家族旅行③
「まだ着かないのー?」
若女将から貰ったオススメの場所の地図を頼りに、山道を歩いている。
「まぁまぁ歩いたけど、この先に何があるんだろ?」
「人や動物の気配もしませんね」
「私が先行して見てきましょーか?」
リッヒさんとルインが言う。
「うーん、もう少しで着くと思うしこのまま進んでみよっか」
それから5分後、到着したのは村だった。
ただし、人のではなく妖の村だ。
「サトリの言っていた客人でしょうか?」
「あっ、はい」
人にしか見えない黒髪の女性が歩み寄って来る。
「私はワカバと言います」
「失礼ですが、貴女も妖なんですか?」
「えぇ、勿論ですよ」
その女性が後ろを向き肩まで伸びた髪を上げると、後頭部にギザギザな歯を持つ口が付いていた。
「「うわっ!」」
全員が驚く。
「二口女ですか?」
俺だけは冷静にそう聞く。
「お詳しいですね。見た事が?」
「本物は初めて見ました」
「偽物が居るんでしょうか?」
「偽物と言うか創作物ですね」
「?」
妖怪を取り扱った作品は沢山あったので、有名どころはある程度分かる。
「それでここは妖達の村で良いんでしょうか?」
「ここは山妖館の従業員が暮らす場所です」
辺りを見渡せば、河童や雪女らしき白い女性、ぬりかべ、空には一反木綿らしきものが浮いている。
「暮らすと言っても、人間の様な生活をしておるわけじゃないじゃろ?」
「聞いたか分かりませんが、我々は食事も睡眠も必要としません。ここは隠れ家で、夜まで時間を潰す場所です」
「夜に何をしてるんです?」
「人を驚かせています。我々にとっての食事代わりですね。とは言え実際に食べる訳ではなく、噂を広めてもらう為に少し漏らして貰うだけです」
「漏らすレベルは少しでは無いのでは・・・・・・」
「それくらい驚いて貰わないと意味がないので」
「何というか、まだまだ知らない世界があるんですね」
「妖は世界各地に居るんですか?」
「ヒノウラだけになります」
「妾も聞いた事無かったからの」
「良ければ皆様も噂を広めて頂ければと」
「神は信仰が増えるに連れて力も増幅するが、お前達にそういった事無いのか?」
「多少は強くなりますが、存在が消えない様にするのがメインです」
「もし噂が無くなった場合は?」
「死を迎える事になります」
「ではその後、同じ噂が復活した場合は?」
「その場合、何処かで新たな妖が生まれた事になりますが、前の者とは別になります」
「なるほど、不思議な仕組みですね」
「妖が生まれ噂が広がる場合と、噂が広がり妖が生まれる場合があります。後者の場合は大抵見間違いによる物ですが、我々はその噂に大きく左右される存在なのです」
「例えば二口女の噂に尾ひれが付いて、後ろの口が沢山あるとなった場合、姿は変わるのでしょうか?」
「新たな妖が生まれる事になり、逆に私の噂が減り力も減るでしょう」
「色々と調べてみたいなぁ」
イルシーナさんは知的好奇心がくすぐられた様だ。
その後も色々と話を聞き、昼食も旅館から一反木綿が運んで来てくれたのでその場で食べながら話をしていたら15時を回っていた。
いつの間にか妖達と仲良く遊んでいた子供達を呼び旅館に戻る。
1番仲良くなったのは座敷童子だったそうだ。
「皆様、妖の村はいかがでしたでしょうか?」
「色々と聞けて面白かったです」
「妖の事を知って頂けた様で何よりです。残りの時間もゆっくりとおくつろぎ下さい」
最高のおもてなしを受けるのだった。
〜〜〜〜〜〜
翌日、目を覚ましホールに向かうと、そこだけ廃墟の様に荒れていた。
パチパチと瞬きをすると、元の綺麗な状態に戻っていた。
「おはようございます」
若女将が後ろからやって来る。
「おはようございます・・・・・・」
「いかがしましたか?狐につままれた様な顔をされて」
「あの、今ここが廃墟になっていた気がするんですが」
「あぁ、申し訳ございません。この館も実は妖でして迷い館と言うんです。宿泊客が目を覚ますと綺麗な旅館が廃墟になっていたというものです」
「建造物の妖も居るんですね」
「中に入れた者をそのまま取り込む妖も居るのでお気を付け下さい」
朝食を食べてゆっくりした後、最後に温泉に入りチェックアウトの時間となる。
「山妖館はいかがでしたでしょうか?」
「ゆっくり出来ましたし、色々と知れて楽しかったです」
「またのお越しをお待ちしております」
若女将に別れを告げ、楽しかった旅行は終わるのだった。




