お出かけ
ベルの教材を買い出しに街へと出かけて数日が経った。
ベルは覚えが早い為、算数の問題集を既に1冊終わらせているという。
「この調子で行くと、残りの4冊もすぐに終わってしまいそうなので、また買いに行くことになりそうです」
と言っていたので、近いうちにまたあの街へと行きそうだ。
そして今日はというと、ここ最近勉強を頑張っていたご褒美に全員でティーの国の近くにあった海底国へとお出かけする事となった。
というわけで家の外に全員集まったのだが、
「それでどうやって向かうんじゃ?」
「ティーに乗ってって考えてたんだけど・・・」
「あそこまで飛ぶのは問題ないが、流石にこの人数となると妾1人で運ぶのは無理じゃ」
「うーん、それじゃあどうしよっか?」
頼みの綱だったティーがダメとなると他の案を考えるしかないが、全員纏まって行くには馬車などを使う他ないが、それでは行くまでにかなりの時間を要するので却下だった。
「あの、よろしいでしょうか?」
移動手段を考えているとヒルズが声を掛けてきた。
「もしかして、何か移動出来る方法があったりする?」
「実は、精霊は1度行ったことのある場所へゲートを開く事が出来まして、それを使えば一瞬で目的地へと向かう事が出来ます」
「ゲートって言うと、精霊の国に行く時に使ってるやつ?」
「はい、あれとほとんど同じです」
「それは凄いのじゃ!というかもっと早く言わんかい」
「そうか、前に行った時にヒルズも呼んだもんね」
「はい、その時にコタケ様が他の方達も連れて再度訪れると言ってましたので念の為、目的地へと登録しておきました」
「そのゲートの目的地っていくつでも覚えれるの?」
もし、ゲートで各地へと行けるのであればティーの負担もかなり減るのだが、
「いえ、それが登録できる場所は1ヶ所のみとなります・・・」
流石にそんなおいしい話は無かった。
「それでも今回の目的地には行けるから問題ないか。それじゃあ早速そのゲート開いてもらっても良い?」
「かしこまりました」
そう言って、ヒルズはゲートを開いてくれた。
「どうぞお入り下さい」
俺を先頭にゲートへと入って行った。
ゲートを抜けると目前には大きな海が広がっていた。
「わぁ〜、本当に一瞬で移動出来るんですね!」
とアリー達が驚いた表情をしていた。
後ろの方を見てみると、テンメルスさん達が住む龍王国の城も見えるので、確かに目的地で合っている様だ。
「それでここからどうするのだ?」
全員がゲートを抜けてエレオノーラさんが、どうやって海底国まで向かうのかを聞いてきたのだが、
「前回はひっくり返ってた、亀の精霊を助けたら迎えに来たんですが・・・」
リッヒさんがそう言い、他の人達は辺りを見回したが、
「当然、いるはずはないか・・・」
最悪前回の帰りの様にティーに乗り海の中を猛スピードで駆け抜けるという手もあるのだが、海底国を守る結界で正確な場所は把握出来ないそうので危なそうだった。
そうやって、しばらく悩んでいると、
「あの皆様、あれは何でしょうか?」
とアンさんが海の方に何かを見つけたみたいで指を差した。
よく目を凝らしてみると、人影の様な物が海から上がって来るのが見えた。
その人影はだんだんこちらに近づいて来ると、右手を振りながら小走りをしだした。
「もしかしてネアンさん?」
俺がそう言うと、ヒルズがそうだと言ってくれた。
「皆様〜、お久しぶりですー」
青い髪をなびかせネアンさんがこちらまでやって来た。
「ネアンさん、お久しぶりです。あれから大丈夫でしたか?」
「はい、クラーケンは皆様に倒して頂きましたし、民達も無事に国へと戻って来る事が出来ました!」
「それは良かったです」
「ところで、本日はいかがなされたのですか?」
「実は皆んなでお出かけする事になって、何処に行こうかってなった時にネアンさんの国の事を思い出して来たんですが、お邪魔ですかね?」
「いえいえとんでもないです!丁度、国が元に戻ったのを祝して祭りを開催してますので、皆様でしたら大歓迎です!」
「それじゃあ少しの間お邪魔します」
「では、こちらにお乗り下さい!」
ネアンさんはそう言って、前回と同様に水中でも呼吸の出来る大きなシャボン玉を3つ作り出したので、分かれてその中へと入り、海底国は目指し出発した。
水中でも本当に呼吸が出来ているのに、前回居なかったメンバーはとても驚いていた。
ベルも楽しそうにしており、オルフェさんと一緒にジャンプをしてはしゃいでいた。
一緒に入っていたルインが割れて海に放り出されないかビクビクしていたが、彼女は幽霊なので割れても特に心配ないだろう。
そして海の中の洞窟を抜けて、海底国へと到着した。
「凄いですね、本当に海の中に国があるとは・・・」
初めて来たアリー達は驚きの声をあげた。
街には以前は居なかった住民がいる事で、活気で溢れていた。
ちなみに住民の姿は様々で、人間と全く変わらない見た目をした者や二足歩行の魚の様な見た目をした者、エラのついた白い馬が居たりもした。
「これが本来のこの国の姿です。まぁ今日はお祭りという事でいつもよりかは騒がしいと思いますが」
「色んな人達がいるんですね」
「そうですね、ここには人魚やサハギン、ケルピーと言った様々な種族が暮らしています」
「人魚さん!どこどこ?」
ネアンさんの説明にベルが反応した。
「あれ?居ないよ?」
「皆さんと同じ姿をした者達が居ると思うのですが、その者達こそ人魚なんです。人魚達の足は本来は魚の尾ビレの様な見た目ですが、あの様に2本足に自由に変えることが出来て、地上と同じ様なこの場所ではあの姿の方が楽なんです」
想像していた姿じゃなかったのかベルは少しガッカリしていた。
アリーによると、ここ最近勉強の際に人魚が出て来る物語を読んだ様で、それで期待していたのだという。
「もしかして、もう一つの姿の方を期待していた感じですか?」
ネアンさんがそう聞いてきたので、その様だと伝えると考える仕草をして、少し席を外してすぐさま戻って来た。
「ベルちゃん、あちらを見て下さい」
ネアンさんが国の外の海の中を指差すと、上半身が人間で下半身が魚類の生物が泳いでいた。
「わぁ〜、人魚さんだ〜!」
ベルはそれを見てとても喜んでいた。
「あの、もしかして・・・」
「えぇ、少しの間海の中で泳いで貰う様に伝えて来ました」
「すみません、そこまでしてもらって」
「いえいえ、せっかく来て貰ったんですから楽しんで貰いたいんです」
人魚達は、ひとしきり泳ぎ終えると手を振って散って行き、ベルも笑顔で手を振り返していた。
「楽しかったですか?」
「うん!ありがとうお姉さん!」
それから、ネアンさんとは別れて街の中心部へと向かい祭りを見て回る事にした。
「それにしても地上の祭りと全然変わらんのじゃ」
ティーの言う通り、海底国の祭りも食べ物を売っている屋台や輪投げなどの遊ぶ屋台が立ち並んでいる。
「先程、ネアンさんに聞いたのですがラーブルク龍王国が1番近い事もあり、そこでのお祭りを参考にしているみたいですよ」
アリーがそう言った。
「ほぉ〜そうなのか、なら妾が確かめてやるとしよう!まずは食事からじゃな」
小腹も空いていたので、屋台で何か食べる事にして色々と見て回ったが、海の中という事もあり、魚を串に刺して焼いた物や貝を蒸した物など魚介系の食べ物しか無かった。
ただ、種類自体は豊富で地上では見た事のない様な魚などもあった。
「とりあえず適当に買ってみたが、どれほどの味かの?」
鮎の様な見た目をした魚の串焼きを買って皆んなで食べて見たのだが、
「なんか自然の味って感じだね・・・」
不味くは無いのだが、調味料による味付けが何もされていなくて、ただ焼いただけで若干臭みも残っていたので美味しいとも言えなかった。
「海底国の味を学ぼうと思いましたが、これでは駄目そうですね・・・」
リビアさんとアンさんは料理のレパートリーを増やそうとしていたが駄目だった様だ。
クロ達も口に合わなかったのか、いつもよりも食は進んでなさそうだった。
食事に関しては正直微妙だったが、遊ぶ屋台は地上の物を参考にしているので、十分楽しむことが出来た。
ベルは祭りで遊ぶのは初めてな様で大はしゃぎだった。
それから、再びネアンさんと合流した。
「皆様、お祭りはどうですか?」
「楽しかったですよ」
「それは良かったです。後はこれからフィナーレがありますので、こちらについて来て下さい」
そう言われて、ネアンさんの後ろをついて行き高台となっている場所に到着した。
すると海の中を赤色や黄色、緑色などの様々な色をした魚の大群が泳ぎ始め、順番に花の様な形に群れを形成した。
「綺麗な花火みたいだ」
エレオノーラさんがそう言い、ネアンさんが反応した。
「実はその花火を参考にしているんです。水中では花火を打ち上げる事が出来ないので、色とりどりの魚達がこうして表現しているんですよ」
皆、地上とは一風変わった花火に見惚れた。
10分間程、魚による花火は続きラストは全ての色の魚達が一斉に群れをなしてカラフルで大きな花火を作り出したのだった。
「これにて、お祭りは終了となります。皆様どうでしたでしょうか?」
「フィナーレの花火は特に最高でした」
俺はそう言い、他の人達も頷いていた。
「皆様でしたら、いつでも歓迎ですのでまたいらして下さい」
お祭りを終えネアンさんに別れを告げて、ヒルズにゲートを開けて貰い家へと帰ろうとした時に、海底国の側を大きくて長い影が横切った。
なんだと思い見てみると、全長10kmは超えていそうな大きくて長い青色の蛇の様な顔をした生物がいたのだった。
その生物はこちらを見下ろしながら、
「懐かしい気配を感じて来てみたが、人違いであったか」
と喋ったのだった。
「リヴァイアサン、急にどうしたのですか?」
ネアンさんはリヴァイアサンとその生物を呼び話しかけた。
「そこの童に知り合いの気配を感じて来たのだ」
「ベルちゃんにですか?」
「あぁ、そこに居るのはベヒーモスだからな。しかし、知り合いでは無かった様だから、帰るとしよう」
そう言いその生物は、物凄いスピードで泳ぎ姿が見えなくなっていった。
「ネアンさん、今のは?」
「リヴァイアサンと呼ばれる、世界に1匹しかいない伝説の魔物です」
「ほぉ〜今のリヴァイアサンはあんな感じか、前に見た奴とは違うの」
どうやらティーは過去に見ていた事がある様で、あまり驚いてはいなかったが、俺達はその大きさに驚きを隠せなかった。
「それよりも、ベルちゃんの事をベヒーモスと呼んでいましたがそうなんですか?」
ネアンさんには、ベルの正体を言っていなかったので経緯を伝えた。
「なるほど、それならリヴァイアサンが来たのも納得ですね。ベヒーモスは地で、リヴァイアサンは海で最強の魔物ですからね。先代のベヒーモスとも縁があったのでしょう」
「あれ程大きい魔物がいるなんて知りませんでした」
「ベルちゃんは生まれて間もないでしょうが、今のリヴァイアサンは1000年程生きていますので、あれでもまだ成長途中ではあるんですよ」
「妾が見た奴も確かにもっと大きかったのじゃ」
あれからまだ大きくなるのかと皆んなして驚いた。
「特に何かをする様子も無かったので、気にする必要は無いと思いますよ」
最後の最後に驚きはあったものの、ネアンさんもそう言うので気にしない事にして、そのままゲートをくぐり家へと帰ったのだった。
 




