ダンジョン
俺が異世界からやって来た人間であると伝えて、1週間程が経った。
皆んな、俺が居た世界はどんな感じなのかと詳しく知りたがったので、毎日色んな事を話した。
特に、王城よりも高い建物が都市には沢山並んでいる話をした所、全く想像出来ないと驚いていた。
この世界の基本的な住居は平家で高さは全然なく、貴族の屋敷も殆どは3階建ての物ばかりだそうだ。
城も大体40m〜50m位の高さとなっているらしい。
「王城よりも高い建物だったら上るの大変じゃないですか?」
とアリーに言われたが、
「階段は殆ど使わなくて、エレベーターって言う垂直に上下する箱型の乗り物と、エスカレーターって言う足を動かさなくても上り下り出来る階段みたいなのがあるから全然苦じゃないよ」
と話した所、更に分からない物が出て来てこんがらがっていた。
こんな感じで、アリー達が全く知らない物ばかりだったので興味津々で話を聞いていた。
そして、ある程度の事を話してひと段落ついて来たので、今日はとある場所に行く為に、準備をしていた。
それはダンジョンである。
アリーの両親にあった際に2人はダンジョンで出会ったというのを耳にし、ダンジョンという言葉にちょっとした冒険心がくすぐられたので、
「ダンジョンに行ってみたいんだけど、何処にあるか分かる?」
と前日の夕食の際に皆んなに聞いたのだ。
「ダンジョンは世界各地に存在しています。ダンジョン街と呼ばれる大きな街があり、そこには様々なダンジョンが密集しており冒険者でとても賑わっていますよ」
そうアリーが答えた。
「その街って遠い場所にあるの?」
「ここから馬車で行くとしたら3〜4日程はかかると思います」
「結構遠いなぁ」
「別に妾が連れて行っても良いぞ?」
「本当!?それだったらどれくらいで到着する?」
「まぁ1時間30分くらいで着くじゃろ」
「よし、それなら明日連れてってくれない?」
「それは構わんが、お主ダンジョンなんて潜った事ないじゃろ?いきなり1人で行くのは危険じゃぞ」
「そうだよね・・・」
「妾が送るついでに付いて行くとしても、そんなに詳しくは無いからな、あと1人くらいは居て欲しいんじゃが」
そう言いつつティーはエレオノーラさんの方を見ていた。
「私も参加しよう。久々に戦闘で体を動かしたいからな」
アリー達は危険なので今回は不参加で、オルフェさんは俺が居なくて見られる事がない無い間にアリーのウエディングドレスを作りたいという事で残る事となった。
クロ達も一緒連れて行こうとしたのだが、ダンジョン内ではぐれると他の冒険者に間違えて攻撃される恐れがあるとして一緒に行くのは見送りとなったが、クロ達なら逆に冒険者を返り討ちにしてしまいそうだ。
というわけで、俺とエレオノーラさん、ティーの3人でダンジョン街へと向かう事となった。
ティーの背中に乗って移動中にエレオノーラさんから注意事項の説明があった。
「コタケ殿はダンジョンについて、どれくらい知っている?」
「何も知りません!」
「まぁ、そうだろうな。まずダンジョンにもランク分けがなされている。最低はDランクでC、B、Aと続き最高はSランクだ。Sランクのダンジョンは冒険者のランクがSの者が大勢居ないと攻略出来ないとされている。私は最高でもAランクのダンジョンまでしか入った事がないからSランクがどの程度なのかは分からない」
(元Sランク冒険者のエレオノーラさんでも最高ランクのダンジョンには入った事ないんだ・・・)
「それで、今回行く予定のダンジョンはCランクの所だ。全部で10階層になっており、5階にフロアボス、10階にダンジョンボスがいる」
「俺でも攻略出来るレベル何ですか?」
「腕輪を使えば問題無いだろうが、万が一に備えて街で回復ポーションを買ってからダンジョンに入る。それとダンジョンには罠が設置されている場合もあるから、罠を発見する為の魔道具を購入する必要がある」
「なるほど、危なそうな所ですね」
「そうだ!ダンジョンは危険な所だから、油断せずに進んでいくように心掛ける事だ!」
俺はエレオノーラさんの話をしっかりと聞いて記憶した。
「そろそろ街に近づいて来たから降りるのじゃ」
街の近くの平野で、ティーから降りて徒歩で街の中へと入って行った。
ダンジョン街と呼ばれているだけあって、中は冒険者でいっぱいだった。
とりあえず、魔道具店に行き先程言われた通りに回復ポーションと罠発見用の魔道具を購入した。
「それにしても、ダンジョンって何処にあるんですか?」
周りを見てみたがダンジョンらしき物は見当たらなかったのでエレオノーラさんに聞いてみた。
「あの右手側に洞窟みたいな穴があるだろ?あれがダンジョンへの入り口だ」
塔の様な建物で上がって行く物だと想像していたが、その逆で降りて行くタイプだった。
「勝手に塔みたいなの想像してました」
「一応、塔の形をしたダンジョンも少しはあるが、そういった特殊なのは全て高ランク帯のダンジョンだからかなり危険な場所なんだ」
と話しているとエレオノーラさんが立ち止まった。
「ここが今回挑戦するダンジョンだ!」
そこには、人が3人程並んで倒れるくらいの幅の洞窟の入口があった。
入口にはギルドの職員らしき人がいた。
「不測の事態が起きた時に中にいる人数などを把握する為にダンジョンに入る時は、入口でギルドカードの提示が必要になる」
との事なので、職員にギルドカードを提示した。
「コタケ様、ランクはDですね。お連れの方はパーティメンバーでしょうか?こちらのダンジョンは本人もしくはパーティメンバーにCランク以上の者が居ないと入る事は出来ません」
こうやって、実力に見合った人しか入れない様にしているらしい。
ちなみに、以前の俺のランクは最低のFランクだったが、以前起きた魔物の群勢の討伐の功績によりDランクにアップしていたのだ。
「後ろの2人は仲間です」
「では、後ろのお2人のカードも拝見いたします」
そう言われてティーとエレオノーラさんもギルドカードを提示した。
「ティーラ様、Cランクですね。問題ございません」
職員がティーのカードを見てそう言ったのを聞いて、
「ティーラって誰?」
とティーに小声で確認した。
「妾の偽名じゃ。ギルドカードを持っておれば便利じゃし作ろうと思ったのは良いものの、本名じゃあ騒ぎになるから、国で特別に作らせたんじゃ。ランクもなるべく低く設定してある」
「続いてエレオノーラ様、ランクは・・・Sランクの方でしたかっ!?」
職員の人が、驚いて大きな声を上げた。
周りにいた人達もSランクと聞いて集まって来そうだった。
騒ぎになる事を嫌ったエレオノーラさんは、すぐさまカードを受け取り俺とティーを置いて足早に中に入って行った。
「置いてかれちゃった・・・」
「あやつ焦って一緒に来たこと忘れておるんしゃないのか」
エレオノーラさんの後を追って、俺は遂にダンジョンへと足を踏み入れた。
中に入り少し進んで所で、エレオノーラさんが待っていた。
「すまない、2人を置いて行ってしまった」
「焦りすぎじゃ」
「すいません、出来るだけ目立ちたく無かったので・・・」
「それでここからどうすれば良いんですか?」
「あぁ、そうだな。ダンジョン内は入り組んでいて本来であれば通ったルートを地図に書きつつ下の階層への階段を見つけて行くのだが、ここは既に踏破済みだからな、コレを使う」
そう言ってエレオノーラさんが取り出したのは地図だった。
「今回、コタケ殿はダンジョン初挑戦だからな、安全面を考えて地図を使って最下層まで降りて行く」
「初めてだから仕方ないですよね」
「そうだな、地図を埋めながら降りていくのもダンジョンの醍醐味だが、現在未踏破のダンジョンは高ランクしか残ってないからな、経験する事はほぼ無いだろうな」
「おーい、お主らまだかー?」
俺とエレオノーラさんが話している間に先行していたティーが帰って来た。
「よし!それじゃあ気を引き締めて行こう!」
そして、俺はダンジョンを進んで行った。
1階層と2階層にはクモ型の魔物がいたが、特に苦戦する事もなく進む事が出来た。
ダンジョン内は、床や壁が石のタイルで出来ていて天井は6m程で俺達3人が並んでも問題なく歩けるくらい広く、壁掛けの松明が設置されているので明るかった。
「この床とか整備された感じで綺麗ですけど、最初からこんな感じなんですか?」
「床と壁は初めからこの状態だが、壁に掛かっている松明は踏破後にギルドによって付けられたものだ」
「流石に松明は人の手で付けられたんですね」
「そうだな、それでも床とかが整備されているのは、私も不思議に思ったものだ」
「ダンジョンの事ってあんまり分かって無いんですか?」
「一応ダンジョンについて研究している者もいるが、どういう仕組みになっているのかは全く分かっていないんだ」
「なるほど・・・長く生きてるティーなら何か知ってる?」
「妾も知らんのう」
これだけ不思議なダンジョンだが、今まで人に害をなした事は無いそうだ。
その後、3階層、4階層と途中に休憩を挟みつつも、どんどん降りて行った。
3階層からは、コウモリの魔物がいた。
以前見たことのある、コウモリの魔物よりも小さかったが飛んでいる事もあってその分攻撃が当てにくく、前の階層よりも苦戦した。
そして、4階層を突破して5階層へとやって来た。
5階層は先程までと違い、1本道となっており奥には大きな扉があった。
「さて、5階層にはフロアボスがいる。この扉の向こうにいて、倒さないと次の階層に進む事は出来ない。ここのフロアボスは頭がなく、鎧を身に纏ったリビングメイルだ」
「どうやって倒すんですか?」
「相手は、剣で攻撃をしてくる。攻撃のパターンは単調で見極めれば、すぐに対処する事ができる。そして、鎧には動きやすくする為に肘や膝の裏側などに隙間がある。だからそこに攻撃して切り落とす事で相手が行動不能となるので、それが勝利したと判定されて次の階層への扉が開くんだ」
「なるほど、わかりました」
「撤退はいつでも出来るようになっているから、あまり気負わない事だ」
そうして、攻略方法を確認した俺はフロアボスのいる扉を開いた。
中には、たしかに首より上がない人の形をした鎧の魔物が片膝をついて部屋の中央に佇んでいた。
魔物はこちらの存在に気付いて、立ち上がり剣を抜いた。
初めてのボス戦なので、緊張したが一度深呼吸をして、腕輪を剣に変えて構えた。
まず初めに動いたのは魔物の方だった。
走りながらこちらに近づいてきて、剣を振り下ろしてきた。
俺はそれを剣で受け止めた。
意外と攻撃の威力が重く、少し手が痺れたが腕輪の効果で筋力や瞬発力なども強化されているので、そのまま攻撃を受け流し、切り返した。
ふらついてよろけた魔物の隙を突いて、背後に回り剣を持つ右腕を切り落とした。
日頃からエレオノーラさんと鍛錬をしていたお陰で、自分の想像よりも動く事が出来た。
魔物は、剣を落としたがすぐさま左腕で拾い直して、また攻撃をしてきた。
先程の攻撃よりも激しさを増したが、エレオノーラさんのアドバイス通り単調な攻撃だったので、先程と同じ様に攻撃を受け流して、続け様に左腕も切り落とした。
流石にこれで攻撃出来ないだろうと思い勝利したかと思ったが、魔物は再度こちらに突っ込んで、足蹴りしてきた。
この状態でも、まだ攻撃の意思があるのかと驚いたものの、後ろに回避して魔物に攻撃し、そのまま両足も切り落とした。
すると、魔物は消え去り、部屋の奥にあった次の階層への扉が開いたのだ。
「コタケ殿、お疲れ様」
「うむ、最後まで油断せずにおったのは偉いのじゃ」
「あんな状態でも攻撃してくるんですね」
「あの魔物の種族はゴーレムだから痛覚などは一切無い。油断しているとあの足蹴りで吹き飛ばされて重傷を負う事もある」
(こわっ!)
「さて、では少し休憩して次の階層へと降りて行くとしよう」
こうして、無事フロアボスを倒して部屋を出た所で休憩をして、次の6階層へと降りて行ったのだった。
このまま、次回に続きます!