幽霊
俺とティーはアリーのお願いで冒険者ギルドでクエストを受けることになり、街外れにある屋敷の調査へとやって来て、不可解な現象に巻き込まれたと思ったら、その原因であろう幽霊と思わしき人物を捕まえたのだった。
「なんじゃ、もっとおっかない顔を期待しておったのに普通じゃの」
「ご、ごめんなさい・・・」
長い黒髪を下ろして顔を隠していた女の幽霊が髪を上げると端正な顔立ちをしていたので、俺はびっくりしたのだが、ティーはそれがつまらなかった様だ。
「まぁ、そんなことよりも・・・アリシアよお主はいつまで妾にしがみついておるんじゃ?」
アリーは、ドアが勝手に開いたり閉じたりする現象が起こって以降、ずっとティーの左腕にしがみ付き目を瞑っていたのだった。
「も、もう何も起こってないですか?」
「はぁ、もう落ち着いておるから大丈夫じゃ。そんなに怖いならもっと別のクエストにすれば良かったのじゃ」
「こんな事が起きるなんて思ってなかったんです・・・」
そう言いながら、やっと目を開いてティーの腕から離れた。
「やっぱり私には冒険者は向いてなさそうですね・・・」
「今回は冒険とか関係無かったし、また機会があったらきちんと討伐系のクエストでも受けてみよう?」
「はい、そうします・・・」
「それよりも、お主何か気づく事はないのか?」
とティーがアリーに問いかけた。
「気づく事・・・?」
アリーはキョロキョロと周りを見渡してティーの横にいた幽霊と目があった。
「きゃっ!あの、そちらの方は・・・」
「さっきまでお主を怖がらせておった張本人じゃ」
「ど、どうも〜」
女の幽霊に挨拶され、アリーはビクッとなっていた。
「ということは幽霊なんですか?」
「そうです、私は幽霊ですよ。ほら体も若干透明にいるし浮いてるでしょ?」
確かに幽霊は服を着ているはずなのに、半透明なので廊下の奥がうっすらと見えており、足は見えているが地面についておらずフワフワと浮いていた。
「幽霊ってもっと怖い顔をしていると思っていましたが全然ですね」
「顔は生前のままですよ」
「ところでお主の名はなんと言うんじゃ?」
「私はル、ルインと言います」
ルインという名の幽霊は、まだティーに怯えながら答えた。
「はぁ、もう痛いことはせんからそんなに怯えんくても良いのじゃ」
「ほ、本当ですか?」
「お主が逃げ出さん限りは約束するのじゃ」
とティーがあったので、ルインさんは落ち着いた。
「ところで、ルインさんはどうしてこの屋敷に居たんですか?」
俺はそう質問した。
「あっ、私の事はルインと呼び捨てにしてもらっても結構です」
「分かったよ」
「それで私がここに居た理由ですね・・・それはですね、もう何十年も前の事なのでハッキリと覚えてないのですが、ある時私は幽霊になっていたんです。何故、死んだのかは分かりませんが幸い自由に動く事ができたので各地を転々として来ました。それで20年くらい前に廃墟となっていたこの屋敷を見つけてずっと住んでいたんです」
「生前のことは全く覚えておらんのか?」
「はい、全く・・・」
「う〜む」
それを聞いたティーが悩んでいた。
「どうかしたの?」
「死後、霊になる奴には大抵何かしらの未練があるんじゃ。それが強いほど悪霊などの存在になったらするんじゃが・・・よく分からんのじゃ!」
「私は、ルインさんは悪い方には見えませんが」
「まぁ、コヤツが嘘をついている可能性もあるな」
とティーは疑ったが、ルインは全力で首を横に振った。
「それで、ルインはこれからどうするの?」
「どうすると言うのは?」
「私達は冒険者ギルドのクエストでこの屋敷で起こることの調査か解決を依頼されて来たのです。原因がルインさんだと分かった以上、報告するかここを出ていって貰うしか無いのですが・・・」
「そうですか・・・」
幽霊とはいえ以前からここに住み着いたルインさんに出て行ってもらうのは申し訳ないが、もし報告した場合除霊されてしまう可能性もあるだろう。
「私もまだ死にたくないですし、1回は死んでますけど・・・なのでここから立ち去りますね」
と悲しそうな顔をして言った。
それを見て申し訳ないと思ったのだが、それが最善の策だろうと思っていたら、
「そうです!私達の家に来て貰えば良いのではないでしょうか!」
とアリーが言った。
「私達の家でしたら、気にする人も居ないですよね?」
「多分、誰も幽霊だって気にしないとは思うね」
「なんじゃ、エルフの次は幽霊か?バリエーション豊かじゃの」
ティーは笑いながらにそう言ったが、人、魔物、龍、魔族、精霊、エルフと我が家には様々な種族がいるので、幽霊が居ても皆んなお構いなしだろう。
「私、幽霊ですけど本当に大丈夫なんですか?」
「勿論ですよ!」
「うぅ、こんなに優しくされたの初めてで嬉しくて泣きそうです。まぁ幽霊なので涙は出ませんが」
(なんかさっきから一言余計だなぁ)
「それじゃあ早速ギルドにクエスト達成の報告をしに行きましょう!」
そうして、屋敷を出てギルドへと向かった。
ルインさんは外でも問題なく活動できるらしいが、流石に姿を現したままでは他の人達が驚いてしまうので、街の中では姿を消してもらっているのだが、その状態でも俺たちだけには声が聞こえる様になっているので不思議だ。
ティーによると念話と言うものらしく、対象の人物の脳に直接声を送っているらしい。
色々と話をしているとギルドに到着したので、受付の人にクエスト用紙を渡して解決したと伝えた。
すると、
「えっ!?解決されたのですか?」
と受付の人は驚いていた。
「はい、もう不可解な現象は起こらないはずですよ」
「確認致しますので、少々お待ち頂けますか?」
そう言われて、俺達は30分ほど座って待っていた。
先程、受付をしてくれた人が慌てて戻って来て、こちらへとやって来た。
「ク、クエストの達成を確認しました!」
恐らく今の間に、人を派遣して何も起こらないか確認して来たのだろう。
「それでは、報酬の金貨2枚になります」
調査のクエストにしてはかなり破格だ。
やはり長年放置されて来た問題だったのだろう。
そして受付の人は続け様に、
「それに加えて、今回問題を解決していただいた屋敷の土地と建物の権利を差し上げます」
と言ったのだった。
「どういう事でしょうか?」
アリーが質問した。
「あの場所は以前から持ち主が不明の状態だったのですが、不可解な現象が起こっていたので誰も土地を買おうとしなかったのです。ですので、問題を解決された方が新たな持ち主となる取り決めになっているのです」
(う〜ん、あの屋敷を貰ってもなぁ・・・)
屋敷自体はとてもボロボロなので、改築するとなると一から建て直さないといけなさそうだし、売るにしても今までの事があるから簡単には売れないだろう。
「あの、ワタルさん。ここは貰っておいてみませんか?」
「どうして?」
「街にも拠点があった方が便利になるかもしれませんし、改築は腕輪を使えば簡単に行えそうではないでしょうか?」
確かに改築に関しては、腕輪を使えば簡単に出来そうな気はする。
「それに別荘みたいで良くないですか?」
「そうだね、アリーの言う通り、せっかくだし貰っておこうか」
というわけで、あの屋敷は俺達の物となった。
正式な契約を交わして、ギルドを後にし帰るために街を出て来た。
「ルイン、そろそろ姿を現して良いよ」
と俺が言うと目の前にスッとルインが出現した。
「結構、私の事問題になってたんですね」
ギルドでの会話を聞いていたのかそう言った。
「そういえば不可解な現象っていうのはルインが起こしてたんだよね?」
「そうです」
「なんで、そんな事してたの?」
「遊び半分であの屋敷にやって来る者達がいて、それを追い払う為にやってました」
「そういう理由があったんだ・・・」
「ところで、皆さんのお家はどちらなんですか?見たところ移動用の手段も無さそうですが」
「家は森の中にあるんだ。それで移動手段は・・・ティーよろしくね」
「はいよ」
ティーは、ドラゴンの状態へと変化した。
「ドラゴン!?命だけはお助けをー!」
「なにアホな事言っておるのじゃ、お主はもう死んでおろう」
「はっ!そうでした!それにしても、まさかドラゴンになれるとは凄いですね」
「こうやってティーに色んな所に連れて行ってもらってるんだ」
「ドラゴンに乗るのは初めてなので緊張しますね」
そうして、ティーの背中へと乗ったのだが1つ疑問が浮かんだ。
「ルインは浮いてるけど、ティーの背中に乗って移動って出来るの?」
「確かにそうですね」
「妾も幽霊は乗せた事ないから分からんのじゃ」
「多分大丈夫だと思うので、とりあえず試しにやってみましょう」
ルイン本人がそう言うので、早速出発した。
結果的に何も問題は無かったのだが、浮いているのに俺達の様に一緒に運ばれているのは不思議だった。
それから、しばらく飛んだ所で家へと帰って来た。
ルインには、ひとまず外で待機してもらい家の中に入った。
「ただいまー」
「おかえり、欲しい物は買えたか?」
エレオノーラさんが出迎えてくれた。
「無事に買えましたよ。ところでちょっとお話があるので、他の人達も呼んできてもらっても良いですか?」
「あぁ、分かった」
エレオノーラさんはアンさん達を呼びに行き、俺はクロ達を連れて来た。
全員が揃ったので、ルインの事を紹介する事にした。
「今日街に行った際に、ちょっとした出来事があって、それで皆んなに紹介したい人がいるんだ。入ってきていいよー」
俺はそう言って外に待機してもらっていたルインを呼んだ。
「皆さん、こんにちは〜」
そう言ってルインはスッと壁を通り抜けてきた。
それを見た他の人達は、目が点になっていた。
「えぇ〜っと、こちら今日出会った幽霊のルインです。訳あって今日からここに住む事になりました」
「ルインです、よろしくお願いします」
「どういう事か説明してくれるか?」
エレオノーラさんにそう言われて、今日あった出来事を伝えた。
「なるほど、大体は理解したがまずは、お嬢様。冒険者は危険と隣り合わせだと何度もお伝えしたはずです」
「ごめんなさい・・・」
「はぁ、今回のは過ぎた事なので何も言いませんが、絶対に1人でクエストを受けようとはしないで下さいね!もし、クエストを受けたいと言うのであれば、これからは私に一言掛けてください」
「ありがとう、エレオノーラ」
「反省し終わったところで、私達の自己紹介しなーい?」
とオルフェさんが提案したので、ルインに皆んなの事を紹介していった。
「本当に色んな種族の方がいらっしゃるのですね。それにスライムまで一緒に暮らしているのは驚きです」
「まぁ、こんな所だから誰も幽霊だなんて気にしないんだよ」
「はい!それでは皆さん改めて、これからよろしくお願いします!」
こうして新たな住人として幽霊のルインが加わったのだった。