帰省
「少し実家に帰らせて頂きます」
ある日、そう言って来たのはアリー・・・
ではなく、エレオノーラさんだった。
「急にどうしたの!?」
アリーも聞いていなかったみたいで、驚いていた。
「しばらく母に顔を見せていなかったので、そろそろ顔を出した方が良いかと思いまして」
「確かにお母様も心配されていると思うので良いと思います」
「ありがとうございます。では1日だけお暇を頂きます」
「それじゃあ、出発は明日にしましょう!」
「あの、お嬢様?一緒に来る様な口調ですが・・・?」
「えぇ、勿論私も付いて行きますよ?あなたのお母様にも久々にお会いしたいですし」
「はぁ、分かりました。それでは私とお嬢様で・・・」
「あとワタルさんも一緒に行きましょう!」
「「えっ?」」
俺とエレオノーラさんは驚いた。
「いや、俺が行っても困惑するだけじゃ・・・」
「いえ、今どの様な方と一緒にいるかを紹介した方がエレオノーラのお母様も安心すると思います!」
「確かにそれはそうかもしれませんが・・・」
「それでは、明日3人でエレオノーラの家へと向かいましょう!」
そして、翌日ティーに乗せて貰い、まずはアリーの実家の屋敷に行く事となった。
どうやらエレオノーラさんの母親はアリーの家でメイドとして働いているそうなのだ。
「今日は屋敷の方にいらっしゃるんですかね?」
「あの人は休む事を知らないので、屋敷にいると思います」
「エレオノーラさんのお母さんってどんな感じの人なの?」
とアリーに聞いてみた。
「エレオノーラと似ているところもありますが、多分ワタルさんが想像している様な感じでは無いと思いますよ」
俺が想像しているのは、エレオノーラさんに似た厳格そうな人なのだがアリーの言い方的違うのだろうか、会うのが楽しみになって来た。
それからしばらくして、アリーの実家の方に到着した。
「アリシアーー!」
アリーの父であるオーウェンさんのハイテンションは相変わらずである。
「今日はお父様に会いに来たのではないので・・・」
愛娘にそう言われてオーウェンさんはショックを受け膝を付いていた。
「お母様、今日はエレオノーラのお母様に会いに来たのですが屋敷にいらっしゃいますか?」
「今日でしたらお休みしてるのでお家にいらっしゃるはずよ」
「母が休みですか!?」
それを聞いたエレオノーラさんが驚いていた。
「ここ最近は働き詰めだったので、強制的に休ませました」
「なるほど、それなら納得しました」
(休みんでるだけで驚かれるって一体どんな人なんだろう)
と俺は思いつつ、ティーが1度家に帰り夕方に迎えに来て貰って、3人でエレオノーラさんの実家へと行く事になった。
家は屋敷から近い場所にあるとの事なので歩いて行くことにした。
「そういえば、何度かアリーの実家の方には顔を出してるけど俺は1回も会った事ないよね?」
「いえ、ワタルさんも会った事はありますよ」
「そうだったの?」
「エレオノーラが恥ずかしがって紹介しなかったんです」
「そうだったんだ・・・でもどうして?」
「エレオノーラのお母様は会う人みんなにエレオノーラの小さい頃のエピソードを話すのでそれが恥ずかしいらしいです」
「それだけ愛されてるって事かな」
「ふふ、そうですね!」
今こうしてアリーと話している間も恥ずかしがって耳を赤く染めていた。
「ここです、到着しました」
屋敷からしばらく歩いていると小さな平屋の家があった。
「ふぅ」
エレオノーラさんは玄関に立ち、一息ついてからドアをノックした。
「は〜い。どちら様でしょうか?」
少しおっとりとした声が中から聞こえてきた。
「え〜っと、私なんだけど」
「その声はエレオノーラなの!」
「そうだよ」
「今開けるから・・・はっ!エレオノーラは今は別の所に住んでるからここにいるはずがありません!」
と急に警戒をし出した。
「いや、本物なんだけど・・・」
「いーえ、騙されませんよ!」
「はぁ、どうしたものか・・・お嬢様もいらっしゃるんだけど」
「アリシアお嬢様?」
「はい、そうですよ!」
アリーもドア越しに声をかけたが、
「い、いえ!私は騙されませんよ!」
となかなか警戒を解いてくれなかった。
「もしも本人だと言うのなら今から言う質問に正解して下さい!」
と言い出したのだった。
「では、いきます!エレオノーラが最後にオネショをしたのはいつ!?」
「は!?」
エレオノーラさんはとても驚いた表情して声を上げた。
すると、
「はい!7歳の頃です!」
アリーが元気よくそう答えたのだった。
「ちょ、ちょっとお嬢様がどうしてそれを・・・って、はっ!」
エレオノーラさんはそう言ってすぐさま口をつぐんだ。
「ちなみに、その日はとても荒れた天気で鳴り響いていた雷にビックリしてしてしまったそうです。翌朝泣きながら布団を持ってきたエレオノーラが大変可愛かったとか」
エレオノーラさんの恥ずかしい過去がアリーの口から放たれる。
「そこまで知っているとは、これを教えたのはアリシアお嬢様1人だけですので、どうやらご本人の様ですね」
中からそのような声が聞こえるとガチャッと鍵の開く音が聞こえた。
「あぁ、エレオノーラ!」
会えたのが嬉しいのかエレオノーラのお母さんは少し涙ぐんでいる。
ただ、エレオノーラさんの方も自身の恥ずかしい過去を晒されて、顔を真っ赤にして少し涙を流していた。
「お母さんなんて嫌いです!」
「そんなぁ〜」
娘からの一言にお母さんは座り込んだ。
流石にあの様な質問をしていては擁護のしようが無かった。
2人が落ち着いた所で、家の中へと入っていった。
「お嬢様、コタケ殿、お恥ずかしい所を見せて申し訳ないです」
「いえ、大丈夫ですよ。何も聞かなかった事にしますので・・・」
「うむ・・・」
先程の質問が効いたのかエレオノーラさんにいつもの覇気がなかった。
「はぁ、まぁそれよりもコタケ殿には、まずは母の紹介をしないとな。こちらが私の母のメルローズだ」
「こんにちは、エレオノーラの母です。確かアリシアお嬢様の旦那様のコタケ様でしたよね?」
「そうです、やっぱり屋敷で何度かお会いしてましたか?」
「いえ、何度かすれ違っただけですので、覚えてないと思います」
「すみません・・・」
「いえいえ、謝らなくても結構ですよ」
メルローズさんは親子なだけあって、エレオノーラさんに似てクールな見た目だが、おっとりとした雰囲気で優しそうな感じだった。
「それで、今日はどうしたのかしら?お母さんに会いたくなっちゃったからしら?」
「迷惑かけてないか心配で見に来ただけ」
それを聞いたちょっとシュンとしていたが、
「エレオノーラったら嘘ついちゃダメよ!本当はしばらく会ってなくて心配で戻りたかったんでしょ」
「お、お嬢様!」
アリーがそう言いパァっと明るい表情に戻った。
「もぉ〜、やっぱり私に会いたかったんじゃない」
「はいはい、そうですよー」
とエレオノーラさんは照れながら流していた。
「それにしてもお二人は仲がとても良いですね」
「えぇ、女手一つで育てましたから!でも、エレオノーラにも小さい頃から助けて貰ってましたけどね」
メルローズさんは笑顔でそう答えた。
「女手一つという事は・・・」
「お察しの通り夫はエレオノーラが生まれてから病気ですぐに亡くなりました」
「そうだったんですか・・・」
「エレオノーラからは何もお聞きしてなかったですか?」
「はい、あまり聞く機会も無かったので」
「そうでしたか、それでしたら今からお話ししましょう。エレオノーラも自分から話す様なタイプじゃありませんしね」
「はい、お願いします」
こうしてエレオノーラさんの過去が語られる事となった。
ちょっと長くなりそうだったので今回はここで切って、次回はエレオノーラの過去のお話になります。




