再戦
「エレオノーラさん、私と勝負をして下さい!」
お昼ご飯を食べ終え、ゆったりとしている中でそう言ったのはリッヒさんだった。
いきなりの宣戦布告にエレオノーラさんも驚いた顔をしていた。
「これはまた、いきなりだな」
「不躾ですみません。その以前戦って貰ってから私なりに色々と試行錯誤して練習をしてきたので、その成果を見て貰おうと思いまして・・・」
「なるほど、そういう事ならどんとこい!」
そういうわけで、エレオノーラさん対リッヒさんの戦いを見るべく家の外へとやって来た。
「それでルールはどうする?木剣を先に当てた方の勝ちか?」
「そうですね、かすった程度なら続行で致命傷となりうる攻撃であったなら勝ちということにしましょう」
「それなら審判も必要だな」
「妾に任せるのじゃ!」
とティーが審判役を買って出た。
「ティーフェンさんなら、間違い無いですね!それではエレオノーラさんお願いします」
「あぁ、全力でこい!」
「では、開始じゃ!」
ティーの開始の合図で、2人は剣を構えた。
以前の戦いと同じように、エレオノーラさんは長剣を1本、リッヒさんがダガーを2本持っている。
お互いにしばらく見つめ合った後、先に動いたのはリッヒさんだった。
足に魔法で風を纏わせて、物凄いスピードでエレオノーラさんへと近づき、いきなり左手に持っていたダガーを1本投げつけて、リッヒさんはすぐさまエレオノーラさんの背後へと回った。
前回の戦いの終盤でも行っていた技だが、攻撃のタイミングがズレている事で1度防がれている。
今回も見る限りは先に投げたダガーが着弾してから、リッヒさんの攻撃が当たりそうで、やはりタイミングにズレがありそうだ。
「ふむ、前と似たシチュエーションだな!」
エレオノーラさんは、冷静に飛んできているダガーを撃ち落とそうと剣を振ったがダガーはスッとすり抜けていった。
すぐさま異変を感じたエレオノーラさんはリッヒさんから一気に距離を取った。
「これは驚いたな!」
何故エレオノーラさんが避けたのかと思いリッヒさんを見てみると、先程投げたはずのダガーを左手に持っていたのだ。
「なるほど幻影魔法か・・・」
「あはは、一瞬でバレちゃいましたか」
エレオノーラさんに言い当てられ、リッヒさんは笑って誤魔化した。
「まさか、この前は手加減していたのか?」
「いえ、前回の時は使えなかったんです。あれから練習した事で出来るようになったんです」
「そうだったのか、しかし幻影魔法は闇魔法の1種だったはずだが?」
「どうやら私にも闇魔法の適性があったみたいで、教えて貰ったんです」
「教えて貰ったという事は・・・?」
「勿論、妾じゃ!」
エレオノーラさんがティーの方を向きながら聞くと、自信満々でそう答えた。
「なるほど、それならこの短期間でも成長するはずだ」
「それじゃあ、どんどん行きますよ!」
リッヒさんが続け様に攻撃を繰り出した。
当然、エレオノーラさんはそれらを難なく捌いていった。
基本的にエレオノーラさんは防戦一方だ。
「素人目にはどちらも凄いですが、エレオノーラの方が押されている様に見えますね」
アリーはそう言い、俺も同じく見えたので頷いた。
「エレオノーラさん、まだ本気じゃないですね?」
だが、リッヒさん達の目には違って見えた様だ。
「はは、すまない。ちょっとしたウォーミングアップだよ。今から本気で行くとしよう」
エレオノーラさんがそう言うと、一瞬にして周りの空気が下がった気がした。
リッヒさんも何かを感じたり、パッとすぐさまダガーを構えた。
その瞬間に、エレオノーラさんはリッヒさんとの距離を一瞬で詰め上から剣を振り下ろした。
リッヒさんはダガーをクロスし攻撃を防ぎはしたが、とてつもない威力だったのか片膝をついてしまった。
その隙を逃さないエレオノーラさんに、横腹に蹴りを入れられてそのまま数メートル吹き飛ばされ倒れ込んだ。
「ゲホッ・・」
リッヒさんは顔をしかめて咳き込み立ちあがろうと片膝をついたが、すぐさまエレオノーラさんが追撃を繰り出してきた。
リッヒさんも攻撃を喰らうまいと風魔法をエレオノーラさんに向けて放ち再び距離を取った。
「はぁ、はぁ」
息を整えようとしたが、エレオノーラさんがまた距離を一瞬で詰めてきて打ち合いとなる。
先程までとは逆でリッヒさんが防戦一方となっていた。
「うわ〜、凄いねぇ〜。これ私も勝てるか分かんないなぁ」
「オルフェさんでも、そうなんだ?」
「エレオノーラちゃんが魔法を使えないとは言え、実戦経験は上だと思うし、結構厳しいかも」
そういえば、エレオノーラさんは魔法は使えないのであった。
それでも、これだけリッヒさんを圧倒しているとは、Sランク冒険者の実力は計り知れない。
戦いが始まり20分くらいが経っただろうか、リッヒさんは汗だくになり、エレオノーラさんも少しだけ汗をかいていた。
これ以上、戦い続けるのはマズイと思ったのか遂にリッヒさんが動き出した。
とてつもないスピードでエレオノーラさんに駆け寄り、最初と同じ様にダガーを投げつけた。
すると、ダガーは10本に分裂してエレオノーラさんを囲い込んだ。
恐らく先程と同じ幻影魔法なのだろうが、この中で本物を一瞬で見抜くのは難しそうで、これにはエレオノーラさんも驚いた表情をした。
ダガーがエレオノーラさんに向かっている最中にリッヒさんは高くジャンプして、上から攻撃をしようとしていた。
「なかなか面白いが・・・まだまだだな!」
そう言うとエレオノーラさんが右斜め前から飛んできていたダガーを剣で弾き返し、続いてリッヒさんからの直接の攻撃も剣で受け止めて、そのまま腕を掴みそのまま地面に叩きつけ首筋に剣を当てた。
「そこまでじゃ!」
ティーの合図により戦闘終了となった。
「はぁ、はぁ、ありがとうございました・・・」
「ありがとう。以前よりもかなり強くなっていて驚いたぞ」
「ありがとうございます。それでもまだまだでしたね・・・今後の参考に何故最後の攻撃を防げたのか教えて貰っても良いですか?」
「恐らくあれだけの数の幻影を作り出すのにはまだ慣れていないだろう?本物と幻影の木の質感に違いが見えたのと1本だけ軌道に安定性が無かったんだ」
「確かにあの数を出すのには慣れてませんが、あの一瞬で見破られるとは・・・」
「そこは要練習だな!それと上からの攻撃も良いんだが落下している最中は身動きが取れないから風魔法で加速したり、場合によっては着地点をあえてずらして着地してから相手に攻撃をするといった感じでもいいな。それでも攻防中にも何度かダガーがかすっていたからな成長を感じられたよ」
「なるほど・・・ありがとうございます!」
どうやらリッヒさんも戦いで何かを掴んだ様で、満足げな顔をしていた。
「なんだか、妾も1戦交えたくなってきたの〜」
今の戦いを見て、ティーも戦いたくなったのかオルフェさんの方をチラチラ見ながらそう言った。
「いや〜楽しかった楽しかった!さて家に戻ろっか!」
オルフェさんは気付いてないフリをして家に戻ろうとしたが、ティーに腕を掴まれ、
「何を戻ろうとしておるんじゃ?」
「いや〜ほら!みんな疲れただろうし家に入ってゆっくりしようよ」
「疲れたのは2人だけじゃから問題無いじゃろ?ほれそんな事言ってないで行くぞ!」
「い、いやだー!まだ死にたくないー!」
「一々大袈裟な奴じゃな〜」
そのままオルフェさんは、ティーに引きずられて森の中へと入っていった。
しばらくして、ティーは満足げな顔をして、オルフェさんが半泣きで服をボロボロにして帰ってきたのは言うまでも無かった。