お土産
「皆様、本当にありがとうございました」
クラーケンを倒した俺達は、宮殿の方へと戻っていた。
「いえ、結局はティーのお陰で無事に倒せたので」
「妾はただ単に邪魔なイカを倒しただけじゃ、それよりもお主達がこんな所におった理由を聞かせてくれ」
俺はここまでの経緯をティーに説明した。
「亀を助けて国に招待されたら、巨大なイカと戦う事になったと・・・お主達、もう少し考えて動かんか、何かあってからでは遅いんじゃぞ」
「心配かけてごめん」
「皆さんは悪くありません、責めるならどうぞ私をお願いします」
とネアンさんが言った。
「別に責めてるわけじゃ無いんじゃが・・・はぁ、まぁ良い、無事だったから今回は良しとしよう」
「ありがとね」
「それよりもオルフェよ」
「なに〜?」
「お主の実力であれば、あのイカくらい楽勝では無いか?」
ティーの言葉にオルフェさんは視線を逸らした。
「大方、酒のつまみになりそうだったから、なるべく傷付けずにどうやって倒そうか考えとったんじゃろ?」
「あはは、バレてた?」
「バレバレじゃ」
「でも、皆んなに危険が及ばない様に注意は払ってたんだよ!」
「オルフェさん・・・」
それを聞いて少し呆れてしまった。
「あー、ちょっと、みんなしてそんなジト目で見ないでよ〜。私が悪かったから」
「ネアンさん、なんかすみません」
「い、いえ街にもそんなに被害は出てないので大丈夫ですよ・・・よろしければ、あのクラーケンは差し上げましょうか?」
「えっ!いいの!?」
オルフェさんはネアンさんの言葉に大喜びだった。
「いや〜クラーケンって意外と美味しいんだよね〜、これで今日のおつまみゲットだ〜!」
「オルフェだけは、食べる量は制限じゃな」
「そんな殺生な〜」
それからもう一度外へ出て、クラーケンを細かく切り分けてマジックバックの中へと収納した。
「それじゃあ、俺達はそろそろ帰りますね」
ティーによると、ここに来る時には日が沈み始めていた様なので、地上は暗くなっている頃だろう。
「本来は活気のある街なのですが、皆様にお見せ出来ずに残念です。是非またいらして下さい」
「その時は、他にも連れて来たい人達が居るんですが大丈夫ですか?」
「はい、皆様のお知り合いでしたら大歓迎です!あっ、それとこちらも受け取って貰えますでしょうか?」
ネアンさんはそう言って20cm程の黒い箱を渡して来た。
(もしや玉手箱では・・・)
なんて考えが横切った。
「この中には、いつでも何処でも無限に水が湧き出る魔法瓶が入っています」
「魔法瓶ですか?」
「はい1L程の大きさの瓶なのですが、蓋を開ければ瓶の中に一瞬で水が満たされるんです。使用できる回数に制限も無く何回でも使えます。勿論飲み水としても他の用途としても使えますよ」
確かに凄いと感じたが、色んな魔道具があるこの世界では、そんなに珍しく無さそうではと思ったが、
「これはかなり貴重な物じゃな」
ティーがそう言ったのだった。
「そんなに?」
「似た様な魔道具は、あるにはあるが数も少ない上に使用回数も数回と決まっておる。そんな無限に湧き出る魔法瓶なんて本来作る事は出来ないんじゃ」
それを聞いたら確かに貴重な物だと感じ、貰うのを躊躇ったが、
「私達は、普段から水中で暮らしているのでこれはそんなに必要としないんです。なので、是非皆さんに使って欲しいんです!」
「分かりました、是非使わせてもらいます」
「はい!ちなみに保温機能と保冷機能も有りますので便利ですよ!」
(それは確かに魔法瓶だな・・・)
俺は前世にあったとあるアイテムを思い出したのだった。
「それでは皆さん本当にありがとうございました」
「こちらこそありがとうございます」
俺達はティーの背中に乗り戻る事になった。
「一気に行くから、息を止めてしっかり掴まっておくのじゃ」
ティーはそう言うと一気に加速した。
そして10秒もしないうちに海上へと戻ってきた。
辺りは暗くなっており、月も浮かんでいた。
そこから再びラーブルクの城へと戻った。
「皆様、お帰りなさいませ。夕食の準備が出来ておりますのでどうぞこちらへ」
ヴァルナさんが迎えてくれて、そのまま食堂へと向かった。
そこには、テンメルスさんが待っていた。
「皆様、お久しぶりです」
「テンメルスさんも元気そうで良かったです」
「今日は何やら海を見に来たとのことで?」
「えぇそうなんですよ。実は・・・」
「お二人ともお話は後にしてまずは食事にしましょう」
「おぉそうだったな」
俺達は食事をとり始めて、その途中で今日起きた事をテンメルスさん達にも伝えた。
「我が国の側の海の中にある国ですか・・・まさかそんなものがあるとは驚きですね」
テンメルスさんやヴァルナさんも知らなかった様だ。
「ティーフェン様はご存知でしたか?」
「妾もこれまで全く知らんかった」
「しかし、何故ティーフェン様ですら気づかなかったのでしょうか?」
とヴァルナさんが言った。
「恐らく、その国の主がウンディーネという精霊だからですかね?これまでずっと秘匿されてたんじゃ無いですか」
「まぁ妾も精霊にはそこまで詳しく無いからの、それはあり得そうじゃ」
「しかし海底国ですか・・・出来ることなら国交を開きたいですね」
テンメルスさんがチラチラとコチラを見ながらそう言った。
「はぁ、あなたという人は・・・コタケ様を巻き込んではいけませんよ」
「うぅむ、そうだなぁ・・・」
とテンメルスさんは残念がっていた。
「また行くかもしれないので、その時にそれとなく伝えてみますね」
「おぉ、それは助かります!」
と喜んでいた。
そして、その後はお酒を飲む事になった。
「誘ったのはいいものの今、おつまみが無いんですけど大丈夫ですか?」
とテンメルスさんが言って来たのだが、
「それなら良いものがあるぞ」
とティーが言うと、マジックバックの中をまさぐった。
「ほれ」
ティーが取り出したのは先程倒したクラーケンの足だった。
「あぁー、それ私のおつまみなのに〜」
オルフェさんはそう言ったが、
「別に妾が倒したんじゃから、どうしようと勝手じゃろ」
ティーに反論され撃沈していた。
「リッヒもどうじゃ?」
「リッヒちゃんは私のこと見捨てないよね〜」
と謎の圧をかけていたが、
「私も頂きます!」
「リッヒちゃんにも見捨てられたー」
リッヒさんも、そろそろオルフェさんの扱い方を分かってきたようだ。
「はぁ、ほれ今日は少しなら飲んで食べても良い」
「わ〜い、やった〜」
ティーからの許しが出た瞬間に片方の手にお酒をもう片方の手にはおつまみを持ち飲み始めた。
クラーケンはティーが魔法で焼いただけなのに、ぬめりや臭みもなく大変美味しかった。
翌日、朝食を終えた俺達はテンメルスさん達に別れを告げて帰路へとつき、再び5時間かけて家へと帰ってきた。
「皆さん、お帰りなさい!海はどうでしたか?」
アリーが元気よく出迎えてくれた。
「大変だったよ・・・」
「大変?海を見に行っただけなのでは・・・」
アリー達にも昨日の出来事を話した。
「海底国ですか、聞いた事もないですね。実際にこの目で見てみないと信じられそうにないですね」
「また来ても良いって言われてるし、その時はアリー達も一緒に行こう」
「はい、是非!」
「あっ!それとそうだった。帰り際にお土産を貰ったんだった」
俺はネアンさんに渡された、魔法瓶が入っているという黒い箱を取り出した。
「そちらがお土産ですか?」
「うん、中に無限に水が湧き出るっていう魔法瓶が入ってるんだって」
「それは凄そうですね」
いざ、箱を開けようと思ったのだが、
「この箱、開けたら煙が出てきて一気に歳をとるとかないよね?」
ついつい浦島太郎に出てくる玉手箱を思い出してしまった。
「?そのような箱があるのですか?」
「俺が元いた所では有名な話なんだ」
開けない訳にもいかないので、意を決して上の蓋を取った。
当然ながら、特に煙も何も出てこないで1本の瓶が置かれていた。
「瓶の蓋を左に回すと冷水が、右に回すと温水が出るって書いてあるね」
早速、左の方へと回してみた。
すると、瓶がどんどん重たくなっていき蓋を開けると水が溜まっていた。
その水をコップに注ぎ飲んでみた。
「冷たい新鮮な水だ」
「本当ですね、水を美味しいと感じたのは初めてです」
続いて右に回してみると一瞬、瓶の中身が無くなり軽くなったが、また水が溜まり重くなっていき、蓋を開けると湯気が出てきた。
「あったかいね〜」
「そうですね〜、これはかなり便利です」
蓋を開け閉めするだけで、冷たい水も温かい水もどちらも一瞬で補充できる魔法瓶は今後も活躍してしてくれそうだった。




