クリーン
ラヴィさんの屋敷へ行ってから2週間ほどが経った。
その間にも、ベルが何度も行き来して本を借りて来ていた。
いつも童話を借りて来ている様で、楽しそうに読んでいた。
それと前回は行けなかった人達もお邪魔したみたいで、すっかり便利な図書館の様になっていた。
そして俺は今日、この前読んだ本に載っていた魔法を試してみようと家の近くの開けた場所へとやって来た。
本には色々な魔法が載っていたが、その中でも便利そうだったクリーンと言う魔法を使ってみる事にした。
水魔法と風魔法で、体を綺麗にしてくれるらしい。
これが有れば、野宿をした時にも体を清潔にする事が出来る。
早速使ってみようと思ったのだが、
「あれ?どうやってやるんだろ?」
魔法の効果ばかりを見ていて、肝心の使い方をしっかりと覚えていなかった。
「こんな時こそ・・・」
と思い、俺はヒルズを呼び出した。
「如何されましたか?」
「ヒルズ先生、俺に魔法を教えてください!」
「先生って・・・まぁ、良いでしょう」
ヒルズはそう言って、何処からともなく眼鏡を取り出してスチャッと装着した。
「それで何の魔法を使いたいのですか?」
「クリーンって言う魔法なんだけど」
「クリーンですか・・・少々練習が必要となって来ますが」
「あれ?そうなの?俺が読んだ本には簡単な魔法って書いてあったんだけど?」
「2人でやると、そこまで難しくは無いですが1人でやると少し練習が必要になります。とりあえず、初めてですので私と一緒にやってみましょう」
「うん!それで、俺はどうすれば良いの?」
「まずは魔法で大きめの水の塊を作り出して下さい」
ヒルズの指示通りに直径3m程の水球を作り出した。
「これくらいで大丈夫?」
「はい問題無いです。そうしたら、ここに私が・・・」
と俺が作り出した水球の周りを風が覆い始め空中に浮いた。
「こんな所ですかね」
魔法は完成したみたいで、水球の周りが風で波打っていた。
「それでは、準備は良いですか?」
「えっ?準備?」
「行きますよー!それー!」
とヒルズが言うとバシャーンと水球が上から落ちて来た。
「うわっ!つめたっ!」
「この様に本来は2人がかりで行う魔法なのです」
何事も無かったかの様に進めているが、俺は今びしょ濡れで・・・
「あれ?濡れてない?」
かなりの水を掛けられたのに体どころか服すら全く濡れていなかったのだ。
「はい、この魔法は水魔法で体に溜まっている汚れを落とすと同時に風魔法で瞬時に乾かしていますので濡れることはありません」
「すごいね、これが有ればかなり便利だね。でも、何で2人でするの?魔法が得意な人達なら1人出て来そうだけど」
「コタケ様の周りには龍王様や魔王と言った特殊な方達ばかりで忘れがちですが、一般的に魔法というのは1人につき1つの属性しか使えないのです。2つ以上の属性を使える人の方が稀なんです」
「そういえば、そんな事言ってたね」
「1人で2つの属性の魔法を使うのは練習しないと難しいので、まずは小さな水の玉に少しの風を纏わせる練習をした方が良いと思います」
「じゃあ練習頑張ってみるよ。それにしても、体とかが濡れないのは良いけど水が冷たいのはどうにかならないかな?」
「一応、火の魔法を加えて発動する事で温水にはなりますが、更に難易度は上がりますね」
「そうか〜じゃあそれは、おいおいだね」
とりあえずヒルズの教え通り、小さい水球を作りそこに風を纏わせようとしたのだが、水球が不安定となりバシャンとそのまま崩れてしまった。
「想像よりも、ずっと難しいなぁ」
「2つの魔法のイメージを同時に合わせないとダメなので、どちらかに集中しすぎると今の様に失敗してしまうんです」
クリーンの魔法を習得するには、まだまだ時間がかかりそうだった。
魔法の練習を終えて家に戻ると、いつの間にか勇者のアイラさんがやって来て、アリーとリビングでくつろいでいた。
「こんにちは!コタケ様、お邪魔してます!」
「お久しぶりです、アイラさん。今日はどうされたんですか?」
「今日はお休みなので、久々にアリシア様に会いに来ました!」
「そうなんですか、それならゆっくりしていって下さい」
とその場を離れようとすると、上の階からオルフェさんが降りて来た。
「なんか騒がしいと思ったら、アイラちゃんだ〜」
「魔王!まだ居たのか!」
「そらゃ私の家なんだから、当たり前でしょ?」
「いや、俺の家でもあるんだけど・・・」
「まぁまぁ、細かい事は気にしない〜」
「それよりも、迷惑はかけてないんだろうな!」
「そんなにかけてないよ〜、ていうかアイラちゃんは私のお母さんかな?」
「誰が魔王の母親なんかするものか!」
オルフェさんとアイラさんが2人で言い合っていると、
「ママ〜?」
と上からベルが降りて来た。
「ママ・・・?」
アイラさんは、ベルを見て固まってしまった。
「お〜い?」
とオルフェさんがアイラさんの目の前で手を振っていると、
「ハッ!」
と意識を取り戻した。
「ママってどういう事だ・・・?まさか、誘拐してきたのか!遂に本性を現したな!覚悟しろー」
「ちょっと、ストップストップ!」
と必死にアイラさんを止めていた。
アリーが居てくれたお陰で何とか止まってくれたので、ベルの事を説明した。
「つまりは、ベルちゃんは魔物な上に伝説として語られているベヒーモスだと・・・冗談ですよね?」
「いえ、本当ですよ」
アリーからの説明でも、なかなか信じられない様だ。
「流石にそれは常識はずれというか何というか・・・皆さんは何も思わないんですか?」
「まぁ、魔物って聞いて驚きはしましたけど、クロ達も魔物ですけどそんなの気にした事ないですし、それに良い子で可愛らしいですよ」
俺はそう言い、アイラさんはチラッとベルに視線を向けた。
ベルは、上目遣いでアイラさんは見ると首を傾げてニコッと笑った。
「くっ!かわいい・・・」
どうやらアイラさんもベルにやられたみたいだ。
「あはは〜、勇者なのに魔物に負けてる〜」
「う、うるさい!この子は特別だ!」
「ママ、この人はなんて名前なの?」
「ん〜、この人はね・・・」
と言いかけニヤッと笑った。
「この人は、アイラおばさんだよ!」
「おばさん!?私そんな歳じゃないんだけど!」
「よろしくね、アイラおばさん!」
「おばさん・・・」
ベルにもそう言われてしまいショックを受けて膝をついた。
ベルからおばあちゃんと言われているティーがアイラさんに同情し、肩をポンポンと叩いていた。
その後、アイラさんは日が暮れるまでベルと遊んだりしていたのだが帰る際に、
「アイラおばさん、また遊んでね!」
と再びおばさんと言われて、
「おばさん、おばさん・・・」
とぶつぶつと言いながら帰って行き、それを見てオルフェさんがゲラゲラと笑うのであった。