商人
結婚式を終え家に帰ってきてから、1週間が経った。
その間、特に何もなく過ごしていた。
新婚旅行は時期を見計らって行く予定なので、まだ詳しい場所は決まっていない。
今日も特にする事は無いかなと思い、お昼を食べて午後からゆっくりしていると、家の扉をノックする音が聞こえた。
家の中には全員いるので、クロ達かなと思い玄関へと向かったのだが、
「ごめんくださ〜い」
と高めの声が聞こえたのだ。
知らない声だなと思い少し警戒した。
「あれー?留守なのかな?ここに居ると聞いてたんだけどな?すいませーん、怪しい壺売りとかじゃないですよー」
何かあればクロ達が家の外で対処していたと思うので、俺は警戒しつつも扉を開けることにした。
そして扉を開けると、そこには俺の胸元位までの身長で活発そうな見た目をした猫耳と尻尾を生やした薄い茶髪の少女の様な子が立っていた。
「あっ!良かったー、不在かと思いましたよ」
「あの、どちら様ですか?」
「旅商人のコリンと言います!」
「はじめましてですよね?」
「はい、そうです!この度ヴァルナ様からのご紹介でこちらにやって参りました。コタケ ワタル様でお間違いなかったですか?」
(ヴァルナさんからの紹介?)
「そうです、俺がコタケです。」
「良かったです。あっ、こちらヴァルナ様から手紙を預かって参りましたのでお受け取り下さい。アリシア様とティーフェン様という方への手紙も預かっているのですがいらっしゃいますか?」
「今呼んで来ますね」
俺はそう言って2人を連れてきた。
「旅商人の方ですか?」
「うん、ヴァルナさんからの紹介らしくて、ここまで来たんだって」
「ふむ、ヴァルナのやつが・・・」
「コタケ様、ひとまずヴァルナ様からの手紙を読んで頂けますでしょうか?」
コリンさんがそう言ったので封を開け手紙を確認した。
"コタケ様、お久しぶりです。結婚式からあまり日も経ってはいませんがお元気でいらっしゃいますでしょうか?さて、今回手紙をしたためたのはそこにいるであろうコリンを紹介する為です。彼は猫族という獣人で昔から世界中を旅する事が夢だった様で、現在商人として各地を転々としてそこで見つけた面白い商品や便利な商品を販売しているのです。私も知人の紹介で知り、いつも良い商品を持ってきてくれるので良く来てもらっているのです。いらぬお節介かもしれませんが、コタケ様達が住んでいる場所が森の中という事で何かとご不便があると思いコリンに行ってもらいました。何か良い商品が有れば是非買ってあげて下さい"
手紙にはこう書かれていた。
「ヴァルナさんが俺達に気を使って、コリンさんに来て貰ったんだって」
「お礼の返事を書かないとですね!」
「ところで、手紙の中に彼って書いてあったんですけど?」
とコリンさんの方を見ながら聞いた。
「そうですよー、男ですよ」
俺達はそれを聞いてビックリした。
「私、てっきり女の子なのかと思ってしまいました・・・」
「妾もじゃ」
「あははー、良く間違われるので大丈夫です」
コリンさんは言われ慣れていると陽気に笑った。
「それで、ヴァルナ様から言われて色々と商品持ってきたので、是非見てください!」
コリンさんはそう言い、背負っていたバッグを下ろすと中から露店用のセットを取り出し、そこに商品を並べていった。
「マジックバックですか?」
「そうですよ、旅商人には必須のアイテムなので頑張ってお金を貯めて買ったんです!」
マジックバックはかなり高いと聞くので、苦労したのだろう。
「ちょっと他のやつらも呼んでくるのじゃ」
ティーはそう言い中にいたエレオノーラさん達を呼んで来てくれた。
クロ達もなんだなんだといった感じで近づいてきた。
「それでは、皆さんご自由にご覧になってください!」
そう言われて、俺達は並べられてた商品を見始めた。
「コリンさん、これは何ですか?」
俺は5cmほどの四角い箱を手に取ってどういう商品かを聞いた。
「それは、簡易キッチンです。そちら一つでシンクなどのキッチンの装備が出てきますので、旅の途中に本格的に料理をしたい方にはおすすめです」
「なかなか高そうですね・・・」
「こちらはお一つで大金貨1枚となってます」
(うわっ!これ一つで1000万円もするのか・・・)
「買いますか?」
「いえ、今回は遠慮しておきます・・・」
「確かに高いですからね、簡単には買えませんよね」
「えぇ、予想外の金額で驚きました。ちなみに今日買いたい物があったら代金はどうすれば良いんですか?」
「お代は結構ですよ!ヴァルナ様から後で代わりに支払うと言われていますので」
(そうなのか、ますますヴァルナさんに頭が上がらないな)
「あのー、コリンさん?」
「はい、なんでしょうか?」
アリーが何か質問したげにこちらにやってきた。
「以前にワタルさんから、ダンジョンでゲットした包丁を頂いたのですが、その包丁の切れ味が凄まじく下のまな板まで切れてしまう事があるのですが、それに耐えられそうな物とかありますか?」
「そんな事になってたんだ・・・」
「はい、ワタルさんからのプレゼントだったので毎日使ってはいるのですが、既に何個かまな板をダメにしちゃってまして」
「それでしたら、こちらをどうぞ!」
コリンさんがマジックバックから取り出したのは一見何の変哲もない木のまな板だった。
「これで大丈夫なんですか?」
「はい、試しに包丁を思いっきり振り下ろしてみてください」
そう言われて、アリーは家から包丁を持ってきて、まな板へと振り下ろした。
するとカンッと音がして包丁がきちんとまな板の上で受け止められた。
「凄いです!いつもなら真っ二つになってしまうレベルの力だったのに傷が全くついて無いです!」
「実はこれもダンジョン産のまな板で、耐久面にとても優れているのです」
(ダンジョンってなんでも取れるんだな)
「これ買います!」
アリーは即答した。
その後、アンさんとリビアさんは調理器具や掃除道具などの家具を、エレオノーラさんは剣の鍛錬用の道具を、オルフェさんは裁縫用の糸などを買ったりしていた。
そしてティーは、魔道具作成用の材料に加えて色々と難しそうな本を買っていた。
ティーは意外にも勉強熱心なところもあるので部屋にはかなりの数の本が置いてあったりする。
それから、クロ達もお肉の試食をして気に入った物を貰っていた。
俺も何か買う物が無いかなともう一度確認していると、ふとある物が目に入った。
それは、前世でもよく見たお守りだった。
特に文字も書いてあるわけでもなく、白色のお守りの袋が置いてあるのだ。
「コリンさん、この商品は?」
「それは、自分も良く分からないんですよね。一応ダンジョンの宝箱から出たらしいんですが効果も見てもらっても分からないんです。ただ呪いとかそういった悪いものは無いみたいなので大丈夫だと思います」
「なるほど・・・そうしたら俺はこれを買います」
「えっ!良いんですか?」
俺はそのお守りに懐かしさを感じて買ってしまった。
それからしばらく商品を見ていたが欲しいと思う物は無かった。
皆んな、一通り買いたい物を買った所でコリンさんは商品を片付け始めた。
「これから1ヶ月に1回程こちらに伺わせていただきますが大丈夫ですか?」
「勿論ですよ。また新しい商品が入ってきたら是非お願いします」
片付けが終わったコリンさんはバッグを背負い、
「それでは、今後ともご贔屓に〜!」
と言って木々の上をジャンプしながら森の中へと消えていった。
「あんな軽々と・・・」
「獣人は身体能力が高いからな、あんな感じの移動もお手のものじゃ」
何はともあれ、これからコリンさんが定期的にくる事でここでの生活も豊かになりそうだった。
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