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更新期間が空きすぎた小説って前後の話を忘れた読者に前話からの流れを確認させに行かせたり、読む気がそもそも失せさせてたり、作者への信頼が地に落ちたりするので普通にクソですよねー
特に生存報告や感想返信もせずに、章末でも無いのに途中で唐突に失踪したりすると心象最悪ですよねー
そんなクソ小説があったら私なら読む気失せちまうぜ!
まぁ全部二周目のサイコパスの話なんですけど
雨宮霖という人間は、天性のエンターテイナーである。
例え本人にそのつもりが無かろうと、彼女の絶対的な行動の指針が"自分にとって楽しめること"であり、"超高難易度の目標や自分の存在の証明"がそれである彁は、他者から見るだけなら予測不可能な面白い生命体に他ならない。
事前情報、オッズ、戦闘クリップ、実況解説etc……様々な要因が絡まり、真面目に見ていた視聴者が優勝候補と認識している四人のプレイヤーに対し、たった一人で圧倒するその化け物の存在は、
そうなるように煽り仕向け歓迎する彁の姿は、正に観客が求めていた予想外のエンターテインメントに他ならない。
ビッグマッチの盛り上がりは熱狂を極めていた。
「爆発ーーーーーー!? 市街区に退いたはわわジェネシス選手に爆撃が降り注ぐーーーーーー!?」
「…………この人のビルドマジか、ここまで効率化して組めるか普通?」
実況席が追う観戦カメラは俯瞰視点であるが故に、画面が拾う情報量は白兵戦を演じる四者より遥かに多い。
彁にAF『爆破の魔剣』を投げられ、追手のスケルトンアーチャーを放たれ戦線から離脱したプレイヤー"はわわジェネシス"は、分かりやすく封殺されていた。
「見た目からは考えられない火力を召喚獣が連発していますが、鳶さんこれはどういうことでしょう!?」
「武器ですね。スケルトンアーチャーは射撃能力以外に大した能力を持ちませんが、武器は後付けで強化出来ます。例えば鏃にグレネードを『合成』した爆弾矢を渡せばこのような爆撃隊を作ることも可能でしょう」
「強過ぎませんかそれ!?」
「エイムは下級AI且つ流石に量の用意は難しいので、あくまで超短期的な時間稼ぎに強いだけですかね。特に本体の処理自体は苦戦しないでしょうし。……ただ、」
ゲーム運営から解説のために派遣された鳶はそこで言葉を区切ると同時、一筋の閃光がはわわジェネシスのすぐそばのビルに突き刺さり、大きな爆発を引き起こす。
「最初にあの投擲を食らい、こうして偶に冒険家選手がグレネードを投げられる状況じゃ、下手に位置をバラすことは出来ないでしょう」
「何よりスケルトンの攻撃も同じ爆発、油断して攻撃者を取り違えたらと思うと攻めるに攻めれません!」
あくまでこの戦況は莫大なリソースを使って維持されている、何れは崩壊する封殺だ。
それは果たして一分なのか二分なのか定かでは無い。が、しかし、それがどれだけ短くとも彁はこの瞬間、リソースで時間を買えていた。
「捻出した極短時間の三対一、それだけあれば彼女には十分なのでしょうか!?」
そうして化け物は戦場を制圧する。
自分の思考の望むままに、全ての情報を平らげて。
実況の煽りで興味を、興奮を、期待を膨らませる視聴者達。
その熱狂は文字通りに、文字として現れていた。
『バトロワ大会』デイブレイクファンタジー公式大会掲示板Part32『決勝』
241:名無しの異邦人
決勝から板の消費速度エグすぎるっピ
242:名無しの異邦人
なんなんあいつ強過ぎんだろ!?
243:名無しの異邦人
ステータスもそうだけどPSが何よりエグすぎる
244:名無しの異邦人
四皇前衛総出と互角マ!?
245:名無しの異邦人
はわじぇね兄貴使えねぇ!
246:名無しの異邦人
剣戟でミダラに着いてけんの!?
247:名無しの異邦人
隙全部潰してくるじゃん
248:名無しの異邦人
触手と浮く剣盾が絶妙に連携殺してる!
249:名無しの異邦人
なんであれで魔法使えんだよ!
250:名無しの異邦人
召喚職なのあれで!?スケルトンエグすぎ
251:名無しの異邦人
シンプル化け物
252:名無しの異邦人
今見ずに迎撃しなかった?
253:名無しの異邦人
アーツ素で叩き落とした!?
254:名無しの異邦人
てか360°常に把握して戦ってる!?
255:名無しの異邦人
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
256:名無しの異邦人
熱い!
257:名無しの異邦人
つっよ
258:名無しの異邦人
どこにいたんだよあんな化け物!?
259:名無しの異…………………………
「随分と盛り上がってんなぁ」
それは某配信者の生配信にて呟かれた言葉だった。
まだプレイして無いゲームの公式大会を案件でも無いのに同時視聴する彼は、心底から楽しそうにその映像と、爆速で流れる掲示板の内容を見ていた。
『力羅めっちゃ嬉しそうじゃん』
『りっきーが度々話してた子ってあの子?ヤバいね確かに』
『女子高生くらいの子目当てに鑑賞してるの控えめに言って犯罪者』
「おう控えめに言わなかったらどうなるんだコノヤロウ」
目敏くコメントに反応した彼に対し、辛辣な罵詈雑言で埋まるコメント欄のいつもの光景に薄く笑うその男は、肩肘を着いてその少女の躍動を見守った。
その眼差しは懐かしい悪友に向けるものでありながら、どことなく子供に向ける暖かい物にも似ており……彼と彼女の過去を踏まえれば、そんな特殊な感情になろうともいうものだ。
「第二仮説を真っ向勝負で敗った在野のプレイヤーがいるって話してさ、"は?"って言われる気持ちが分かるかい?」
男は自分の実力に誇りを持っていた。故に、その少女の立ち位置に彼は歯痒い思いをしていたのだろう。
自らを倒した英雄が未だ世界に知られず、この界隈に見つかること無く、極数人の知り合いしか認知していない事実に対し。
「さあ、世界に羽ばたけ無冠の竜。お前の強さを見せてやれ」
男……二年前に彁に敗れたプロゲーマー、第二仮説『力羅』は、こんな凄い奴が居るんだと自慢するように、彼は彼女を我が子のように紹介した。
「……それはそれとしてなにあの触手、とうとう体も人間辞めたかアイツ」
小さなコミュニティであろうとも、それは確かに。
やがて太陽に挑むまで飛ぶことになる彼女の背を最初に押したのは彼らだった。
或いは外堀を埋められ始めたとも言うのだが。
******
(確かに強いが、無敵じゃない……!)
盾を持つ聖騎士のREMONは、他のプレイヤーより無茶が効くため最も多くの時間、彁とぶつかっていた。
そもそもランカー複数人掛りでなんで押し負けてんだふざけんなというクソデカ感情を飲み込んで勝つために思考する彼は、持ち前の脳味噌で彁の持つ幾つかの弱点について辿り着く。
「アバターの動きを乗せなきゃステータスが乗らねぇんだろそれ!」
彁の動きは一見直観的に見えて、状況への対処は冷酷なまでに規則的だ。
他の2人……ミダラとノムキンと同時に仕掛けたとして、浮遊する剣と盾と触手によって、互いが攻撃範囲に入る時間は必ずズラされていた。
このオプションパーツ達による迎撃は主に出鼻を挫く目的で使われていて、普通に重く火力もある。加えて、片や浮遊、片や不定形と、動線無く不規則かつ自由に動き回るそれらは、種が分からなければ理不尽と吐き捨てるレベルの難敵だ。
そう、あくまで種さえ分からなければ。
「体捌きでステータスが乗った、あくまで物理法則に則った重い攻撃と、思考操作で追尾させてくるステータスの乗らない軽い攻撃……お前はこれを上手く組み合わせてるだけで、理不尽でもなんでもない!」
言いながら突っ込む彼の進路を塞ぐ浮遊する盾と、それを避けるように回り込んで仕留めに来る武器の付いた触手。
ステータスでは勝てないと分かっていたREMONは然し、それに対して力押しで応じ……シールドチャージと片手剣による払いだけで切り抜ける!
「浮遊武器はお前が握らなきゃ軽いし、触手も途中で曲がったり追尾すりゃ普通に弾けんだろ!」
「だとして、この戦況が何か変わるの?」
瞬間、痛烈な蹴りがREMONの盾の真芯を捉え、体ごと吹き飛ばした。
「それが分かったとして、私本体の強さは変わらないよねぇ!?」
「重っ!」
「チィッ!」
触手を斬り裂きながら詰めてきたミダラと、剣を殴り飛ばして飛び蹴りを放つノムキンに対し、彁は軽々と対処する。
長巻だけでなく格闘も用いる彼女は、例えランカー複数人が相手だろうが引けを取らない。
「ッ未来でも見えてんのかよテメェ!?」
一瞬の溜めの後、解き放たれたミダラでさえ初使用のアーツ。
漸く近付けた彼の、AFによって跳ね上がった『刀技』が使用可能にした超高速の八連撃は、対処の最適解を出されるが如く、彁の最小限の動きで叩き落とされていく。
連続する甲高い激突音と火花。それが八連撃目で終わると知っていたかのように、アーツの後隙と同時の先読みによる反撃は、辛くもVRの天才ノムキンが弾き返す。
「流石の超反応じゃん」
「クソ化け物がよ……!」
間髪入れずの触手の追撃を避ける二人、それに代わって前に出るREMONの思考は爆速で回っていた。
REMONというプレイヤーは理論派のランカーだ。
直感や反応で彁と渡り合うミダラとノムキンに彼が並ぶのはその情報分析能力と読みの力があるからであり、突破口を見い出せない二人と違いまるで焦っていない彼は、この場で彼だけが持つ情報から彁の弱点を狙い続けていた。
「──剣と盾は、吹き飛ばせば戻ってくるまで時間がかかる」
「そうだね」
「触手は数はあるけど、超至近距離だとお前でも取り回しが厳しい」
「そうだね」
「加えて破壊されれば再生はするが、つまり再生は必要だ」
「そうだね」
距離を詰める彼を迎え撃つ触手達。
それを弾き、時には切り裂き、長巻の斬撃と徒手空拳をバランスを破壊されながら防ぐREMONの言葉を、彁は楽しそうに聞いていた。
「──それだけのスペックを維持するのに、お前は何をリソースに使ってる!?」
「──あは♡」
引き裂くような笑みに、蕩けるような声の返答 。踊るようにステップを踏んだ彼女に反し、振り撒かれる暴威は辺りを出鱈目に吹き飛ばす。
その反応がどんな理由によるものなのか、その場に居たランカーは誰一人とて理解できなかった。
不気味極まりない唐突な発狂とも取れる暴走は図星かはたまたブラフなのか、疑問に囚われそうになる一瞬の意識の空白を塗り潰したのはREMONによる報告だった。
「MP! もうそいつ20%切ってる!」
******
持久戦で不利なのは当然ながら私側だ。
ちまちまと二分毎に下僕を作成と同時に破壊しながら暴れていた私は、最大スペックの活動時間に限界がある。
槞の武具を飛ばすのも、操血で作った触手を操るのも、そもそもディメンションコネクトすらMPを溶かして行使しているのだから。
そんなのMPが無くなりゃ機能不全に陥るのは当然の話だ。
「随分鑑定鍛えてんじゃんレモン!」
加えてそろそろはわジェネも戻ってくるかもだし、この三対一の盤面を制圧している内に破壊出来なけりゃ、ああそりゃ私が不利だろう。
(ご丁寧に引き気味に構えてきたなぁ!)
これまでの対処スタンスを変更しこちらから攻めに行けば、三人がかりで私の触手を破壊しながら対処してきた。
無理に攻めず、私のリソースを削り取るように。
「10%──」
「──!」
「──」
(……聞こえなくなってきたな)
疲れてもいないし、限界が近い訳でも無い。
言うなればその真逆の理由によって、耳に言葉が入らなくなってくる。
遅い。
余りにも少ない情報密度に処理能力を持て余し、加速が溢れ、それが世界を鈍化させていく。
音が間延びし過ぎて聞き取れない……懐かしいあの感覚だ。
(5%)
音が在るのが聞こえる。多分それは声なのだろう。
一転攻勢に転じた雑魚三人が私を囲んで同時に来た。
体勢は態との不安定。正面からREMONのシールドチャージ、横から飛んでくるノムキンの乱舞、背後からはミダラのアーツかな。
前に軽く飛んで蹴りで盾に着地し、触手全部壊して突っ込んできたノムキンを長巻で捌き、背面には攻撃予測点に盾置いて防御──抜かれるなこれ、鉈を左手で抜いて防いどく。
両手と両足が塞がって、同時に視界の端に光を捉えた。
はわわジェネシスの攻撃だな、アーチャーもう全滅しちゃったか。これに丁度間に合わせるとかまぁ中々やるじゃん?
MPは底を突いたし、詰めとしてはこれ以上ない解答だねぇ。
まるで絶体絶命、お縄の時間……ってとこ?
「トラバサミ」
──さて、潰すか。
******
その一撃は、誰一人として予測していなかった。
目の前にいたのはMPが尽きたプレイヤーで、足掻けたとしても予備動作のあるアーツしかないという場面だというのに。
たった一言の呪文。
それによって現れた屍肉と骨と血をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせた直径5mはある鯨の頭が、彁の真下から飛び出て地形毎飲み込んだ!
「「「!?」」」
バギャバギャバギャバギャァッ!!!
怪音を軋ませ飛び出た怪物の口はは既に閉じていて、彁をその中へと隔離したそれを前に、その場に居た全員が今度こそ思考を停止した。
衝撃、驚愕、想定外。
それを巻き起こした張本人のしたことは至極単純……『ブラッドキャスト』と『死霊錬成』の組み合わせだ。
HPを対価に行使した魔術は、20レベル毎に作成枠が増えるその三枠目。『トラバサミ』と名付けられた超巨大型キメラゾンビの部分的な召喚だった。
「ッなんだコイツ!?」
彼らの辞書の中に、MPが切れたからといってHPで魔法を使うことが出来るプレイヤーの存在は登録されていない。
これこそが『血魔術』の特異性。
そこに罠を貼り、爆速でMPを消費していた彁の策は完全な形でハマってしまう。
『鑑定』によってステータスを観測していたが故に一番衝撃が大きかったREMONは、完全に意識を破壊されていた。
そう、だからこそREMONだけは、致命的に反応が間に合わない。
「ブラッドバッド、操血」
自動追尾魔法で『トラバサミ』の口内から敵の方角を把握した直後に触手に作り変え、軸足起点の超高速スピンで遠心力と共に広い口内を切り裂く二つの大剣。
『トラバサミ』によって隠されていた内部からの攻撃を躱せるとするならば、それは化け物のような反応速度か危機察知能力を持たなければ不可能だ。
「避けられねぇなら──死ね」
凄まじい抵抗を捩じ伏せて360°を引き裂いた大火力が、前衛で唯一理論派であったREMONに直撃し、そのHPを消し飛ばす!
「がっ!?」
「なっこれ!?」
「は!?」
スキルで食いしばったREMONだけに攻撃は留まらない。
彁が作った触手の先端に今回付いていたのは、正確に言えば骨で出来た手だった。
『トラバサミ』を破壊した剣閃とはつまりそれが握っていた得物であり、その片方は槞の大剣と、もう片方は──彁が最序盤に自分で手に入れたAF『氷の魔剣』
振り抜いた一帯が凍り付くその効果によって、斬閃を躱したミダラとノムキンの足は凍結する地面へと縫い付けられ、追撃へと構えてしまう。
(意識が下に向くこの一瞬──)
それら全てが予定通りでしかない彁は、口を開けさせた『トラバサミ』から上へと飛んだ。
あらゆる反応の裏をかく、思考速度の暴力が盤面を制圧する。
暗黒の体内からの釈放、出迎える陽光は眩しくて……否、余りにも眩し過ぎた。
まるで肉眼で捉える閃光のように、遠方から投擲されていたら唯一冷静な敵からのフラッシュグレネードが、網膜を焼き、平衡感覚を破壊する!
(──それすら予定通りだが)
「"転雷球儀"」
彼女が握っていたそのAFは、ランカーであれば誰もが知っている厨性能のアイテムだった。
発動から一秒置いた後、視界内にいる全プレイヤーに雷を落とすだけのそれは、焦点でロックオンをしなくとも、目を開いていて、視界内に敵さえいるのなら、自動で攻撃が行われる仕様を持つ。
凄まじいステータスによって10m以上跳躍していた彁は反転し、顔を地面の方へと向けていた。
ゲーム的な状態異常によって視界情報を得れず、目眩で瞬間的に平衡感覚を失った状態で尚、それが発動することはそこに居る廃人なら当然ながら知っている。
(こいつ、雷の着弾音で索敵する気か!?)
──ああ、そこにいる天才達はその答えにたどり着くのだろう。
これまで散々見せられた化け物のような動きから、そして自分ならそれが出来るから、フラッシュグレネードが直撃して尚攻撃を強行する彼女を信じて、咄嗟に四人は動き出す。
一人は盾を構えての上空警戒を、一人は回避から反撃のための準備を、一人はカウンターアーツを雷に合わせる調整を、一人は落雷後の予想着地点を狩る置き射撃を。
どれだけ彼女に思考速度で制圧されているかを知ること無く。
「遅い」
──全員は雷の着弾音を予想したが、それは天才の範疇、範囲、発想だった。
──その化け物は、コンマを処理して聞いていた。
"ブラストジャンプ"、"ヘイスト"、"アクセラレート"。
三つの魔法をブラッドキャストで同時発動していた彁は、雷が落ちるよりも早く──
──イーグルダイブでREMONに強襲し、防御より早く爆音と共に最高速度で頭を蹴り潰す。
天才を丁度狩る狙撃は、化け物には余りにも遅すぎた。
凍った地面を踏む音で位置を特定した化け物は、背に轟く雷鳴を絶望のように引き連れ、呟く。
「一枚」