過去
エレオノーラさんの実家へと行き、無事に母親のメルローズさんに会い、俺は初めてエレオノーラさんの昔の話を聞く事となった。
「エレオノーラが生まれて、夫が亡くなった後は私は1人でこの子を育てて来ました。ですが、私も体が弱く病気になりがちで、長続きする仕事もなくとても貧しい生活を送っていました。この子は小さい時から家事など色んな事を手伝ってくれるとても良い子だったんですよ」
そう言われて、エレオノーラさんは照れていた。
「貧しい生活でしたが、とても幸せな日々でした。しかし、そんな日々がずっと続く訳でもなく、この子が8歳の時に大病にかかった私は寝たきりとなってしまいました」
「大病ですか・・・」
俺も前世は体が弱く、よく入院していたので辛さは分かるつもりだ。
「頼る様な親戚などもいなかったので、今まで少しずつ貯めていた貯金で1ヶ月はなんとかもちました。しかし、ついには貯金も無くなってしまいどうしようもなくなった時、この子がお金を持って家へと帰ってくる様になったのです」
「もしかして、その時に冒険者になったんですか?」
「はい仰る通りで、この子は8歳で冒険者へとなったのです」
「そんな昔から・・・でもその歳で登録って出来るものなんですか?」
「本来であれば冒険者に登録出来るのは12歳からなんです」
「では、どうやって・・・?」
俺はチラッとエレオノーラさんの方に目線を向けた。
「自分で言うのもなんだが、私は剣の才能が人よりもあったらしく、その時にはギルドのDランクの冒険者を倒せる程の力があって特別に試験を受ける事になったんだ」
「それまでに剣を持った事はあったんですか?」
「数回だけな、本格的に剣を持って戦ったのはその登録の試験で冒険者と模擬戦をした時だ」
改めてエレオノーラさんの凄さが伝わってきた。
「この子は無事に試験を終えて、冒険者となりクエストを受ける様になりました。しばらくの間、私も冒険者になっているとは気づいていませんでした。もし知っていたら、私はこの子の身を案じて辞めさせていたでしょう」
「気が付いたのはいつ頃だったんですか?」
「この子が冒険者になって1年程経ったくらいでしたね。ある日突然怪我をして帰ってきました。私がどうしたのかと聞いても中々言ってはくれませんでしたが、根負けして冒険者をやっていると話してくれました」
「その日までは薬草採取や比較的低レベルの魔物を倒したりして報酬を得ていたからバレる事は無かったが、試しに自分と同レベル以上の魔物と戦ってみたら、勝利はしたもののこちらも怪我をしてしまったんだ」
「そういうことなんですね。でもなんで急にレベルの高い魔物を倒そうとしたんですか?」
「1年経って私はCランクに昇格していた。そしてその1年の間に母の病気が治ることの無い物だとも分かったんだ。そこで私が目につけたのがエリクサーと言われる物だった」
「エリクサー?」
「年に1、2本しか世に出回らず、どんな病気でも治すと言われる万能薬だ」
「そんな物があるんですね。でも聞く限りかなり高額そうなんですが」
「そうだなその時によって値段は変わるが、だいたい白金貨1枚程だ」
(万能薬だから分からなくも無いけど、1億円もするのか・・・)
「当然、そんな物を買うお金など簡単に貯まる訳でもなく、まずはランクを上げてもっと高額の依頼を受けれる様目指して行ったんだ」
「メルローズさんは、何も言わなかったんですか?」
「私もそれを聞いた時は、辞めさせようとしました。私の為とはいえ、この子を危険に晒す事など出来ませんでしたから。でも、私は寝たきりの状態だったので結局この子を止める事は出来ませんでした・・・」
「それから5年後、私は14歳になりランクもAまで昇っていた。しかし、それでもエリクサーを買うにはまだまだお金が足りていなかったんだ。そんなある日冒険者ギルドの方にある少女がやって来た」
もしやと思いアリーの方へと視線を向けた。
「当時10歳の私ですね」
「お嬢様は私の噂を聞いたらしく、護衛騎士になる様に誘いに来たんだ」
「私もあの時の事はしっかりと覚えてますよ。貴族なんかに用はないって言われて見向きもされませんでしたからね」
とアリーが笑いながらに言った。
「お嬢様、その事はもう忘れて下さいと何度も言ったじゃないですか」
エレオノーラさんは恥ずかしそうにそう言っていたが、
「今のエレオノーラにはないトゲトゲしさがあって良かったじゃないですか」
と楽しそうに話していた。
「それはともかく、その後も毎日、私の所に誘いに来ていたが断り続けていたんだ。だがある日を境にギルドへとやって来なくなり諦めたかた思ったのだが、1ヶ月後に再びギルドへと顔を出したと思ったら、誰かから事情を聞いたのか私の前に1本のエリクサーを持って来たのだ」
「あの時はエレオノーラが入っていたパーティの仲間の方に聞きましたね」
「やっぱりそうだったんですね、今度会った時にお仕置きしておきましょう。とまぁ、お嬢様が持って来たエリクサーを偽物と疑いはしたが、この機を逃せば2度と手に入れる事は出来ないと思いどの様な結果になっても良いから護衛騎士になる誘いを受ける事にしたんだ」
「その後、この子がエリクサーを家に持って帰って私はとても驚きました。こんな物をどうやって手に入れたのかと聞けば貰ったと言うんです、流石に信じられないですよね。それでも、長年寝たきりで疲れていた私は自暴自棄になってそのエリクサーを飲みました。すると、体の芯から新しくなっていく様な感じがして、今までの病気が嘘の様に体が楽になり起き上がる事ができる様になりました」
「それからお嬢様の護衛騎士となったんだが、まだ仮の状態で必要な時にしか呼ばれていなかった。だから、騎士としての仕事がない時にはギルドで依頼を受けて1年でAランクからSランクへと昇りつめたんだ。Sランクになってからも2年間は冒険者としても活動していたのだが、そろそろお嬢様への恩をきちんと返したいと思い正式な護衛騎士となったんだ」
「そういう経緯があったんですね。それじゃあメルローズさんが屋敷で働いてるのって・・・」
「私もこの子と一緒に恩返しをしたかったんです。アリシアお嬢様のおかげで今の私達があるんですから」
「私はエレオノーラを騎士にしたかったので、気にしなくて良いとお伝えはしたんですが、メルローズさんの押しに負けて屋敷で働いて貰うことになったんです。しかも給料は要らないとまで言ってきたんですよ」
「エレオノーラの冒険者時代のお陰で多少の蓄えはありますし給料を貰っていては恩返しになりませんからね」
「まぁ流石にそれでは、こちらの面子も立たないということでこちらの家を新しく建てさせて貰ったんです。ただこの家も実際はもっと大きいのを建てる予定だったんですが、これもメルローズさんに断られてこれくらいの大きさになりました」
確かにエレオノーラさんとメルローズさんの2人が住むには丁度良い広さだ。
「大きな家を貰ってもほんとんど使う事はありませんからね」
「メルローズさんはもっと休んで下さい」
「いえいえ、まだまだ恩を返しきれて無いので沢山働きますよ!」
「さっきも休みって聞いて驚いてたけど?」
「母は年に1回も休む事なく朝から晩まで働くんだ。だから今日の様にクラニー様から強制的に休ませる様に命令されないと駄目なんだ」
「それは・・・もっと休んだ方がいいと思います」
「善処します・・・」
と色々とエレオノーラさん達の昔の話を聞いていると陽が暮れ始めていた。
「あら?もうこんな時間ですか?」
「そろそろティーが迎えに来てそうだな」
「帰られてしまうんですね・・・まだまだ話足りない事があるので、また家にいらして下さい。アリシアお嬢様もお越し頂いてありがとうございます。エレオノーラもいつでも帰って来ていいからね」
「わかったよ」
「さて!それじゃあお見送りについて行きましょう」
帰りはメルローズさんもついて来て4人で屋敷の方へと向かった。
屋敷に到着すると既にティーが待ってくれていて、オーウェンさん達も出てきていた。
「あなたも付いて来たのですか?」
クラニーさんがメルローズさんに言った。
「はい、娘達の見送りに」
「今日はしっかりと休めましたか?」
と聞かれたが、メルローズさんは視線を逸らしていた。
「はぁ、貴方には1度休み方について教えないといけない様ですね・・・」
「はい・・・」
休み方を教わらないといけないのは相当だが、何か起こる前にしっかりと体を労って欲しい。
そうして、皆んなに別れを告げて俺達は家へと帰って行ったのだった。




