お家デート
「おはようございます」
朝、ベッドの上で目を覚ますと横で一緒に寝ていたアリーの姿があった。
「おはよう・・・」
眠たげたな声で俺はそう返した。
「もうちょっと寝ておきますか?今日は他には誰も居ないですし」
「いや、もう起きようか」
実は昨日の夕方から、他の人達はクロ達も含めて全員、街へと出掛けていて家には俺とアリー以外居ないのだ。
なんとか体を起こして、1階へと降りていった。
いつもであればエレオノーラさん達が起きてきているが、今日は居ないので不思議な雰囲気だ。
「パンを焼きますので、ちょっと待ってて下さいね」
「俺も手伝うよ」
普段はアンさんとリビアさんが朝食の準備と昼食の仕込みをしているキッチンも今日は静かだった。
「なんだかこうしていると新婚の夫婦って感じが増しますね!」
「何気に家に2人っきりって初めてじゃない?」
「そうですね、常に誰かは居ますからね」
「こういうのもたまには良いね。街の方の屋敷の修理が済んだら時々、2人だけで泊まるのも良さそうだね」
「ふふ、楽しみにしておきます!」
朝食を食べ終えて、特にすることも無いので家の周りを散歩する事にした。
「お守りは持った?」
「はい!」
今日は戦えるのが俺しかいない為、ティーお手製の魔物除けのお守りを持って歩く事にした。
「静かですね〜」
ここ最近はティーがいるお陰か家の周りに魔物が寄り付くことも無いので、とても静かだった。
「なんだかこうして、ゆっくりしているのがとても不思議です。本来であれば、貴族としての務めをしているか凄惨な人生が待っていましたからね」
「じゃあ神様に感謝しないとね」
「はい、ワタルさんをこの世界に連れて来てくれた事に感謝しかありません!」
家の周りを軽く一周して家の中へと戻って来た。
「しかし、こうもする事が無いと暇だね?」
「そうですね、動いてないと少し落ち着きませんね・・・掃除でもしましょうか?」
「そうだね」
暇なのでお互い手分けして家の掃除を開始した。
普段から掃除の手伝いはしているものの、アンさんとリビアさんが凄い勢いで終わらせてしまうので、俺達2人だけだとかなりの時間がかかってしまった。
改めて2人が居てくれる事でこの家が回っているのだと実感した。
掃除をしていると、いつの間にかお昼になっていたのでアリーが簡単な物を作ってくれる事になった。
「できました、サンドイッチです!」
具材は家で取れた野菜や果物、狩りで仕留めた動物の肉など数種類ある。
「どうでしょうか?お口に合いますか?」
「うん、すごく美味しいよ」
「良かったです。こうやって自分で掃除をしたり料理をしたりというのは一生縁の無いものだったかもしれませんね」
「他の貴族の人に言ったらビックリするだろうね」
「えぇ、普通じゃありえませんからね。ただこうしてみると使用人が居てくれるありがたさが分かるので、経験してみるのも良いかもしれませんね。今度、フランに会った時に体験させてみましょうか」
「結婚式の時に会った、学園の頃の友人だっけ?」
「そうです、私の親友の1人です」
「アリーの学生時代かぁ・・・どんな感じだったの?」
「そんな面白い話ではありませんよ。あの頃は次期王妃として振る舞って真面目に過ごしていただけですから」
「それでも、フランさんみたいな友達も出来たんだよね?」
「いつも私の周りにいた女生徒は同じ派閥内の家の者達で、次期王妃との関係を築く為の表面上の付き合いでしかありませんでした。貴族なのでそれも仕方が無いとは分かっていたのですが、でもフランだけは、そんな事を気にせずにいつも私にテストの点数など色んなことで勝負を仕掛けてくる面白い子でしたから、私も気を許したのでしょう」
「この前少し会っただけでも、凄い仲が良いって分かったからね」
「こんな話をしていたら久々に会いたくなりました」
「今度ティーにお願いして会いに行ってみたら?」
「それは名案ですね!フランもきっと驚いてくれます」
アリーの学生時代の話を少し聞いたところで、昼食を終えて片付けをしてからリビングに向かった。
「今からどうしましょうか?」
「皆んなが帰ってくるのって夕方だっけ?」
「えぇ、あと4時間程ありますね」
「皆んな楽しめてると良いんだけど」
ちなみに他の人達が何をしているかと言うと、1番近くの街で開かれているお祭りに行っているのだ。
「でもワタルさんも行かなくて良かったんですか?」
「たまにはゆっくりしたかったからね、アリーこそ一緒に残って良かったの?」
「とても貴重な体験が出来たので良かったです!」
その後もソファの上で他愛も無い話をしていると、途中で横に座っていたアリーの頭が俺の肩にコテンッと乗っかった。
アリーはスースーと静かに寝息を立てていた。
気持ち良さそうに寝ているアリーを見ていると俺も眠くなって来て目を瞑った。
「お〜いおきろー!」
どこからか声がしてくるなと思い目を開けた。
「おっ!やっと起きたのじゃ」
目の前にはティー達が居た。
「あれ?なんで皆んながいるの?」
「なんでって、もう夕方じゃぞ?」
どうやら皆んなが帰ってくるのに気付かない程、ぐっすり眠ってしまっていたみたいだ。
「お2人とも寄り添って、幸せそうな顔をして寝ていましたよ」
リッヒさんにそう言われて、皆んなに寝顔を見られたのが恥ずかしくなった。
そういえばアリーはと思い横を見るとまだ眠っており、エレオノーラさんが体を揺さぶって起こそうとしていた。
「お嬢様、起きてください」
「あとちょっとだけ・・・」
「もう皆んな帰って来てますよ」
「まだお昼じゃ・・・」
アリーは寝惚けつつ目を開けた。
パチパチと瞬きをして、辺りを見回し不思議そうな顔をした。
「あれ?皆さんいつの間に?」
「2人揃って同じ反応しおって・・・もう夕方じゃぞ」
アリーはそんなに経っていたのか驚いた表情をして、少し寝癖でボサッとなっていた髪を急いで直した。
「それで皆さんは楽しめましたか?」
「あぁ、楽しかったぞ・・・」
「ルインさんも大丈夫でしたか?」
「私が普通にいたら幽霊だって大騒ぎになりますからね、周りの人には見られない様に出来るだけ存在を消してましたから、きちんと楽しめましたよ」
各々、楽しんできた様だがどこか歯切れの悪い様子だった。
「皆んなどうかしたの?」
「あー、そのなんて言うか、ちょっとした問題が起こっての・・・」
そう言えばオルフェさんの姿を見ていない様な気がした。
「オルフェさんは?もしかして何かやらかした?」
「やらかしたと言えばやらかしたのかの?とりあえず見せた方が早いのじゃ!お〜い、オルフェよ入って来い」
ティーが外に呼びかけると、玄関が開きオルフェさんが入って来た。
「た、ただいま〜」
「うん、おかえり?」
若干オドオドしているものの普段通りの姿で、特別何かあった様には見えなかったので大丈夫ではと思った瞬間、
「ママ〜、この2人はだれ〜?」
と茶髪の小さな女の子がオルフェさんの後ろからヒョコっと現れたのだった。
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