平穏な日常
リッヒさんがうちに来た翌日、7時に目が覚めたので下の階へと降りて行った。
いつも通りエレオノーラさんとアンさんとリビアさんは起きて来ており、俺に続いてアリーも上の階から降りてきた。
朝食は全員が揃ってから食べる事にしており、だいたい8時過ぎに皆んなが揃う。
コーヒーを飲み、目を覚ましつつゆっくりしていると7時30分くらいになった所で、バタバタと階段を急いで降りてくる音が聞こえてきた。
「ごめんなさい!寝過ごしました!」
起きてきたのはリッヒさんだ。
「まだ寝てても大丈夫だよ?」
「でも皆さんお揃いじゃあ・・・」
「ティーとオルフェさんはまだ起きてこないので朝食もまだだから」
「そうだったんですね、久々にふかふかのベッドで寝たので熟睡しちゃってて」
「俺も先に伝えておくべきだったね。だいたい8時過ぎじゃないとあの2人は起きてこないからリッヒさんもあんまり早くに起きてこなくても良いよ」
「今までは6時には起きてたんですけど、逆に迷惑ですか?」
「起きてやりたい事があるなら良いよ、エレオノーラさんとかもそうだし」
「何かやってるんですか?」
「私は朝に拠点周辺を軽くランニングしているんだ。この拠点は龍王様のお守りで守られているから、かなり安全ではあるが万が一に備えて常日頃鍛えておかないといけないからな!」
「私も体を動かすのは好きです」
「おぉ!なら明日から一緒にどうだ?」
「そうですね!ご一緒させて欲しいです!」
「よし!明日からよろしく頼む!」
(本人がそれで良いなら何も言わなくて大丈夫か・・・)
せっかく落ち着いて暮らせるようになったのだから、今まで出来なかった分ゆっくりと暮らして欲しかったが、リッヒさんも気にしてなさそうなので、俺からは何も言わないようにした。
それからしばらくしてティーとオルフェさんも起きてきたので朝食をとった。
朝食を食べた後は、リッヒさんが得意な事など皆んなで色々と質問してみた。
「私は家事系は何もできないですね・・・今まで宿で暮らしていて洗濯は任せっきりでしたし、食事も全て外で済ませてましたから・・・」
「そこは少しずつ慣れていきましょう!私とアン達もサポートしますので!」
とアリーが言った。
「何か好きな事とかは無いのか?」
エレオノーラさんがそう質問すると、
「好きな事・・・鍛錬ですかね?」
との事だったので
「じゃあ、エレオノーラさんとティーと一緒に狩りをして貰っても大丈夫かな?」
狩りや戦闘面での活躍を期待する事にした。
「昔は冒険者をしてましたから大丈夫だと思います!」
「ランクはどれくらいだったの?」
「Aランクでした!」
「えっ!まじか!」
Sランクの1個下にはあたるが、それでもAランクになれる冒険者は少ないので珍しい。
「ほぅ、Aランクか」
リッヒさんの言葉にエレオノーラさんが反応した。
「今から模擬戦でもしてみないか?」
(やっぱりそうなるのか・・・)
「エレオノーラさんも冒険者だったんですか?」
「あぁ、一応Sランクではあった」
「Sランク!!実在したんですね!」
リッヒさんは今から格上の相手と戦わないといけないのに、Sランクと聞いて逆に喜んでいた。
俺達は家の外へ出て2人の戦いを見る事にした。
「あの、私武器は持ってないんですがどうすれば良いのでしょうか」
たしかにリッヒさんは会った時から丸腰だった。
「じゃあ俺が2人の木剣を作るのでちょっと待ってて下さい。ちなみに何かリクエストとかありますか?」
「私はこれくらいの片手剣でよろしく頼む」
エレオノーラさんはそう言い普段から身につけている剣を出してきた。
「私は刃渡り15cmで持ち手が8cmくらいのダガーを2本お願いします」
「了解!」
俺は早速作業に取り掛かり、30分程で2人のリクエスト通りの木剣を作った。
「違和感とか無いかな?」
「いつも持ってた物よりもかなり軽いですが大丈夫だと思います」
「よーし、それじゃあはじめるからお互いに向き合うのじゃ」
エレオノーラさんとリッヒさんはお互いに礼をして構えた。
「よーい、はじめ!」
ティーの開始の合図が出るとともに目の前にいたリッヒさんが一瞬で消えた。
どこに行ったんだと思ったらいつの間にかエレオノーラさんの後ろを取っており、ダガーを振り下ろしていた。
だが、エレオノーラさんもそれにしっかりと反応し剣で軽く受け流していた。
「素人にはよく見えなかったけど凄いね」
「私も全く見えませんでした」
「あれはねリッヒちゃんが風魔法を足に纏わせて一瞬で背後に回ったんだよ」
オルフェさんは魔王なだけあってしっかりと見えているようだ。
「魔法も使えて物理でも戦えるんだったら、流石にエレオノーラさんも不利かな?」
「ん〜、そうでも無いと思うよ。エレオノーラちゃんはSランクだからねー、AランクとSランクでは実力にかなりの差があるから」
(Sランクの冒険者って、そこまで凄いのか・・・)
2人は俺達でもギリギリ見えるくらいのスピードで何度も剣を交わしていた。
5分程経った所で、リッヒさんの額に少し汗が流れていた。
これだけ激しい打ち合いをしていれば汗もかくだろうが、エレオノーラさんはというと汗もかかず涼しい顔して相手をしていた。
そこから更に10分経った所で、2人は互いに距離を取った。
「さすがSランクですね・・・」
「リッヒもなかなかやるじゃないか、最初の攻撃には驚いたぞ」
リッヒさんの方は少し息も切れ始めていたが、エレオノーラさんは少し汗をかいた程度だった。
再び、リッヒさんが構えエレオノーラさんに向かっていった。
「これはここで決める気かもねー」
オルフェさんがそう言った通り、リッヒさんは右手に持っていたダガーをエレオノーラさんに向けて投げて、再び魔法を使い背後に回り込んでいた。
これでエレオノーラさんは、前後の攻撃に対処しなければならなくなった。
「あの一瞬であんな・・・」
これはリッヒさんの勝ちかと思った瞬間、リッヒさんが先程自分で投げたダガーに被弾して、倒れていた。
「そこまでじゃ」
ティーの合図で、模擬戦は終了した。
「?」
俺とアリーは何が起こったのか分からず、オルフェさんの方を見て解説を求めた。
「エレオノーラちゃんは、まずリッヒちゃんの攻撃が先に当たると判断して後ろに振り向いて力いっぱいダガーを上に弾いたの。その力に負けたリッヒちゃんはよろめいて、その一瞬の隙をついたエレオノーラちゃんが少し横にずれて、今度は飛んできてるダガーの方を向いて持ち手の部分に剣を当てて速度を更に加速させて回避できないリッヒちゃんに当てたって感じかな」
「あの一瞬でそんな判断できるのか・・・」
「まぁ、普通の人だったら片方の攻撃にしか対処できないだろうねー」
「さすがは私のエレオノーラです!」
アリーが誇らしげにそう言った。
エレオノーラさんは、攻撃を受けて倒れていたリッヒさんに手を差し伸べていた。
「大丈夫か?」
「はい、平気です。それにしても流石Sランクの冒険者ですね。全く歯が立ちませんでした」
「そんな事は無いぞ、最後の攻撃はかなり良かった。ただ、攻撃のタイミングに若干の差が出ていたからな、投げたダガーと自分の攻撃が一緒なタイミングで相手に当たるようにすると良いだろう」
「はい!頑張って練習してみます!」
とここで、
「みなさーん、お昼ご飯ができましたよー!」
リビアさんが俺達を呼びに来たので、2人にはお風呂で汗を流してもらいお昼ご飯を食べた。
午後は、特にする事も無かったのでリッヒさんともっと親睦を深めるためにも皆んなで色々と話をした。
夕方が近づき、夕食の準備に取り掛かろうとアンさんとリビアさんがキッチンへ向かおうとした所、
「あの!私もお手伝いしてみても良いですか?」
とリッヒさんが言ったのだ。
「もちろん構いませんよ」
「それでしたら私のエプロンを使ってください」
アリーが自分のエプロンを持ってきてリッヒさんに付けてあげた。
3人がキッチンへと向かい少し経った所で、
「キャッ!」
と悲鳴の様なものが聞こえた。
慌ててキッチンへと向かってみると包丁を持ったリッヒさんが佇んでおり、側には煙が出ているまな板があった。
「どうかした?」
「そのリッヒさんにキャベツを千切りにして貰おうと思ったら・・・」
「キャベツが消えてしまいました」
「・・・どういう事?」
「リッヒさんが物凄いスピードで切り始めたと思ったら煙が立ってキャベツも無くなってました」
「そんな事あるのか・・・」
「すみません、いつもの癖で力み過ぎました・・・」
「私達も一緒にやるので次はゆっくりと挑戦してみましょう!」
ハプニングはあった物の2人に任せておいて大丈夫そうだった。
それから2時間後、料理が完成した。
出てきた料理は所々焦げていたりしていたが味は特に問題なさそうだった。
「あのごめんなさい、お2人に手伝って貰ったのですが上手く行かなくて・・・」
「初めてなんですし仕方がないですよ」
「そうじゃそうじゃ、まだきちんと仕上がってるだけ大丈夫じゃ」
「そうですよ、アリシア様なんて今でこそ1人で料理できるようになりましたが、初めての時にはお肉を焼きすぎて炭になっちゃってましたから」
とリビアさんが言った。
「あっ!リビア、それは内緒の約束でしょ」
それを聞いて皆んな思わず笑ってしまった。
「もぉ〜」
とアリーは頬を膨らませていた。
リッヒさんが加わった事で、より一層賑やかな家となった。
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