地上侵攻
ラーブルクの広場に突如現れた大穴を降りると、そこには巨大な街が形成されていた。
「なんじゃこれは・・・・・・」
長年ここに居たティーですら知らない様子だ。
天井にはいくつもの光る鉱石の様な物が埋まっており、地上と同じ様な明るさがある。
「あっ、あそこ見て下さい」
ヴネルさんが指差した先には人々が集まっていた。
「どうする?接触する?」
「ここまで来たんじゃ。妾が代表として話をするのじゃ」
ティーが先頭になって街へ向かって歩くと、家の中から住民達の視線が飛んでくる。
「いつからこんな場所が出来ておったんじゃ」
「ここの人達があの穴を掘って来たんですかね?」
「だとしたら目的は何でしょうか?」
「地上への侵攻だったりして〜」
「完全に否定は出来んの」
「できるだけ穏便に済ませてね」
「あっちの出方次第じゃな」
俺の願いにティーはそう返す。
しばらく歩いて最初に見た人々が集まっている場所に到着した。
「貴様ら、準備は良いかぁ!」
「「ウオォォォ!!」」
「我々地底人の力を見せてやろう!」
「「ウオォォォ!!」」
集団の先頭で台の上で演説をしている男性が自らの事を地底人と呼称する。
ここに居る人達は皆武装しており、地上侵攻が現実味を帯びて来た。
「将軍!」
「何事だ!」
台の上に一般兵と思われる男性が慌てて上がって来る。
「街に侵入者が現れた様です!」
「何だと!?捕まえたのか!」
「いえ、民からの通報によるとコチラに向かって行ったと」
恐らく俺達の事を言っているのだろう。
「えぇーい、クソッ!地上に向かう前にまずはそいつらを・・・・・って、そこに何か居るでは無いかぁー!」
集団の一番後ろに居た俺達にやっと気が付き、全員が振り向く。
「あぁー、お主らは何者じゃ?」
「それはこちらのセリフだ、賊め」
「まぁそれは後で聞くとして、あの穴はお主らが開けたのか?」
「あれはいつの間にか空いていたのだ!これは我々地底人に地上を侵攻せよと言う神の思し召しなのだ!」
穴は掘っていないと妙な事を言う。
「要するに敵じゃな」
「あのー、ティー?」
「侵攻者から国を守るのも妾の務めじゃ」
「お前ら、賊をひっ捕えろ!」
兵士達が動こうとした瞬間、ティーはドラゴンの姿に変身する。
「う、うわぁぁぁーー!」
先頭の兵士達は恐怖し逃げ出す。
「お、お前ら怯むな!一斉に攻撃だぁ!」
後衛部隊が矢や槍を飛ばして来るがティーの鱗に弾かれる。
「ひぃーー!」
ティーはまだ攻撃していないのに相手は大混乱である。
「なんかこっちが悪者みたいだね〜」
「ティー、これくらいで十分じゃない?」
姿を戻す様にお願いした時、
ドカーン!
俺達が降りて来た穴の近くから破壊音と共に、顔が無く大きな丸い口だけの巨大なミミズ型の魔物が現れた。
「うわっ、何アレ」
「気持ち悪いです」
「穴を空けたのはアレが原因の様ですね」
口の中はギザギザの歯が大量に並んでいて、周りの家を破壊している。
「民を守るのだ!」
将軍の一言で戦いは一時中断となり、皆が魔物に向かって行き取り残された。
「どうする?一応助けに行く?」
「流石に関係無い人達まで犠牲になるのはかわいそうだしね」
「仕方ないのじゃ」
ティーの背中に乗り魔物に向かって行く。
地底人達は苦戦している様子で、既に多くの兵士が倒れている。
「コタケとリッヒは住民の避難、オルフェとヴネルは魔法で援護してくれ」
ティーの指示でそれぞれ散開する。
兵士達のお陰で住民は殆どが逃げれており、残った僅かな人達の移動を手伝う。
「ヴネルちゃん、火力足りてないんじゃないの?」
「間近で見ると気持ち悪くて・・・・・・なんかステッキもイヤイヤ言うんです」
火の魔法を放ちながら話す2人に、ティーは火のブレスを吐きながら爪で切りつけヘイトを取っている。
戦いを始めてから10分、黒焦げ干からびたミミズの魔物は生き絶えて消える。
「皆さん、お疲れ様でした。被害は建物の損壊と少しの負傷者の様です」
リッヒさんが状況を説明する。
「敵を助けるとは思わんかったのじゃ」
そんな時、
「救世主だ」
ポツリとそんな言葉が聞こえ、次第に声は大きくなっていく。
「救世主だ!」
「天の使いだ!」
民だけでなく、兵士まてもが声を上げている。
「天の使いとかグリートが嫌がりそ〜」
「妾は話をしに来ただけなんじゃが・・・・・・」
次第に大きくなる声の中で、
「お前ら、何をしとるんじゃー!」
それらを掻き消す大きな声が後ろから聞こえ振り返ると、そこにはこぢんまりとした少女が1人仁王立ちしているのだった。




