片付け
魔王ラヴィさんの家の片付けを手伝いに来て、いざ始めようとした瞬間に家の扉が開き、
「邪魔するぞ!」
と赤い髪の女性が1人やって来たのだった。
「あれ?ララちゃん?」
姿を見たオルフェさんがそう言った。
いきなりやって来たのは、魔王ララ・フィールドであったのだ。
「む?なぜオルフェがいるのだ?それに3人程知らない顔がいるな?」
「あ〜、え〜っと、これはねぇ」
オルフェさんはどう説明しようか悩んだ末に、
「ラヴィちゃん、どうぞ!」
「えっ!?」
とラヴィさんに説明を丸投げした。
「あ、あのララさん、これはですね・・・」
「はぁ、怒らないからちゃんと説明してくれ」
と言われ、ラヴィさんは俺達を呼んだ経緯を説明した。
「なるほど、状況は理解した。だが、いつも言っていると思うが自分で片付けをして習慣化させないとまたこうして人を呼ぶ羽目になるだろ?」
「はい・・・」
「面倒くさいと思うだろうが、私も君の事が心配でこうやって見に来ているんだ」
「はい・・・」
ララさんはそうやって、ラヴィさんを諭していた。
「あの?少しよろしいでしょうか?」
とアリーが2人の間に割って入った。
「あぁ、何かな?」
「ラヴィさんの事を、心配なさっているのは初めてお会いした私でも分かりました。それに家がこの様な状態になっているのもラヴィさんが日頃の片付けをしていないというのも原因だと思います。ですが、今回私達はこちらにある本を読ませて貰いたくてやって来て、それの対価として片付けを手伝おうと思っております。なので、今回だけは皆んなで片付けをするのを許して頂きたいのです」
とアリーは魔王に対して物怖じせず意見した。
それに対して、ララさんはアリーを見つめて少し考えた後に、
「そうだな、貴女の言う通り今回は全員で片付けを手伝うとしよう」
と言ったのだった。
「あ、あの本当ですか?」
「勿論だとも、彼女に感謝しないとな」
ララさんにそう言われて、ラヴィさんはアリーにペコペコと頭を下げていた。
「そう言えば、まだ名乗っていなかったな。私はララ・フィールドと言う者だ。一応、魔王の1人であり国を治めたりなんかもしている。よろしく頼む」
「俺はコタケ ワタルと言います」
「確か、以前の集まりで1度お会いしたかな?オルフェが住んでいる家の家主だとか・・・」
「えぇ、そうです。一緒に暮らしています」
「そうか、その後もオルフェは迷惑はかけていないかな?」
そう聞かれて、オルフェさんは首をブンブンと横に振っていたが、
「割と最近、やらかしがありました」
「む?そうなのか?その件については後でしっかりと話しておこう」
そう言われてオルフェさんは何故と言った顔をしていた。
「それで先程のそちらのお嬢さんは・・・」
「はい、アリシア・ウッドフォードと申します」
「所作が綺麗だと思ったがもしや何処かの貴族なのかな?」
「はい、マゼル王国の公爵家の娘になります」
「そうかそうか、中々にしっかりとした方だ。ところでコタケ殿と同じ指輪をしているが、もしや・・・?」
「はい、結婚しております」
「それは良い事だ!コタケ殿も良き妻を娶ったものだな!」
と言われてアリーは照れていた。
「それでそちらのダークエルフのお嬢さんは?」
「リッヒと言います。オルフェさんと同じでコタケさんの家に住まわさせて貰ってます」
「ふむふむ、ダークエルフまで一緒に居るとは驚きだな。人との関わりが無い種族だからな。それにしてもオルフェよりしっかりしてそうじゃないか!」
「えぇ〜ララちゃん、ひど〜い」
「ならば、しっかりした所も私に見せてくれ」
ララさんは笑いながらそう言った。
「それで最後に1番気になっていたのだが、そちらの幼子は?」
「ベルです!」
ベルは元気よく名乗りをあげた。
「そうか、ベルと言うのか。お母さんはアリシア殿かな?」
「違うよー?」
「では、リッヒ殿なのか?」
ベルは首を横に振って答えた。
「では、まさか・・・」
と言いながらララさんはオルフェさんに視線を向けた。
「えへへ〜、私がママで〜す」
「すまない、ちょっと整理させてくれ」
ララさんが額に手を当て困惑していたので、ベルの事を説明した。
「なるほど・・・つい最近のやらかしと言うのもそう言う事か」
「えぇ、まぁ、そうですね」
「迷惑をかけた様だな」
「いえ、ベルはとても良い子なので全然迷惑でもないですよ」
「そうなのか、そのまま育って貰いたいものだな」
「あれ〜?なんでこっち見て言うのかな〜?」
ララさんはオルフェさんを見ながらそう言っていた。
「さて、自己紹介も終わった事だ、とりあえず片付けをするとしようか!」
と全員で片付けを始めたのだが、3時間経過した所で、
「終わりが全然見えませんね・・・」
アリーがそう言う様に、7人で片付けをしているものの、ラヴィさんに片付ける場所を毎回確認している為、本の量が減っている気がしない。
「あー飽きたー!」
「オルフェよ、子供の前なのだからもっとしっかりしなさい」
「でも、これ何日かかるの・・・」
減らない本の山を見て、皆んなぐったりとしていた。
「あの、魔法を使う事は出来ないんですか?」
俺は、そう提案したのだった。
「魔法か・・・」
とララさんは少し頭を悩ませていた。
「本を浮かして動かす事が出来れば、すぐ終わりそうなんですけどね」
「あ、あの、もしかしたらできるかもしれないです・・・」
「ホント!?それなら早速やろうよ!」
それを聞きオルフェさんが元気になった。
「た、たぶん風魔法でこうして・・・」
とラヴィさんが何やら考えつつ、ぶつぶつと喋っていると足元にスッーと風が吹いた。
その風はラヴィさんに集まり、次第に本へと移って行った。
すると、床に置かれていた本が浮き上がり、フワフワと空中を彷徨い本棚へと戻って行った。
「い、いちおう出来ました」
「ラヴィちゃんやるぅー!これならすぐ終わりそうだね」
オルフェさんが言った通り、1時間後には全ての本が片付けられて終了した。
たくさんの本が浮いて飛び交う様は、圧巻だった。
「良くやったなラヴィ」
「は、はい、これならこれからも続けて片付けが出来そうです」
「うむ、心がける様に」
「そ、それじゃあ、片付けも終わりましたし、約束通り皆さんも好きな本を読んでください」
「結局最後はラヴィさん1人の力でやっていましたが良いのですか?」
「み、みなさんが来てくれたお陰で、こんなに早く終わったので・・・」
「そう言う事でしたら、お言葉に甘えて読ませて頂きます」
「も、もし気に入った物があれば、しばらくお貸し致します」
とラヴィさんは太っ腹だった。
各々分かれて、読みたい本を探しに行った。
俺はとりあえず魔法の本を読むことにした。
最近も鍛錬は怠らずに続けているので、そろそろ自分で色んな魔法を使いたいと思い、調べる事にした。
使ってみたくなる様な面白そうな魔法が、沢山あり集中して本を読んでいると目が疲れて来たので、他の人達はどんな物を読んだいるのか見て回ることにした。
まずは、アリーの所に行ってみると料理の本を読んでいた。
「アリーは料理の勉強中?」
「はい、アンとリビアの様にレパートリーを増やしていきたいので」
「じゃあ楽しみにしておくね」
「はい、皆んなが食べたことの無い様な凄い物を作りますよ!」
と意気込んでいた。
続いてベルの様子を見に行くと何やら童話の様な物が積み上げられていた。
「ベルは何を読んでるの?」
「勇者がドラゴンの王を倒すお話だよ!」
「ドラゴンの王?」
「全てのドラゴンを従える、すっごい強いドラゴンに1人の女の勇者が立ち向かうの!」
(なんか、聞き覚えがある様な・・・)
「ちなみに、そのドラゴンと勇者の名前は?」
「名前は書いてないよ」
「そうなんだ、それで最後はどうなるのかな?」
「ドラゴンは退治されちゃうんだ!」
(ならティーでは無いのかな?帰ったら聞いてみるか)
次にリッヒさんの所へ向かうと、楽しそうに本を読んでいると思ったら、俺の気配に気付いたのかパッと手元に隠した。
そんな隠す必要性があるのかと思いつつ、きちんと隠せておらずタイトルが若干見えていた。
"世界の暗殺術"そこにはそう書かれていた。
「リッヒさん・・・」
「あの、これは何というか、長年の癖というか・・・」
と恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「その割には楽しそうに読んでたけど」
「もう必要無いとはいえ、手数が増えるのが嬉しくて・・・」
とりあえずそれ以上は触れない様に、その場を後した。
次にオルフェさんの所へ行くと、何やらヨダレを垂らしながら真剣に本を読んでいた。
「何読んでるの?」
「私はコレ〜」
そう言って見せて来た本のタイトルは、"名酒100選"という物だった。
「オルフェさんらしいと言えばらしいけど・・・」
「だって仕方ないじゃん、最近はお酒を飲める量も減ったから、こうやって欲求を解消してるんだよ」
「それ逆に飲みたくなってこない?」
「オルフェよ、お前も子供が出来たと言うなら、もう少しタメになる物を読みなさい」
近くで本を読んでいたララさんがそう言った。
「私のタメになってるから良いの〜。それよりもララちゃんは何読んでるの?」
「私はコレだ」
その本のタイトルは"為政者のすすめ"という物だった。
「何それ?」
「これはな、過去の政治の失敗や成功が書かれている本なんだ」
「ふ〜ん、そんなの読んで面白いの?」
「面白いかは重要では無いな、如何に我が国の益となるかを考えて読むんだ」
流石は1番しっかりしている魔王なだけある。
「そんな真面目だから、いつまで経っても独り身なんだよ?聞いてよ、この子ったらこんなに長く生きてて、結婚もした事無いんだよ」
とオルフェさんが煽る様にして言った。
「そ、それとこれとは別じゃないか!それにオルフェだって結婚した事ないだろう!」
と焦りつつ反論したが、
「私はいーですよー。可愛い愛娘が居ますから!」
と勝ち誇った様に反論し、お互いに言い争いが続いたので、その場から退散した。
そして、最後にラヴィさんの元へと向かった。
「ラヴィさん、今日はありがとうございます」
「あ、いえ私は何も・・・み、みなさんのお陰ですから」
「皆んな読みたい本が見つけられて楽しそうでしたよ」
「そ、それなら良かったです・・・」
「ところで、ラヴィさんは何の本を読んでるんですか?」
とラヴィさんが読んでいる物を見せて貰った。
ラヴィさんも魔法の本を読んでいたのだが、俺が読んでいた物よりもレベルが遥かに上の物で理解する事が出来なかった。
「難しい本ですね」
「そ、そうですか?」
「やっぱり本が好きなんですか?」
「わ、私には本と魔法しか取り柄がないので・・・」
「ちなみに、ここにある本ってどうやって集めたんですか?」
「せ、世界中で買い集めたり、自分で読んできた物の内容を覚えて、それを後から書き出して本の形にしてあります」
「えっ!?内容を覚えて来るって凄いじゃないですか!」
「む、昔からそれだけは得意だったので」
この広い屋敷を埋める程の本を買ったり、覚えたりと、やはり魔王と呼ばれる人は一味違っていた。
それから、また読書を再開し集中していたら辺りはすっかり暗くなっていたので、我が家へ戻る事にした。
「じゃあラヴィちゃん、今日はありがとね!」
「こ、こちらこそありがとうございました。あ、あと、こちらが皆さんの家へと戻る為の転移魔法陣の紙です。これは私の家と皆さんの家限定ですけど何度でも使える様になってるので、本を読みに来たくなったらいつでも来て貰っても良いですよ」
「本当ですか!とても嬉しいです!」
それを聞いてアリーが喜んでいた。
ちなみに、皆んな読みたい本を持ち帰る為に何冊か手元に抱えていた。
「それじゃあ、次は私の国にも是非寄ってみてくれ」
「3食付きの豪華な客室でおもてなしをしてくれるなら!」
とオルフェさんが言っていた。
「ふっ、図々しい奴だ。まぁ、少しは期待してくれて構わないがな」
最後にララさんの国へと行く約束もして、俺達は転移魔法で家へと帰って行ったのだった。




