エレオノーラ:外交
パカッ パカッ パカッ
「エレオノーラさん、あーん!」
「自分で食べれる」
「釣れないですね〜」
私は現在、馬車に揺られながらラフな格好をしたメアの相手をしている。
メアの外交に付いて行く事になった訳で、立場としては護衛と言う事になっているのだが、何故か一緒の馬車に乗っており他の兵士は馬に乗り警戒をしている。
「他の兵士には申し訳ないな」
「私達の関係を知っているので大丈夫ですよ」
「とは言えこれは仕事なんだ。公私混同せず過ごすぞ」
「え〜」
「えー、じゃない」
「は〜い」
安全な街道を進んでいる事もあり何事もなく、1日目と2日目の宿に到着し1泊し、3日目の午後に目的地の人間の国に到着する。
部屋に通されたメアはベッドに転がり早速くつろぐ。
「今日の予定はどうなっているんだ?」
「この後、王に挨拶をして夜からパーティーになります」
「外交しに来たんじゃないのか?」
「これも立派な外交ですよ。それにもう夕方近くですからね、話し合いは明日になります」
「そう言うものか」
「そう言うものです」
コンコンコン
「もう少しで国王の準備が整います」
外に待機している兵士の声が聞こえる。
「メア、ドレスに着替えるぞ」
「着替えさせて下さーい」
「私には無理だ」
お付きのメイドを呼んで着替えさせる。
その後、国王に簡単な挨拶を済ませ、少しした後にパーティーが始まる。
会場にはその国の貴族が沢山来ており、メアは挨拶の対応で忙しく私も護衛で、あまり飲み食いせずにパーティーが終わり部屋へと戻った。
「疲れましたー」
「お疲れ様」
「頭なでなでして下さい」
「はいはい」
頭を撫でると耳がピコピコと動く。
コンコンコン
「お食事をお持ちしました」
「あっ!来ました来ました」
メアが頼んでいたのか、メイドがパーティーで出ていた料理と酒を持ってきてくれた。
「エレオノーラさんもお腹空いてると思うので是非食べて下さい。ちなみにこの国の特産はワインで、飲みやすくて美味しいですよ」
「そうなのか。折角だから頂こう」
食事を済ませて風呂に入り、メアと同じ部屋で寝泊まりをした。
翌日、午前中は城内の案内をして貰い、午後からは国のトップが揃った場で会談が始まる。
国境の守りや何やらの話だったが、私にはさっぱりだった。
会談の最中、相手の国の人達がチラチラと見てきたので、後からメアに聞いてみた。
「獣人の国の王族の警護に人を使ってるのに驚いたのでしょうね」
「なるほどな」
「これで獣人と人は仲良く出来るとアピールも出来たかもしれませんね」
「もしや狙っていたのか?」
「さぁ?どうでしょう?」
メアは笑って誤魔化すが、彼女の事だから少しは計算に入れていそうだ。
その日の夜は前日とは変わり、国のトップ達との会食を行った。
私には堅苦しい場で早く終わって欲しいと内心思っていたが、メアは笑顔を絶やす事がなく流石だなと感心した。
「あー、私もあの様な場は苦手ですよ。幼い頃から経験しているので、やはり慣れの部分もあるんでしょうね」
会食後、メアに聞いてみるとそんな言葉が返ってきた。
「それでも嫌な顔せずにいるのは立派な事だ」
「えへへ、もっと褒めて下さい!」
ご褒美代わりに少し甘やかしてあげたのだった。
翌日、午前中に出発をして来た道を戻り1日目と2日目と同じ宿に寝泊まりする。
「明日でやっと帰れるな」
「1人だと長く感じたでしょうが、2人だとあっという間でした」
「そうか。私はアンとリビアの料理が恋しいよ」
「ふふ、確かに初日に馬車で食べた弁当以来ですからね」
「まっ、でも大きな問題も無く無事で良かったよ」
「そう言うのコタケさんから聞いた事あります。フラグって言うんですよ。何か起きちゃうかもしれませんよ」
「ははっ、そんな訳無いだろう」
後々、そんな発言をした自分を恨みたいと思った。
深夜にふと目を覚ました私は辺りを見回す。
外から入る月明かりのみで照らされた部屋。
その中で僅かに光る銀色のナイフ・・・・・・
「はっ!」
咄嗟に枕元の剣を取り、私の目の前に迫っていたナイフを撃ち落とす。
「曲者だ!」
そう叫んで、ナイフが飛んで来た場所に向かうと黒ずくめの暗殺者が居た。
「なっ!貴様ただの・・・・・・」
驚いた暗殺者が何か言い掛けたが、その前に気絶させて取り押さえる。
「メア、無事か!?」
「私は大丈夫ですよー」
メアはベッドの上に座っていた。
「失礼致します!こちらでも族を2名確保しました」
「予想通りでしたね」
「ん?予想通り?」
「あっ、えーっとですね」
「おい、メア。話してもらおうか?」
「はい・・・・・・」
メアの話によると、とある筋から暗殺者ギルドにメアの暗殺依頼が入ったとの事だった。
それを聞いたメアは、ワザと外交の話を流して暗殺者を誘い出したそうだ。
「全くお前は、そう言う事は事前に話しておいてくれ」
「エレオノーラさんと純粋なデートを楽しみたかったんですよ」
「外交をデートって言うんじゃない」
「それに万が一に備えて私も警戒していましたから」
「それでも何が起こるから分からないんだ。今後はしっかり話す様に」
「はい、ごめんなさい」
「ところで、コイツらはどうするんだ?」
「城に戻ってから依頼者が誰かを吐かせます。今回の事で、父と宰相がかなりご立腹の様でしたので」
「そうか。やはり王族も大変だな」
「こういう事は滅多にないんですけどね。それに私は王位継承権もありませんし、純粋な怨みからくるものですかね?」
「相応の罰が下るだろうな」
「そうですね、死刑だと思います」
「それにしても暗殺者ギルドの情報を入れる事が出来るとはな。その者はかなり優秀な様だ」
「あー、実は情報をくれたのはロスさんなんですよ」
「おいおい、元暗殺者が暗殺依頼の情報を流すなんて、同業者は堪ったものじゃないな」
「今回はそれで助かりましたし、嘘の情報も流せたので万々歳です」
「嘘の情報?何を流したんだ?」
「一緒に付いて来る人間は、ただの王女の愛人だと」
「おい、まさか暗殺者が最後に口にしようとしたのって・・・・・・」
「愛人の動きじゃなくてビックリしたんでしょうね」
「はぁ、お前という奴は。そこに座り直してお説教だ」
「ごめんなさーい!」
その後、メアへの説教は1時間程続き、翌日無事に城へと到着し家へと帰るのであった。




