聖国
ハネムーンから帰ってきて1週間程経ったある日、近くの街に買い出しに行っていたエレオノーラさんとオルフェさんが帰って来た。
「ふぃ〜疲れたー」
とオルフェさんは帰ってきて速攻でソファへと寝っ転がった。
そんなオルフェさんを横目にエレオノーラさんの方を見ると手紙を持っている事に気がついた。
「その手紙どうしたんですか?」
「冒険者ギルドに立ち寄ったら、お嬢様宛の手紙がギルド長の方に届いていてな」
「私にですか?ヴァルナさんですかね?」
そう言いアリーは手紙を受け取り内容を確認したのだが、
「はぁ」
とため息をついた。
「誰からだったの?」
「そのなんというか、私の恩師?の様な方からでした」
「恩師?」
「私が治癒魔法を教わった方です。治癒魔法において世界で1番の使い手と言われている方です」
「そんな凄い人から教わってたんだ。でも、あんまり嬉しそうじゃないね?」
「いえ、嬉しいのですが手紙の内容が・・・あまりにも急な事でどうしようかなと思ったんです」
アリーはまた、ため息をついた。
「そんなに?」
「はい、今すぐに自分の元に来いという内容でして・・・」
「それは確かに急だね」
「すぐ来なければ、ウッドフォード公爵家で私がくるまで待ち続けるぞという事らしいです」
「かなり強引な人だね!?」
「確かにあの人らしいですね」
とエレオノーラさんが言った。
「エレオノーラさんもその人の事知ってるんですか?」
「あぁ、何度も会ったことはある。一言で言い表すなら嵐の様な人だな」
(なんか凄そうだな・・・)
「どうしましょう・・・」
「それなら明日、ティーにその人の所に連れて行ってもらったら?」
「私もそうしたいのは山々なんですが、手紙にはこの家に住んでいる人全員を連れて来いと書かれてまして・・・」
「俺は構わないけど、他の人達にも聞いてみないとね」
その日の夜、ご飯を食べている時にアリーが全員に同行できるかを確認した。
皆、問題無いとの事だった。
「では、急で申し訳ないのですが、皆さん明日はお願いします。ティーフェン様も移動の手助けをお願いします」
「まぁ、それくらいは任せるのじゃ」
「あのところで、その恩師の方はどの様な方なのですか?」
とリッヒさんが訪ねた。
「先生の名は、オレイユ・ラ・マズロル。聖国モントロレの女王であり、元聖女です・・・」
翌日、ティーの背中に乗りクロ達も含めて全員で目的地へと旅立った。
「皆さん、今日は先生の我儘に付き合ってもらってありがとうございます」
「全然大丈夫だよ〜」
とオルフェさんが答えた。
「それにしても元聖女がアリーの先生って聞いただけでも凄い事だって分かるね」
「たまたまご縁があって先生になって貰えたのです」
「それで聖国ってどんな所なの?」
「聖国とは、神ソルナンを信仰する者達が集まる国です」
「神様?」
「はい、ソルナンは癒しを司る神であり、この世界で多くの人々に信仰されている神の1人です」
(今度は神様とか宗教系の事も勉強した方が良いかも知れないな・・・)
「という事は、治癒魔法を使うアリーも信仰してるの?」
「いえ、私は特にどの神を信仰しているといった事はないので、それが原因で魔法が使えないという事も一切ありませんしね」
「そうなんだ・・・それで聖女ってどうやって選ばれて何をするものなの?」
「聖女はソルナンの神託によって選ばれます。治癒魔法に長けた者が選ばれる事が多いですね。聖女となると主に聖国の象徴として扱われます」
「象徴として扱われる?」
「はっきり言うと、ただお城でジッとしているだけですね」
「それは嫌だね」
「一応、聖国の王と共に他国に顔を出したり、時々各地を巡礼しそこで怪我をしている人達を治したりなどもしています」
「それで、オレイユさんはどんな人なの?」
「それは・・・実際に会ってみると分かります・・・」
とアリーは言葉を濁していた。
それから3時間程したところで目的地である聖国の中心都市セナールへと到着した。
その都市は中心に城が建っており、周りには5つの城壁が円状に広がっておりその城壁と城壁の間は家が立ち並ぶ城下町となっていた。
「今まで見た都市で1番迫力があるかも」
「昔、戦争が頻繁に起こっていた時代に守りを固めるためにこの様な形にしたと先生から聞きました」
みんなで上空から都市を見ていると、
「それで妾は何処に降りれば良いのじゃ?そろそろ疲れてきたんじゃが」
「ごめんティー。アリー、降りる場所指示してあげて」
「中心にある城の庭に降りて貰っても良いですか?」
確かに城にはティーが着地できるくらいの広さのある庭があるが、
「そんな事しても大丈夫なの?連絡してないんだし敵と間違われるんじゃ?」
「いえ、多分大丈夫ですよ」
「それじゃあそこに降りるからな」
そう言いティーはだんだん降下していき庭に着地した。
そして着地した先には武装した兵士達が剣を構えていた。
「やっぱり敵だと思われてない?」
「大丈夫ですよ、もう来ると思うので」
アリーがそう言うと、兵士達の奥から、
「剣を下げるのだ!」
と大きな声が聞こえてきた。
その声を聞いた兵士達は剣を収めて道をあけた。
そして、1人の女性がこちらに向かって歩いてきた。
身長は俺より少し高く175cmはありそうだった。
腰まで伸ばした銀髪に威厳のある人だった。
女性は俺達の前で止まり声をかけてきた。
「久しいなアリシア」
「はい、お久しぶりです先生。お元気そうで何よりです」
アリーが先生と呼ぶと言う事はこの人がこの国の女王であるオレイユさんなのだろう。
「会わないうちに中々派手な登場をする様になったじゃないか」
「ふふ、先生へのサプライズですよ」
「まさかドラゴンに乗ってくるとは思っていなかったよ」
2人がどんどん話し込んでいくので、
「アリー、そろそろ紹介してもらって良いかな?」
と声をかけた。
「あっ!そうでしたね!皆さん、こちらが私の魔法の先生であり聖国の女王オレイユ・ラ・マズロルです」
「よろしく頼む」
「はじめまして、コタケ ワタルです」
「あぁ、君がアリシアの旦那か」
「はい、そうです」
「どうやら良き相手と巡り合えた様だな」
その後、他の人達の紹介も終えると、
「ここで話すのもなんだから、城の中に入るとしよう」
そう言って、歩き出したオレイユさんについて行くと奥に玉座のある謁見の間へとやってきた。
中には他に誰も居らず、オレイユさんと俺達だけだった。
玉座に座ったオレイユさんは、
「さて、早速本題に入ろう」
と言った。
「アリシア、私が何故お前を急遽呼び出したか分かるか?」
「いえ、わかりません」
「そうか・・・」
と険しい表情をした。
(まさか、アリーが次の聖女に選ばれたとかじゃ無いよな?でも、元聖女の人に治癒魔法を教えてもらっていたんだったら可能性はあるんじゃ・・・)
と俺が心配していると、オレイユさんは急に立ち上がり
「何故、私も結婚式に呼んでくれなかったのだ!」
と部屋に反響する程の大きな声をあげた。
「私もお前の晴れ姿を見たかったのだぞ!」
さっきまでの威厳のあるオレイユさんの姿はどこかに消えていた。
(エレオノーラさんが嵐の様な人って言ってたのはこう言うことかな)
と少し納得してしまった。
「ごめんなさい、ワタルさんが知らない人達を呼びすぎると困ってしまうかなと思いまして、それに先生は一国の王ですよ立場をお考え下さい」
「それでもラーブルクの王とか呼んでたそうじゃないか」
「何故それを・・・」
「お前の母親からの手紙に書いてあったのだ」
「私も出来ることなら先生にも見せたかったですけど・・・ね?」
とオレイユさんを納得させる様に言った。
するとオレイユさんが、
「まぁ、アリシアのウエディングドレス姿を見れなかった私は考えたのだ。それなら本人を連れてきてこの場で見せて貰えば良いと!」
そう言って、指をパチンと鳴らすと何処からともなくメイドさん達が現れて、俺とアリーを囲んだ。
「やれ!」
その言葉と共に俺とアリーは一種でタキシードとウエディングドレスに着替えさせられたのだった。
「おぉ!これは!想像以上にアリシアに似合っているな!」
とウエディングドレスに着替えたアリーの姿を見てオレイユさんはとても喜んでいた。
「さぁ、コタケ殿もアリシアの隣に行くのだ!新郎新婦が並んだ姿を見せてくれ!」
そう言われて俺はアリーの横に並んだ。
「ワタルさん、ごめんなさい。いきなりこんな事に付き合わせてしまって」
「驚いたけど全然大丈夫だよ。なんか凄い人だね」
「元聖女と言われるとお淑やかな感じのイメージがあったと思いますが、先生はアグレッシブな人でして」
「たしかにそうだね」
2人で話している今もオレイユさんは興奮していた。
しばらく、この格好のままオレイユさんに見続けられていた。
「ふぅ、そろそろ満足したよ」
再びパチンと指を鳴らすと、またメイドさん達がやってきて俺達を来た時の格好に戻してくれた。
「いやぁ〜、アリシアのウエディングドレス姿を見れて私は嬉しいよ!」
「それは良かったです」
「それとまだまだ、話したい事が山ほどあるからな、良かったら今日はここに泊まっていかないか?」
そう言われてアリーは他の人達と顔を見合った。
皆んな大丈夫そうなので、そうオレイユさんに伝えた。
「それは良かった!豪華な夕食を用意させるからそれまでは別室で待機していてくれ、私も今日の仕事をすぐ終わらせよう!」
との事で謁見の間で、オレイユさんと別れ夕食まで別室で待つ事となったのだった。
一旦ここまでで、次回に続きます!
 




