海底国
海が見たいと言うリッヒさんを連れてラーブルク龍王国へ行くと海辺に青色の亀が裏返っているのを見つけ、助け出したら精霊のウンディーネであるネアンさんが現れ海の中にある国へと招待されたのだった。
「こちらが我々の国のアードメアになります」
ネアンさんは海の洞窟を抜けた先にあった都市を指しながらそう説明した。
「海の中にこの様な都市があるなんて驚きですね」
「私もこれは初めての体験だね〜」
オルフェさんとリッヒさんは感嘆の声をあげた。
「それでは都市の中へと入って行きますね」
ネアンさんに続いて都市の中へと入って行った。
街にある建物は石で造られており、外の壁には所々に海藻なども生えていた。
「街の中は地上と同じ様に動ける様になっているので、そちらは解除しますね」
ネアンさんはそう言うと俺達が入っていたシャボン玉の様な物がパンッと弾けた。
不思議な事に水中なのに、普通に呼吸が出来て地上と同じ様に歩く事が出来る上に、着ている服も濡れている感じが全くしないのだった。
「水中なのに地上と変わらず動けるなんて凄いですね」
俺がそう言うとネアンさんが、
「この都市全体を生活しやすい様に地上と同じになる様にする為の魔法を魔石を利用し維持してるんですよ」
と説明してくれた。
その後も、しばらくネアンさんの後ろに続いて歩いていると様々な店が建ち並ぶエリアにやって来たのだが、その通りは閑散としていた。
「人がいないですね?いつもこんな感じなんでしょうか?」
とヒルズが言った。
「いえ、前まではここも賑わいを見せていたのですが、今は少し事情がありまして・・・」
何だろうと思ったが、ネアンさんはそれ以上話すことはなく更に歩き続け、宮殿へと到着したのだった。
「こちらが私の住んでいる場所になります」
宮殿は2階建てで、高さはないが横に広がっているのでかなりの広さはありそうだった。
ネアンさんの案内で宮殿内を歩いているが、この中にもネアンさん以外に、誰も見当たらなかった。
しばらく歩き、謁見の間らしき場所にたどり着いた。
やはりここにも誰も居なさそうだった。
「皆様、本日は我が国にお越し頂いてありがとうございます。改めて、ウンディーネのネアンと申します。今更ですが皆様のお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「俺はコタケ ワタルです」
「オルフェだよ〜」
「リッヒと言います」
「私はヒルズです」
「皆様、素敵なお名前です」
「それで?ここに私達を呼んだのには何か理由があるんじゃないかな〜?」
オルフェさんは早速、ネアンさんに話を切り出した。
「皆様は恐らく、ここまで来る時に不思議に思いましたよね。なぜ私以外の住民がいないのかと・・・」
「建物の状態からしても長い間放置された感じでは無かったので最近までは他の方達も居たのですよね?」
「はい、リッヒさんのおっしゃる通りです。この国は、数週間前から、とある魔物から攻撃を受けているのです」
「魔物とは?」
「クラーケンです」
「あー、あのでっかいイカだね〜」
「そうです、そのクラーケンはこの国が地上と同じ様に生活できる為の魔法を維持する魔石を狙って来たのです」
「さっき言っていたやつですね。でも、どうしてもその魔石を狙うんですか?」
「魔石の中には大量の魔力が封じ込まれているので、恐らくそれに惹かれてやって来たのでしょう」
「じゃあ住民の方達はその魔物に・・・」
と最悪のケースを考えたが、
「いえ、他の者達には別の場所に避難して貰っています。我々は争いごとに疎い為、クラーケンがやって来ても戦う事が出来なかったのです」
住民達は既に避難していた様だった。
「でも、クラーケンが攻めて来た割には都市の家は傷ついてなかったよね〜」
「それは私が今まで守り抜いていたからです。この都市を放棄する事は出来ないので結界を張って何とか侵攻を阻止して来ました。しかし、ヤツは日に日に力をつけておりそろそろ限界を感じていたのです」
「なるほどね〜、そこで私達に目をつけた訳か」
「はいその通りです。眷族の子があの場で助けられたのは偶然ですが、地上であの子の姿が見えたと言う事はかなりの実力者である事は伺えましたので」
「もし、私達がわる〜い奴らだったらどうしたの?」
「精霊はそういった所には敏感ですからね、皆さんには全く不信感はありませんでした」
「それもそっか!」
「それで、虫のいい話ではあるのですが、どうか皆様のお力を貸して頂きたいのです!」
ネアンさんはバッと頭を下げて来た。
俺はかなり悩んだ。
見捨てたくは無いが、慣れない水中での戦闘となると俺ら3人でも大丈夫なのかと。
しばらく考え込んでいると、外からドーンと大きな音と振動が伝わって来た。
「もう来てしまいましたか!」
ネアンさんはそう言ったので、恐らく例のクラーケンがやって来たのだろう。
「皆さんは、中に居て下さい。私は外で結界を維持して来ますので」
ネアンさんはそう言い、すぐさま駆け出して行った。
「どうしよっか?」
オルフェさんがそう言った。
「この中で水中戦闘の経験ある人いる?」
誰も首を縦には振らなかった。
「正直、敵の強さも分からないし慣れない戦闘だとどうしても危険が出てくるから、出来ることなら避けたいけど・・・」
俺はそう言ったが、外では今もクラーケンからの攻撃を防いでいると思われる大きな音が響いていた。
「俺は、ネアンさんをこのまま見捨てる事は出来ないかな」
「そう言うと思ってたよ〜、勿論私も手助けするよ」
「私もお手伝いします!」
オルフェさんとリッヒさんも賛成してくれた。
「ヒルズにも手伝って貰うけど大丈夫?」
「勿論です。同じ精霊の仲間を見捨てれませんから」
ネアンさんを助ける事に決まり外へと向かおうとした所で、パリーンという音とネアンさんの悲鳴が聞こえた。
「急いだ方が良さそうだ」
宮殿を出てすぐさま音の聞こえた方向へと向かった。
そこには、座り込んでいるネアンさんと、街の中で暴れている全長30m程の10本の足を生やした巨大なイカがいた。
「皆様、ここは危険です!」
俺達に気がついたらネアンさんがそう言った。
「俺達も一緒に、戦います」
「しかし・・・」
「気にしないで下さい、俺達が決めた事ですから」
「ありがとうございます・・・しかしながら、私の力が及ばず結界も破られてしまいました。昨日よりも更に力が上がっています。万が一の時は、私の力で皆様だけでも地上へと戻します」
「うーん、敵に弱点とかは無いですかね?」
「今までは守る事に精一杯だったので、お役に立てなさそうです」
「水中だと火属性と風属性の魔法は使えないし、水属性もあんまり効果無さそうだし、土くらいかな?ヒルズはどう思う?」
「コタケ様が言った通り、ここで使えるのは土の属性のみになると思います。ただ、あのレベルの魔物に通用するレベルの魔法となると使用できるのはオルフェ様のみでしょう」
「やっぱり、俺にはまだ無理か・・・物理攻撃はどうかな?」
「そうですね、接近できれば物理でも問題ないでしょう」
「ネアンさん、ここに武器とかありますか?」
「ごめんなさい、我々は武器の類は持っていないものでして」
「となると、俺の腕輪だけになりそうだな。そしたら、オルフェさんは魔法で攻撃して俺は直接攻撃で良いかな?」
「コタケ君に1番危ない役目を任せるのはちょっと・・・何かあったらアリシアちゃんに顔向けできないよ」
「でもこれしか、方法がないし・・・あとは素早く動けたらもっと安全なんだけど」
「あのーちょっと良いですか?」
とリッヒさんが言った。
「今、風魔法が使えないか試してみたんですが、少しだけ足に纏わせる事が出来ました。なので、それを使えば素早く動けるかもしれないです」
「本当に!?」
「それなら、私は風魔法が使えないしリッヒちゃんにそれを掛けてもらって、コタケ君はヒルズちゃんに掛けてもらえば2人とも素早く動けるから、2人でお互いに相手の注意を引いていこう」
「分かった、その作戦で行こう」
こうして、作戦が決まり俺とオルフェさんは魔法を掛けてもらい、クラーケンの方へと向かって行った。
風魔法のおかげで水中を好きな様に動き回ることが出来た。
これなら相手の攻撃も回避できそうだ。
まずはオルフェさんが、崩れた建物の石を魔法で槍状に加工してクラーケンへと放った。
石は少し刺さった物の皮膚が硬いのかあまりダメージは無かった。
クラーケンは攻撃をしたオルフェさんに注意を向けたので、腕輪を大剣に変えた、俺が急接近し10本ある足のうちの1本に思い切り振り下ろした。
最初の皮膚を貫通して、そのまま切り落とせるかと思ったのだが、半分に到達した所で筋肉に阻まれ切り落とす事が出来なかった。
「あっ!まずい」
うまく剣が抜けず、テンパっている所にクラーケンの足の1本が俺に迫って来た。
間に合わないと思ったが、クラーケンの足はドシーンと音を立てて地面に伏していた。
「今の内にお逃げ下さい!」
ネアンさんの声が聞こえ、俺は冷静になり大剣を腕輪の状態に戻して急いでその場から離れた。
「ネアンさん、助かりました」
「管理者である私の権限で、クラーケンの一部の重力を通常よりも遥かに掛かるようにしました」
クラーケンは都市の中に入って来ているので、街を維持する為の魔法の効果を受けるようだ。
「ただ、あまり長く持たないのと何回も出来る訳では無いので、早めに決着をつけないと行けなさそうです」
「でも、決定打に欠けるよね〜」
前線から戻って来たオルフェさんがそう言った。
「とりあえず、あの足をどんどん切り落としていくしか無さそうだね」
その後も、俺とオルフェさんが交互に相手の注意を逸らして攻撃を繰り返し、ピンチの時はネアンさんのサポートでその場から離脱する事で、何とか2本の足を切り落とす事に成功した。
「はぁ、はあ、やっと2本か」
かれこれ40分は戦っただろうか、流石に長時間の戦闘という事もあり、かなり疲れが出てきていた。
そして、クラーケンはというと足を2本切り落としただけでは勢いは衰えていなかった。
「流石にまずいな・・・」
最悪の場合、オルフェさん達には逃げて貰うしか無いかと思っていた時、
「皆様、上から何か降りて来ます」
とネアンさんが叫んだのだ。
上を見上げると、黒い影が猛スピードでこちらに突っ込んで来ていた。
このままでは、俺達のいる場所に落ちて来るのでその場から離れた。
ドシーンという音と共にその黒い影が着地し周りは泡だらけになった。
泡が消えて、黒い影をよく見ると・・・それはドラゴン状態のティーだった。
「ティー!?どうしてここに?」
「それはこちらのセリフじゃ、なかなか帰って来んと思ったらお主達の気配が妙な所にあったから思わず来てしまったわい。それにしても海中なのに普通に呼吸できるとか、不思議な場所じゃのう。それで、お主達はどうしてここに?」
「説明したいんだけど、まずは目の前にいる魔物をどうにかしないと!」
「ん?あぁ、そのイカか?お主達はそこで待っておれ」
ティーは翼を広げて、まるで空中を飛んでいるかのようにスイーッと海中を移動した。
「ちょっとでかいイカ如きが妾に勝てるとでも?」
ティーがバッと爪をを振り下ろすと先程まで苦労して切り落としたクラーケンの足が簡単に落とされたのだった。
「んー、面倒じゃし、一気に片付けるかの」
ティーはクラーケンから少し距離を取った。
すると、いきなり大きな魔法陣を作り出した。
「今夜のご飯は焼きイカじゃな」
そう言うと、ティーは魔法を発動させた。
その魔法陣から放たれたものは、とんでもない火力の火属性の魔法だった。
クラーケンはその魔法に身を包まれた。
しばらく経ち、魔法が消えるとクラーケンはこんがりと焼けておりピクリとも動かなくなった。
「あれ?倒しちゃったの?」
「そうじゃ、所詮はただのイカじゃな」
「あの終わったのでしょうか・・・?」
ネアンさんは困惑気味に聞いて来た。
「そうみたいですよ」
こうして、ティーのおかげでクラーケンの侵攻を防ぐ事が出来たのだった。
 




