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ハッピーニューイヤー! あけましておめでとうございます!
新年ということで特別編です、IFなのか未来なのかは2023年の更新に乞うご期待
「あけおめー!」
「あけましておめでとうございます!」
「新年しょっぱならうるせぇな……」
四角い炬燵を三人で囲み、蕎麦を食べながら私は思わずそうつっこんだ。
左右ではしゃいでいるのはいつも元気な妹の姫雨と、もう見慣れた私の厄介オタクこと白ちゃんだ。
チラッと確認した時計に表示されている時刻は0時00分。これがただの日付変更なら騒いでる奴はただのキチガイだが、生憎と今日の日付は一月一日……元旦の年越しだった。
何気に初めてな気がするな、こうして現実で誰かと年越しするの。変な気分だ。
「ねぇゲームしていい?」
「いやダメだけど。なんで逆にお姉ちゃんはそんなテンション低いの?」
「お前らみてぇな高校生と違って私は精神構造が大人なんだよ、一々イベント事で喜ぶと思うなよ?」
「17歳でしょアンタも。はぴにゅや楽しめないのは普通に人間として欠陥品じゃない?」
「全国のゲーム廃人やオタクに謝れクソ陽キャが……白ちゃんもこっち側じゃないの?」
「……? 姉様と年越し過ごせるのに? 人生で一番嬉しい年越しだよ?」
「ああコイツもダメだ、お参りよりそこに参加するゲスト目当てのオタクタイプじゃん」
「究極この子って私が居れば何事でも楽しめるタイプだから」
「酷い言われよう」
言いながら腰に抱き着いてくるなこの十五歳児がよぉ……ええい鬱陶しい、蕎麦が食いにくいだろうがこの厄介オタク!
「あっづ!?」
「いっひゃあ!?」
「あっ、零した。……悲鳴って女子力でるよねぇ」
「腕がッ……熱さと硬さで痛いッ……」
「肘がぁ……姉様の肘が頭にぃ……」
「愉快」
手に飛んだ汁で反射的に引っ込めた肘が白ちゃんの頭に直撃し、倒れてぷるぷる悶絶する二人はああ確かに外野から見りゃお笑いだろうなぁ!
なんで態々作ってやった蕎麦で私が痛い目見なきゃいけねぇんだよ、おかしくない!?
「……ねぇゲームしてきていい? ロリっ子達に癒されてきていい?」
「初日の出見に行くからむーりー」
「は? 勝手に行ってろよ」
「なんで私が一人で行く前提なんだよ、もう三人分の振袖用意してあるからね?」
「姉様の、振袖!?」
「おい待てごら、初詣なら分かるが初日の出に振袖は馬鹿だろ凍死するわ」
「新年をどうせ味わうならとことんまでやった方がいいでしょ、馬鹿なの?」
「何処行くの!?」
「XX大社、カメラも持ってくつもり」
「初日の出バックの姉様とか想像だけで鼻血出そう」
「アシは?」
「足だけど」
「頭ぱっぱらぱーのあっぱっぱーか!? 私の体力舐めてんの!?」
「ぷっ……冗談、そんな遠くには行かないよ。流石に人ヤバそうだし」
ああ良かった、まだ常識あったわコイツ。すっげーナチュラルに言うもんだからマジで行くのかと思ったわ。
私30分歩いただけで疲れるのに、歩いた先がクソ混雑してる場所ってんなら足の骨折ってでも拒否してたぞ。
「行くのは近所のXX山、山登りだよ」
常識は無かった。どうやって骨折ろっかな、コイツの。
「深夜に登れるの? あそこ」
「そう高く無いし、安全な山だから行けたはず。クソ寒いから行く人ほぼいないけど」
「ねぇナチュラルに会話しないで? 私も混ぜて? 決定権を渡して?」
「クソザコ一匹いるから一時間大目に見て……まぁ大体出るのは五時くらいかな」
「着物はどこ?」
「リビング隅のアレ。中にあるよ」
「あああれって衣装箱だったんだ、何かと思ってた。あ、でも私着付けは……姫雨なら出来る?」
「一回動画見れば出来ると思う」
「流石」
「聞けやゴラァ!…………はぁ」
同い年で波長が合うのか、私抜きにどんどん計画が進めていく姫雨と白ちゃんに、あぁこれ抵抗しても無駄だなと察して携帯端末を弄り出す。
動きたくないし興味無いことなんてしたくはない。が、無常にも現実の私は無力であり、こうして行動力の怪物共にロックオンされたら最後、どう足掻いた所で逃げることは出来ないのだ。
冷静に考えたら足折ったら痛いから嫌だし、殴りかかっても容易く制圧されるだろうし、はぁー面倒臭ぇ。
(色々あったなぁ、去年)
バトロワ大会からの研究所の攻略配信。摩天楼にも登ったし、天海の攻略は私の人生を大きく変えた。
そこからの怒涛の展開に、絶望的な状況からの抵抗戦。そっからのゲーム史に残るだろうあの伝説の大海戦は、今思い出しても脳が震えてくる。
(……うげっ)
ゲームの掲示板、SNS、各種サイト……慣れた動きで行き来したところで、そこには呆れる程過剰な新年の挨拶で埋まっていた。うーわまるで使い物にならねぇ、笑い物のネタ探しも出来ねぇとか挨拶とかいう制度滅べばいいのに。
(あ、挨拶結構来てる。ふっ、流石の人望だな? 私)
良くも悪くも世界に轟いた私の暴れっぷりは、実に数々の出会いを生んだ。
一周目より遥かに増えた人との交流は、少し煩わしくもありつつも、正直に言えば悪くは無い。
一人だけの孤独な旅程は、今や常に誰かが一緒にいて、そして大多数がそこにいなくても思ってくれることを理解して、暖かな日差しが万年雪を溶かしていくように、私の生活は他人によって侵食されてきている。
妹に言わせりゃ「少しずつ破綻してた人間性が回復してきてるみたい」らしい私は、果たしてこれがいい変化なのかは分からなかった。
少し不気味で余りにも愉しい私の冒険物語はいっそ清々しいまでに私の極限を引き出してきて、この感覚は判断を下す精神力の弱体化では無いのかと。
(……まぁ、なるようになるしかないけどさ)
前よりトばず、言うなれば常識的な思考にまで塗れてきた私の脳味噌。
私という人間にどちらがいいのかは、最近考えるようになってきたけどまだ答えは出ない。
こんなこと考えるようなキャラじゃなかったんだけどなぁと……未来について考えるようになってきた私は、返すのが面倒なので無視することにしたDMの数を暇潰しに数えていると、唐突に腕を引っ張られて床に押し倒された。ぐえ。
「えっなになになに急に引っ張らないできゃあ!?」
「さっさと出てこいコタツムリ、もう準備出来てんだよこちとらよぉ!」
「20着ひーちゃんが買ってきたから全部着て、着てみて、着て見せてくださいお願いします」
「おいばか何アホなことに金使ってんだよてか力強っ!? は・な・せ! また着せ替え人形にする気かよふざけんな厄介オタクが結託してんじゃねぇ!」
クソっ、妹と友達に強姦される! なんなら強姦より酷いことを強制される! R18を超えないギリギリのラインで精神的に陵辱されちまう! ふざけんななんで姉に表現規制ギリギリの行為を攻めようとする肉親がいんだよDNAにバグでもあんじゃねぇの!? 流石私の血縁だよボケ!
「暴れると怪我するよ? 落ち着いてよお姉ちゃん」
「暴れさす理由が分からねぇのかテメェらが沈黙しろっ! あっクソ脱がすな、鼻近づけんな匂いを嗅ぐなハスハスするな鼻息が荒いんだよ!」
「……抵抗する姉様無理矢理脱がすの、なんか興奮してきた」
「裸なら風呂でなんべんも見てんだろうがっ!」
「それとこれとは話が別」
「抵抗しても無駄なの理解してるのになんで諦めないの?」
「嫌だからっ!!!」
「駄々こねる子供かよ、大人しく私達の着せ替え人形になりなさい」
「かわいい」
「せめて自分で脱がせてぇぇぇぇぇぇあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
この後滅茶苦茶着飾らされた。
「……お姉ちゃんって本ッ当に見てくれだけはいいよねぇ、性格は終わってるけど」
「アッ……アッ……これが六時間早い初日の出、本初子午線はここだった……?」
「うーん超絶美少女、天が贔屓し過ぎて二物も三物も貰っちゃってごめん!」
「天が二物しか与えなかった女の間違いでしょ」
「あ、今度はこの改造ゴスロリミニスカの振袖着てみたい。写真撮ってー」
「結局褒められたら一番乗り気になるのはお姉ちゃんなんだから本当に面倒くせぇ……はいはい動くな、写真は最初の慣れずに裾掴んで赤面してる激カワ状態の時から白ちゃんが撮ってるよ」
「がんぷくです」
「ふふん、私が着せ替えさせてあげてることをもっと光栄に思いながら着付けなさい?」
「うーわ鼻つまみてぇ……」
鏡の前で自画自賛しながらポーズをキメる私を鬱陶しそうに脱がす妹は、愚痴りながらも楽しそうに笑っていて。
ああ、面倒くせぇ女だなぁと、姉妹である私はそう思った。
……余談ではあるが、SNSに投稿した私の写真は『美少女過ぎる』『黙ってれば人類の最高到達点』『これで化け物じゃなければなぁ』『有名なモデルさん?』『何も知らない人を見てくれだけで騙すな』『ヌ゛ッ゛ッ゛ッ゛!』などなど、様々なコメントを付けられてプチバズりした。
……一番リアクションが多かったのは普通の振袖に赤面している私だったのが、少しだけ恥ずかしいのは内緒の話。
白ちゃんに関しては近々本編で掘り下げます(本来12月中に終わってる筈なんだけどなぁ)(なんで終わってないんやろうなぁ不思議やなぁ)
あ、活動報告でちょっとした報告と、某シャングリラな奴に倣って今は口が軽い作者への質問募集してるのでよければ遊びに来てネ