親友
「ワタルさん、先日言っていたベルちゃんの教材の買い出しに行きませんか?」
アリーが部屋に入って来てそう言った。
ベルの勉強に使う、問題集などを街に買いに行こうと約束していたのだった。
「うん、大丈夫だよ」
「それじゃあ、ティーフェン様にもお伝えして来ますね」
声をかけられてから30分後、準備が出来た様なのでティーに乗り目的の街を目指し飛び立った。
「今日行く街はいつもの所とは違うの?」
いつも食糧や日用品の買い出しには森から1番近い街へと行くのだが、今日はいつもと飛んでいる方向が逆だったのだ。
「えぇ、今日行く所は学校が集まっている街なので、品揃えも他の街よりも良いのです。それとそこで会いたい人が居ますので」
「会いたい人?」
「私の親友です!」
「あっ!もしかしてフランさん?」
「はい、そうです!」
「へぇ〜、という事はその街を治めてるのがフランさんの家なの?」
「いえ、フランの家の領地ではなく、そこで学校の先生をしているんです」
「えっ!?フランさんって教師なの?」
「フランは貴族の女性の中では珍しく、自ら職業に就いた子なんです」
「貴族の女性って、すぐに他の家に嫁ぐ印象があったけど違うの?」
「ほとんどの家はそうですが、フランは強く希望して教師になったんです」
「やっぱり教師になった理由って何かあるの?」
「実は、フランは・・・」
ティーに乗って2時間程経過した所で、目的地であるグアダレンという街に到着した。
「それじゃあ妾は街を適当にブラブラしておるから、夕方になったらまたこの門に集合するのじゃ」
そのままティーは人混みへと消えて行ったので、俺とアリーで街の中を歩き出した。
「最初はどうする?」
「フランに会うのはお昼過ぎなので、今の内に問題集の方を買っておきましょう」
今の時間は正午ちょっと前で、先にベルの為の問題集を買い、昼食を食べた後にフランさんに会う予定の様だ。
「確かここが街で1番大きい本屋の筈なのでこちらで全て揃えましょう」
手紙でフランさんとやり取りをしていたみたいで、先に色々と聞いていたらしい。
「街で1番の大きさにしては、結構小さいね?」
建物は、横に20m程の長さで奥行きも10m程しか無さそうだった。
中に入ると案の定、室内は狭く客も数人しかいなかった。
軽くどの様な本が置いてあるのか見てみたが、俺達が求めていた問題集の他には、小説の様な物しか置いてなかった。
「なんか想像してたのと違ったよ」
「そうなんですか?私的にはこれで大きいと感じてるんですがワタルさんのいた世界では違うんですか?」
「これの倍以上はあったね」
「そんなに沢山の本があるんですか?」
「世界中の本が売られてるからね」
「そんなに沢山あると紙に写すの大変じゃ無いですか?」
この世界の本を手に取ってみると、確かに手書きの様な感じだった。
「あ〜そっか、コピー機とか無いもんね」
「コピー機?」
「自動で紙に文字を写すアイテムがあったんだ」
「そんな便利な物が!それなら大量に作れそうですね」
これは本が普及しないのも頷ける。
それに娯楽系の読み物が小説のみで、漫画や雑誌などは無いので尚更だ。
一瞬、前世の知識を活かして漫画でも描こうかと思ったが、自分にそんな画力が無い事を思い出して諦めた。
腕輪の効果を使えばそれなりの物は描けそうだが、もし広まりでもしたら忙しくなり大変そうなので、我が家限定で漫画を描いて読み回すのが良さそうだ。
「どう?良さそうなのは見つかった?」
入店してから、しばらく経ったのでアリーの元へと向かうと5冊の本を抱えていた。
「今回はこれくらいで充分そうです」
そのまま会計を済ませて、お昼になったので飯屋へと向かい昼食をとった。
フランさんに会うまではまだ少し時間があるとの事なので街中を散歩する事にした。
「あそこにあるのって全部学校なの?」
街を歩いていると、2階建のレンガで作られた大きめの建物が10個程建ち並んでおり、そこに学生と思われる人が出入りをしている。
「そうですよ、分野別に学校が分かれてまして通いたい所に通ってるんです」
「お金は流石にかかるよね?」
「無料ではありませんが、街が入学金などを補助してますので多くの人が通う事が出来ますよ」
「へぇ〜、それは凄いね。貴族の人達も一緒なの?」
「いえ、貴族の学校は別の区画に纏まってまして、こちらは平民の方達専用となってます。貴族は幼い頃から家で家庭教師が付いて教えてもらってますので、どうしても差が出てしまいますし、何かと平民と貴族の間で問題が生じてしまうので分けられる様になったみたいです」
「やっぱりそういう対立的なものがあるんだ」
「それでも優秀な生徒を募り、お互いに交換留学なんかはしてるみたいです」
アリーと散歩をしながら、この世界の学校の話を聞いているとそろそろフランさんに会う時間が近づいてきたので、待ち合わせ場所の噴水のある広場へと向かった。
「待ち合わせ場所はこちらで時間はまだですが、フランは・・・」
とアリーが辺りを見回すと、
「あっ!あそこに居ました!」
広場の隅にあるベンチに金髪縦ロールの女性が腰掛けており、周りとは違った雰囲気を醸し出していた。
「フラーーン!」
アリーがそう叫びながら向かい出すとフランさんもこちらの方を向き満面の笑顔を見せたと思ったら、一瞬でキリッとした表情に変わった。
「ごめんなさい、フラン待ちましたか?」
「えぇ、少し来るのが遅かったのではなくて?」
「一応待ち合わせの時間の10分前なんですが、そんなに早く私に会いたかったですか?」
アリーがからかいながら言うと、
「そ、そんなわけありませんわ」
少し動揺しながらそう答えた。
「とりあえず目的の・・・」
とフランさんが言いかけた時に後ろの方から、
「お母さん、あの金髪のお姉ちゃん1時間前も見なかったー?」
と子供の声が聞こえて来たのだった。
ここで金髪の女性と言うと、アリーかフランさんしかおらず、アリーは俺と一緒に今来たばかりなので、もしやと2人揃ってフランさんを見てみると顔を真っ赤にしながらぷるぷると震えていた。
「フラン・・・」
「これは、たまたま早く着いたので待ってただけですわ!決して貴方に早く会いたかったとかじゃないんですから!」
「もぉ〜素直じゃないですねー」
「そんなことより早く移動しますわよ!」
そう言ってフランさんが歩き出したので俺達はその後ろを着いて行った。
前回会った時も、アリーに親友と呼ばれて照れながらも自分はライバルとしか思ってないと素直じゃない所があったのを思い出し、流石ツンデレだなと思った。
しばらく歩いていると、カフェの様な建物へと到着した。
どうやらここが目的地の様で、中に入りそれぞれコーヒーや紅茶を頼み、一緒にケーキも頼んだ。
席につき、注文した物を待っているとフランさんがソワソワし始めた。
「フランさん?」
俺が名前を呼ぶと、
「は、は、はい!」
フランさんは、先程までとは違い落ち着きのない感じで返事を返して来た。
「フラン、落ち着いて下さい」
「ご、ごめんなさい・・・」
フランさんがこの様な反応になるのには理由がある。
実は彼女は男性が苦手なのだそうだ。
この街へと移動中にアリーにフランさんが教師になった理由を聞くと、
「実はフランは男の人話す事が苦手なんです。なので、結婚も厳しいと自分で考えてるみたいで教師になったそうです」
という事だったのだ。
教師でも、男子生徒の面倒を見ないといけないのではと思い聞いたのだが、どうやらフランさんは女性のみが行う授業で先生をしているらしく、教員用の部屋も個別なので特に問題はないらしい。
「事情は聞いてますので焦らなくても大丈夫ですよ」
「そ、そう言って頂けると助かりますわ・・・」
そうしていると注文した物がテーブルに運ばれてきたので、フランさんは頼んだ紅茶に口をつけた。
「フラン、少しは落ち着きましたか?」
「はい・・・」
紅茶を飲みケーキを食べて落ち着いてきた様だ。
「そういえば、前回会った時は、普通に話しかけてましたよね?」
「あの時は、時間も短かったのとアリシアが結婚するというのが嬉しくてテンションが上がってたので・・・」
「でも、フランが相変わらず元気そうで良かったです」
「私もお二人とも仲が良さそうで羨ましいですわ。最近はどうですの?」
「つい最近、子供ができました!」
「子供!?」
アリーはからかう様に言い、フランさんはとても驚いた表情をしていた。
「ど、どういう事ですの?」
こちらの顔を交互に見ながらそう聞いてきたので、
「俺とアリーの子供じゃなくて、一緒に住んでる人の子供なんですよ」
と誤解の無い様にきちんと答えた。
「そ、そういう事でしたの・・・まぎらわしい言い方をしないで欲しいですわ」
「ふふ、でも驚いたでしょ?」
「流石にこんな短期間で出来るはずも無いですわね。ちなみに、その子供の父親は?」
「居ないですよ」
「?」
そう言うとフランさんは不思議そうな顔をしたので、ベルについて説明をした。
「そんな事ってありますの・・・」
「私達も聞いた時はそう思いました」
「流石魔王と言った感じで自由ですわ」
「ちなみに今日この街に来たのも、そのベルちゃんの為の教材の買い出しなんですよ」
「そういえば、1番大きい本屋を手紙で聞いてましたがそういう事でしたの。私の事はついでだったのですか?」
「そんなわけないですよ、ベルちゃんが来る前からフランに会いたいと思ってましたよ」
それを聞いて、フランさんはほっこりとした顔になった。
「ところで、話は変わるんですけどフランさんってアリーとは学校に通っていた時から仲が良かったんですよね?」
「えぇ、まぁライバルでしたから」
「その頃のアリーってどんな感じでしたか?アリーは面白味も無いと言ってなかなか話してくれないんです」
「ワ、ワタルさん!」
アリーは少し焦った様に止めようとしたが、それを見たフランさんはニヤッとして、
「確かに初めて会った時のアリシアは面白味はありませんでしたが、私とテストなどで勝負する様になり、自分が負けた時は地団駄を踏んで悔しがったりして、とても可愛らしかったですわ!」
「フ、フラン、ストップ!」
「先程からかわれた分お返ししてあげますわ!」
とその後も、アリーが特別な授業で料理をした時に失敗して黒焦げの料理を作った話や、フランさんが得意の魔法の授業でアリーに負けてしまい不貞腐れて数日の間話してくれなかったなど、2人の可愛らしい学生時代の話を沢山聞いていると、いつの間にか日が暮れ出していた。
「もうこんな時間ですか、もう少し話していたかったのですが、ティーフェン様をお待たせするわけには行けないのでそろそろ帰らないといけませんね」
「あら、そうですの。それは残念ですわ」
「また手紙を出すので、その時にお互いの近況でも報告し合いましょう」
「はい、また会うのを楽しみにしてますわ。コタケ様も最初の方は失礼致しました」
「全然気にして無いですよ。またアリーの昔の話を聞かせて下さい」
「えぇ、まだまだありますので次はもっと沢山お話し致しますわ」
アリーはほっぺを膨らませて「もぉ」と言った感じで怒っていたが、フランさんはしてやったりといった感じで勝ち誇った表情をしていた。
こうして、フランさんとはカフェで別れて街の入り口へと戻りティーと合流して家へと帰って行ったのだった。
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