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熱田神宮でおみくじ引いたら大吉でした(1/4)
「…………態々こっち来てすることがこれ? 大事な日なんじゃないの?」
「ヒメちゃんに会いに来る以上に大事なことなんてなくない?」
「本音」
「疲れたから慰めて〜……あーロリ成分補給が捗るわー」
「年下に甘える駄目人間め」
言いながら表情を変えず、仕方ないとでも言いたげな溜息を吐きながら。別に私のハグをひっぺがさない辺りがこの生物の可愛いところ。
膝の上に乗せた小重量、無意識に動く翼は意識的に操作され、私の邪魔にならないようぺたんと真下の座布団に伏せられている。
なんてことはない、とっくになれた私と彼女の日時風景だ。
「いやマジで山登るとは思わんじゃん。登りで死にかけてんのに降りとか馬鹿でしょ」
「運動したら?」
「初日の出もクソも、クソ疲れてるクソ寒い時に態々見たところで何も思うことねぇよクソが。なんであの2人は感動出来んだよそんなキャパ残ってねぇよ」
「運動したら?」
「そっから家着いたら羽付きだの罰ゲームだの福笑いだのなんだの……なんなの今年の正月は!? こんなに最低の年明けなんてある!?」
「極めて一般的な正月の満喫の仕方だと思うけど。寧ろそれを楽しめないせーちゃんに問題があるんじゃない?」
「好き勝手私の顔に筆で落書きしやがってよぉ……!」
「運動したら?」
「ヒメちゃん話聞く気あるぅ!?」
「みかん食べてる方が有意義」
「あれ私の優先度って果物以下?」
「食べる?」
「あーん」
パクリ、と差し出された一粒を横から頬張る。おいしい。再度口を開ければ何も言わずともまた一粒が放り込まれた。
慣れてきたよなぁ私の対応、だる絡みのし甲斐が無くてつまらなくなったもんだ。
「今日は何もしないの?」
「炬燵入ってだらだらする仕事に忙しいからね、君が」
「幼女抱き竦めて暖を取る女よりは暇だけど?」
「幼女は自分のことを幼女とは言わねぇよ……背ぇ伸びたねぇヒメちゃん」
「そう?」
出会った頃の自信なさげな姿は影も形も無く、下では無く斜め下に見える彼女のつむじ。体温の高さはそのままに少しだけ成長した彼女は、精神的にでさえ逞しくなっている。
それは私に似てきたとでも言うのだろうか。性格も、口調も、私から見れば外見さえも。何故か不愉快にも主張を始めた胸部装甲を含め、時間の経過を感じずにはいられない。
「……もうすぐ半年だねぇ、出会ってから」
関係は幾度と無く変化した。
私が何度も限界を超えて進化する度に、私が私を理解する度に、私が世界について知る度に、私の精神性が変化して行く度に。
彼女は常に着いてきて、一緒に成長を続けてきて、何度も私を助けてくれた。
きっと彼女がいなければ、私はもっと狂った方に一人だけで飛躍していて。
お互いがお互いを埋め合う、歪で不完全な相棒との生活は、いつまでも浸っていたい程に心地よく……
そしてそんな冒険も、もう少しで終わりを迎える。
「……そいや***と***は?」
「外で雪だるま作って遊んでる」
「ハブられてんの? ねえ、ハブられてんの?」
「私近付くと溶けるし、あんなん触ってるくらいならせーちゃんとイチャついてる方がマシ」
「何故だろう嬉しくない」
この一抹の寂しさは、淡い雪景色と冷える風のせいだと判断して。
なんてことのない寝正月。二人して炬燵に入って享受する休息日は、退屈になるほど平穏と静寂に満ちていた。
「……ねぇ」
「ん?」
「……振袖、私も着てみたい」
「じゃ、買いに行くか」
こんな日があってもいいと思えた。
君の故郷に、もうすぐ着くよ。
お互いなんてことないように、普段通りにしてるだけという