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森人

今回ちょっと重めの雰囲気かもです。

旅商人のコリンさんに会った日から5日程経ったある日、家の外に出てみるとドリアードのエムネスさんから貰った果物がなる木が一気に成長していた。

昨日までは俺の膝元くらいの大きさだったのに、今日確認してみると家の2階と同じ高さになっていた。


「どんな成長スピードなんだ・・・」


と俺が驚いていると、木の真ん中辺りが光り出した。

あまりの眩しさに目を閉じた。

次に目を開くと、目の前にエムネスさんが立っていた。


「久しいな、コタケ ワタルよ」


「お久しぶりです」


俺は少し驚きながら挨拶をした。


「急にすまないな、少し用事があってこちらに来させてもらった」


「この木から来る事出来るんですね・・・」


「あぁ、お主に渡した木は私の眷属だからな、こうして自由に行き来する事ができる。そういえば、何処かの街の木々からお主が結婚したと聞いたな。私からも祝福しよう」


「ありがとうございます。それで用事とは・・・?」


「それなんだが、私の本体があるあの場所に来てもらいたいんだが良いだろうか?」


「それは構いませんけど何かあるんですか?」


「それは着いてから説明する。それとくる時は力に自信のある者も1人連れてくると良いだろう」


(となると、エレオノーラさんかな?)


「あっ!正確な場所は覚えて無いんですけど?」


「それはお主の精霊に聞けば分かるだろう。では、私は先にあちらで待っているぞ」


そう言い残してエムネスさんは消えていった。

その後、俺はエレオノーラさんに事情を説明してついて来てもらい、ヒルズの案内でエムネスさんの本体がある場所へと向かった。

目的地に到着すると、エムネスさんの本体の木の側に人が横たわっているのが見えた。


駆け寄ってみると、その人は黒髪で肌は褐色で耳の先が長い女性だった。


「これは、ダークエルフですね」


ヒルズがその女性を見て少し驚きながらそう言った。


「珍しいの?」


「この世界にはエルフという種族が居る。ほとんどの者は森の中に住んでおり人間との交流もごく僅かだ。そして、ダークエルフはそのエルフという種族の中でも更に人数が少なく人とは一切関わり合いが無いのだ」


エレオノーラさんはそう説明してくれた。


「おや、到着していたか」


エムネスさんが木から出てきた。


「エムネスさん、この人は?」


「昨晩、この地にやってきたと思ったらここで意識を失ってな、この場所で放置するのもなんだし、お主達の家に運んで貰おうと思ったのだ」


(だから、力のある人を連れてこいと言ったのか)


「それなら別に構いませんけど」


「そうか、それは助かる。エルフ達は森人と呼ばれていて自然を丁重に扱っているから、ぞんざいに扱いたくは無いのだ」


「わかりました。エレオノーラさんお願いしても良いですか?」


「あぁ、任せてくれ」


エレオノーラさんにダークエルフの人を背負ってもらい家へと帰ってきた。


「皆さんお帰りなさい、あら?エレオノーラが背負ってるそちらの方は?」


「エムネスさんの所で気を失って倒れてたんだって」


「その特徴的な耳の形はと褐色の肌・・・もしやダークエルフですか?」


「うん、そうらしいね」


ひとまずソファの上に横たわらせ、アリー達に看病してもらった。


ダークエルフの人を連れてきて、2時間程経過した。

リビングの方からアリーが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

呼ばれてリビングへと向かうと、先程まで気を失っていたダークエルフの人が目を覚ましてソファの上に座っていた。


「はじめまして、コタケ ワタルと言います。体の方は大丈夫ですか?」


「・・・・・」


俺は挨拶してみたが返事は返ってこなかった。


(困ったな・・・やっぱり警戒されてるのかな?)


ダークエルフの人は辺りをキョロキョロ見回した。


「ここは何処だ?」


「ここは俺達の家ですよ」


「こんな森の中にか?」


「まぁ、以前色々と事情があったので」


「それと何故、お前から精霊の気配を感じる?」


この場にヒルズは居ないが、ダークエルフの人は何かを感じとったみたいだ。


「仲間だからですね」


「仲間?」


不審そうな顔をしたので、俺はその場にヒルズを呼び出した。


「こちらが、仲間の精霊のヒルズです」


「精霊が人間の味方・・・」


ダークエルフの人は何かぶつぶつ言いながら考え込んでいた。


「あのよければお名前を教えてくださいませんか?」


アリーが聞いたのだが、


「私は・・・」


と言いかけ、


「人間に教える名はない」


と再び口を閉ざしてしまった。

アリーも困った顔して、どうしようかと悩んでいるとコンコンと家の扉をノックする音が聞こえた。


ドアを開けるとそこに居たのはエムネスさんだった。


「先程のダークエルフはどうだ?」


「意識は戻ったんですが、かなり警戒されちゃっててなかなか話してくれないんです」


「そうか、ダークエルフは人との交流が一切なかったからな仕方がないだろう。どれ、私も少し話してやろう」


そういうわけでエムネスさんの力も借りる事にした。

リビングへと向かい、エムネスさんが姿を現すとダークエルフの人はソファから立ち上がり、膝をついて頭を下げた。


「ドリアード様・・・」


「ふむ、私が何者か分かるのか」


「はい」


「お前達、エルフは森を大切にしてくれている。だから、あそこで倒れていたお前をこの者達にお願いして安全なこの家に連れてきてもらったのだ」


「ドリアード様が人間にお願いですか・・・」


「そうだ、ここにいる者達は私も認めているのでな、だから信用に足る者達だと断言しよう」


「ドリアード様がそうおっしゃるのであれば・・・」


ダークエルフの人は決心して、


「先程までのご無礼をお許し下さい。助けて頂いたのに何もお礼も申さず申し訳ございませんでした」


「あそこに放っては置けなかったので大丈夫ですよ。改めまして、コタケ ワタルです」


俺に続いて他の人達も自己紹介をした。


「コタケ様、皆様、ありがとうございます。私の名はリッヒと申します」


「リッヒさんですか、それであの場所で何で倒れていたんですか?」


と聞いたが、話そうか迷っている感じだった。


「もし、言えないのであれば大丈夫ですよ。誰しも人に言えない秘密の1つや2つはありますから。私も似たようなものでしたから」 


とアリーが言ったのだった。


「似た様なですか?」


「私も初めてワタルさんと会った時は少し事情があって説明しようか迷いましたが、話さなくても大丈夫と言ってくれました。私は話す事にしましたが、話さなくてもワタルさんは受け入れてくれたと思います」


「そうですか・・・」


リッヒさんは少し悩んだ後、これまでの経緯を話してくれた。


「私は、ゲレンの森という場所にあるダークエルフの里で生まれました。その里は少人数ながらも自然を活用し平和に過ごしていました。私には家族がいて両親に兄と姉がおり私は1番末っ子だったのです。事が起きたのは私が9歳の時でした。ある日、商人を名乗る人間が10名ほどの冒険者を引き連れその里へとやって来たのです。彼らは貴重な素材を探していたらたまたま里を見つけたと言い一晩だけ泊めてほしいと言いました。ダークエルフは他のエルフとは違い人間と関わりが無かったので初めは拒否しましたが、商人を名乗る人間が持っていた食料やアイテムが私達にはとても珍しく、それをタダで譲ると言われ、やむなく泊めることにしました。しかし、その日皆が寝静まった時に人間達は里の中で暴れ始めました。その者達は実は奴隷商で初めから私達ダークエルフを捕らえる事が目的だったのです」


「奴隷商・・・」


俺はこの世界の事に詳しくはないが、リッヒさんの話し的にグレーな存在なのだろう。


「ワタルさんはご存知ないかも知れませんが、この世界で奴隷売買は禁止されています。しかし、裏では獣人やエルフなどの種族を狙った奴隷商は消えていない上、彼らを欲しがる貴族なども存在しているのです。そういった者達を処罰しようにもなかなか尻尾を掴む事が難しいのです」


アリーはそう説明してくれた。


「妾の国でも、何人かそんな奴がおったが即刻処刑してやったわい」


「それでその里は・・・?」


「私達の里は滅びました。抵抗する大人達は殺され、戦闘のできない子供達がターゲットとなったのです。私は姉に逃され里から離れた洞窟の中に身を隠していました。夜が明け、里へと戻るとそこには家族4人の遺体があったのです」


皆、悲痛な面持ちで聞いていた。


「唯一生き延びた私は、そこで復讐を誓いました。そこからは各地を転々と歩き冒険者として少しずつ力を付けていきました。その事件から5年が経ったある日、私はとある人物に出会いました。その人は自身の事を伝説の暗殺者などと言ってましたが真偽は分かりません。しかし、復讐に囚われていた私にとって暗殺技術を学ぶのは好都合と思い弟子入りしました。その日から2年間、様々な暗殺技術を学び里を襲った者達を確実に殺す準備をしていきました。全ての技術を学んだ私は遂に復讐へと取り掛かりました。まずは情報を集め里を襲った者達の素性を探りました。10人の冒険者達は各地に散らばっていましたがいまだに奴隷狩りを続けており、私は3年を掛けて全ての者を葬って来ました。そして2週間前、最後の奴隷商の居場所が分かりそこへ向かいました。仲間達が殺されたという情報を得ていた奴隷商は屋敷を厳重に固めていました。ですが今の私には意味のない警備でした。護衛は全て始末し遂に奴隷商の元へと辿り着きました。奴は無様にも金はいくらでもやるから助けてくれと言い命乞いをしてきましたが、私には意味のない事です。奴隷商の言葉など無視し、奴が1番苦しむ様にゆっくりと時間をかけて殺しました。そして復讐を遂げた私はこれからどうすれば良いのか分からず彷徨っているとあの場で倒れてしまったのです」


話し終えたリッヒさんは暗い面持ちで俯いた。

想像以上の出来事に俺達もなんて声を掛ければ良いか分からなかった。

しばらく経ち、アリーが俺に手招きしながらリビングの外へと出た。


「リッヒさんをみていると昔の私を思い出すんです。今にも死にそうな顔をしています。ですので彼女をここに住まわせてあげたいのですが・・・」


アリーはそう提案してきた。


「アリーならそう言ってくれると思ったよ」


「では!」


「もちろんここに住んでもらっても大丈夫だよ空き部屋もあるしね」


「ふふ、流石私の旦那様ですね!」


と笑顔でそう言ってくれた。

俺達は、再びリビングへと戻った。

そしてアリーがリッヒさんの両手を握りしゃがみ込んで、


「リッヒさん、良ければこの家に住んでみませんか?」


「えっ?」


「多分、リッヒさんは今にも死んでも良いと思っていると思います。私も死のうと思って初めはこの森に入りましたから」


「でも、皆さんに迷惑がかかるので・・・」


「そんな事を気にする人はここには誰も居ませんよ」


うんうんと俺達は頷いた。


「本当に良いんですか?」


「もちろんですよ!」


それを聞いたリッヒさんは泣き出した。

事件の後は誰も信じる事が出来ず、甘える事も出来なかっただろう。

9歳の少女が復讐を決意し10年間もそれに囚われていたのだ、ここで平穏な日常に戻っても良いだろう。

それからリッヒさんは20分ほどアリーの胸の中で泣き続け落ち着いた。


「ごめんなさいアリシアさん」


「ふふ、大丈夫ですよ。なんだか妹ができたみたいで嬉しかったです」


「それじゃあ、今日は盛大に歓迎パーティーでもしようか!」


今日の夜は豪華なご馳走にする事となった。


「エムネスさんも一緒にどうですか?」


「私は遠慮しておこう」


「そうですか・・・」


「そう残念がるな、次の機会があれば参加しよう」


「是非来てください!」


エムネスさんはそう言って帰って行った。

リッヒさんには体の汚れをお風呂で落として来て貰った。

リッヒさんが帰って来た所で、夕食の準備が完了していた。

そして歓迎パーティーが始まった。

誰かと食事を取るのは久々らしく、嬉しいと喜んでいた。

食後、リビングでゆっくりしていると疲れていたのかリッヒさんはそのまま眠ってしまったので、エレオノーラさんに部屋まで運んでもらった。


「とても可愛らしいですね!」


「アリーも嬉しそうだね」


「はい、昔は妹が欲しいと思ってましたからなんだか嬉しくて」


「リッヒさんも皆んなと打ち解けてくれたし良かったよ」


「今まで色んな事があった分、彼女には幸せになって欲しいですね!」


こうして、ダークエルフのリッヒさんが新たに住人として加わったのだった。







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