準備
今日で結婚式まで残り1週間となった。
オルフェさんに頼んでいたウエディングドレスとタキシードは少し前に無事に完成した。
タキシードはジャケットが白色でパンツが黒色の爽やかな感じのものだった。
ウエディングドレスはどんな感じに仕上がったのかと見せてもらおうと思ったら、
「それは本番までお楽しみ〜!」
と言われて見せてもらえなかった。
アリーは、実際にドレスを見てとても気に入ったとの事らしいので、式当日が楽しみだ。
それから2日後の結婚式まで5日となった所で、式を上げる教会のあるアリーの両親の領地へと行く事となった。
ティーに乗って、クロ達も含めた全員でアリーの実家の屋敷へとやって来た。
屋敷に入ったら早速オーウェンさん達が出迎えてくれた。
「おかえりー!アリシアー!」
「お父様、恥ずかしいです・・・」
オーウェンさん1人だけハイテンションで、出迎えをしていて、アリーも恥ずかしそうだった。
アリーの母のクラニーさんによれば、結婚式が近づいて来た事でここ最近ずっとこの調子だとか。
やはり、娘の晴れ姿を見れるのが楽しみなのだろう。
だが、一向にオーウェンさんの歓迎ムードが収まらずアリーに付きっきりになっているのを見かねたクラニーさんが、手刀でオーウェンさんを気絶させていた。
「この人の事は良いので、お二人で式場の教会を見に行って下さい」
オーウェンさんを片手で担いだままクラニーさんがそう言った。
俺とアリーは馬車で教会を見に行った。
会場である教会はオーウェンさん達がしっかりおさえてくれて、準備も手紙を出してからの1ヶ月の間である程度してくれたという。
屋敷からは5分程で到着する場所にあり、白を基調とした建物で人は50人程が入れるくらいの大きさだった。
「なかなか良い場所だね」
「はい、小さい頃に結婚式は両親と同じくここで行いたいと思っていたのでとても楽しみです!」
それからその教会を後にして屋敷へと戻った。
屋敷に戻ると気絶させられていたオーウェンさんが意識を取り戻していた。
「先程はお見苦しい姿をお見せした」
クラニーさんに何か言われたのか大分落ち着いていた。
「俺も楽しみなので気持ちは分かりますよ」
「そうだろう!遂にアリシアのウエディングドレス姿を見れると思うと気分も上がるものだよ!」
またオーウェンさんが先程までのテンションに戻りそうになった所で、クラニーさんが目を細めた。
「はっ!コホン・・・結婚式までに色々と準備もあるが、とりあえず今日は体を休めてくれ」
クラニーさんの表情を見たオーウェンさんが取り繕ってそう言った。
そして、その日はそのまま休んだ。
翌日、アリーからある人に会いに行くからついて来て欲しいと言われた。
そのまま馬車に乗り込み10分程経った所で目的地に到着した。
そこには、大きな宿屋が建っていた。
「ここは貴族用の宿屋となっていまして、こちらに宿泊している方に用事があるのです」
(という事は相手は貴族か、ちょっと緊張するな)
「そんなに緊張されなくても全然大丈夫ですよ」
なんでも会ってみれば一瞬で緊張も解けるらしい。
アリーの後について行き宿屋の最上階へとやってきた。
アリーが部屋の扉をノックすると中から、
「お待ちになって下さい」
と女性の声が聞こえて来た。
少し待った所で扉が開き中から人が出てきた。
「アリシアではありませんか!」
「ご無沙汰しております。フラン」
アリーがフランと呼んだ女性は、金髪縦ロールの女性だった。
「ワタルさん、こちらはウェルバーン伯爵家の長女フラン・ウェルバーンです。昔通っていた学園で仲良くなり、以来親友なんです」
「そんな私は親友だなんて思ってませんわ!私は良きライバルと思っているだけですわ!」
「彼女は少し素直じゃないところがあるんですよ」
と笑いながら小声でそう説明してきた。
「そこ!聞こえてますわよ!」
「ふふ、それにしても結婚式に出て下さってありがとうございます」
「と、当然ですわ!私が認めたライバルですもの!そこの庶民!」
と俺の方を指差して来た。
「もし、この子を泣かせる様な事がありましたら容赦いたしませんから!」
(なるほど、これがツンデレってやつか)
「それでは、また結婚式で会いましょう」
その後帰りの馬車の中で、
「なんかアリーがああいったタイプの人と友達なのって意外だね」
「そうですか?彼女はトゲトゲしい一面もありますが、根は優しくて真面目な子なんですよ」
「どうやって知り合ったの?」
「彼女から学園内のテストで勝負を挑まれたのが始まりですね。そこから事あるごとに勝負を挑まれたのですが、いつも私が勝っていました。彼女の性格上、誰かに負け続けるのはプライドが許さないでしょう。それでも諦めない姿を見て仲良くなっていった感じですかね」
「俺もまだまだアリーの知らない一面があるね」
「また機会があればいつでもお話ししますよ」
それから屋敷に戻り、式の流れについて軽く説明を受けてその日は終えた。
翌日は特にする事もなかったのでゆっくりと体を休めた。
さらにその翌日の結婚式まであと2日となった所で、午前中に教会でどの様な流れで行うかをしっかりと確認をした後に2人で結婚指輪を買いに行った。
宝石はあしらわず、定番のストレートのシンプルな指輪を選んだ。
そして、午後からはラーブルク龍王国からテンメルス一家がやって来た。
「コタケ殿、お久しぶりです!」
「お久しぶりです。テンメルスさんも元気そうで何よりです」
「こちら結婚のお祝いの我が国の特産品です」
とワインや海の幸を馬車にいっぱい詰めて持って来ていた。
流石に一国の王を街の宿屋に泊めるわけにもいかず、屋敷に一緒に泊まる事となった。
その日は、夕食を共にし食べ終わった後は男性陣は酒盛りをして盛り上がり、女性陣は何かの話で盛り上がっていた。
翌日、遂に結婚式を明日に控えた俺は楽しみな気持ちと緊張が混ざり合っていた。
今日は式に参加する残りの人達がやってくるらしい。
ちなみにフィーアさんもまだこちらに来ていないのだが、ヒルズからランフィに連絡を取って確認したら、少し手が離せない状況らしい。それでもなんとか式当日には来れるとの事だった。
そして、お昼を過ぎてから残りの人達がちょうど到着したとの事なので、アリー達と一緒に玄関へと向かった。
そこには、60代くらいの白髪の男性と女性が2人ずつ居た。
「久しいなアリシア!」
「はいお久しぶりです!お祖父様達も参加して下さってありがとうございます!」
「勿論だとも!大事な孫娘の晴れ姿を見ないわけにはいかないだろう!」
アリーとその4人は楽しそうに話していた。
「あの、アリー、こちらの4人は?」
「すみません今ご紹介しますね。こちらの4人は私の母方と父方の祖父母になります」
(たしかに、オーウェンさんとクラニーさんに似た顔つきをしている)
「はじめまして、コタケ ワタルです」
「君がアリシアの結婚相手の子だね?私はダルトン・ウッドフォードだ。こちらは妻のウォーラ・ウッドフォードだ。名前の通りオーウェンの父親と母親だよ。今は地方で隠居生活をしている身だ」
オーウェンさんの両親は、どことなくやんわりとした雰囲気の人達だ。
「そして私はメルソン・スタンウィックだ。こちらが妻のヘレン・スタンウィック。クラニーの両親で、今も貴族として領地の統治をしている」
(クラニーさんの実家は確か伯爵家だったかな?そういえば、クラニーさんは前騎士団長の娘と言っていたな。という事はこのメルソンさんがそうなのか)
クラニーさんの両親は、厳格そうな印象だった。
「これから家族になるんだ。今から一緒に話さないか?」
というダルトンさんの誘いを受けて、みんなで俺とアリーの出会いなど色々な事を話した。
4人共とても優しく何かあればいつでも頼ってくれて良いと言ってくれた。
たくさん話しているといつの間にか夕食の時間になっており、夕食後は昨日と同じく酒盛りする事となった。
人数が増えた事もあり昨日よりも、どんちゃん騒ぎだった。
特に、オーウェンさんとダルトンさんとメルソンさんは大事な娘、孫娘の結婚式の前日なのでテンションも上がり昔のアリーの話をして盛り上がっていた。
「それにしてもうちの孫娘にあんな仕打ちをした、あのバカ王子と貴族共は絶対に許さん!」
と途中からアリーが婚約破棄された時の話題が持ち上がり、
「今から報復に行くぞ!」
と若干暴走していたが、執事さん達がなんとか食い止めてくれていた。
自分の夫達のハイテンションぶりを見たクラニーさん達はため息をつき、それぞれの旦那さんを嗜めて落ち着かせていた。
どの家庭も奥さんには逆らえない様だ。
オーウェンさん達が落ち着いた所で、明日に備えて早めにお開きとなり各自部屋へと戻っていった。
俺も早めに寝ようと思った所で、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
扉を開けるとそこにはアリーがいた。
「どうかした?」
「その明日は遂に本番なのでとても緊張してしまって、ワタルさんはどうかな?と思いまして」
「俺も一緒だよ。初めての結婚式だからね。良かったら少しだけお話しする?」
「はい!」
それから、アリーの祖父母の事など何気ない会話を少しだけした。
「お話ししてたら少し緊張が解けてきました!」
「それなら良かったよ」
「はい!明日は最高1日しましょう!」
こうして、アリーが自分の部屋へと帰って行き、俺も明日にドキドキしながら眠りについたのだった。
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そして次回は遂に結婚式です!




