狐
「誰かー、来てー!」
ある日、庭の方からベルの助けを求める声が聞こえた。
何だ何だと皆んなが庭に出向き、ベルの元に向かうと1匹の真っ白な狐を抱いていた。
「この子、怪我してるみたい」
左後ろ足に魔物に噛まれた様な傷があり血も出ていた。
「回復魔法を使いますね」
アリーが側により魔法を使うと傷は塞がっていく。
「キュウキュウ」
狐は感謝を伝えるかの様に鳴くと、ベルの腕の中から出て森の方に去って行ってしまう。
「気をつけるんだよー」
ベルは手を振り見送った。
〜〜〜〜〜〜
翌日。
「キュウキュウ」
昨日の狐の鳴き声がして庭を見ると、木の実を咥えてやって来ていた。
ベルがそれに気付き外に出て木の実を受け取ると、狐は森に戻って行った。
狐はこの日を境に毎日、木の実を持って来る様になった。
そんな事が続き1週間、狐にとある変化が起きていた。
体長が大きくなり50cm程だったのが1mを超え、1本だった尾が2本に増えていたのだ。
「こんな所にいるから、普通じゃないとは思ってたけど・・・・・・何て種類なんだろう?」
「魔物では無さそうじゃな」
「フェンリル様のような存在では?」
「ルーに聞いたけど、神聖な力は感じられないんだって」
子供達はこの1週間で仲良くなり遊んでいる。
「悪い子では無さそうですし、暫く見守っていましょう」
〜〜〜〜〜〜
そして3日後。
いつもの様に狐の鳴き声がして、ベル達が外に出て行くと、
「わぁー!おっきいー!」
そんな声が聞こえ外を見ると、いつもの狐の横に9本の尾を携えたゾウ並みの大きさの真っ白な狐が居たのだった。
慌ててベル達の元に向かい狐に対峙する。
「人の子らよ、我が娘が世話になった」
その狐は流暢に喋り出し、皆が驚く。
「娘と言う事は、お母様なのでしょうか?」
「そうだ。この姿では喋りにくかろう」
見上げながら喋る俺達を見てか、母狐は人の姿に変化する。
真っ白な着物を着ており、後ろには9本の尾も残っている。
「我等は妖狐と言う種族である」
「ようこ?」
「妖術と言う魔法と似た力を使うのだ。見た方が早いか」
手のひらにポンッと青い炎を出す。
「魔法とはどう違うんでしょうか?」
「妖術は自身の中の妖力を使う事で生み出せる。妖力は妖にしか使えぬ、だから人には使えぬ技なのだ」
「妖?貴女も妖なのですか?」
アリーがそう口にする。
「知っているのか?」
「知っていると言うか、つい最近ヒノウラにてお会いしました。でも、ヒノウラ以外には妖は居ないとも」
「ヒノウラの山妖館だな。あそこを作ったのは私だ」
まさかの創業者であった。
「今は子育ての為に各地を巡っているんだ。サトリは元気にしていたか?」
若女将の名前も知っており、本当の事を言っているのだと確信する。
「妖を知っているのなら話が早い。我が娘を暫く預かって欲しいのだ」
「それはまたどうして?」
「この子には強くなって貰わねばならん。この森はそれにうってつけだからな」
「じゃあ、あの時の怪我も」
「あぁ、あの時は助かった。想定していたのよりも強い魔物が出たそうでな、倒せたは良いが怪我をした所をその子が見つけたそうだ」
「キュウキュウ」
「娘もかなり懐いているようだ。引き受けてはくれないか?」
「その間、貴女はどうするんですか?」
「滞っている仕事を終わらせてくる」
一瞬目付きが変わった様な気がして、それ以上は何も聞かなかった。
「ベルちゃん達も喜ぶでしょうし構いませんが」
「ならばよろしく頼む」
母狐は即決し、狐の姿に戻ると子供に話しかける。
「キュウキュウ!」
「娘も大丈夫だと言っている」
「分かりました。しっかりと面倒を見ます」
「よろしく頼んだ。あぁ、それと食事は人と同じ物を与えて構わない。妖狐は他の妖と違って噂で存在している訳ではないからな」
「そうなんですか?」
「詳しい説明は機会があればな。それでは娘を頼んだ」
颯爽と去って行ってしまった。
「凄い急な話でしたね」
「引き受けたからには面倒見ないとね。部屋とかはどうしようかな」
「一緒に寝る!」
「キュウキュウ」
ベルの言葉に子狐も嬉しそうにする。
「ご飯は人と同じ物と」
「何歳くらいなのでしょうか?」
「バランスを考えませんとね」
アンさんとリビアさんがやる気になり、特に問題は無さそうだ。
「何と言うか、世界樹にスノウに妖狐の子供にと、託児所になった感じじゃの」
「あはは、確かに・・・・・・」
ティーの的確な一言に苦笑いするのであった。




