カミングアウト
屋敷に泊まった翌朝、全員で朝食を取っていた。
「今日のお昼には、あちらの家に戻りますね」
とアリーが言った。
オーウェンさんはショックで固まっていた。
「あら?早いのね?」
「そ、そうだぞアリシア、もっと居ても良いんだぞ!」
「元々、無事である事の顔出しと結婚の報告にやって来たので」
「そうか・・・」
オーウェンさんはションボリしていた。
「それでしたら、私とリビアは午前中に買い出しに行って参ります」
後ろで控えていたアンさんが言った。
食材などの買い出しに行ってくれるそうだ。
特にする事がなかった俺はオーウェンさんに捕まり、俺が持っている腕輪を試しに使ってみたいと言われた。
とりあえず、オーウェンさんも腕輪を使えるように使用者に登録をした。
以前、アリーとエレオノーラさんも使用できるように登録した後に万が一に備えてアンさんとリビアさんにも使えるように登録したので、現在この腕輪を使う事ができるのは俺以外に5人いる事となる。
「うおー!理屈は分からんが凄いな!」
自分の思い描いた道具に変化する腕輪を使ってオーウェンさんは大興奮だった。
結局午前中はオーウェンさんに付き合っていたら終わっていた。
その後、昼食を食べて家に向けて出発する事となった。
初めは、街を出てからティーに乗るつもりだったのだが、またもやオーウェンさんがドラゴン状態の姿を見たいと言い出したので、屋敷の庭から帰る事となった。
「ちょっと狭いが大丈夫じゃろ、よし他の者は離れておれー」
とティーが言い俺達が離れると早速ドラゴンの状態へと変化した。
「す、凄い!これが龍王様のドラゴン状態の姿ですか!」
オーウェンさんは、それはもう大はしゃぎだった。
ちなみにドラゴン状態のティーを見たクラニーさんはというと、
「戦ったらどれくらい持ち堪えられるでしょう?」
と言っていた。
(エレオノーラさん然りアイラさん然り、何故こうも剣を持っている人はすぐ戦いに結びつけるのだろうか・・・)
興奮している2人をよそに、ティーの背中に乗った。
「それでは、お父様、お母様、また会いに参ります!」
「あぁ、いつでも帰ってきなさい」
「コタケ様、娘を頼みましたよ」
「はい、お任せください!」
「じゃあ出発進行なのじゃ〜」
とティーが羽ばたき上空へと上がっていった。
オーウェンさんや屋敷の人達は手を振って見送ってくれた。
それから1時間ほどで森の家へと帰ってきた。
「ただいまー」
と言うとクロ達が出迎えてくれた。
「何も問題はなかったか?」
クロはピョンピョンと跳ねたので特に問題は無さそうだった。
家に帰ってきて特にする事も無かったので、ボッーとしていたら夕方になったのでお風呂に入って夕食を食べた。
夕食を食べている途中で、アリーと結婚する前にそろそろ俺の事について、皆んなに話した方がいいのでは無いかと、ふと思ったので、食べ終えた後に全員集まったままで居て欲しいと伝えた。
アンさん達が、食器を洗い終え全員がテーブルについたのを見計らって俺は口を開いた。
「アリーと結婚する前に、ここに住んでいる皆んなには俺の事について知って欲しいんだけど、聞いてくれる?」
皆、真面目な表情で頷いた。
「まず俺が何処から来たのか気になってると思うんだけど、実は俺はこの世界とは別の世界からやって来たんだ」
それを聞いたアリー達は目が点になっていた。
「いきなりで荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないけど、俺はこことは全く違う世界で生まれて、病気で早くに死んでしまったんだ。でも、死んで次に目を開けたら変な部屋に自分が居て、目の前に神と名乗る老人と会ったんだ。そこで、この腕輪を貰ってこの森へと飛ばされたんだ。本当はのどかな場所にってお願いしたんだけど、手違いか何かでこんな危ない場所に飛ばされて、とりあえず生き延びないと思って色々やってたら、クロ達に会ったり、アリー達に出会ったりして、今に至るって感じかな」
皆んなまだ内容が掴めていないようで、悩ましい表情をしていた。
「やっぱり信じられないかな?」
「いえ、とても真剣に話して下さったので嘘をついているとは思いません。ただ、別の世界があると言うのが衝撃的過ぎて考えが纏まらないと言うか・・・」
「それに、コタケ殿はこの世界の事情に疎い所があったからな」
とアリーとエレオノーラさんが言った。
「妾も長い事生きておるが別の世界からやって来たと言うのは初耳じゃな。別の世界に近い場所なら知っておるが・・・」
「ところで、そのコタケ様がいた世界とは一体どんな場所なんですか?」
リビアさんが聞いてきた。
「その世界は地球って言う場所なんだけど、こことは違って魔法が無いんだ。魔法という概念はあるんだけど、空想上の物っていう認識なんだ。それにこの世界とは違い魔物も存在しないからね」
「魔法が無く魔物の居ない世界ですか・・・想像もつきませんね。それではどうやって生活しているのですか?」
「地球では、魔法が無い代わりに科学が発展してるんだ」
「カガクですか?」
「説明はちょっと難しいんだけど、例えば俺達の体はどうやって作られているのかといった生物の事とか今まで生きてきた人達の歴史とか色んな物の総称が科学なんだけど、そう言った物を調べて分析して生活に役立ててるんだ」
「あんまり想像できないですね。魔法があるとそう言った物を調べなくても生活に困る事は無いですからね」
「まぁ、やっぱりそうだよね」
「でも、何はともあれワタルさんの事を知る事ができて良かったです!」
「こんな正体不明な俺だけど大丈夫?」
「ふふ、何を言ってるんですか、別の世界だろうがなんだろうが同じ人間じゃ無いですか!それに今まで私達の事を種族関係なく快く受け入れて下さってるのに信じないわけが無いですよ!」
うんうんと全員頷いている。
「みんなありがとう・・・」
「あー、所でコタケよ、以前お主が魔法を使いたいと言って妾に初歩の魔力の感知を教えてくれと言っておったよな?」
「確かに、龍王国に行った時にそんなお願いしたね」
「それでな、今の話を聞いてちょっとお主の体を見てみたんじゃが、お主に魔法を使う事は出来なさそうだ」
「えっ!なんで!?」
「人間は誰しも魔力を持っている。だが大抵の人間は保有している魔力量が少なく感知が出来ないから魔法を使う事ができない。魔法が使える者は元々の魔力量が多い者だけなんじゃ。ほとんどは血筋じゃが、例外でたまに魔力量が少ない両親から魔力量の多い子が生まれる事もある。」
「それなら、魔力量が多くなるように訓練すれば良いんじゃないの?」
「そもそも魔力量を上げるには魔法を使う必要があるんじゃ。だから、魔力を感知できず魔法を使えん者には魔力を上げる事が出来ないんじゃ」
「じゃあ俺の場合は、その魔力量が少なかったていう事?」
と聞いたのだがティーは首を横に振った。
「残念じゃが、お主には魔力が一切ないのじゃ。恐らくお主が居た世界には魔法が無いからそれを使う魔力も持っておらんのじゃろ。まぁそれがお主が他の世界からやってきた証拠にもなるんじゃろうがな」
「あれ?でも魔力が全く無い子も見たことあるよー?」
とオルフェさんがティーに言った。
「そうじゃ、魔力を持たず生まれる者は時折おるんじゃが、そう言った者には何か特殊な能力が与えられておるんじゃ。例えば妾の国に行った時に図書館の司書のメルシュに会っておるじゃろ?」
「うん、会ったね」
「あやつも魔力は持っておらん代わりに超絶的な記憶力があるんじゃ。あやつは瞬時に物事を記憶し、一度見た物は忘れる事は無いんじゃ。だから司書として、あそこで働いておるんじゃ。ちなみにあそこにある本の内容は全て覚えておるらしいぞ」
(あの巨大な図書館にある本の内容を全部覚えてるって凄いな・・・)
「お主は何かそう言った特殊な能力を持っていたりするか?」
「たしかに無いな」
「そういう事じゃ、だから残念じゃが魔法は諦めるしかないの・・・」
「でも、ティーも別の世界から来た人間に会うのは初めてだろ?」
「まぁ、そうじゃな」
「なら、もしかしたら魔法が使えるようになる事もあるかもしれないし、どうにか頑張ってみるよ!」
「そうじゃな、何が起こるか分からんしな、妾も付き合ってやるとするかの」
「ありがとう!」
こうして俺は自身の事を打ち明けたが、皆んなとの関係も変わる事は無かった。
累計1万5000PV突破いたしました!
ありがとうございます!
これから今回のように投稿時間に、ばらつきが出るかもしれないですが、投稿頻度は今のところ維持していくつもりです!