海
「海を見に行きたいです!」
聖国から帰ってきて1週間経ったある日、リッヒさんがそう言ってきたのだ。
「急にどうしたの?」
「この前、シャロンちゃんとお話しした時に海の近い国へと行った時の話を聞いたんですが、私は生まれてから1度も海を見に行った事が無いなと思いまして」
「冒険者やってた時とかは行かなかったんだ?」
「はい、あまり海側には行きませんでしたので、大きい湖を見た事があるくらいですね」
「そっか、じゃあ明日にでも見に行く?」
「いいんですか!」
「明日、ティーが国に顔を出しに行くみたいで、ラーブルク龍王国は海がすぐそばにあるから丁度良いと思うよ」
「それでしたら、ぜひ!あっ、でも龍王様にはご迷惑では無いですか?」
「それくらい大丈夫じゃから気にせんでも良い」
話を聞いていたティーがそう言った。
「とりあえず俺もついて行くとして、他に来る人?」
「はいはーい、私も行きたいでーす」
オルフェさんも付いてくる事になり、
「私達は少し用事があるので、今回は残念ながら不参加で」
アリーとエレオノーラさん達は、今回は参加出来ないようだ。
結果、俺とティー、オルフェさん、リッヒさんの4人でラーブルクへと向かう事になった。
翌日、さっそくティーの背中に乗り目的地へと向かった。
そして、5時間経過したところでラーブルク龍王国へと到着し、城へと降り立った。
「お帰りなさいませ、ティーフェン様」
テンメルスさんの奥さんであるヴァルナさんが迎えてくれた。
「おや?コタケ様達もいらっしゃったのですね。食事の準備も増やさないといけませんね・・・」
「別の用事でここまで連れてきて貰ったので気にしなくても大丈夫ですよ」
「別の用事ですか?」
「はい、この子が海を見たいという事でここに来たんです」
「ティーフェン様より手紙で聞いていた子ですね」
「初めまして、リッヒと言います」
「初めましてリッヒさん、ヴァルナと言います。ぜひ我が国の海を楽しんでいって下さい」
「あっ!そう言えば、コリンさんを紹介してくれてありがとうございました」
「いえ、何か力になればと思ったので、気に入った商品はありましたか?」
「みんな、たくさん買ってましたよ。それで、代わりに払って貰ったお代なんですけど・・・」
「お代のことなら結構ですよ、ティーフェン様がいなくなったことで浮いた生活費が出てきましたのでそこから支払っております」
「えっ!あれ妾の為のお金で払っておったのか?」
「今はお金は必要無いですよね?なのでそれを皆様の為に使わせて頂きました。今後の購入代金もそこから支払うのでコタケ様が払わなくても大丈夫ですよ」
「そうだったんですね、ありがとうございます。それにティーもなんかありがとう」
「妾は知らなかったんじゃが・・・」
ティーは少々不服そうにしていたが、今は国に居ないので仕方ないと諦めていた。
その後、国の会議に参加しなければならないティーとは一旦別れて俺とオルフェさんとリッヒさんの3人で早速海へと向かう事にした。
大通りをしばらく歩き港の方へと出てきた。
「わぁ〜凄い大きい船ですね!」
リッヒさんは旅客船を見て大はしゃぎだった。
「リッヒちゃーん、興奮して海に落っこちないでね〜」
オルフェさんが注意していた。
「あっちに砂浜が見えるのであそこまで行きたいです」
以前行った、港の市場がある場所とは反対方向に白い砂浜が見えたので、そこへ向かう事にした。
「うわっ!冷たくて気持ちいいですね!」
リッヒさんは砂浜に到着した途端、裸足になり海へと一直線だった。
「私もやる〜」
オルフェさんもそれに便乗して、しばらく2人が遊んでいると、リッヒさんが何かを見つけた。
「あそこで裏返っているのはなんでしょうか?」
そう言いながらリッヒさんが指を差したところを見てみると、生き物らしき影がひっくり返っていた。
とりあえずその生き物がいる所まで向かった。
近くで見てみると、それは体長1mほどの亀だった。
ただ全身が青色の亀なのだ。
かなり珍しい色をしていたので少し驚いた。
(前世でもこんな亀がいたのか、それともこの世界特有の亀なのか分かんないな)
「とりあえず、可哀想なので起こしてあげましょう」
リッヒさんがそう言い、亀を起こしてあげた。
すると、亀はそのまま海の方へと消え去って行ったのだが、1つ疑問が残ったのだ。
「この場所、今も結構人が通ってるのになんで誰もあの亀を助けてあげなかったんだろう?」
「確かにそうですね・・・」
まるでそこには何もいないかの様に人々は過ぎ去って行っていたのだ。
もしや亀の霊では、なんて思っていたら、
「今しがた珍しい気配を感じたのですが?」
とヒルズが出てきたのだ。
「珍しい気配?」
「はい、精霊の気配ではあったのですが、どこか不思議な感じがしました」
「精霊・・・さっきまで全身が青色の亀が居たんだけど関係あるかな?」
「青色の亀・・・恐らくそれが精霊だと思います。自然界にその様な亀は居ないはずなので」
「他の人に見えてなさそうな感じだったんだけど、なんで俺達には見えてたの?」
「元より精霊は普通の人間には見る事が出来ないのです。精霊自身が許可をすれば見る事は出来るのですが、大抵の場合は姿を隠しています。しかし、リッヒさんの様にエルフ達には精霊を認識できる力があります。それにオルフェさんは、かなりの実力もあり、高い魔法力もあるので精霊を見る事が出来るのです」
「なるほど、なら俺は?もしかして、ヒルズと契約してるからとか?」
「その通りです。精霊と契約している人間にはそれ以外の精霊も認識できる様になります」
「それでその不思議な気配っていうのは?」
「精霊の気配に別の力も混じっていた様な気がするんですよね」
「んー2人ともそれらしきもの感じた?」
オルフェさんもリッヒさんも首を横に振った。
「そもそも私たちも精霊だって気づかなかったわけだしね」
「私もです」
「まぁ、いなくなっちゃったし気にしない事にしよう」
それから海辺で少し遊び、リッヒさんも満足したので帰る事にした。
砂浜を歩き港の方へと戻ろうとすると、突如海が光出したのだ。
「なんだこれ!?」
流石に周りの人も気づいているだろうと辺りを見回したのだが見事に俺達以外誰も居ないのだった。
先程の亀の事もあるので、再びヒルズを呼び出した。
「これは、精霊の気配を感じますね」
光は更に強まり、俺は目を瞑った。
そして次に目を開くと、海から青い髪をした1人の女性が現れた。
「初めまして、我が子を助けてくれた人よ」
その女性はそう発したのだった。
「我が子?」
「先程、青色の亀を助けて下さいましたよね?その子は我が眷族の1人なのです」
(眷族?この人も精霊なのは分かるけど、どういう事だろう?)
「もしや、ウンディーネ様でしょうか?」
ヒルズがそう言った。
「はい、私はウンディーネのネアンと申します。あなたは誰かの精霊なのでしょうか?」
「私はこちらのコタケ様の専属精霊のヒルズです」
「精霊をお供している人間の方は初めて見ました」
「それでネアン様は、先程青色の亀を助けたとおっしゃいましたか?」
「えぇ、そうです。そちらの方々があの子を助けてくれたみたいなので、是非ともお礼に我が国にお招きしたいと思いまして」
(なんか浦島太郎みたいな展開になってきたな・・・)
「とのことですが、いかがしますかコタケ様?」
「それよりもまずウンディーネっていうのは?」
「ウンディーネは水を司る精霊です。以前お会いしたドリアードのエムネス様と同じ様なものです」
「まぁ!エムネスともお知り合いなのですか!?」
「はい、コタケ様達が住んでいる森の中にエムネス様の
本体である木があったみたいで、ネアン様もお知り合いでしたか?」
「えぇ!あの子とは友達なんですよ。あの子が森の中に住むことを認めているのであれば、尚更信頼に値しますね!皆さんいかがでしょうか?」
「2人ははどう思う?」
俺はオルフェさんとリッヒさんに確認した。
「私は楽しそうだから問題ないよ〜」
「私も貴重な体験なので行ってみたいです!」
「それじゃあ、ネアンさんお願いします」
俺がそう言うと、
「はい!それではこちらの中にお入り下さい!」
ネアンさんはそう言い、大きなシャボン玉の様なものを作り出した。
「これは・・・?」
「私の国は海の中にありますので、こちらの中に入れば水中でも呼吸する事が出来るのです」
「へぇ〜凄いね〜、精霊ってそんな事まで出来ちゃうんだ」
「オルフェさんは出来ないんですか?」
「リッヒちゃん、いくら魔王の私でも真似出来ない事もあるんだぞ〜」
なんて話している2人をよそに、俺はシャボン玉の様な物の中に入ってみた。
「おぉ!凄い本当に中でも息ができる!」
「あっ!1人だけ先にずる〜い」
と続いてオルフェさんとリッヒさん、ヒルズが入ってきた。
「凄いですね、全員が入っても割れる気配も無さそうです」
「それじゃあ出発しますねー」
そう言った、ネアンさんが海の中へと沈んでいくとそれに追従してこのシャボン玉の様な物も海の中へと入っていった。
海の中でも問題なく呼吸が出来ており、海の生き物達も中から見えるので、ちょっとした海中ツアーになっていた。
しばらく海を潜っていくと洞窟の入り口な様なものがあり、その中へと入っていった。
中は暗いので、周りがどうなっているかは分からなかった。
そこから10分程進んでいくと、再び光が見えて来た。
そして、洞窟から出た海の中には、地上にある様な城下町と大きな宮殿が建っていたのだった・・・
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