クリア
初めてのダンジョンへと足を踏み入れ、無事に途中のフロアボスを倒し終えた俺は、最下層の10階層に向けて、6階層を攻略中だった。
「この階層からは道に罠が仕掛けられているから気をつけてくれ」
「ここで来る時に買った魔道具を使うんですか?」
「そうだ」
そう言ってエレオノーラさんが、先程買ったランタンの形をした魔道具を取り出した。
「これに火を灯すと自身から5m以内の罠がある部分が、光で強調されるんだ。ここら辺だと・・・」
そう言いいながら地図を確認した。
「あそこら辺か」
ついて来いと手招きをしたので、エレオノーラさんの後ろを歩いて行くと前方の床の一部分が光っているのに気づいた。
「エレオノーラさんアレって」
「あの光っている部分が罠のスイッチだ」
エレオノーラさんは、近くに落ちていた石を拾って光っている部分に投げ捨てた。
すると、光っていた道の天井から矢が降ってきた。
「まぁ、こんな感じで罠が設置されているから気をつけるように」
「はい・・・」
(あんなの受けたらひとたまりもないな)
「なかなか面白い魔道具じゃな」
「ティーは使った事ないの?」
「妾も何度かダンジョンに入った事はあったが、罠程度の攻撃痛くも痒くも無いのじゃ」
「流石は龍王・・・」
「ちなみにこの魔道具はどれくらい効果が持つんじゃ?」
「大体1日は効果が続きます。なので、高ランク帯の攻略に時間がかかる様なダンジョンでは複数個持って行くことになります」
「なるほどの〜」
「ちなみに地図には罠の場所も記されているが、未発見の罠があるかも知れないから、踏破済みのダンジョンでもしっかりとこの魔道具を使う様に!」
とエレオノーラさんが俺の方を向いて言ってきた。
罠に気をつけつつも順調に6階層、7階層を進んでいき8階層に降りてきた。
ここまで降りてきて俺はふと気づいた事があった。
「ダンジョンに宝箱って無いんですか?」
ダンジョンといえばお宝だ。
それを求めてやってくる冒険者も多い事だろう。
「残念ながら道中の宝箱は早い者順だ。1度取れば2度と復活しない」
「そうなんですね・・・」
それを聞いて俺は少しガッカリしたが、
「道中の宝箱は無いが、踏破済みのダンジョンでも時々、隠し部屋が見つかる事がある。そこには手付かずの宝箱などがある場合もある」
との事だった。
「それはワクワクしますね!」
「そうだろう?それにダンジョンボスを倒す事でクリア報酬として、宝箱が出現する。そこでレアなアイテムが手に入る事もある」
「おー楽しみですね!エレオノーラさんも何か手に入れた事あるんですか?」
「そうだな、私がAランクのダンジョンをクリアした時に今身に付けているネックレスが手に入った」
「何か効果があるんですか?」
「勿論だ。鑑定魔法で調べて貰ったら毒への耐性が上がる物で、身に付けているだけで毒にかかりにくくなり、もし毒にかかったとしても、効果を弱める力があるそうだ」
「アリーとか貴族の人には重宝しそうですね?」
「あぁ、その通りだ。国にいた頃にはこのネックレスはアリシア様に付けて貰っていた。今はもう必要が無いから私が付けているがな」
「流石エレオノーラさんですね!」
「ほ、褒めても何も出んぞ」
そう言ってエレオノーラさんは少し照れていた。
ダンジョンについての話をしつつも8階層を攻略して9階層に降りてきた。
この階層には、体長2m程のアリの魔物がいた。
体が少し硬かったので、倒すのにも少し苦労した。
9階層を進んで行くと、今までの階層には無かった部屋があるのに気が付いた。
「エレオノーラさん、あの部屋は何なんですか?」
「あぁ、あれはモンスタールームだ」
「モンスタールーム?」
「あの部屋に入った瞬間に大量の魔物が現れるんだ。何の準備も無しに入ると、その数に押されて命を落とす可能性もある」
「ほぉ〜なかなか面白そうじゃの」
「ティーまさか・・・」
「まぁお主達は、部屋の外から見ておれ」
ティーはそう言いながら、モンスタールームへと1人で入って行った。
すると部屋の中には、今までの階層で出てきた魔物達が一斉に出現した。
「おぉ〜ざっと100体くらいはおるの〜」
「流石にこれはマズイのでは・・・」
「そうだな、流石の龍王様でも・・・」
と俺達2人は心配したのだが、それは要らぬ心配だった。
ティーは自分の背後に大量の魔法陣を展開し、そこから火や水、風、土など様々な系統の魔法を打ち出した。
それはもう一方的な蹂躙だった。
「うわ〜えげつなぁ」
ティーは一瞬で100体の魔物を消しとばした。
「いや〜どうって事無かったの〜」
「はは、流石の一言に尽きるな・・・」
エレオノーラさんも引きつった笑いをしていた。
「それじゃあさっさと残りを攻略するかの」
少し寄り道をしたが、再びダンジョンの攻略を開始した。
といっても、すぐさま次の10階層への階段を見つけたので降りて行った。
10階層は5階層と同じく1本道で奥には扉があった。
「この先がダンジョンボスがいる部屋となる。しっかり気を引き締めるように」
「ちなみに今回のダンジョンボスはどんな魔物何ですか?」
「それなんだが、実はダンジョンボスは毎回ランダムな魔物が選ばれるから入ってみないと分からないんだ」
「それはまた厄介ですね」
「今回は妾とエレオノーラもおるから安心するのじゃ」
そして、俺達はボス部屋へ足を踏み入れた。
そこに居たのは、全長5m程はある大きなスライムだった。
「あれは、スライムキングだな・・・」
「どんな魔物なんですか?」
「残念な事に物理攻撃に高い耐性を持っている魔物だ。ちなみに攻撃もほとんどしてこない」
「ということは・・・」
「コタケ殿、1人では残念ながら倒すことは出来ない」
「そうなんですね。ちなみに耐性を持っている魔物に攻撃したらどうなるんですか?」
「いい経験になるだろうし、試しに攻撃してみてくれ」
とエレオノーラさんに言われたので腕輪を剣に変えてスライムに切り込んでみた。
すると、剣がスライムの体にめり込んだと思ったら、ポヨンと弾き返されたのだった。
「とまぁこんな感じで攻撃が跳ね返されてしまうんだ。物理以外にも魔法や毒などの状態異常にも耐性を持つ魔物もいるんだ」
「それで、あのスライムはどうやって倒すんですか?」
「物理が効かないから私でも倒すことは出来ない。だから・・・」
「妾の出番じゃな!」
「まぁ、そういことだ。龍王様に魔法で攻撃して貰うしかない」
「それだったら1人で攻略出来ないこともありそうですね」
「そうだな、ダンジョンはそういう不測の事態に備えてパーティーを組んで攻略するのが基本だ。たまに1人で攻略するような猛者もいるがな」
「じゃあ今回は、ティーにお願いするね」
「任せよ!っと言っても最後倒すのはお主にやってもらうがの」
「どうやって?」
「こうやるのじゃ」
ティーはそう言って、魔法を展開した。
それは、この前ピクニックに行った際にオルフェさんとアイラさんがバジリスクキングを倒す際に使っていた、氷の魔法だった。
ただし、以前の状況とは違って室内なので氷が張って物凄く寒かった。
「まぁ、こんなもんじゃろ」
とティーが魔法を打ち終えたので、スライムの方を見てみるとプヨプヨしていた体が、凍りついて固まっていたのだ。
「中まで凍っておるからな、この状態なら耐性も無くなって物理攻撃も効くわけじゃ。ほれ攻撃してみろ」
言われるがままにスライムに何度も攻撃していると、だんだんヒビが入っていき割れて砕け散っていった。
すると、先ほどまでボスがいた部屋の中央に宝箱が出現した。
「これでクリア・・・?」
「そうだ、これでこのダンジョンの攻略は完了だ」
「なんかあっけないですね」
「まぁ、元々物理が効かない相手だからな今回ばかりは仕方ないな・・・」
「次また別のダンジョンに行く時があれば、頑張ります!」
「そうだな、その時はまた私も一緒に付いて行こう」
そして、最後に肝心の宝箱の中身のチェックだ。
(いざ、オープン!)
と勢いよく開けた宝箱の中には、1本の包丁があった。
「包丁?」
「ただの包丁に見えても、ダンジョンで入手できる物には何かしらの効果が付いている事があるから、ギルドにいる鑑定士に見て貰うことだ」
「了解です。それでここらから上までどうやって帰るんですか?まさかまた歩いて上がってくんですかね?」
「そんな面倒なことはしなくても大丈夫だ。この部屋の奥に扉があるだろう?」
「あれ?本当ですね?さっきまであんなのありましたか?」
「ボスを倒すことによって出現する扉だ。まずはあの扉の中に行くとしよう」
エレオノーラさんの指示通り、奥の扉を開くと中はこじんまりとした部屋になっていて、中央には赤く輝いている直径1mほどの球体があった。
「あれはダンジョンコアだ」
「何ですかそれ?」
「ダンジョンコアはこのダンジョンを維持している、いわば人間で言うところの心臓に当たる部分だ。あれがあることでダンジョン内に魔物や宝箱が出現するらしい。そして、あれに触れることで一瞬で地上の入り口まで戻ることができるんだ」
「なるほど、とても便利ですね。ちなみにアレを壊すとどうなるんですか?」
「昔、最低ランクのダンジョンでコアを破壊する実験が行われたそうだが、破壊した瞬間にダンジョン内にいた人間全てが地上へ戻され、ダンジョンは崩壊し2度と復活することはなかったそうだ。だから、貴重な武具なども入手できるダンジョンを破壊しない為にもギルドはコアの破壊を禁じている」
(人とダンジョンはうまく共生出来ているんだな)
そうして俺達は、ダンジョンコアに手を触れた。
すると、視界が真っ白になったと思ったら、いつの間にかダンジョンの入り口まで戻ってきていたのだ。
「すごい・・・」
「結構時間経って暗くなっておるの〜」
ダンジョンにはお昼前に入ったのでが、辺りはすっかり暗くなっていた。
そして、お昼も食べていなかったので、ぐぅ〜とお腹がなった。
「今日はこのまま宿で一泊して帰ろっか?」
「そうじゃな、それが良さそうじゃ」
その日は、空いている宿を見つけて一晩泊まることとなった。
翌日、宿を後にした俺達はギルドへと向かっていた。
昨日、ダンジョンで入手した包丁の鑑定を行なって貰うためだ。
ギルドに入り、早速鑑定をして貰った。
結果、この包丁は普通の物よりも切れ味が鋭くなる効果と刃こぼれしにくい効果があることが分かった。
「これはアリー達に使って貰うのが1番だな」
「そうだな、アリシア様もきっと喜ぶだろう」
包丁の効果が分かったので、ギルドを後にして家への帰路についた。
「初めてのダンジョンはどうだった?」
「最後のボスが1人で倒せなかったのは残念でしたけど、初めての経験ばかりですごい楽しかったですよ!」
「そうか、それなら良かった」
こうしてダンジョン街から森の家に到着した。
「ただいま〜」
クロ達が元気に出迎えてくれて、エレオノーラさんとティーは体の汚れを落とす為に軽くお風呂に入ってくるとの事で、俺だけそのまま家の方へと向かった。
「ただいま〜」
「おっ!おかえり〜!」
(ん?今の声誰?)
今まで聞いた事の無い女性の声がリビングの方からしたので慌てて向かった。
「初めまして〜、君がコタケさんかな?」
すると、そこには見知らぬ黒髪の女性がいたのだった・・・
次回、新キャラ登場です!
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