致命傷になる長距離移動せざるを得ない状況をセットアップした、お前だけを釣るための罠だよ馬ァ鹿。
なんで究極無視出来る低火力の後衛を……距離のある敵を最初に狙ったと思ってんの?
なんで少しゴリ押せば殺せるはわジェネを適当に生かしていたと思ってんの?
なんで死の影を後に使って触手を視認させたと思ってんの?
「確定する致命傷」
全部餌。
ステルス中に私がしたことなんて、ただ位置変えしてノムキンの突撃に攻撃を置いただけだ。
ああそう、本当にたったそれだけで。
はわわジェネシスを狙っていると勘違いしていた馬鹿の左腕と脚を、僅かにかすった長巻の刃が軽々と切り飛ばす。
それがどんなに小さな傷であろうと、傷跡が拡張されるこのスキルの仕様はいとも容易く人体を破壊した。
「敗因は論理的な破綻点に気付けなかったことかな」
「ご丁寧にどうも……っ!」
はい絶対殺傷圏内。
何かしようとする背後の敵に触手を差し向け、対して私は瀕死の格闘家を斬り殺す。
二枚。
「そもそもお前なんざいつでも殺れんだよ、態々確殺のために潜伏切るわけ無くない?」
「都合のいいおやつかよ俺は」
え、そうだよ? そしてもう使い終わったしぶっ殺すね?
「化け物過ぎん君?」
「戦闘経験が違うのだよ」
そのまま触手で三枚目も処理して、さて残るは後一枚。
一番処理が重い高機動アタッカーは消えたし、邪魔なだけのタンクと後衛もいない。ラストオーダーになったのは鈍足の技巧派アタッカーとの1on1、早速の鋭い切り込みを長巻で弾き返す。
散々足止めを食らって漸く追い付いたミダラの表情は、こんな状況であっても楽しそうに笑っていた。変態かな?
「HPとかMPは大丈夫かよ」
「殺したから幾分かは回復したよ」
「なら遠慮は要らねぇなぁ!」
実の所ほぼ瀕死だけど、まぁ別にそれは勝敗に関係ねぇし。
もうほぼ片付いたし思考しないまま対応してるけど、果たしてそれで十分タイマンで押せてしまう。
「リソース不足で全力出せませんでしたとか言い訳はされたくねぇしなぁ!」
「足りてようがお前如きに全力出す必要性無くない?」
MPでディメンションコネクト起動、操血で作った四本の触手の先端をアイテムボックスに接続……結合。
換装・ソードブレイカー。
四方から斬閃をその自慢の刀に叩き付け、握る両腕ごと破壊する。
「ハァッ!?」
ガギィン! と鈍い音がいつまでも響いて、衝撃で怯むミダラが酷く遅く見えた。
驚く暇があったら予備の武器抜いて構えろよ。
ああ、本当に世界が遅い。処理能力を持て余している。
何もかもが私の想定を飛び越えない、余りにも退屈な世界に私が居た。
さあ、これで──
「GG」
──鏖殺。
踏み込んで、一閃。
防ぐ手段の無かったミダラの胴体を横に両断し、最後の『殺戮躍動』を起動させた。
「……ま、使徒戦に比べりゃどうってことないね?」
精神的疲労も無しに総括した感想を呟けば、まるでインタビューでも求めるように近くの中継カメラが寄ってきた。
きゃあ見られてる。でもまぁ予選と違って隠れる必要も無いし……
「……楽しんでくれた?」
ウインクを決めて可愛い声を意識しながら、そんな分かりきった質問を投げてみた。
読者って実質視聴者とも言えるから、配信が題材にある小説って書いててなんか面白いですね